ピピピピッ、と目覚まし時計がなる。時計を止めるために腕を少し伸ばせば、寒さに手が凍りつくようだった。
時刻を確認すれば、午前6時。いつも通りの起床だ。まだ起きたくないという体を無理矢理起こし、ベットから出て、制服に着替える。
これを着るのもあと少しか...。そう思うと少しだけ悲しくなった。
ふと、生徒手帳に目をやる。走田雷閃。俺の名前。「雷速」俺の個性。そんな普通のことが書いてある。こういう、何もないけど見たくなるってことあるよなぁ、と思いながらカバンに入れる。
母が用意してくれた朝食を食べながら朝のニュースを見る。そこには、平和の象徴、No.1ヒーローオールマイトの姿が映っていた。
世界で知らない人はいないレベルで有名なヒーロー。彼は数々の事件を解決し、多くの人々を救ってきた。彼の活躍に憧れ、ヒーローを目指す人間は後をたたない。かくいう俺もその一人だ。幼い頃から彼を始め、多くのヒーローを見て、憧れてきた俺にとってヒーローになるという夢を持つのは当たり前のことだった。彼らのような立派なヒーローになるためにも、間近に控えた受験に向けてもっと努力しなくては。
そう思いながら朝食を食べ切り、朝の支度を済ませて学校へ向かう。
「いってらっしゃい」「いってきます」
いつも通りの言葉を家族と交わしながら、玄関を出る。
朝のホームルームが終わり、一限の準備をする。
(一限は英語か...。)
英語は嫌いというほどではないが、少し苦手だ。
「雷閃〜、次って英語だっけー?」
後ろから肩を掴まれながら話しかけられる。
「連絡黒板見ろよ川越。書いてあるだろ。」
彼女は川越恭子。小学校から一緒にいる気の合う友人だ。個性は「超人」、身体機能や五感がすごい強い。
「私はお前と話したいんだよー。」
そんぐらいワカレ、と少しぶりっ子ぶった声で言う。
「わかった話してやるから、手を退けてくれすごい痛い。」
「あ、わりぃ」
こいつはいつになったら力加減を覚えるんだろうか。そう思いながらも、この一連の流れは気に入っている。
「そーいや、雷閃、雄英だろ?受験、自信あるか?」
雄英、入試倍率300倍、偏差値79の超難関校で、日本最高峰のヒーロー養成学校。
「学科はそこそこ、実技は、内容次第かな」
正直な話、学科も怪しい。最大限努力しているとはいえ、超難関校だ。本当に通用するのか心配だ。
「ふーん、まあお前なら余裕だろ。あんま心配すんなよ。」
「そう言われてもなぁ」
「それに、わかんないところがあったら教えてやるからよ。私、頭いいし。」
ドヤァ、というような音が聞こえそうなほどのドヤ顔をしていた。ムカつく。
帰り道、いつも通り川越と帰っていると、何やら駅前の方でヴィランが暴れているようだ。
「見に行こうぜ!」「おう」
そう言って俺たちは駅前に向かった。
「クソ、クソ!くんじゃねえ!!」
「もう諦めろ!抵抗はやめた方が身のためだぞ!」
「うがあああ!」
来てみれば、メカに乗ったヴィランが暴れているようだ。だが、
「なんだよ、もう終わりそうじゃん」「だな」
どう見てもヒーローの方が優勢。しかもそのヒーローは個性「電磁波」をもつヒーロー「エレキショック」。機械系は相性が悪い。
「クソクソクソ...!俺はこんなとこで.....。!!」
せっかくだから、エレキショックの必殺技を見て帰ろうと思っていた時、突然ヴィランがこちらを向いた。
すると、俺の隣にいた川越をそのメカの腕で掴み上げた。
「ぐあっ!」
「川越!」
まずい、川越が!油断してた!
「何?!」「へへ、もしてめえがなんかしやがったら、こいつを握り潰してやるぜ...!」
当然、この状況ではヒーローも下手に動けない。一気に大ピンチだ。
普通の人ならそう思うだろう。だが、俺は別方向で焦っていた。なぜなら、こんな状況...!
「おい...テメェ...」
メカの腕がギギギ、と鈍い音を上げる。
「あ?てめえ、抵抗なんてすんなよ!そしたらすぐ潰してやっかんなぁ!わかって...」
ボギ!ボガン!と音を立ててメカの腕は砕け、地面に残骸が落ちる。
「乙女に何してくれるんじゃ!ゴラァ!」
こんな状況、絶対川越は嬉々として暴れ始める...!
「オラァ!」
彼女の放った正拳突きがメカの足を砕いた。まずい、早く回収しないと!そう思ったと同時に俺は"走った"。
一瞬にして川越を掴み、反対の歩道まで通過した。
「すみません!失礼しました!さっさと終わらせちゃってください!」
そう言うと唖然としていたヒーローもすぐに動き、ヴィランを素早く拘束した。さすがプロだなぁ。
その後、俺たちは少しの注意と感謝を受けて帰った。感謝されるのはいいが、下手に注目されるのはやはり恥ずかしい。
「だからァ 、あれはあいつが掴んできたのがわりぃんだよ!正当防衛だろ正当防衛!」
「あー........まあ、そうだなぁ。」
確かに考えてみれば、先に手を出したのはヴィランの方だし、問題はないのか?
「でもお前、あのままだったらヴィランぶっ飛ばしてただろ。」
「たりめぇーだ。私に手を出すってのはそれ相応の覚悟がいるんだよ。」
「流石にそれはダメだろ〜。」
「私は私のやりたいようにやるんだよ。」
この脳筋が。ヒーロー志望がそれでどうする。
「ていうか、私助けるためとはいえ、個性使ったお前もあれだろ」
「うぐっ」
前言撤回。俺もこいつのこと言えない。
「あのあと私よりも怒られてたもんなァ 〜〜?」
うざい!調子に乗ったこいつは厄介だ。さっさと黙らせねば。
「うっせ。....あれだよ、考えるより先に動いてたってやつ。」
そう言うと、さっきまでにやにやしていた川越はスッと落ち着いた。
「考えるより先に、か。」
この言葉は、以前二人で見たヒーロー雑誌のインタビュー記事に書いてあった言葉だ。ビルボードチャート上位のヒーローやそれ以外の有名どころのヒーロー達は皆、過去の逸話について聞かれればそう答えていた。もちろん、オールマイトも。
「...ま、ヒーローになる前の予行練習って事にしとくか!」
「そうだな。」
そうして俺らは、少しヒーローへの憧れを大きくし、それぞれの家に帰ったのだった。
「ただいま〜」
「おかえりー、ご飯できてるから早くおいでー」
母がリビングから声をかける。着替える為に部屋へ向かいながら、匂いで今日の献立を予想する。
(今日は海老フライかなぁ)
「そういえば、雷閃の受験ももうすぐか。どうだ?勉強、進んでるか?」
晩御飯を食べていると、急に父がそんな事を言った。
「うん。勉強の方は大丈夫。実技が少し心配だけど。」
「そうか。まぁ、自分の精一杯を出せばいい。落ちた時のことなんて、考えても仕方ないからな。」
そう穏やかな顔で言う。その言葉に、少し強張っていた体が解れるような気がした。
「うん。ありがとう父さん」
その後、日課の筋トレをこなし風呂で汗を流す。
「ふぅー。」
浴槽でリラックスしながらも、頭の中で今まで詰め込んだ事を復習する。
(うん、大丈夫そうだ)
父の言葉のおかげか、いつもよりスムーズに上がれた。
洗面所で体を拭きながら、鏡に映る自分を見る。こう見ると、普段のトレーニングの成果が出てるな。腹筋も割れてるし。
ちょっとした達成感と自信を持って洗面所から出た。
いつもの勉強内容を終わらせ、ベッドに寝転ぶ。日々の疲労からか、すぐに眠ってしまいそうだ。
(絶対、ヒーローになるんだ。ヒーローになって、沢山の人を助けて、街の平和を守って、それで...)
まどろみの中、自身の目標を思い起こす。
(憧れの、オクロックみたいになるんだ。)
憧れを胸に抱き、夢の中へと落ちていく。
そうして、時間はあっという間に過ぎていき、受験当日の朝。
ピピピピッ、と目覚まし時計がなる。時刻は午前5時。いつもより早めの起床。
(ついにきた。この日が...。)
緊張からか、目はばっちり覚めている。これから、人生の命運を変える、一世一代の大勝負の場に向かうのだ。目を閉じてなどいられない。
さあ、ここから、俺のヒーローへの挑戦が、始まるんだ。
次回予告
ついに来る雄英高校受験。新たなライバル。本物のプロヒーロー。
彼らの非日常が、ついに始まる。
第2話 雄英受験
いかがだったでしょうか。もし気に入っていただけたら次回もよろしくお願いします。