咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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ケモ耳シリーズは後書きにて!





夜咄

 

 

 準決勝第一試合が終わり、夜闇が世界を包み星々が天に彩られる時間帯。

 清澄高校の面々(京太郎含む)は浴衣姿で就寝部屋に集合していた。

 

「さて、皆観てたと思うけど、決勝進出したのは白糸台と千里山よ。まぁ、予想通りと言えば予想通りね」

 

 阿知賀は惜しかったけどねと久は続けた。大将戦の接戦の中で目覚ましい変貌を遂げた阿知賀の大将は賞賛に値されるだろう。

 それでも、負ける者は負ける。

 大番狂わせも考えられた展開であったが、畢竟するに、最後に勝利を収めた二校だけが駒を進められるのだ。敗者である二校には栄光を掴む権利は与えられない。

 明日は我が身だ。負けるつもりなど欠片もないが、久はこの結果を糧により一層次の試合に向けて気を引き締めた。

 

「自分で話題を振っておいてあれだけど、一先ず決勝のことは置いておきましょ。まずは目の前の一戦、私たちの準決勝に全力を尽くすわよ」

「了解だじぇ!」

「言われへんでも分かっとる」

「当然ですね」

 

 遠くばかり見て脚元の石ころに躓くのは無能も甚だしい。

 仲間たちにそのような者は居ないと確信しているが、改めて久は釘を刺した。

 何故なら、そう。

 此処には前代未聞の、飛びっきりの問題児がいるからだ。

 

「それじゃ真面目な話はこれで終わりで本題に入りましょ。はい、被告人は此処へ」

「…………はい」

 

 指差された久の目の前で被告人こと咲は大人しく正座した。

 逆らうなぞ選択肢にない。釣り上った裁判長(ぶちょう)の目は一体何やってんのという呆れと、何してくれてんだこの野郎という怒りで染め上げられていた。

 普通に怖い。普段穏やかな面しか見せないから余計怖さが際立つ。

 今迄、数々の厄介事を地雷原を突っ走るが如く爆発させてきた咲を小言一つで窘めてくれていたが、久の温情も今回の件で遂に潰えたようだ。

 咲は瞬時に土下座に移れる心構えで事に臨む。

 結末が決定している裁判が始まった。

 

「和、このお馬鹿の罪状を」

「はい」

 

 もう名前すら呼んでもらえない。訂正の声も無しだ。

 立ち上がった検事である和が態々まとめたのだろう資料を手に、咲がやらかした所業を粛々と読み上げる。事情聴取は既に終わっているのだ。

 

「本日、被告人は準決勝第一試合を観戦しに会場へと向かいました。到着後、あろうことか会場内で迷子になるという天然を発揮させ、その後何を血迷ったか白糸台の控え室へと侵入を果たしました。そこで大人しく観戦していれば良かったものの、被告人は先鋒戦終了後、人助けという名目で対局室へと登壇。あれよあれよという間に大事へ発展し会見まで開かれる始末。挙げ句の果てには高校卒業後はプロになると核爆弾を放り投げて現在に至ります」

 

 ──……合ってるけどっ! 

 

 咲は思う、これはおかしいと。

 剣山の如き言葉の羅列である。ぶっちゃけ棘しかない。

 嘗て天使だった面影は完膚なきまでまでに消失し、堕天使へと超進化を遂げた和に慈悲は皆無だった。

 これは色々な意味で酷いと傍聴席から優希とまこのジト目が咲に注がれる。やらかしたこともそうだが、無垢だった少女の人格をここまで変えたことに責任を背負ったら如何なのかとその熱視線は雄弁に語っていた。

 咲は全力で目をそらした。

 

「次は弁護人から。はい、須賀くん」

「……はい」

 

 重々しく腰を上げ、京太郎も手に一枚の紙切れを持って咲の側へと歩み寄る。

 久の言葉に咲は僅かに目を見開いて驚愕を示した。まさか大罪人(爆)の自分に弁護人が用意されているとは。

 女の園になぜ京太郎が呼ばれたのか。

 それは、この場で唯一咲の味方になってくれたからだ。

 

「京ちゃん……」

「咲、とりあえず頑張ってみるさ」

「ありがとう、京ちゃん。今度なにかおごるよ」

 

 消えてしまいそうな儚い微笑みで感謝を込める。

 付き合いの長い彼だけが咲にとってこの場で(は)英雄なんだ。

 そう、彼は咲の人生において最も行動を共にした、一番の親友なのだから。

 

((…………まぁ、有罪判決をどうにかするのは無理だろうけど……))

 

 付き合いが長い分、考えていることも大体一致する。

 ……無罪? なにそれ美味しいの?

 情状酌量の余地が認められれば万々歳なのである。

 

「えーと、咲の今日の出来事については、多少表現の脚色はありますが和からあった通りです。それらに間違いはありません。

 ただ、一方的に責めていいとは思いません。和からあったように、咲が対局室に姿を現したのは人助けのためです。そして、その時に倒れていた千里山の園城寺怜さんは、過去にも入院経験のある方だと咲から聞いています。訪れる不幸を未然に防いだ咲の行いは褒められこそすれど、中傷を受ける筋合いはないはずです。

 その後の会見についても、責任を姉である宮永照さんと二人だけで負っています。事実上の迷惑は清澄には掛けていません。

 よって、咲には情状酌量の余地は十分にあるかと存じます」

 

 ──京ちゃんスゲーっ‼︎

 

 なんという説得力。

 まるで咲の行動にこそ正当性があるかのような弁舌に驚嘆の念が絶えない。京太郎にこのような才覚があるとは文字通り吃驚である。

 京太郎は事実と異なることを言っていない。正しいからこそ訴求力がある。

 咲は自身の身が犠牲になると察した上で、それでも良心に従い赤の他人を助け、責任を一身に背負った正義の味方。

 捉え方一つでこうも違うのだ。

 もしかしたら自分は悪くないんじゃないか……? と、無責任過ぎる考えを抱くくらいに咲が京太郎の演説に感動していた、まさにその時。

 

 

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「──異議ありっ!」

 

 盛大な効果音──具体的に言うと『論破っ!』──が鳴り響きそうな勢いで和が声を張り上げた。

 いつになく必死な形相に咲は普通に引いた。ドン引きである。冷や汗ものである。

 京太郎も目をギョッと見開いていることから、如何に今の和が荒ぶっているのか分かるだろう。

 

「検事、発言を許可します」

 

 すかさず久が返答した。

 この裁判長(ぶちょう)最早ノリノリである。

 

「弁護人の弁は憶測を多く含んでいます。この被告人がそんな良い子な訳がありません! どうせ行き当たりばったりで現状まで来たに決まっています!」

 

 ──おっとー、和ちゃんは私のことが嫌いだったのかなー?

 

 清々しいまでの人格否定であった。

 どうやら咲の信頼はとっくの昔に地に堕ちていたらしい。多分、合宿あたりが切っ掛けであろう。

 そして、実際和の言う通りなのだから現実は悲惨である。咲に賞賛すべき崇高な志などこれっぽっちもない。麻雀ではっちゃけてからは、自分が良ければ他は二の次みたいな思考回路の持ち主なのだから。

 和の言う通り、成り行きでここまで辿り着いて、最低限他人に降り掛かる迷惑を取り除いただけなのが現実である。

 彼女は咲の真の理解者にして被害者なのだ。

 それは京太郎も認識していること。

 だからこそ、反論は用意してあった。

 

「性格は論点にはなりません。少なくとも、()()()()()()()()()()()()()()

 

 京太郎のこの一言は──和の逆鱗に触れた。

 膨れ上がる怒気。

 噴出する憤懣。

 オカルトとは無縁だった、そんな彼女から、瀑布の如き威圧が解き放たれる。

 

「悪気がなければ何をしてもいいわけではないんですよぉッ‼︎」

 

 ──……本当にごめんなさい。

 

 放出される圧倒的嚇怒に咲は咄嗟に土下座していた。

 今迄溜まる一方で発散されることのなかった和の鬱憤が爆発した瞬間であった。

 大音量の怒声に怯んだ京太郎は二の句が継げない。

 憤怒の限りを尽くす和は此処ぞとばかりに畳み掛けようと口を開きかけるが、

 

「双方そこまで!」

 

 裁判長(ぶちょう)の制止を受けギリギリで自制した。

 

「部長……」

 

 ただ、納得はしていないのか、見るからに消化不良ですと和は久に瞳で訴える。

 が、久はその訴えを棄却。

 手を二度打ち鳴らした。

 

「双方の弁、確かに聞き届けました。その上で被告人に私の独断と偏見で判決を下します。はい、有罪(ギルティ)

 

 ──はい、茶番終わったー。

 

 久の独断と偏見で判決が決まるのならば必然こうなる。頭を伏せたまま咲はこの後訪れる実刑を憂う。

 本当の本番はここから。

 咲に何を償わせるのかだ。

 

「罰として、全員からのお願いを一つずつ聞いてもらう。咲、それでいいかしら?」

「仰せの通りに」

「……部長は甘過ぎます……」

 

 これから清澄に降り掛かる億劫な火の粉を思えば温情に充ち満ちた判決。

 久の量刑に和は不満を漏らすが、それでもこの問題児の首輪が手に入るのならば上々であろうと諦めた。

 久の決定を受け、その場の銘々が何がいいかと思案する。事前の打ち合わせなど無かったため、突然命令権を与えられてもそうは簡単に浮かばないものだ。……瞬間的に「おいバカやめろ!」みたいな事案は多々発生するが。

 咲が頭を下げたまま過ぎ去る時間。

 二十秒程経ち、暫く様子を伺っていた久がまず沈黙を破った。

 

「それじゃあ、咲。私からいいかしら?」

「はい」

「私のお願いはまぁ言おうと思えば沢山あるけど、これだけは言わせて頂戴」

 

 真剣な雰囲気を感じ取り、咲は顔を上げて久と視線を合わせる。

 見つめ返す久は引き結んだ口元を綻ばせた。

 

「咲、あんな派手なことしたんだから、負けるんじゃないわよ。大星淡にも、宮永照にも、小鍛治プロにもね」

 

 咲はある意味で想定外な久のお願いに瞠目する。まさかそんなことを言われるなど、頭の片隅にも無かったのだ。

 久は最初から、咲を如何にかしようなど魂胆にない。当然、ここまでやらかした事は怒って然るべきなのでこのような場を用意したが、咲は傍若無人というわけではない。

 京太郎の言う通り、自分の厄介事を他人に丸投げするほど非道ではなく、自身に非があると認めれば今のように反省もする。根は善人なのだ。

 それに、咲のようなタイプは抑圧するより自由に振る舞わせる方が余程実力を発揮する。

 なればこそ、久は頭ごなしの説教ではなく、挑発的な発破を掛ける。

 効果は覿面で、咲の瞳が鋭利なものへと変貌した。

 

「分かりました。

 白糸台大将──大星淡を降して、清澄のみんなで優勝します。

 現チャンピオン──宮永照を倒して、私が頂点に立ちます。

 日本最強──小鍛治健夜を打倒して、私の名前を世界に知らしめます。

 ……そして、部長のことは大恩人だって語ります」

「うん、前三つはともかく最後はやめて。やったら本気でぶっ飛ばすわよ」

 

 えーっ、と文句を言う咲に久は割とヤバめな危機感を覚える。この子なら冗談で済まさずやりかねない。世界という言葉ですら、咲には軽いものに感じてしまうのだから。

 嫌な冷や汗が流れるの無視して、久は周りに目を流した。

 

「みんなは? ないなら一旦保留でもいいわよ」

「ならワシは保留で。正直ワシにはあまり被害はなさそうだから命令権なんぞなくても構わんのだか……」

「私もパスでいいじぇ。今度ゆっくり考えるみるじぇ」

「俺も特にないですけど……そうだな、長野に帰ったら麻雀教えてくれ」

「うん、分かった。京ちゃんを一年でインターハイに行けるくらいに強くするよ」

「やっぱりこのお願いなしで」

 

 結局、京太郎も保留となった。

 残すは和ただ一人。

 瞑目を続けていた彼女は、静かに目を開けた。

 

「咲さん」

「なに、和ちゃん」

「勝ちましょう」

「……それは、お願いされるまでもなく勝つけど……」

「いいえ、違います。私はこのお願いを使ってでも、咲さんに純粋な勝利を目指して欲しいのです。……この意味が分かりますか?」

「……うん、分かったよ」

 

 意味するところを理解した咲は、今後一切の手加減を止めると誓う。

 

「もう二度と、()()()()()()()使()()()()。これからは、全ての相手を、全力を以って徹底的に叩き潰す」

「……確かに聞き届けました」

 

 物騒な物言いに一瞬、これ早まったんじゃ……と尻込む和だったが、この際気にしないと決めた。

 咲の覇道が決定的になったのだと、真に理解したのは遠くない未来である。

 

「さて! 今日やることはもう終わりよ。明日に向けさっさと寝ましょ」

『は〜い』

 

 女性陣は布団を広げ、唯一の男性である京太郎は別室へと退散する。

 就寝の準備が完了したところで、咲がある疑問を口にした。

 

「あっ、そう思えば。部長、次当たるのは結局どこなんですか?」

「…………全く、この子は……。咲、あなた素質は十分以上だし、相手の分析だって完璧以上に熟せるんだからもっと勉強しなさい」

 

 あはは……と誤魔化す咲に久は溜め息を漏らすが、時間を割いてまで説教する気も起きない。

 せめて対戦校くらい知っておきなさいと一言苦言を呈してから、久は明日の相手を思い浮かべて告げた。

 

「明日は昨日当たった宮守女子。

 私たちと同じ初出場の南北海道代表──有珠山高校。

 そして、東東京代表、世界の精鋭が集う超強豪校──臨海女子高校よ」

 

 

****

 

 

「いやー、明日の対局は怖いなー」

「珍しいじゃない、爽がそんな弱気なの」

「あー、でも爽の相手あの宮永でしょ? あれはヤバイよ、うん。何がヤバイってとにかくヤバイ」

 

 寝転びながらタブレットの対局映像を眺める獅子原(ししはら)(さわや)に、幼馴染の桧森(ひもり)誓子(ちかこ)岩館(いわだて)揺杏(ゆあん)が話し掛ける。

 話題となったのは、本日世間を賑わし超弩級の存在感を示した噂の少女のこと。

 予てよりその異常性を見せ付けられていた彼女たちは、明日の準決勝で当人が所属する高校と当たる。直接対決する爽の不安も察せるというものだ。

 三人の会話を聴き過去の記録とその闘牌を思い出したのか、本内(もとうち)成香(なるか)はその小柄な体躯をぶるりと震わせた。

 

「……あの人は怖いです。先鋒でなくて、本当に良かったです」

「確かに、色々と物凄い方ですよね」

 

 成香の隣で布団に潜っていた真屋(まや)由暉子(ゆきこ)も同意するように相槌を打つ。感情の動きの乏しい彼女を知っている者なら、由暉子が他人に些かでも興味を抱いたことに驚くだろう。

 麻雀界で今最も名を馳せている少女──宮永咲の存在は、それ程までに強烈な印象を残していたのだ。

 

「だがしかーし! 私たちが注目すべきはあの宮永ではない!」

「……急になに?」

「そのとおーり!」

「……あんた達打ち合わせでもしてたの?」

 

 急に声を張り上げた揺杏を訝しむ誓子だったが、更に続く爽の言葉に眼に浮かぶ怪訝さに拍車がかかる。

 この二人が馬鹿を言い出すのは日常茶飯事なので誓子としては無視を決め込みたいのだが、放っておくと五月蝿くて寝られないから性質(たち)が悪い。

 嫌々の表情を隠すことなく誓子は二人に問い掛けた。

 

「それで、一体なんなの?」

「ふふん、私たちの最大の目標は何なのかを思い出せば自ずと答えは分かるって」

「目標って、そりゃ一応優勝でしょ?」

「「ぶっぶー、違いまーす」」

 

 恐ろしく勘に触る幼馴染二人に青筋が浮かび掛ける誓子は、癒しを求めて成香を抱き寄せる。

 成すがままの成香と一人眠りに就こうと眼を閉じた由暉子。面倒ごとに巻き込まれたくない心情を行動で示していた。

 しかし、

 

「私たちの最大目標!」

「それは!」

「「ユキをアイドルにすること!」」

 

 無理やり話の渦中に引き摺り込まれた由暉子は、ゆっくりと眼を開けて首を傾げた。

 

「アイドル、ですか?」

「イエス。ユキにはそのポテンシャルが十分にある!」

「そう! 蠱惑的なベビーフェイス、小さな身体に見合わぬ豊満なボディーライン、そして、何を着させても恥ずかしがらない屈強な精神! 正にアイドルに相応しい!」

 

 褒めてるのか揶揄ってるのかよく分からない絶賛を受け、由暉子は眠ろうと再び眼を閉じた。

 

「打倒はやりん!」

「あんたらユキで遊ぶんじゃないの。ほらさっさと寝るわよ」

「ふふっ、今夜は寝かさないぜ。私のアレが火がふ」

「そこまで!」

 

 眼をつぶったまま爽の怪しげな発言を遮った由暉子は、今度こそと布団を深く被った。

 潮時だと思った面々は灯りを消して眠りに入る。

 

 彼女達は南北海道代表──有珠山高校。

 清澄と同じく、初出場にして準決勝まで駒を進めたダークホースの一校である。

 

 

****

 

 

 明かりの落とされた暗い部屋。

 唯一の光源は対局映像が映し出されたスクリーンだけ。

 編集された内容がたった今終わり、それと同時にスクリーン近く以外の電球が灯され室内に光が満ちた。

 

「さて、見てもらったようにこれが明日の準決勝で当たる全校よ。何か質問は?」

 

 立ち上がってスクリーン側に移動したのは監督であるAlexandra(アレクサンドラ) Windheim(ヴィンドハイム)だ。

 見詰める先には五人の少女。

 一様に鋭い目付きで映像を観ていた彼女たちは、いつになく剣呑な監督の雰囲気を察して口を閉ざした。

 リモコン片手にデータを巻き戻すアレクサンドラはある一人が映った段階でそれを止め、少女たちに向き直る。

 

「それじゃあ私から作戦を。明日は大将戦までにどこかを飛ばして終わらせなさい。その時に清澄が三位以下であると尚良いわ。……此奴は危険過ぎる」

 

 画面に映る少女──宮永咲を示して、アレクサンドラはそう告げた。

 本来ならばこのような弱気とも取れる作戦は考慮しないのだが、咲はその矜持すら覆す危険性を内包しているのだ。

 だが、その作戦に真っ先に反対したのは、明日大将を務めるNelly (ネリー) Virsaladze(ヴィルサラーゼ)だった。

 

「それはダメ。ちゃんと私まで回して」

 

 鋭利な眼差しで咲を睨むネリーは、その口元を獰猛に歪ませる。

 

「宮永は私が潰す。コレを潰せば、スポンサーはもっとお金を出してくれそうだしね」

 

 瞳に浮かぶは烈火の焔。

 迸る覇気は空間を殺し、監督から発せられる剣呑な空気ごと押し流す。

 ネリーのこの気迫は過去にも類を見ない本気が窺えた。

 

「ネリー」

「なに、サトハ?」

 

 沈黙を保っていたこの場唯一の日本人である辻垣内(つじがいと)智葉(さとは)は、静謐な双眸をネリーに向ける。

 

「勝てるんだな?」

「潰すだけだよ、いつもと変わらない」

「……ならば良し。私はお前を信じよう」

「ちょっとサトハ……」

 

 勝手に納得されて困るアレクサンドラだったが、残る三人の少女たちも次々と口を開く。

 

「別にいいんじゃないでスカ? ネリーの好きにさせテモ」

「はい、私は問題ありません」

「私も大丈夫ですよ」

 

 気楽な発言をするMegan(メガン) Davin(ダヴァン)に続き、(ハオ)慧宇(ホェイユー)(チェー)明華(ミョンファ)も同意する。

 溜め息吐いたのはアレクサンドラだ。

 

「……もういいわ、好きにやりなさい。だけどね、ネリー。一つだけ言っておくわ。清澄の大将、宮永咲は多分現チャンピオンより遥かに厄介よ」

「関係ない。誰と当たろうと、勝てばいいだけでしょ?」

「その通りだ」

「リューモンブチじゃないと聞いて最初は残念でしタガ、これは面白そうデス」

「いつも通りやるだけです」

「頑張りましょう〜」

 

 気の抜ける明華の掛け声でミーティングは強制終了された。

 各自解散し部屋に残ったのはアレクサンドラだけ。

 映像に映る咲の姿を見て、思わず零した。

 

「この子ほしいわ、臨海(うち)に」

 

 彼女たちは東東京代表──臨海女子高校。

 世界から集められた雀士を誇る、インターハイ常連の超強豪校だ。

 

 

 

 明日、準決勝第二試合が始まる。

 

 

 

 

 

 












有珠山と臨海──遂に登場!
アニメで殆ど出ていないこの二校。ここからは咲ssでも未知の領域だと思っています。
早く咲さんとネリーをぶつけたいです。
二人の関係性はこんな感じの予定。

咲さん「死ね」
ネリー「殺す」

呼応御期待っ!


童貞を殺すケモ耳な淡ちゃん

【挿絵表示】




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