「い〜や〜危なかったなあ、マスターの機転ほんとに助かったわ。」
「それな。あとカバンをバイクに置いてったのは何気にファインプレーだった。もし机の上とかに置いてったら終わってたぞ、マジで。」
「間違えねえや。」
バイクを二穴して走らせBlack Hearsを後した俺達は、大通りを北上して別の目的地はと向かう。
本当は元々いた喫茶店でたむろする予定だったのだが、俺と京悟がサボったのを嗅ぎつけた先公がやって来たせいで台無しになってしまったのだ。
なので始業式に参加していた連中とは別のバーガーショップで落ち合う事にした。
「そうだ秀之亮、瑞木達はどこ行きたいって?」
「ナクドナルドが良いっぽいから駅前の方まで飛ばしてくんね?てか、彼女さんは良かったのかよ。」
「それがよ…。――あそこのお嬢様高校の事、秀之亮知ってんだろ?」
「あそこの、お嬢様学校……。丘の上の方にある
……これは驚いた。
宝良女子校は東京でも有数の名門私立女子進学校…、所謂モノホンのお嬢様高校なのだ。
公立に通う俺達からすれば高嶺の花もいいところで、出立ちから身なりまで高貴なオーラを醸し出している女の子達ばかりだ。
それを一目見ようと通学中の楽しみにしている奴もちらほらいるほどだ。
「あそこの女子校って校則キツいらしくて、外でハメ外したくなるもんなんだと。めちゃくちゃ分かるけどなあその気持ち〜。」
「あーなるほど…。」
尚更どうやって知り合ったのか疑問が募る。
彼女達が寄り道なんてしているところは殆ど見かけない上に通学路だってそこまで被っている訳じゃない。
――というか通学中に声掛けて付き合いましたはただのナンパじゃないか。
「因みにその子とはどこで知り合ったのさ。出会い系でも使ったか?」
「妙に生々しい例えやめい。……その辺のカフェでバイトしてた時があって、そん時に声掛けられたんだよ。そこでインヌタ交換して今に至るという……。」
「超絶ラッキーボーイじゃねえか……。」
これぞ天性のコミュ力。自ずとコミュニケーションを取らずとも、自分から放つ
―――そういった人柄は手放しで尊敬できるけどなんかムカつく。
「んで、彼女の高校はもう始まってて今日は6限まで授業なんだと。だから俺の門限は3:30までって事で!」
「うい〜。瑞木達にもそう言っとくわ。」
LIMEでそう送信して顔を上げる。
そうしている内に駅前は目の前にまで来ていた。
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「うーっす皆おつー。」
「「うーっす。」」
京悟の挨拶に後から合流した連中の返事が見事にハモった。
「宗次郎〜、お前ぇかあ?先生に俺達の居場所チクったのは。」
「……ところが俺らじゃないんだよこれが。」
――妙に意味あり気に呟きこちらを見る。
「少し赤み掛かった黒髪ロングストレートが先生に口利きしてたような…。」
………。
億パーセント愛狐だ。
「俺の幼馴染が悪かったな!」
「愛狐ちゃんかよ……。」
サボらないと言った数十分後、気紛れにそれを裏切ったのなら相応の天罰だと納得した。
――まあその天罰は回避したけどな。
「しょうがないよ、僕らと違って百谷は根が真面目な人だし。もう少しバレないようにやれば良かったんじゃない?」
瑞木が愛狐の行動を弁護しつつ話題をさりげなく切り替える。
今朝のLIMEからもその優しさが垣間見えていたが、俺達の前でもそれは同じなのだ。
――そういえば一人足りないな。
「ところで陸はどこ?一緒に来たんじゃないの?」
「先に行ってろってさ。またその辺でうろちょろしてるだけだろ。」
陸もいつも通りだ。
部活でも遅刻魔として悪名を轟かせているこいつのマイペースさは、こんな時でも健在らしい。
「あいつの事だからいつ来るか分かんないし先入ろうか。平日だしテーブル空いてんだろ。」
「でも時間的に怪しくない?僕が席取っておくから先に皆は注文しといて。」
「あざあっす!ところで京悟よ、財布忘れたから金貸して?」
「宗次郎てんめぇ…。――んで何を頼むんだよ。」
「ちょっと待てそうじろう、財布忘れといてよく飯に来ようと思ったな!?」
「いや借りれば良いだろって思って。」
「「かすが。」」
京悟と口を合わせて宗次郎を非難した。
……瑞木の爪の垢と一緒に足の垢まで煎じて飲み干させてやろうか。
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「それじゃなー。」
「おーばいばーい。」
ナクドで2時間ほど駄弁ってから俺達は別れた。
京悟が彼女を迎えに行くのに遅れる気を懸念して、門限よりも早い15:20に解散した。
陸は予定がどうのこうの言って結局来なかった。
「僕達はこのまま電車で帰るけど秀之亮は?」
「俺も真っ直ぐ家に帰るわ。今夜はお客様が来られるから準備しないといけないんでな。」
「おー?もしかして愛狐ちゃんかなあ??」
宗次郎が両目を三日月の形にして気味悪く笑う。
――そんなニマニマしてもお前が期待しているような事は無いんだけど。
「あいつ、今リビングがめちゃめちゃになってて帰れないんだ。その面倒を見るだけだよ。」
「は?なんで家がそんなになってんだよ。またなんかドジした?」
――残念無念。学校ではしっかり者として振る舞っているものの、そこそこ付き合いのあるこいつらにはバレバレなのだ。
よく俺の家で集まる事が多くそれに愛狐が混ざったりするのだが、そんな状況でもあいつは持ち前のドジパワーを遺憾無く発揮するのだ。
忘れもしない…。部屋の中でBBQした挙句、上げた火柱で天井にどデカい穴を開けた事を。
「そのドジでリビングの窓ガラスが砕け散ってんだと。そうじろう達にも見せてやりたかったわ。」
「え、大丈夫?強盗とかに入られてたんじゃ……。というか愛狐ちゃんは平気なの?」
「元気ピンピンピリルビンだよ。」
平気で通学した上に俺のサボりを特定するくらいに頭が回る余裕だってあるんだ。メンタル面に問題は無いだろう。
「んじゃ、帰ってやる事あっからそれじゃな。」
「うん、ばいばい!」
「ばいび〜。」
改札に入って行く二人を見送り、俺も帰路に着く。
大通りに出て道路を眺める。
「――あれ、混んでる。」
さっきまで渋滞の気配など無かったのだが、目で見える限界くらいのところで車が列をなしているのが見えた。
…事故だろうか。これは京悟を早めに送り出して正解だったと少し安心した。
それにバイクなら大通りを避けて向かう事だって出来るだろう。
ほんの一瞬だけ騒めいた胸騒ぎを収め、改めて帰り道へと足を踏み締めた。
家に帰ったらまずは洗濯物を取り込んで、その後は夕食の準備をせねば。
これからやるべき事をおさらいしながら自分の家を目指した。
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「ただいまー。」
「おかえり〜。」
「いやなんで愛狐がいるんだよ。」
家の鍵は閉めた筈。なのに俺の幼馴染は合鍵を持っていないのにもか関わらず、俺の家に平然と上がっている。
―ーそう思ってふと足元を見ると焦げ茶色の革靴が一つ、俺達の通う学校指定のそれとはまた違う物だ。
……父さんの靴だ。
「なるほどね、父さんに上げて貰ったんだ。」
今までの仕事に一区切りして帰ってきたんだと安心した。
「おらーシュウ、早く手を洗ってリビングに来なさーい。始業式をサボった理由をじぃ〜っくり問い詰めさせて貰うからね。」
「ノーマル面倒くさかったからじゃダメかー?」
「それが通ったら欠席届けは要らんでしょうが!!はよ来なさいな!」
「へいへ〜い。」
――やる事かーちゃんかよ、と思ったが俺達の……。
ーーー。
いや、いい。
……今はいい。
ありもしなかった物に想いを馳せるのは無意味だ。
せっかく俺の帰りを待ってくれている人達がいるのだから、早く手を洗ってうがいを済ませてリビングに向かおう。
そこにテーブルと人数分の椅子さえあれば……、
「いいね。本当の家族みたいで。」
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「――それで?シュウは始業式を飛んでどーこに行ってたのかなあ?」
「近くの喫茶店。」
「即答!?もっと悪びれなさいよ!!」
いや嘘をつく必要もないし?というかチクったのお前だろうが。
「それで面白かったのが先公がわざわざ喫茶店までやって来たんだけど、マスターが機転を利かせてくれて上手い事捲いたって訳。いやぁスリリングだった。」
「自慢気に言うんじゃありません。私の送り込んだ刺客が…。」
「やーっぱチクったの愛狐か!もっと悪びれろ!」
「私は間違った事してないんですけど!?」
「ちっ。」
「かちーん。こいつ今”ちっ”って舌打ちしましたー。怒られている側なのにな〜。」
こうくどくどと説教を垂らされている身分だが存外悪い気分にはならない。
別にjkに叱られる性癖があるだとかM気質だとかそういう訳では断じてない。
普段は一人だった時間に、孤独で退屈だった空間に、自分以外の誰かがいる事が単純に嬉しいのだ。
それに今日は父さんもいる。
……これで良いじゃないか。
「そーいや父さんは?部屋で寝てる?」
「あー話を逸らすんだー。悪いんだー。……シュウの言う通り。18:00に起こしてだってさ。」
…なんだかんだで答えてはくれるのか。
ともあれ父さんは仮眠中なら静かにしておかなくては。
「おけおけ。そんじゃ洗濯物取り込んで来るから、愛狐はそこのソファで大人しくしてな。」
「あ、それならシュウのお父さんがやってくれたよ?」
「まじか…。」
しまった、と思った反面尊敬の念が父さんへ芽生えた。
仕事帰りであろうと家事に少しでも携わろうとしてくれている。それもここ2週間ほぼ家に帰らなかった間、激務に右往左往していたというのにだ。
「頭上がんねえなぁ。早く帰って来れば良かった。」
「ねえねえその良心の一欠片だけでも活かして、始業式に出ようっていう気持ちは無かったの?」
「無い。」
「即ッ答!!やっぱり良心なんてシュウには無いんだ!」
「俺にそんなもん期待すんな。飯は何が良い?」
「ん〜、ハンバーグとパスタ!ペペロンチーノが良いー。」
「あいよ。」
今朝確認した時の卵は残り二つだったから、使い切るには丁度良いメニューだろう。
「へへー、シュウの晩ご飯ひっさしぶり〜。」
「よし懐柔完了。」
「まあ今回は許しましょう!次やったら火吹くからね。」
「怪獣じゃねえかよ。」
しかし愛狐が怪獣というのには妙に納得がいった。
火を吹いたり出来るのならリビングをあんなふうに破壊したりするのも造作も無いだろうし、毎度ドジが壊滅的なのにも頷ける。
「そうか…、愛狐は令和のゴジラだったんだな。」
「まーた失礼な事を考えてたわね……。」
御名答。怪獣の世話を焼くのは大変だなぁと思っただけだ。
…さて。冷蔵庫を覗いたら幸い必要な食材が一通り揃っていたので、父さんが起きるのに合わせて出来上がるよう下ごしらえしなくては。
時計は今16:00を指している。
今から手際良くやればもう一品作れるほどには余裕がある。
「そうだシュウ、私も何か手伝おうか?」
「いや、いい。我が家の一階が全焼して路頭に迷う危険があるからな。包丁だって渡せん。」
「ほんとにこいつは〜。」
そう言って拗ねる愛狐を傍に、包丁とまな板を取り出して玉ねぎを刻み始めた。
「うぇ〜ん。玉ねぎ切るなら言ってよ、目が染みるじゃ〜ん。」
「なら目ェ閉じとけ。」