フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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鋼鉄の供物編
ムー、マイカルにて


 ────中央歴1641年、3月──

 ──なんだ、何が起きんたんだ!? どうしてこうなっている!?

 西方文明圏外、イルネティア王国近海。

 グラ・バルカス帝国の戦艦『グレートアトラスター』が、イルネティア海軍の魔導戦列艦と、巡洋艦に、滅多打ちにされている。

 基準6万トンを超える巨体の分厚い装甲は、今のところ、それらの攻撃の大部分を弾き返してはいる。

 だが、それだけだ。

 両舷に備えられた高角砲などは徐々に破壊され、ダメージは確実に蓄積していっている。

 戦列艦や、ムーの中古巡洋艦など、本来であればグレートアトラスターの45口径46cm砲が命中すれば、1撃で木っ端微塵になる相手である。

 実際、イルネティア艦隊との交戦開始時には、30分と経たずイルネティア艦隊を半壊させた。

 だが、今はその主砲がマトモに使えなかった。

 イルネティア艦隊と交戦中、突如として、グレートアトラスターを2回の大爆発が襲った。

 しかも、その爆発はイルネティア艦隊とは逆の方向からもたらされた。

 更に、グレートアトラスターにとって不幸だったことは、その爆発が発生した場所だった。

 1つは左舷側に突き刺さるように発生し、ズラッと並んでいた対空火器を薙ぎ払った。

 そして、もう1つは選りにも依って、グレートアトラスターの測距儀を吹き飛ばしていた。

 これにより、3基の主砲塔は統制射撃ができなくなり、グレートアトラスターの砲撃は、マトモに当たらなくなってしまった。

「こんな馬鹿な……こんな馬鹿な話があってたまるか……あってたまるか!!」

 艦長のラクスタルの横で、副長がガクガクと震えながら、恐慌の声を上げる。

 それでも、イルネティア海軍の戦力ではグレートアトラスターに致命打を与えることはできない。

 だが、それがむしろ、屈辱的でもあった。

「嬲り殺しじゃないか」

 ラクスタルが、堪えきれずに、呟くようにそう言った。

 だが、 ────それも終焉の時が訪れた。

 ズゥ……ズゥン! ドォオォォォ……

「な、な!?」

 グレートアトラスターの左舷側に4つ、巨大な水柱が上がった。

 ──こ、これは、魚雷……それも大型の魚雷だ!!

 ラクスタルは、何が起きたのかはすぐに理解したが、()()()()()()()は理解できなかった。

「こ、この世界では最先端のミリシアルやムーでも、魚雷の技術はせいぜい概念止まりのはず……な、なぜ突然……」

 左舷側、つまりイルネティア艦隊が迫ってくる方向と、反対側で起きた事実も、ラクスタルらグレートアトラスターの艦橋要員に衝撃を与えていた。

 ──左舷側には敵はいなかった、いや、いないと判断していた。にも関わらず、左舷側に被雷したというのは、つまり、これは ──────── だ!!

 ラクスタルが憔悴しきった様子で思考を巡らせている間にも、グレートアトラスターが致命的なダメージを受けた事が報告されてくる。

 魚雷と思しき水中爆発の1つは、グレートアトラスターの艦尾付近で発生し、舵とプロペラシャフト3本を破壊していた。

 グラ・バルカス帝国海軍の誇りであり、プライドの象徴だった最新鋭巨大戦艦グレートアトラスターは、息絶えようとしていた。

 

 この、グラ・バルカス帝国の、この世界における最初の挫折となるイルネティア南岸沖海戦に至る物語は、これより2ヶ月ほど前に始まる ──── ────

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 中央歴1641年、元旦。

 エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。

 エムブラセクス中央駅、南口広場。

 年始のお祝いムードで、繰り出した市民で歓楽街がごった返している。

「はーいそこの彼女」

 バブル期の日本のナンパ男かというセリフだが、それを発したのは女性 ──── エクスプレッセスティで言うところの女性である。

 声をかけられたのももちろん女性である ──── あるのだが。

「この後、私とどう?」

「うーん……ちなみに、あなたの持ってるモノは?」

 声をかけられた女性は、逡巡するようにしながらも満更でもない様子で、そう問い返す。

「もちろんペニス。でもヴァギナは持ってない」

「シーメールさんなのねー」

「君はヴァギナの方だと見たけど?」

 ナンパした方が、「フフッ」と笑いつつ、逆に問いかけるようにする。

「ざーんねん。私は両方。フタナリなの」

 ナンパされている方が、悪戯っぽく笑いながらそう言った。

「そうなんだ。別に残念ってこともないと思うけど」

「ん? フタナリいけちゃう人?」

 相手の反応を見て、ナンパされている方が問い返すように言う。

「もちろん」

 ニッと笑って返す。

「OK、じゃあいいホテル知ってる?」

「うーん……ホテルでもいいけど、うち近いんだよね」

「了解。じゃあお邪魔させてもらうわ」

 …………昨年の正月は転移により突然冬の正月になってしまったり ──── お忘れの(かた)も居られるかも知れないという事で一応説明しておくと、転移前はアフリカ南西部の高緯度地域に存在したエクスプレッセスティでは、クリスマス、正月は本来()()()()だったのである。 ────パーパルディア皇国と水面下でバチバチやり始めていたりしてお祝いムードというわけには行かなかった。

 今年はとりあえず()()()トラブルはあらかた片付いているし、国民も四季の逆転に順応して、フリーセックス社会の年末年始を謳歌していた。

 もちろん、国のトップとて、というか、むしろこんな国のトップだからこそ、率先してピンクなニューイヤーホリデーを堪能している。

「ふふ……可愛いわ、デミリフ……」

「はぁぁっ、お姉様、お姉様……」

 デミリフ、と呼ばれた女性が、女の部分をエミリアの生来のモノによって責められている。

 元の名前を消され、特徴的だった銀髪は短くし、身体からも判別できないよう性別さえ ── ── 生来の機能を失わないかたちでだが、変えられた。

 そして付与された機能が初めて作動した時、彼女自身も大いなる喜びを感じながら、元の名前を過去のものにした。

「お姉様……はぁっ、んん……」

 デミリフが何度目かの甘える声を出した時、エミリアは彼女に覆いかぶさるようにして唇同士を押し付けながら、お互い身体を跳ねさせるように揺らす。

 デミリフが新たな機能から放出しながら、エミリアが持つそれと同じ機能が、彼女の中に注ぎ込んだ。

 

 

 数日後、ムー国 港湾都市マイカル。

 外務省マイカル庁舎。

 60階建てのビルの中に位置するその会議室に、西方文明圏外国のイルネティア王国の使者、エイテス王子と、イルネティア外務局員であるビーリーが、前身で緊張した様子で、ムー国の担当者を待っていた。

 

 ちょうど、エクスプレッセスティ共和国が東方文明圏外に出現した頃、同じように西方文明圏外に“グラ・バルカス帝国”なる国家が出現していた。

 エクスプレッセスティ共和国がクワ・トイネ公国との国交樹立に始まり、北部ロデニウス戦争を経験しつつも周辺国との関係を築いていった頃、グラ・バルカス帝国も、地域強国であり、末席とは言え列強に名を連ねたレイフォルに接触を試みた。

 エクスプレッセスティとグラ・バルカスの命運は、ここで別れた。

 レイフォルは他の列強や文明圏国同様、文明圏外国を見下す気質があった。なんならパーパルディア皇国より極端と行っていい。文明圏外国との外交は、自国の保護国であるパガンダ王国を窓口にしていた。

 その慣習を知らないグラ・バルカスの使節団は、直接レイフォルに訪問し、無礼な蛮族国家と罵られた上で門前払いされた。

 エクスプレッセスティとグラ・バルカスのもうひとつの差が、第2文明圏と西方文明圏外に波乱と不幸をもたらした。

 エクスプレッセスティは、エネルギー資源として転移前世界最大級のウェットガス田(日本人がイメージするメタンを主成分とする大気より軽い天然ガスに対して、エタンを主成分としプロパン、ブタン、イソブタンでその大部分が構成される空気より重いガス)があり、その他にも国内である程度の資源を持っており、カロリーベースで約78%の食料自給率をもち、他国からの供給が途絶えても2・3年程度はなんとでもなる。

 だが、グラ・バルカスはそうはいかなかった。特に工業を支える資源を輸入に頼らなければならなかった。

 レイフォルに屈辱を味わわされつつも、なんとしても周辺国と国交を結ぶ必要があったグラ・バルカスは、皇族ハイラスが自ら使節団代表となって、パガンダ王国を訪問。

 だが、パガンダはレイフォルの威を借りて、グラ・バルカスに限らず、他の文明圏外国に対し、見下して不遜極まりない外交をしていた。

 グラ・バルカスの使節団に対しても、さんざん罵り、嘲り、罵倒した。

 しかもこれに加えて、パガンダの王族であり外交長のドグラスは、グラ・バルカスにとんでもない不平等外交を要求した。それも、そのうちのいくつかはドグラス個人の私服を肥やすためのものだった。

 最初は耐えていたグラ・バルカスの使節団だったが、流石に耐えかねたハイラスが、

「礼を失する数々の言動、目に余る……貴国らは外交相手を粗雑に扱う程度の品格しか持ち合わせておらんのか」

 と、苦言を呈したところ、ドグラスは激昂し、見せしめとしてハイラスを捕縛し、処刑してしまった。

 

 極大の無念を抱えた使節団が帰国し……グラ・バルカスは完全にキレた。

 

 パガンダに超巨大戦艦『グレートアトラスター』を差し向けると、パガンダの主要都市を文字通り灰燼に帰し、数日で制圧した。

 さらに、その宗主国であるレイフォルにも問答無用で侵攻を開始した。

 グラ・バルカス帝国は、エクスプレッセスティやムー同様、高度な機械文明を持っていた。

 対するレイフォルは、軍事力もパーパルディアに及ばない程度でしかない。

 この事実を、実際にグラ・バルカス軍が自国に侵入してくるまで、レイフォルもパガンダも認識していなかった。

 最初のうちのグラ・バルカス使節団の振る舞いが極めて常識的なものだったため、ロクに知ることなく蛮行に至ったのである。

 結果、レイフォル海軍はグレートアトラスターただ1隻によって壊滅し、帝都レイフォリアを始めとする沿岸部の主要都市は破壊し尽くされ、皇帝は戦死、レイフォル軍首脳部がグラ・バルカスに降伏を申し出るも、そのレイフォル軍の士官、皇族はすべて処刑され、レイフォルはグラ・バルカスの完全な属領とされた。

 

 ────ここまでなら、エクスプレッセスティもロウリア、パーパルディアと、自国の外交と生存権を妨害する相手をしばき倒しているため、似たようなものだったかも知れない。

 だが、エクスプレッセスティが戦後はロウリアにもパーパルディアにも再起の機会を与えたのに対し、グラ・バルカスに支配されたパガンダとレイフォルは惨めなものだった。

 物資という物資は収奪され、住民に大量の餓死者、凍死者を出しても、グラ・バルカスは情を与えなかった。

 

 ────────そして、パガンダとレイフォルの振る舞いから、「この世界には野蛮人の国家しかない」と判断したグラ・バルカスは、西方文明圏外国と、第2文明圏、ムー大陸のすべての国家に宣戦を布告したのである。

 

 とは言っても、いきなり無差別に手を広げるのは不味いと思ったのか、自国の方が上だとしつつも、同じ機械文明を持つムーとその友好国には、今のところ大規模な侵攻をかけていない。

 一方で、西方文明圏外国へは着々と侵攻を開始しており、遂にムー大陸に近い島国・イルネティア王国にも服従を要求した。と、これが中央歴1641年初頭も初頭のことだった。

 イルネティアは、自国と友好関係を持つムーに対して、なんとか軍事支援を引き出せないかと、ムーを訪れた────

 

「我々を列強国の担当者が担当するとは……これは吉なのか、それとも凶なのか……」

 エイテス王子は、緊張のあまり室内をキョロキョロと見渡しながら、そう呟いた。

 ムーは、列強国、文明国の中では比較的穏健な方とは言え、やはり列強というプライドは少なからずあり、自分と同じ列強国、文明圏国、文明圏外国と、外交の扱いを変えていた。 ────と、エイテス王子とビーリーはそう認識していた。

 カチャッ、と、閉じられていた会議室の扉が開く。

 エイテスとビーリーは、半ば反射的に立ち上がり、直立不動の姿勢になった。

「おまたせしてすみません。エイテス殿下、ビーリー外務官。どうか楽にしてください。私は外務省第1外事部々長のオーディグスです。よろしくお願いします」

 オーディグス、という外務省職員が名乗る。

「ええと……第1外事部、というのは?」

 エイテスが、戸惑ったようにそう問いかける。

「ああ、説明されていませんでしたか」

 オーディグスは、申し訳無さそうに苦笑する。

我が国(ムー)は、これまでの外交形態を改め、その国の格に合わせての差別を段階的に解消する事にしたのです。現在は、旧列強担当部を第1外事部、旧文明圏国担当部を第2外事部、旧文明圏外国担当部を第3外事部と改めました。この3つの組織も最終的には統合する予定です」

「なるほど……それは理解できましたが、それだとしても、いきなりオーディグス部長が担当する、と言うのは、何かしら意味があるのでしょうか?」

 ムーの外交体制の刷新が行われていると言っても、突然担当者が変わるというのは、引き継ぎなどの手間がかかるはず。それを考えれば、当座は第3外事部の担当になるのでは、とエイテスは考え、そう訊ねた。

「ええと……今回、貴国と我が国だけではなく、第3国の代表に参加を要請したからです」

「第3国?」

「ええ」

 オーディグスの説明に、エイテスとビーリーはさらに理解できないといった様子の表情になってしまう。

「どうぞ、ご入室してください」

 オーディグスが、一旦扉の方を向き、そう言った。

 すると、1人の女性が────ムーともまた違うファッションスタイルの女性が入室してきた。

「紹介します」

 オーディグスが、手でその女性を示すようにしながら、エイテスとビーリーの方を向きながら言う。

「こちらは、エクスプレッセスティ共和国大使、ナディア・デイヴィスさんです」

「ナディアです、よろしくお願いします。エイテス殿下、ビーリー閣下」

 オーディクスの紹介を受け、ナディアも自らそう告げた。

「エクスプレッセスティ共和国!!」

 エイテスが声を上げ、ビーリーとともに、驚いて反射的に身構えるような姿勢になってしまう。

「ロデニウス大陸の強国ロウリア、さらに列強のパーパルディアも下したという、東方の …… …… じ、自称 “女性だけの国” で、自他共に認める、え、エロスとギャグのスチャラカ国家!!」

 エイテスのストレートな表現に、ナディアは、緊張が急激に緩んだかのように、後ろに倒れかけるようなリアクションをした。

「ま、まぁ確かに、それについては一切否定しません……」

 ナディアは、姿勢を直しつつ、複雑そうに顔をしかめながら、そう言った。

「なぜ、エクスプレッセスティが今回の会談に……」

 ビーリーが、まだ驚き終えていないという様子で、問いかけた。

「その事ですが……」

 オーディグスが説明する。

「エクスプレッセスティ共和国は我が国と同じ機械文明国で、なおかつその水準は、60年から80年進んでいるのです」

「我々もグラ・バルカス帝国には興味を持ち、情報の収集を開始しています。状況によっては、ムーの友好国、安全保障上の利害を共有する国として、我が国が矢面に立つことも充分想定しています」

 オーディグスの説明に、ナディアが真摯な表情になって続いた。

「む、ムーよりさらに、半世紀以上進んだ国……」

 エイテスは、エクスプレッセスティ共和国がどのような国なのか想像を絶しつつも、イルネティアは救われたかも知れない、と、涙が出そうになるのを、必死に堪えていた。

 





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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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  • そんなことよりカツ丼定食
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