現代ダンジョン英雄育成計画:私だけのヒーローになってくれるよね♡   作:maricaみかん

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10話 間違った想い

 優馬の前に現れた、金髪の女。

 Cランクダンジョンを攻略する優馬が、毎回挨拶していた相手。

 そんなことはどうでもいい。なぜ優馬に会いに来たのか。私から優馬を奪うつもりなのか。

 彼女が敵なのかどうなのか。それだけが問題だった。

 

「こんにちはっ、優馬さん。会いに来ちゃいましたっ」

 

 優馬は名前を教えていないはずなのに、知っている。

 つまり、危険な相手だ。殺すか?

 いや、急ぎすぎるのは良くない。仮に殺すとしても、しっかりと計画を練らないと。

 おかしいと思われたらまずいんだから。そうじゃなくても、安易に殺すべきじゃない。

 

 私だって、人を殺して気持ちよくなる異常者ではない。

 分かっているんだ。人殺しは許しがたい罪だって。

 それでも、欲望には勝てなかった。情けないよね。優馬の隣にいるのに。

 

 きっと、優馬なら。同じ状況だとしても、耐え忍ぶことを選んだんだろうな。

 そもそもダンジョンを生み出そうとなんてしなかったし、私が他の男と近づいても、嫉妬はしても殺そうなんて考えなかったはず。

 優馬のそばに居ると、自分の醜さが浮き彫りになっちゃう。仕方ないことなんだけどね。私が悪いから。

 

 それでも、私の優馬を奪おうとすることだけは許せない。

 この女がどう考えているのか。それ次第では。私はもっと堕ちていくだけ。

 

「確かに僕は優馬だけど。なんで名前を知っているの?」

 

「あっ、それは気になりますよね。Cランクダンジョンを攻略した人なんだって、噂になってましたよっ」

 

「それは、あなたの地元でってこと?」

 

「ううん。もっと大きいと思いますっ。Cランクダンジョンが攻略されたのは、初めてらしいのでっ」

 

 確かに、優馬が初めてのCランクダンジョン攻略者だ。

 予想外ではあるんだよね。もっと先に、うまく攻略する人が居てもおかしくはなかった。

 Sランクダンジョンだけは、何があったとしても優馬に攻略させたけど。

 

「だから、名前まで知っていたんだね。ところで、あなたの名前は?」

 

「夏鈴ですっ。優馬さんのおかげで、死んだ両親も報われたと思いますっ」

 

 ダンジョンのせいで、夏鈴とやらの両親は死んだ。

 結局のところ、私が欲張ったからか。ダンジョンがなければ、優馬と夏鈴は出会わなかった。

 そして、今のような思いをすることもなかった。

 

 知らなかった。優馬が他の女と仲良くすることが、こんなに苦しいなんて。

 胸の奥から痛みが走るようだ。何かが飛び出してきそうだ。涙がこぼれてしまいそうだ。

 つまらない嫉妬なんだって、分かっている。でも、おさえきれない。

 私と遊真が結ばれる未来をずっと夢見ていた。今では、その光景に霧が出たかのよう。

 

 ずっと、優馬と一緒にいて。最後には結ばれて。それからも幸せに過ごす。

 当たり前だと思っていた未来が、当然じゃなかったと理解できた。

 そうだよね。優馬だって、気持ちが変わることがあるのかもしれない。

 私を大切にしてくれることは、きっと変わらない。

 それでも、恋愛感情じゃなくなっちゃう可能性だってあるんだ。

 

「よろしくね、夏鈴さん。ご両親が亡くなったのなら、大変だよね。できることがあれば、言ってほしい」

 

 これまでは、私にだけ優しかったのに。笑顔を見せてくれたのに。

 今の優馬は、夏鈴にも優しく微笑んでいる。悔しい。悲しい。腹が立つ。壁を殴りたいくらい。

 私の正解は、いったい何なのだろうか。ただ見守っているのが、正しいのだろうか。

 分からない。ずっと、ただ信じてきただけだったから。優馬と結ばれるのは私だって。

 

 でも、今の優馬は夏鈴にも優しい。

 このままだと、夏鈴になびいてしまうかもしれない。

 信じたくないよ。優馬と結ばれない未来の可能性なんて。

 だけど、不安が消えてくれないんだ。

 

「大丈夫ですっ。一応、優馬さんと同じ高校生なんですっ。お金にも困っていませんっ」

 

 それが厄介なんだよ。優馬と近づく上で、障害が少ない。

 親が居ないから、帰る理由だってあんまりない。

 優馬に近づく上での障害が、ほとんど無くなっているんだ。

 だから、とても怖い。優馬が夏鈴に惹かれてしまう未来が。

 

 私の想いは、これまで喜びだけを与えてくれた。

 優馬が陰ってしまった時も、苦しさというほどではなかった。

 だけど、今はとても苦しいんだ。叫び出したいくらい。足元が壊れるんじゃないかって気もする。

 でも、どうして良いのか分からない。何を頑張れば良いんだ。

 

「そうなんだ。じゃあ、あまり心配しなくても良さそうだね」

 

「はいっ。むしろ、優馬さんの方が大変だと思いますっ。両親の仇を討ってくれたのは嬉しいですけど、だからこそ、死なないでくださいっ」

 

「もちろんだよ。僕には帰りを待ってくれる人がいるんだから」

 

 私のことだ。そうだよね? 優馬が帰るのを待ってるのは、私だけだもんね?

 そうじゃなかったら、私から希望はなくなってしまう。

 優馬、助けてよ。私のことを大好きって言ってよ。お願いだよ。

 

「なら、その人のためにも、生きてくださいねっ。私の方こそ、できることがあったら言ってくださいっ」

 

 何もしなくていいよ。優馬に近づかないで。

 私だけの優馬じゃなくなっちゃったら、生きていけないよ。

 ただ、優馬だけが居てくれれば良い。それだけのことが、どうして難しいのかな。

 

「心配しなくていいよ。僕だって、生きるために全力だから」

 

「じゃあ、今日は行きますねっ。また、会いましょう」

 

「分かった。また今度ね。これからも、よろしくね」

 

「もちろんですっ。優馬さんと会えて、本当に良かった」

 

 夏鈴の目は潤んでいて、頬を軽く染めていて。

 だから、きっと優馬が好きなのだろう。

 私から優馬を奪わないで。彼だけが、私の全てなのに。

 つまらなかった人生を、鮮やかに彩ってくれた人なんだ。

 だから、お願いだよ。優馬、私だけを見ていてよ。

 

 そんな願いも虚しく、優馬と夏鈴はこまめに交流していた。

 

「今日は大変だったよ。別のCランクダンジョンに行ったんだけど、幽霊が居てさ」

 

「優馬さん、幽霊が苦手だったんですねっ。可愛いですっ」

 

 そうだった。だから、優馬の勇気を見せてもらおうと思っていた。

 だけど、あっさりと乗り越えられてしまった。嬉しいような、詰まらないような。

 私の胸の奥に、夏鈴が優馬の力になったのではないかという考えが浮かんでしまった。

 そうだとすると、悔しいどころではない。泣き出したいくらいだ。

 

 優馬は、私じゃなくても良かったの? ただ、自分を好きになってくれたら良かったの?

 分かっている。私だって、必ずしも優馬じゃなくて良かったかもしれない。

 ただ、ヒーローとしての輝きを見せてくれていたのなら、それで良かったのだと思う。

 だとすると、優馬に求めすぎるのは悪だ。でも、感情が追いついてこない。

 

 初恋だったんだ。仕方ないじゃないか。優馬だけが、私に希望を見せてくれたんだ。

 優馬にとっては違ったのかな。ただの幼馴染として、普通に好きになっただけだったのかな。

 

「それで、スタングレネードを投げたら倒せたんだけどね。持ってなかったらと思うと恐ろしいよ」

 

「ふふっ、それは大変でしたね。他の倒し方はあったんですか?」

 

 私達の家の前で、和やかに会話しないでよ。

 夏鈴さえ居なければ、もう優馬に会えていたのに。

 どうして、夏鈴と優馬は出会ってしまったのかな。

 ダンジョンのせいだって、分かってはいるんだよ。

 

「そうだね。できれば、もう二度と出会いたくないかな」

 

「幽霊を怖がる優馬さん、見てみたかったですっ。そろそろ時間ですね。では、また」

 

 優馬が帰ってくる。ようやく私の所に。ずっと、夏鈴とばかり話して。

 悔しいよ。ずっと、私だけを見ていてくれたのに。私だけのヒーローでいてくれたのに。

 もう、夏鈴にとってもヒーローになってしまったんだね。

 優馬。ダンジョンなんて、作らなければ良かったのかな。

 そうすれば、今でも二人の世界だったのかな。

 

 分からないよ。何が正解だったのかなんて。

 私はただ、優馬が居てくれればよかったのに。

 優馬と同じ時間を、過ごしたいだけだったのに。

 輝く姿を、私に見せてほしかっただけなのに。

 

「おかえり、優馬君。今日のご飯、もうできてるよ」

 

 少し冷めちゃいそうだったけどね。

 夏鈴との時間が、私の予定を狂わせる。

 優馬と一緒に過ごすのは、私だけの特権だったはずなのに。

 今では、順番待ちをしなくちゃいけない。どうしてなのかな。

 

「ありがとう。今日は何かな?」

 

「とんかつと野菜炒めと、味噌汁とさばの味噌煮だよ」

 

「分かった。楽しみだな」

 

「うん。優馬君なら、絶対に美味しいって思うはずだよ」

 

 優馬の好みは、誰よりも研究した。

 美味しいって言ってもらいたかったから。笑顔をみせてほしかったから。

 いまでも、夢中になって食べてくれてはいる。

 だけど、以前ほど心が踊らない。理由なんて、考えるまでもないよね。

 

「美味しかったよ。いつも、大変だよね。僕に何かできることはないかな?」

 

「ううん。余計な負担を増やさないでほしいかな。優馬君は弱いんだから、すぐに死んじゃいそうで怖いよ」

 

 本当は、もっと私に触れてほしい。私に好きって言ってほしい。

 だけど、ダンジョンを攻略したら言いたいことがあるって約束が邪魔をする。

 あの時は、今みたいな状況になるなんて想像もしていなかった。

 優馬はずっと、私だけを見てくれるはず。そう信じていた。

 

「いつも、ごめんね。心配かけているよね」

 

「否定はしないけどね。でも、私のためだって分かっているから」

 

「絶対、愛梨の所に帰ってくるから。それだけは約束する」

 

 私のそばに居てくれないと、苦しいよ。泣きたいよ。

 夏鈴を心の居場所にしてほしくないよ。だから、忘れないでよね。

 

「お願いだよ。優馬君がいないと、私はどうにかなっちゃうから。それだけは分かるんだ」

 

 優馬だけが、私の全て。生きる理由。優馬の居ない世界に、意味なんてない。

 私と優馬が結ばれない未来だって、何の価値もない。

 だから、お願いだよ。ずっと私だけを見ていてよ。

 

「大丈夫。愛梨が待っていてくれる限り、何があっても死んだりしないよ」

 

「うん。信じてるから。ずっと、私のそばに居てくれるって」

 

 そうじゃなかったら、私の人生なんて無駄だったことになる。

 信じたい。信じさせてよ。ねえ、優馬。

 

 優馬の家から帰ってから、ずっと悩んでいた。

 これからどうするのか。どうすればいいのか。

 夏鈴を排除するのか、しないのか。

 するとして、どんな手段を取っていくのか。

 

「優馬……私は優馬にふさわしくないのかな。幼馴染なのに、何も分からないよ……」

 

 つい、弱音がこぼれてしまった。

 ただ近くにいることに、ずっと甘えていたのかな。

 だから、今でも優馬の気持ちが分からないのかな。

 それなら、私の努力が足りなかっただけ?

 

 結局のところ、優馬は私をずっと好きでいてくれるのだろうか。

 それが保証されるのなら、今の苦しみにだって耐えてみせるのに。

 怖いよ。未来が暗闇であることが。心が寒いよ。凍えちゃいそうなくらい。

 

 分かっている。夏鈴を殺そうとすることは、絶対に間違っている。

 優馬に好きになってもらえるように、アプローチするのが正解なんだって。

 でも、心が抑えきれない。だから、ごめんね。私はスタンピードを起こすよ。

 夏鈴が死んじゃったら、私が慰めてあげるから。だから、泣かないでほしいな。

 

 自分でも自分が抑えきれなくて、次の日には本当にモンスターを発生させた。

 優馬の向かおうとしていたBランクダンジョンから、夏鈴に向けてモンスターを進める。

 

 そう時間の経たないうちに、優馬に加藤から連絡が入った。

 警察官だけあって、情報を集めるのが早い。

 その連絡を受けて、優馬は何かを悩んでいた。

 すぐに、私の所に電話がかかってくる。

 やっぱり、私が優馬の一番なんだ。なら、こんな事しなくても……。

 

 自分でも整理がつかない感情のまま、電話を受けていく。

 ねえ、私は大丈夫だからね。安心してくれていいよ。

 

「優馬君、どうしたの?」

 

「スタンピードが起きたみたいなんだ。いざとなったら、すぐに逃げられるようにしておいて」

 

 真っ先に私の心配をしてくれるなんて、嬉しいな。

 だから、応援しているね。優馬が泣かなくて済む未来が訪れるように。

 

「分かった。優馬君、頑張ってね」

 

 私のために、頑張ってほしいな。

 そうすれば、心が満たされていくから。

 

 だけど、優馬は夏鈴の元へ全力で走っていく。

 もしかして、私が邪魔だったの?

 だから、電話で状況を確認したの?

 

 とても必死そうな顔で駆け抜けていく優馬を見ると、胸が苦しいよ。

 どうして、そこまで全力になっているの?

 私をスライムから助ける時には、もっと軽くなかったかな?

 泣き出したいような気がしていたけど、頑張ってこらえる。

 

 走り続けて、夏鈴の所にたどり着いた優馬は、全力でモンスターを倒していく。

 スライムを、ゴブリンを、ゾンビを、一息に切り捨てて。

 まるで夏鈴がヒロインみたいな光景に、思わず涙がこぼれた。

 結局、私はずっと間違い続けてきたんだ。

 

 優馬と平和に過ごしていれば、それで良かったのかもしれない。

 なのに、ダンジョンなんて発生させたことがダメだった。

 もう戻れやしないのに、優馬と笑い合っていた日々ばかりが思い出される。

 

 これからは、夏鈴だって優馬の大切な人になってしまう。

 もし夏鈴が死ねば、きっと優馬の傷になる。

 どちらに転んだとしても、私の求めていた未来からは遠ざかってしまう。

 

「夏鈴さん、大丈夫!?」

 

「はいっ、優馬さんのおかげですっ」

 

「夏鈴さん、僕の後ろにいて。必ず守ってみせるから」

 

「はいっ。信じていますからっ。いざとなったら、囮にしてくださいっ」

 

 ヒーローとそれに助けられるヒロインの構図が、優馬と夏鈴の間にある。

 私が求めていた全てを、夏鈴は手に入れているんだ。

 優馬に守られて、その姿を目の前で見る。そんな光景を。

 私の望みは叶わない。ここで夏鈴が生きている限り。

 だけど、夏鈴が死んだら、きっと優馬は折れてしまう。

 

 もう、八方塞がりだ。私の想いが砕け散るような音が聞こえる。

 優馬と結ばれる未来が、だんだん見えなくなっていく。

 

「そんなことはしないよ。安全な場所にいて。今のところは、僕の後ろで」

 

「夏鈴さん、絶対に僕から離れないで! なぜかは知らないけど、敵は夏鈴さんを目標にしている!」

 

「分かりましたっ。絶対に邪魔にはなりませんよ。こっちですっ」

 

 優馬に楽をさせるために、モンスターを引きつける夏鈴。

 そんな姿が、うらやましくて。届きそうになくて。

 優馬に助けられるだけじゃなくて、支えることまでしている。

 そんな事をしていたら、もっと絆が深まってしまう。

 もう見ていたくない。でも、目をそらしたら終わる気もするんだ。

 

 それからも、優馬は必死に戦い続けていた。

 夏鈴を守るために。命を尽くして。

 優馬が死んだら私が死ぬって約束、忘れられちゃったのかな。

 それとも、私より夏鈴の方が大事なのかな。

 

 考えていても、私の望みからは遠ざかるような気しかしない。

 もっと早く、優馬に告白していれば良かった。

 そうすれば、きっと今では結ばれていたはずなのに。

 手が届きそうにない、優馬との日々が手に入っていたのに。

 

 優馬はずっと戦い続けて、そして加藤から通信が入る。

 

「優馬君、モンスターの発生源が分かった。君の向かっていたBランクダンジョンだ」

 

「分かりました、そこに向かえば良いんですね」

 

「優馬さん、私も行きますっ。これでも、ダンジョンに潜っていたこともあるんですからっ」

 

 健気にヒーローを支えるヒロインにしか見えなくて、胸をかきむしりたくなった。

 ずっと、優馬の想い人は私だったのに。今では、夏鈴に気持ちが傾いている。

 ダンジョンなんて無ければ、今でも私と優馬だけだったのに。

 どれだけ私はバカだったのだろう。欲をかいたばかりに、優馬を失いそうになって。

 

「そこに人がいるのか? 状況はどうなっている?」

 

「なぜか彼女が襲われているので、ダンジョンに向かうか悩んでいたんです」

 

「なるほど。確かに、君がダンジョンへ向かえば、モンスターに襲われる人は危うい。だから一緒にか」

 

「そうですっ。優馬さんなら、必ず私を守ってくれますっ」

 

「頑張ってくれ。私は君たちに期待するしかできない。武運を祈る」

 

 そのまま、優馬と夏鈴はBランクダンジョンへと駆け抜けていく。

 支え合う二人は、心で繋がっているように見えて。

 本当は私と優馬の間にあったはずの絆が、だんだん遠ざかっていく。そんな感覚があった。

 誰よりも、優馬を思っていたはずの私なのに。

 

 いや、違うか。私は大罪人だ。

 平和な日々を望んでいたはずの優馬を、戦いへと送り込んで。

 それで、活躍を見て笑っていた私は、邪悪という他ない。

 最初から分かっていたはずなのにね。今になって、罪から追いかけられている。

 

 優馬と夏鈴はBランクダンジョンへと入っていき、ともにモンスターへと立ち向かう。

 夏鈴は私みたいに安全を確保していない。それなのに、命がけで優馬を支えている。

 私よりも優馬にふさわしい輝きに見えて、吐き気すらした。

 

 優馬が命をかける姿を喜んで見ていた私。

 対称的に、命がかかっていても優馬を信じ続ける夏鈴。

 私の醜さが浮き彫りになっていくようで、優馬を汚すだけだって思い知らされるようで。

 

「優馬さん、もっと敵を引き付けますねっ」

 

 なんて言って優馬に楽をさせようとする夏鈴は、きっと私より輝いた人。

 だから、より優馬の隣が似合っているんだ。悪役でしかない私と違って。

 何度でも直面させられる事実に、また目をそらしたくなる。

 物語のヒーローとヒロインは、いま見ている二人のように思える。

 

 なんだ。結局、私の目が曇っていただけか。

 輝いた人は優馬だけじゃなくて、私が認められなかっただけ。

 それなのに、優馬を追い詰め続けてヒーローを作ろうとした。

 人を弄んでいるつもりだった私は、単なるピエロだった。

 

 涙で視界がゆがむ中、優馬達はボスへと挑んでいく。

 ボスである犬の攻撃を、夏鈴の手を取って避ける優馬。

 どちらからも強い信頼が伝わって、私は蚊帳の外。

 

 もう、今さら夏鈴を殺したりできないよ。

 優馬の心が折れる姿が、まぶたに浮かぶようだもん。

 それに、遊真ごと夏鈴を殺すしかない状況だから。

 想いが遠くなった今でも、優馬だけには死んでほしくない。

 私は今でも、優馬が大好きなんだ。それだけは変わらないよ。

 

 私を襲った犬から、傷つきながら助けてくれた姿。

 あの思い出は、今でも色あせていないから。

 本当の勇気を見たって思いも、助けてくれた喜びも。

 

 優馬を嫌いになれたのなら、どれだけ楽だっただろうか。

 だけど、優馬を嫌いになった私に、生きる意味なんてないよね。

 ただ優馬を好きでいただけなら、今みたいに苦しまなくて済んだのに。

 私はバカだった。欲に溺れて、誰も得しない行動をした。

 

 優馬から手を引っ張られていた夏鈴は、手を振り払う。

 何をするのかと思えば、自分で敵を避けようとしていた。

 

「私はなんとかよけてみせますっ。ですから、優馬さんは攻撃を!」

 

 本心からの言葉なのだろう。まさにヒーローに尽くすヒロインで、私より素敵だ。

 悔しいな。優馬への想いに向き合っていれば、夏鈴にだって負けなかったのに。

 今さらではあるけれど、あの日に戻れたらな。祈ってみても、結果は変わらないけれど。

 いくら願いを叶えるチート能力でも、無理なことはあるんだね。

 

 そのままボスは倒されて、優馬と夏鈴は微笑みあう。

 

「優馬さん、素敵でしたっ。あなたのおかげで、命拾いしましたよっ」

 

「良かったよ、夏鈴さんが無事で。じゃあ、帰ろうか」

 

「そうですねっ。行きましょうっ」

 

 私は優馬を笑顔で出迎えられるのだろうか。

 ダンジョンから脱出する優馬を見て、不安がよぎった。

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