咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら   作:サイレン

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「咲ちゃんはまたプラマイゼロ。昨日の入れて四連続……ありえないじぇ」

 

 本日一回目の対局を終え休憩を挟んでいたが、改めて優希が咲の記録を見て驚いていた。

 一回ならともかく四回連続でやられたら、疑う余地もない。しかも今回は、事前にやると宣告をされた上でのプラマイゼロだ。半信半疑なメンバーもいたが、これで点数調整が出来ることが明らかになった。

 

「宮永さん」

「はい」

 

 麻雀において点数調整が出来るなど、はっきり言って最強に近い。しかしそれは、プラマイゼロを目指さなければ、の話しである。

 久としては、これとは別の咲の実力が見たいのだ。

 

「麻雀は勝利を目指すものよ。次は、勝つための麻雀を打ってみなさい」

 

(……まぁ、そうなりますよね)

 

 一回目をプラマイゼロで打つよう言ったのは久本人だ。

 なら二回目は当然、そういう流れになるのは予想できていた。それでも尚、咲には些かの悩みがあった。

 咲は勝つための麻雀を久しく打っていない。家族麻雀の際も、後の方はプラマイゼロでしか打っていないからだ。

 別に打てないことはないだろう。しかし、やや遠慮があった。こんなぽっと出の奴に、自分が大好きな麻雀で大暴れされたら他人は快く思わないだろう、と。

 だが、久とは前以て約束を交わしているため、ここで断ると後味が悪くなるのも事実。

 両者を天秤にかけ、損得勘定で結論を出す。

 

(……覚悟を決めますか)

 

 ただでさえ四連続プラマイゼロなんてしているのだ。進んで空気を気まずくしたくはないが、それもそれで今更な感じしかしない。

 

(……私は悪くない!)

 

 咲は開き直ることにした。

 

「分かりました」

「なっ……!」

「分かりましたって……」

「うちらには確実に勝てるっちゅうことか…」

「あっ……すいません! そんなつもりは」

 

 いきなりミスってしまった。

 後悔しても後の祭り。和なんて、今の咲の発言に拳を握りしめている。

 和は全中覇者。

 今までは同学年では最強だったのだ。整った顔立ちと抜群のプロポーションは見栄えするのもあって、雑誌などで取り扱われたことも少なくない。天才とまで言われていたのだ。咲のこの発言に対して、怒らないわけがない。

 

「点数調整と勝つ技術は別物です。いくらプラマイゼロなんていうオカルトじみたことが出来ても、簡単に勝てるとは思わないで下さい」

「和、宮永さんも悪気があったわけじゃないんだから。そうよね宮永さん」

「はい、申し訳ありません」

 

 苦言を呈する和をなだめるように久は言った。ここでこれ以上揉められても、久としても困るのだ。

 それでも、舐められっぱなしでは面白くない。久にしては真剣な表情で咲に忠告をする。

 

「でも、宮永さん。ここにいるメンバーに勝つのはそんなに簡単じゃないわよ?だからあなたも全力で戦うこと、いいわね?」

「──分かりました」

 

 前の対局で感じた以上のオーラが咲から放たれる。

 

(……あれでまだ、全力ではなかったの?)

 

 こんな強烈なオーラは今まで感じたことがない。

 プロとも親交のある久ですら、この威圧感には鳥肌が立つのを抑えきれなかった。

 

(やっぱりすごいわねぇ……。宮永さんのこの威圧感。もし相手だったらたまったものじゃないわ)

 

 相変わらずのオーラに感心していた久だったが、つくづく同じ高校の生徒だったことを感謝する。悪運は強いと自負していた身だが、最後の最後にとんでもないものが飛び込んできた。

 

(それに名前が『宮永』なのよねぇ〜。高校麻雀界において、『宮永』と言ったらあの人しかいない。唯の偶然か、……それとも)

 

 本日二度目の対局。

 咲に出された条件は、勝つこと。

 

(それにしても、勝つための麻雀かぁ。久しく打ってないからなぁ。どうしよう……)

 

 咲は絶賛考え中だった。

 そんな麻雀はもう、何年も打っていない。感覚を取り戻す必要がありそうだ。

 勝つための麻雀。

 そう聞いて、真っ先に思い浮かんだ麻雀が一つあった。

 彼女の麻雀は攻撃に特化しているが、場の支配の強さから防御も高く、まさに勝つことだけを目指した麻雀だった。咲が今まで見てきた中で、最強の麻雀。

 

(試してみますか)

 

 全員の準備が整った後、対局が始まった。

 

 

****

 

 

 〜東三局〜

 

 和  24200 西

 まこ 24600 南

 優希 20700 東:親

 咲  30500 北

 

「ツモ、1600、3200です」

 

(ここまでは、宮永さんが三局全部和了っている。特別大きなのを和了ったわけじゃないけど、手作りの早さがすごい……。そして、そのうち二回が嶺上開花……。俄かには信じられないけど、これが宮永さんの力なのかしら……?)

(ありえないじぇ……)

(わしゃあ、嶺上開花なんて和了ったことないんじゃがなぁ……)

(偶然にしてもひどすぎます!)

 

 嶺上開花。

 牌が四つ揃った際に可能な、『槓』という特別な鳴きで成立する役の名前。槓をすると、通常は引くことが出来ない王牌のうち、嶺上牌と呼ばれる牌を引くことが出来る。嶺上開花は、その嶺上牌で和了るときに追加される役である。

 説明からも分かる通り、嶺上開花を和了るのはほとんどの場合において不可能である。条件がシビア過ぎるし、役自体も一翻なので進んで和了ろうとする人がまずいない。槓した際に、とびきりのオマケとして付いてくる役というのが、一般的な認識だろう。

 にも関わらず、東三局が終わった段階で嶺上開花を二回和了るなど、異常事態もいいところ。和の思う通り、偶然にしても酷すぎるものである。

 加えて。咲は一度目の対局でも嶺上開花を和了っている。周りの面々は、その段階では恐ろしいまでの豪運で済ませていたのだが、この展開は予想外過ぎた。

 

(嶺上開花を自在に和了れるのだとしたら、とんでもないわね……)

 

 インパクトが強過ぎた。このような異能、初見で対処仕切れるものではない。

 そのせいで対局している三人と久は、もっと重大な事実に気づいていなかった。

 それに気づいたのは、麻雀初心者で咲の凄まじさが理解しきれていない京太郎だったのは皮肉な話であろう。

 

 

 〜東四局〜

 

 和  22600 北

 まこ 23000 西

 優希 17500 南

 咲  36900 東:親

 

「リーチ」

「ダ、ダブリー⁉」

 

(あははは……。嶺上開花以外にも、その強運は働くのね……)

 

 後ろで唖然としていた久だが、さらに驚愕の事実が京太郎から告げられる。

 

「部長、ちょっといいですか?」

「ん? どーしたの?」

「いや、俺自主的にデータとってたんですけど、見て下さいこれ」

「ん?」

「この対局での咲、上がる度に点数が上昇してるんです。これって偶然なんですかね?」

「……なんですってっ⁉」

 

 思わず引っ手繰るように京太郎が持っていた用紙を手に取り、内容を凝視する。そこにはこの対局での咲の各局での上がりが記入されていた。

 

(ホントだわ……東一局はツモって400、800。東二局は優希から3900。さっき上がった東三局では1600、3200。確かに打点が上昇してる‼)

 

 この現象に久は心当たりがあった。むしろ高校麻雀界にいる人なら知らない人などいないと言っても過言ではない。

 なぜならそれは、高校生最強のプレイヤーの代名詞とも言えるものだからだ。

 

(これは、まさか『連続和了』⁉ もしかしたらとは思ってたけど、宮永さんって……⁉︎)

 

「ツモ。ダブリー、一発、ツモ、4000オールです」

 

(…………これは、間違いないわね……)

 

 久はあることに確信を抱いた。

 これはきっと、高校麻雀界を揺るがすほどの事実だ。拾い物なんてレベルではない。ラスボスとのエンカウントである。

 

(その実力、はっきりと見定めたい……!)

 

「宮永さん。出来れば流れるか、誰かが飛び終了するまで、連荘してくれないかしら?」

「……分かりました」

 

 本来なら。最終局を親が和了った場合、トップじゃなかったら連荘、トップだったら終局というのが普通だ。大将以外の団体戦などなら話しは別だが、今回は後者に当たる。

 だけど久は連荘を望んだ。それはただ単純に久が見たかったからである。この後も点数が上昇していくのかどうかを。

 言わば、久のわがままだった。

 まさか咲がここまで人外な強さを持っているなど、久は想定外であったのだ。だからこそ、咲の麻雀を見届けたい気持ちが勝っていた。

 

(さぁ、見せてちょうだい。あなたの本当の強さを……!)

 

 

 

 〜東四局 一本場〜

 

 和  18600 北

 まこ 19000 西

 優希 13500 南

 咲  48900 東:親

 

(今回の宮永さんは異常すぎます……! でもこのままでは終われません!)

 

 和はまだ諦めていなかった。

 確かにここまで咲は圧倒的であったが、局が進むにつれ手作りのスピードが遅くなっていたからだ。それでも早いのに変わりはなかったが、この局なら和でも追い付いた。

 

「リーチ!」

 

 この対局で始めての咲以外のリーチだった。

 状況を動かす最後の一手だった。

 

 ──だが、勝利の女神は和には微笑まなかった。

 

「カンッ!」

 

(大明槓⁉)

 

 咲は今捨てた和の牌を大明槓する。

 槓することによって起こることは二つ。王牌から嶺上牌が引けることと。そして、ドラが一つ増えること。

 明かされた槓ドラ。

 そこには、どうしようもないほどの奇跡が詰まっていた。

 

(なっ……⁉)

(今咲ちゃんが槓した牌が槓ドラ⁉)

(そんなアホなっ……⁉)

(これは……⁉︎)

 

 ──嶺上の花が咲き乱れる。

 

「ツモ。タンヤオ、嶺上開花、ドラ4、18000の一本場は18300」

 

 〜終局〜

 

 咲  68200 +58

 まこ 19000 -11

 優希 13500 -17

 和   -700 -30

 

 

****

 

 

(……うわぁ、気まずさが有頂天)

 

 あまりの状況に日本語が意味不明になってしまった咲だが、それほどまでに今の状況は辛いものがあった。

 和は俯いて動かない。

 優希とまこはまだ驚愕が抜けないのか、目を見開いたまま固まっている。

 京太郎も大体同じで、ペンを落としていた。

 

(この状況、私にどうしろと……?)

 

 打開策が思い浮かばない咲は次第にオロオロしてきたが、ここで助け船を出したのは久だった。

 

「……とりあえずみんなお疲れさま。各自休憩に入っていいわ」

 

 それでなんとか凍った空気が溶けたようだ。和はそのまま動けていなかったが、優希とまこは揃って卓に突っ伏した。

 

「なんか、恐ろしい目にあった気がするじぇ」

「奇遇じゃな。わしも同じことを思っとったよ」

 

 優希とまこは一旦放っておいて、久は咲に話しかける。聞きたいことがたくさんあった。

 

「お疲れさま、宮永さん」

「は、はい……ありがとうございます」

 

 少しだけこの空気が緩和したからか、声は出せるようになっていた様子だったが、まだ内心オロオロしてるのが見え見えだった。

 

「もっと気楽にしていいわよ? それに勝つための麻雀を打ちなさいって言ったのは私なんだから、あなたは何も悪いことはしてないわ」

「そう言ってもらえると助かります」

「それで、幾つか聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」

「はい、答えられないの以外なら」

「そう、なら……」

 

 これまでの対局で分かった咲の能力とも呼ぶべき力は四つ。

 点数調整。

 嶺上開花。

 連続和了。

 そして、最後に見せたドラ爆。

 どれもこれも全くもって恐ろしい力だが、久はこの中でも最も気になるものがあった。この質問で全て分かるだろう。

 咲がなぜ、こんなにも強いのかが。

 

「宮永さんって、お姉さんいない?」

「よくご存知ですね。はい、いますよ」

「名前を伺ってもいいかしら?」

「……姉の名前は『照』、宮永照です」

 

「「なっ……⁉」」

 

(やっぱりそうだったのね……)

 

 聞き耳を立てていた優希とまこは、本日何度目の驚愕か分からないが、突っ伏していた顔を勢いよく上げていた。久は予想通りではあったが、内心での驚愕は隠せない。

 一人蚊帳の外にいた和は、首を傾げていた。

 

「あの、その宮永照とは誰なんですか?」

「のどちゃん、知らないのか⁉」

「はい、あまり周りのことに興味がなくて」

「信じられないじぇ……」

 

 和は麻雀では、自分が強くなること以外興味がない。

 宮永照も含めて、プロ雀士の名前もほとんど知らないのだ。

 

「宮永照さんはね、簡単に言うと高校生版の和のことね」

「それはつまり……」

「そう。去年のインターハイ個人戦、そして今年の春季大会の優勝者よ」

「……その妹さんが宮永さんなんですか?」

「うん、そうだよ原村さん」

 

 事の大きさに和もやっと気づいたようだ。

 今目の前にいるのはただの少女ではなく、高校生チャンピオンの妹なのだと。それならあの圧倒的強さも不思議ではない。

 

「それで宮永照さんには特徴的な打ち方が存在するわ」

「それは一体……?」

「これを見てみなさい」

 

 久から渡されたのは、さっきの対局を京太郎が記録した用紙。全て咲の和了りであり、自身が飛ばされた対局だ。進んで見たいものではなかったが、ここで駄々をこねても仕方ないため、大人しく記録を閲覧する。

 だが和には、咲がものすごく運が良かったとしか思えない。

 

「よく分からないのですが?」

「打点に注目してみて」

「打点ですか……?」

 

 言われて注目してみると、一目で理解できた。

 

「打点がどんどん上昇している……?」

「そう、その通り。それが宮永照さんの最大の特徴にして最強の所以ね」

「でもこれは宮永さんの記録ですよ?」

「そう、私もそこが疑問だったのよ」

 

 久がそう思うのも無理はない。

 なぜならこれは、宮永『照』の打ち方であって、宮永『咲』の打ち方ではないはずだからだ。家族だからという理由で同じ力が使えるというのがあるとも考えられるが、照が嶺上開花を和了っている姿は見た事がない。

 

「宮永さん……なんかお姉さんの話しもしてて混ざるわね。咲って呼んでもいい?」

「全然構いません。むしろそう呼んでくれると嬉しいです」

「では、私も咲さんと呼んでいいですか?」

「うん、原村さん」

「出来れば私も、名前で呼んで頂けると嬉しいのですが……」

「そう? なら和ちゃんでいい?」

「はい!」

 

 ほのぼのとした会話が繰り広げられていた。「じゃあ私のことは優希って呼んでくれると嬉しいじぇい!」と微笑ましい光景も続いたのだが、まだ本題に入っていないので久が話しを戻す。

 

「それで、咲。あなたも連続和了が出来るの?」

「うーんと、正確には出来ませんね。私のはお姉ちゃんのを真似てるだけ、いわゆる劣化版コピーみたいなものです」

「えっ……? 咲、あなたコピーなんて出来るの?」

「何年も見てきたお姉ちゃんのくらいですけどね」

「いや、普通そんなことできないわよ?」

「それには一応理由があってですね……」

 

 咲が言うには、これは家族麻雀の経験で得た観察眼によるものらしい。プラマイゼロを打っていく過程でどんどん鋭くなり、相手の打ち筋を理解し、ある程度なら真似出来るようになったのだとか。

 

(全く、この子のスペックは天井知らずね)

 

 既に人外設定していた久だが、まだ上があるのかと、驚きを通り越してやや呆れていた。

 

「なるほどね……。ちなみに、劣化版コピーって咲は言ったけど、お姉さんのはもっと凄いの?」

「何年も見てないんで今はどうか分からないですけど、きっとお姉ちゃんのは私よりさらに早いですよ? 点数の上昇スピードなら私に軍配が上がると思いますが。私は槓で無理矢理ドラを増やせますから」

 

(……恐ろしい姉妹だわ)

 

 言っていることが何処かおかしい。いや、最早全ておかしいが、これが真実なのだから受け入れるしかない。

 

「そう、ありがとう咲。満足だわ」

 

 これで聞きたいことは全て聞けた。後は咲が麻雀部に入ってくれれば言うことなしだが、そこは本人の意思次第である。

 先輩という立場でお願いしたら断れないだろう。だから久が直接勧誘するのは控えることにした。

 だが久は存外性格が悪い。

 久が直接できないのなら他の人がすればいいのだ。別に久が頼んだわけではないが、計算通りならばきっとアクションが起こるはず。

 

「そうそう、咲」

「はい?」

「約束の本はここにあるからね。これは対局の時の待ち時間用の読書本棚。麻雀部に入れば読み放題」

「そ、そうなんですか?」

「えぇ、もちろんよ」

 

 でっかい釣り針もこれでセット完了。あとは誰かが竿を引けば万事上手くいくはずである。

 そして、その竿を引く役目には、やはりこの少女しかいない。

 

「さ、咲さん!」

「ど、どうしたの、和ちゃん?」

 

 いきなりの大声にちょっと驚いてしまった咲だが、和にそれを気にする余裕はなかった。

 意を決したように、強い眼差しで咲を射抜く。

 

「約束は一回だけでしたし、図々しいことなのは分かっています。でも、それでも私は、また咲さんと麻雀が打ちたいです! ですから、麻雀部に入ってくれないでしょうか⁈」

 

 和のその必死な姿勢は、咲の想いを動かすのには十分だった。

 麻雀部に入れば姉である照の麻雀をするという望みも、再会して仲直りするという咲と照の望みも叶えられるだろう。

 だが咲は、一つだけ不安があった。

 

(もし全国に行けたとして、そこでお姉ちゃんと再会した時、ホントに自然に仲直りできるのかなぁ?)

 

 もう何年も会っていないのだ。

 そんな状況で、全国大会という大きな舞台でいきなり再会しても、互いに背負うものも多いだろうからろくに言葉を交わせないと思っている。照は麻雀でなら仲直り出来るとインタビューで言っていたがそこまで上手くいくとは、咲には思えなかった。

 なら、どうすればいいか。答えは決まっている。

 

「返答を少しだけ待ってもらえませんか?」

「……少しとは?」

「来週の休み明け。その時にここに来て答えを出します」

「……分かりました。では、ここで待ってます」

 

 和は笑顔で返してくれた。その優しさに咲は感謝する。

 

「では、今日はこれで帰りますね。失礼します」

「えぇ、気を付けて帰ってね」

 

 咲は鞄を持って部室を出る。

 その時、約束だった本は持ち出して行かなかった。

 

 

****

 

 

「ただいまー」

「おかえり、お父さん」

 

 自宅にていつものように、夕飯の仕度を終えて父が帰って来るのを待っていた。

 でも今日はいつもと違う。今日は父にお願いがあったのだ。

 

「あの、お父さんお願いがあるんだけど」

「咲がお願いなんて、珍しいな? よーし何でも言ってみろ」

 

 父は基本的に優しいので、こういう時に断ることはまずない。計画通りである。

 

「あのね、今度の土日のどっちか空いてる?」

「あぁ、大丈夫だぞ」

「じゃあ、連れて行ってほしいところがあるんだ」

「一人で行けないってことは遠出か?」

「うん」

 

 父も咲の方向オンチは知っているので、話しが早い。

 

「それで、どこに連れてってほしんだ?」

「東京」

「……と、東京?」

 

 一瞬耳を疑った父。

 そこは咲にとって縁遠い場所でもあり、縁がある場所でもあるからだ。

 それでも、咲が東京に行きたいなんて、考えられる理由はただ一つ。

 

「お姉ちゃんに会いに行きたいの!」




次回! 突撃!白糸台‼

と、思っていたのですか嘘になりそうです。
突撃はその次かと……
ごめんなさいm(_ _)m

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