フェミニン国家召喚   作:神谷萌

101 / 152
列強一位の体面 Part.I

「それでは、さっそく本題に入りましょう」

 会議室で4人が着座したところで、オーディグスが切り出した。

「今回のあなた方の訪問は、グラ・バルカス帝国が接触してきた為とのことは聞きましたが、具体的にどのような事態が発生したのか、再度確認させていただいてよろしいでしょうか?」

「では、改めて説明させていただきます。先日、グラ・バルカスの戦艦が我が国を訪れました。同国の外交官が同乗しており、我が国に “提案” があると接触してきたのです」

 ビーリーが説明した。

「その “提案” というのは?」

 オーディグスが聞き返す。

「内容はここに────実際に我が国に渡された書簡です」

 ビーリーはそう言いつつ、一枚の書簡を差し出す。

「拝見させていただきます」

 オーディグスがそれを受け取り、その内容に目を通して、表情を険しくした。

「どのような内容が書かれていますか?」

 ナディアが、オーディグスに訊ねた。彼女は、世界共通文字について、まだ細かい表記の回しまでは完全に読み取ることができない。

「この文書、複写させていただいてよろしいでしょうか?」

 オーディグスは、顔を顰めたまま視線をビーリーとエイテスに向けて、そう訊ねる。

「はい。構いません」

 ビーリーの答えを待って、オーディグスは、

「後ほど訳文をお渡ししますが、端的に言ってしまうと、属国化、植民地化 ──── あるいは、貴国流に言えば “主権の放棄” 、そのような内容です」

 と、ナディアに説明した。

「なるほど……それでムーに軍事支援を求めに来訪された、というわけですね」

 ナディアは、オーディグスの説明を聞いて、やはり顔を顰めつつ、ビーリー達の方を向いて、問いかけた。

「はい」

「初回交渉でこれを突きつけられたと?」

 オーディグスが訊ねる。

「はい、その通りです。貴国、ムー国は上位列強国家であり、この世界の希望でもあります。すでに貴国はグラ・バルカスから宣戦布告を受けておりますので、無理を承知でお願いしたく、今回訪問した次第です。どうか ──── お願いします」

 ビーリーと、さらにはエイテスまでもが、深々と頭を下げた。

「ひとまず、頭はお上げください」

 オーディグスはそう言って、エイテス達の姿勢を楽にさせた。

「そこで、支援をご希望とのことですが…………残念ながら、我が国は、現状のままでは、グラ・バルカスに、軍事的に対抗する事はできません」

「えっ────」

 ビーリーが短い声の後に絶句した。エイテスも絶望的な表情をオーディグスに向けた。

「ですので、今日、ナディア大使に参加を要請したのです。すでにエクスプレッセスティ共和国は、我が国に迫るグラ・バルカスの脅威に対し、対抗するという方針を明確にしています」

 オーディグスがそこまで説明した時、

「失礼いたします」

 と、ナディアはそう言って、大きめのハンドバッグから、1枚の写真を取り出し、机の上に、天地方向がエイテスやビーリーに向かって正しくなるようにして、置いた。

「これに見覚えはありますでしょうか?」

 ナディアがそう言うと、エイテスとビーリーはそのモノクロ写真を見て、驚愕に目を見開いた。

「こ、これは────グレートアトラスター!!」

 エイテスが、絶叫に近い声を上げた。

「すみません。実際には違います。お2人がどう反応するか、我々が収集している情報が正しいか、試させていただきました」

「え…………?」

 険しい表情の中にも、少し申し訳無さそうになりながら言うナディアの言葉に、エイテスとビーリーは、キョトン、としてナディアを見た。

「ムーの友好国でしたら、ムーの大陸転移の伝承はご存知ですね?」

 ナディアがそう訊ねる。

「ええ……────ですが、それは神話の類なのかと……」

 多少、困惑したような表情になりながら、エイテスが答えた。

「それが……それは、現実なのです」

 オーディグスが言う。

「エクスプレッセスティ共和国は、時間の異なる同じ世界から転移してきた国家なのです」

「なるほど…………ですが、それが今、どう関係しているのですか?」

 ビーリーは、口調にどこか半信半疑な思いを出しながらもそう言いつつ、怪訝そうに聞き返した。

「この写真に写っているのは、我が国とムー、どちらもが転移前世界での友好国としていた日本国が、我が国の暦で85年ほど前に建造した戦艦『大和』なのです」

「そ、と、と言う事は、エクスプレッセスティは、グレートアトラスターに勝る戦艦を保有しているというのですか!?」

 ビーリーはエイテスとともに愕然としつつ、ナディアに問いかける。

「いいえ。残念ながら我が国は戦艦を保有したことはありません。それは、我が国が転移した時点では、戦艦は時代遅れの存在になっていたからです」

「戦艦が時代遅れ……?」

 ナディアの説明に、まだ信じきれないと言った様子で、ビーリーが問いかけるように呟く。

「はい。現時点では詳しく説明できないのですが、グレートアトラスター程度の艦であれば、無力化することは充分に可能です」

「ぐ、グレートアトラスターを無力化…………」

 西方文明圏外国と第2文明圏西方を威圧する、グラ・バルカス帝国の巨大戦艦を、無力化できると言われ、ビーリーはエイテスとともに絶句してしまった。

「そ、それで、今回、ムーの要請に答えてこの会談に参加してくれたという事は、エクスプレッセスティが我が国に援軍を派遣してくれる、と、考えてよろしいのでしょうか」

 エイテスが、期待を込めてナディアに問いかける。

「…………規模の面において、貴国が希望する程度の戦力を派遣できるかと言うと無理……と断言はできないまでも、それに近いでしょう」

「え……」

 期待していただけに、エイテスとビーリーは、一気に消沈の表情になった。

「理由は2つあります。1つ目は、転移前、我が国は大陸国家だったため、基本的に軍備は陸軍に集中していて、海軍は、質はともかく規模は大きくありません。その為、大規模な艦隊を第2文明圏に派遣してしまうと、自国の防衛に必要な戦力が不足します。そしてもうひとつは、我が国にとって安全保障の利害を共有しているのはムーであって、貴国ではないからです」

「そ、そんな……」

 ナディアに説明されて、エイテスは、ガックリと肩を落としてしまう。

「やはり、東方の文明圏外国はそこまでの存在という事か……」

 ムーが敢えて自国よりも遥かに進んだ国と言うのだから、すごい国なのだろうと想像していただけに、ビーリーは思わず、そんな言葉を口に出してしまっていた。

「ビーリー閣下、今の言葉は、聞かなかったことにしますので、説明を続けさせてください」

「はぁ……」

 ナディアの言葉に、ビーリーは気のない返事をするが、ナディアは構わずに言葉を続ける。

「しかしながら……ですよ。貴国を占領されるとなると、いよいよグラ・バルカスの矛先がムーに向くことはほぼ確実でしょう。我が国にとってムーは生命線なのです」

「ムーより遥かに進んだ国が、ムーを頼りにしている、と?」

 エイテスが、意外そうにそう言った。

「はい。我が国は建国35年の若い国。確かに技術面、質の面ではムーに対して優位があります。ですが、工業生産力という量の面では、万全とは言い難い。なので、ムーでも製造可能な工業製品について、我が国の企業はムーの企業に製造委託をしているのです」

「……つまり、貴国としてはムーがグラ・バルカスに下ると不味い、ということですか?」

 ナディアの説明に、エイテスが手振りを加えつつ、重ねて問いかけた。

「はい。なので、我が国の安全保障のポリシー……『力による現状変更は認めない』に従って、ムーとつながりの強い貴国の防衛を支援します。貴国にとっては充分に見えないかも知れませんが、グラ・バルカスに貴国侵攻を断念させることができる程度の艦隊を派遣します。それと、我が国はムーから中古巡洋艦2隻乃至6隻を買い取ります。このうちの数隻を、貴国に供与します」

「ムーの巡洋艦を、エクスプレッセスティが購入する……と?」

 矛盾するかのような事実に、ビーリーが聞き返す。

「それは、私から説明します」

 オーディグスが言う。

「現在、我が国はエクスプレッセスティより提供された、技術、資料に基づいて、グラ・バルカスに対抗できる()()()()()や新型戦闘機の開発を行っています。この為に係る予算が逼迫していて、それを補うために、額面上エクスプレッセスティに巡洋艦数隻を売却する事にしたのです」

「なるほど……それで、エクスプレッセスティにとってはあまり価値がないので、我が国に供与すると……」

「兵器のプラットフォームとしては、有用なんですけどね」

 エイテスの言葉に、ナディアは苦笑交じりに言う。

「ですが、改装の為に本国に回航するコストを考えますと、現状必要に迫られている貴国にお譲りするのが、より有効かと」

「その上で、貴国の艦隊も派遣していただけるということですか」

「はい。どのような内容になるかは国防省次第ですが。ただ、我が国としてはムーの安全保障のため、グラ・バルカスによるイルネティア侵攻を挫き、『力による現状変更は認めない』と、はっきりとグラ・バルカスに突きつける、それについては既に我が国政府の意志として決定しています」

「…………!」

 自信に満ち溢れた表情で断言するナディアに、エイテスとビーリーは一瞬、その表情に見とれた。

「…………お、お願いします……どうか……お願いします!!」

 エイテスは、感極まった様子でそう言い、ナディアに向かって何度も頭を下げた。

 

 ナディアからの報告を受けたエクスプレッセスティ共和国は、潜水艦『ミズリューム』『ミズフロス』、フリゲート『ライバーシー』、補給艦『アサギ』、燃料運搬船をイルネティアに、海洋測量艦『センスウェイブ』をムーに、それぞれ派遣する事を決定した。

 

「うーん……これ以上の島流し職場はないと思ってたんだけど、()()()()()島流しにされたかー……」

 ライバーシー艦長、ペイジ・タイラー中佐は、苦笑しながらそう言った後、かくん、と戯け混じりにうなだれた。

 

 

 エクスプレッセスティ共和国、エナジポリス西南西上空。

 その日、晴天の空を、真っ白な機体が東へ向かって飛行していた。

 神聖ミリシアル帝国の旅客機、『ゲルニカ35型』の1機だった。

 圧縮した空気を、魔石を加工した高濃度の液体魔素で加熱し、膨張させて後方へ向かって噴射するという、ジェットエンジンに類似した “魔光呪発式空気圧縮放射エンジン” を用いるこれらの航空機を、ミリシアルでは “天の浮舟” と呼んでいる。

『間もなく、指定されたエナジポリス管制(コントロール)領域に入ります。シートベルトの着用をお願いします』

「ふぁー、ようやく到着かぁ」

 ミリシアル帝国情報局々員のライドルカは、手足を伸ばして(ほぐ)すようにしながらそう言って、その後、シートベルトを締めた。

「長かったなぁ……やっと着きますね」

 ライドルカは明るく溌剌とした様子で声をかけたが、その相手────ミリシアル帝国外交官のフィアームは、明らかに不愉快そうな表情をしていた。

「ああ、まったく持って遠い。それに、我が国とムーとの扱いで、我が国の方がムーより格下に扱われるのも不愉快だ」

 中性的な言葉遣いをする女性のフィアームは、忌々しげにそう言った。

 ムーより格下云々、というのは、ムーの『ラ・カオス』はエムブラセクス空軍基地に着陸を許されたのに対し、ゲルニカ35は、

「そのままだとエムブラセクスA(AirForce)タワーと交信ができないので、電波式の無線設備を搭載しない限り、航空安全の観点からエムブラセクス空軍基地への着陸は認めません」

 と、エクスプレッセスティ側から通告を受けていた。

「列強1位の国に東方文明圏外国の、それもポッと出の新興国が注文をつけるのか!?」

 ミリシアル側はそう抗議したものの、

「設備を搭載するか、不可能な場合は特例でエナジポリス空軍基地への着陸を許可しますが、それ以外は断じて認めません」

 と、エクスプレッセスティは再度通告し、さらに、ミリシアルの反応を待たず、

「無許可で我が国の防空識別圏に侵入した場合、主権国家として自国民の安全を最優先し、理由の如何を問わず撃墜する!!」

 とまで言ってきた。

 渋々、本当に渋々、それでもゲルニカ35をエクスプレッセスティ側の技術者に弄られることを嫌って、エクスプレッセスティ政府が特例として認めたエナジポリス空軍基地への着陸を選択した。

 フィアームに限らず、エクスプレッセスティ担当になった外交官は、プライドをいたく傷つけられ、苦々しい思いをしていた。

 だが、情報局の方は「自国(ミリシアル)の方から積極的に心象を悪くすることは避けるべき」という結論を出しており、外務省もその方針を受け入れるしかなかった。

「……着陸誘導の為に、攻撃機が2機来るとのことだが、攻撃機……? こういう時は、戦闘機が来るものじゃないのか? まぁ、ムーの恩恵なのだろうが……まぁ、所詮、パーパルディアに表面上勝った、と無邪気に喜んでいるような国だ。どんな航空機を使っているのか知らないが、どの程度なのかは知れているな」

 エクスプレッセスティとパーパルディア皇国との戦争については、フィアーム達にも知らされている。ただ、その内容は、当事者の認識と少しズレが生じていた。

 エクスプレッセスティの勝利、とされているが、実際にエクスプレッセスティはパーパルディアから領土分割などは行っていない。むしろ、パーパルディアはエクスプレッセスティに同調して挙兵したリームを併呑し、実態としてはパーパルディア側の勝利だった。 ────と、ミリシアル政府機関の大部分では、そう認識されていた。

「フィアームさん……エクスプレッセスティに対しては『文明圏外の蛮国』という先入観は抜きにして見た方がいいですよ……」

 ライドルカが窘めるように言う。

 ミリシアル政府機関の中で、情報局だけは、まだ “口外できないような、重要ないくつかの情報” を得ていた。ただ、それらは突拍子なさすぎるものが多く、政府機関の判断材料としては、その一部を参考意見程度にしか提示していなかった。

「解ってはいるが……蛮国ではない、と思うにせよ。 “女性だけの国” で、政治や軍事の場でも何らかしらのギャグか……その、エロスを交えないと気がすまない国、だというのは事実なんだろう?」

 フィアームはいいつつ、途中で言い淀んで、顔を少し紅くしながらそう言った。

「まぁ……それは……」

 その情報だけは、エクスプレッセスティ自身が否定しないだけに、否定しようがない。ライドルカも、苦笑して言葉尻を濁すしかできなかった。

「まぁまぁ」

 2人を仲裁するように、3人目の人物が声をかける。

「私は技術者として、エクスプレッセスティがどのような航空機を持っているか、非常に興味がありますよ」

 技術研究開発局開発室長、という列記とした肩書を持ち、官僚でありながら技術者でもあるベルーノが、そう言った。

『エクスプレッセスティの先導機が到着したようです』

 ゲルニカ35の左右に、プロペラ機────ダッソー Br-1050A 『アリゼ』攻撃機が並走するように着いた。

「やはり、ムーのプロペラ機か……」

 フィアームは、どこか嘲るようにそう言ったが、

「いえ、ムーの戦闘機や長距離機の多くは、複葉機です。それからすると、この攻撃機は遥かに洗練されているように見えます」

 ベルーノは、フィアームを窘めるようにしつつ、興味深そうにアリゼを見て、声に出してそこまで言い、

 ──それにあの排気管の位置と形状……

 と、ベルーノはゲルニカ35の左側についたアリゼの、コクピット下方にあるAI-24VTエンジンの排気管を注視しながら、そこからは声に出さずに呟く。

 ──ムーのレシプロエンジンとは異なる形態の機関のように感じるな……

『エクスプレッセスティ機、滑走路を指示しているようです。着陸に入ります』

 沿岸部に建設された、An-12が運用可能な数少ない滑走路に、ゲルニカ35は誘導された。

 ゲルニカ35は車輪が接地すると、リバーサーを併用しながら減速する。

 着陸行程を無事終えたゲルニカ35は、エクスプレッセスティ空軍地上隊の手信号に従い、駐機場へ向かった。

 いつもの簡易的なものではなく、An-12/2100の旅客扱いに使う、小型トラック『ルーシア』(マツダ・3代目WG系『タイタン』ベースのライセンス継続生産車)をベースとしたタラップカーがゲルニカ35の客用扉に横付けした。

 扉が開き、タラップに進んだミリシアル使節団を、かつてクワ・トイネ視察団を驚かせた、『SHINMAYWA Service Expressesti』のエナジポリス本社工場のオフィスビルが出迎えた。

 





評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

  • あり
  • なし
  • そんなことよりカツ丼定食
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。