咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら 作:サイレン
「……ちゃん、☆ちゃん。起きて、☆ちゃん!」
「…………んっ? ……サキ?」
揺すられ覚醒したからゆっくりと起き上がる。
目の前には百合柄に彩られた水色の着物を着た咲の姿があった。
いつも制服を身に付けている咲の雅かな装いは新鮮であったが、なんでそんな格好をしているのだろうと疑問に思う。
「サキ、なんで着飾ってるの?」
「もう、何寝ぼけてるの。今日は着物で集合だって前にも言ったじゃん」
「えーと、そうだったっけ?」
「全く☆ちゃんは手が掛かるんだから」
「あはは、ごめんごめん」
ぷくっと頰を膨らませる咲に笑って誤魔化す。
「……これでよしっ! ☆ちゃん早く行こう?」
「あれ? 今日は着物なんでしょ? 私着替えないと」
「ホントに何言ってるの☆ちゃん! もう着替えてるでしょ!」
「え? あっホントだ」
いつの間にか着ていた着物を身体を揺らして確認する。
「ほらっ、早く」
手を引かれて歩いて行く。
どこに行くのだろうか?
「やっと来た、☆」
「あっ、テルーもいるんだ」
お淑やかな佇まいで待っていたのは咲の姉である照。どうやら姉妹で迎えに来ていたらしい。
「じゃあ行くよ、☆」
「行こ行こっ、☆ちゃん」
二人に片方ずつ繋がれた手。
少し照れくさいが、心があったかくなって自然と笑顔が浮かぶ。
でも、どこに行くのかは分かっていない。
「えーと、二人とも、今日は何時にどこに行くんだっけ?」
「えー、☆ちゃんが誘ってくれたのに、忘れちゃったの?」
「いや、ちょっと、確認的な感じだよ」
「じゃあそういうことにしてあげる。10時に神社に行くんだよ」
「神社? 何しに?」
「……☆ちゃん、今日が何の日か忘れちゃったの?」
「……にゃはは」
相変わらず結ばれた手の平に少し力がこもった気がする。怒らせてしまったようだ。
「仕方ない。今日の私は優しいから、ちゃんと教えてあげる」
「うん、ありがとう、サキ」
目的地は神社らしい。
お参りだろうか?
それとも願掛け?
神社でやること、それは──
「今日は私たちが小鍛治プロと麻雀をするんだよ!」
──脚を止めた。
一歩で踏ん張れたのは我ながらすごいと思う。
聞き捨てならない、てか聞きたくもない
「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って」
「「どうしたの?」」
急に止まったから二人は振り向いて異口同音の言葉を発し、揃って小首を傾げる。
「今日どこでなにするって?」
「だから言ったじゃん」
「今日は」
「神社で」
「私たち」
「が」
「小鍛治」
「プロ」
「と」
「麻雀」
「する」
「んだよ?」
ケタケタケタケタケタケタ。
おかしい、おかしい。二人がおかしい。
怖い恐い怕い惶い惧い懾い畏い。
フタリガコワイ。
「待って待ってお願い待って!! 離して! 離してっ!!」
手が動かない。
二人に繋がれた手が離せない。
どんどんどんどん引き摺られる。
「アア、モウツイタヨ」
「ホラ、アソコニスワッテ」
席に着いていた。
金縛りにあったかのように脚は動かなかった。
「それじゃあ、24時間麻雀耐久レース、頑張ろうね」
──ね、淡ちゃん
「──ハッ!!!?」
ざばっと、淡は飛び起きた。
目覚まし代わりのデジタル時計を確認する。
1月1日、午前10時。
「……はぁぁぁぁああああっ……。なんて初夢、なんて悪夢」
新年早々酷い目にあった。
夢がこんなにこわかったのは生まれて初めてだった。
「──淡ちゃーん! なにしてるのー?」
びくりと身体が震える。
窓の外から咲の声が聞こえたからだ。
「……サ、サキー? どうしたのー?」
「どうしたのじゃないよー。今日この時間に来てって言ったのは淡ちゃんでしょー」
「……えっ、それって……」
窓から顔を出した淡。
夢と同じ格好をしている二人。
顔をひくつかせた淡は、そこでようやく約束を思い出し。
「今日は初詣に行くって、淡ちゃんが言ったんでしょー。お姉ちゃんがもう家に乗り込んでるからねー」
「……あっ。……ま、待ってて、すぐ着替えるから!」
まだ着替えてないのー⁉︎ と、咲のお怒りの声が響く。
「よかった、今日は初詣で」
寝坊した淡はあらあらと言いながら若干怒り目の母親に着付けを手伝ってもらい、淡は急いで玄関をでる。
「もう、遅いっ!」
「淡、夜更かしはだめ」
「あははー、ごめんふたりとも。じゃあ行こうー!」
調子いいんだからと、咲は溜め息を吐いて呆れる。
照は慣れているのかちゃっかり頂いたお菓子を口に運ぶ。
いつも通りの二人。
ちょっと特別な今日。
淡は忘れていた挨拶をした。
「あけましておめでとう! 今年もよろしくね!」