フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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列強一位の体面 Part.II

 ヒィイィィィン……

「あの機体は……」

 甲高い爆音を聞いて、タラップを()りようとしていたベルーノが振り返ると、滑走路に1機の航空機が ──── ミコヤン・グレヴィッチ MiG-23GEN 『コンバット(Combat)フロッガー(Flogger)』が、着陸しようとしているところだった。

 ──あの主翼の構造、ま、まさか!?

 ベルーノは、声には出さずに驚愕の言葉を出しながら、MiG-23の翼を凝視した。

 そちらに心奪われたまま、ベルーノはタラップの階段を下りていく────

「おぅわ!?」

 と、階段の最下段で、ベルーノは間の抜けた声を出してしまった。

 階段、特に慣れていない階段を視認せずに(のぼ)()りしている時、身体が階段のピッチに合わせて動くようになってしまい、最上段を(のぼ)りきった時、或いは現在のベルーノのように最下段を下りきったとき、思わず踏み込んでしまう現象だ。

「大丈夫ですか?」

 露出度が高いわけではないが、やたらボディラインが浮かぶ衣装 ──── エクスプレッセスティ国防軍航空機搭乗員制服を着けた隊員が、ベルーノに声をかけた。

「あ、え、ええ、大丈夫です」

 童顔長身の女性にそう言われ、ベルーノは気まずそうに答えた。

「どうも」

 セミロングヘアに、パンツスタイルの女性用ビジネススーツに身を包んだ、如何にもキャリアウーマンといった様子の女性が、フィアームに向かって進み出てくる。

「今回神聖ミリシアル帝国の担当となりました、外務省のプライムーン・エヴァ・ナーコーンと申します。よろしくお願いします」

 そう言って右手を差し出す。

「自分は神聖ミリシアル帝国外務省のフィアームと申します。よろしくお願いします」

 フィアームはそう言って、差し出された右手を握り、握手を交わした。

「私の事はどうぞプラムとお呼びください。それと────」

 プラムがそう言うと、プラムより少し身長の低い女性が、プラムの隣に立った。

「────こちらは、今回私の補佐を務める、マリナ・ジェーン・モハンマディ・クラーク空軍技術少尉です」

「マリナです。よろしくお願いします」

 プラムに紹介されて、マリナはフィアームを見ながら、挨拶した。

「こちらも────まず、情報局のライドルカです」

「よろしくお願いします」

 フィアームに紹介されて、ライドルカは愛想笑いをしつつ、挨拶する。

「それと、技術研究開発局のベルーノです」

「よろしくお願いします。 ────」

 紹介されたベルーノは、ライドルカと同様にまず挨拶してから、

「──マリナ少尉、早速いくつか質問させていただいてよろしいでしょうか?」

 と、マリナに向かって問いかける。

「はい。お答えできる範囲でしたら」

 マリナは、笑顔でそう言った。

「あの機体は……」

 ベルーノは、駐機場に移動していた MiG-23 を指差して、訊ねるように言う。

「えっと……ミコヤン・グレヴィッチ MiG-23GEN ですね。数の上では、我が国の主力戦闘機になります」

「そのMiG-23ですが、もしかして、主翼は可変翼ですか?」

「!」

 ベルーノの問いかけに、マリナは、プラムとともに軽く驚いたような表情をした。

「隠してもしょうがないのですが……はい、そうなります」

 マリナがそう答えると、

「ほ、本当にそうなのですね! エクスプレッセスティが可変翼機を持っているとは!!」

 と、ベルーノは、子どものように目を輝かせながら、興奮したようにそう言った。

「待ってくれ……カヘンヨクとは、いったいどういうものなんだ!?」

 単語の意味が理解できないフィアームが、ベルーノの背後に向かって、軽く驚いたような声で答える。

「ええと、説明する前に……マリナ少尉、MiG-23の最高速度は音速を越えますね?」

「はい。公称値はマッハ2、時速に換算すると高度9,000m以上で2,500km/hです」

 ベルーノの問いかけに、マリナは意外そうな顔をしながら、そう答えた。

「や、やっぱりそうか!! エクスプレッセスティ軍の戦闘機は音速を超える事ができる……!!」

「どういうことなんだ……説明してくれ」

 フィアームが、理解できないと言った様子で、ベルーノに問いかける。

「航空機が音速を突破する際、衝撃波が発生するのですが、これがそのまま主翼にぶつかると、気流が乱れて飛行が不安定になります。それを避けるために、後退翼と言って、翼端を後ろに下げる事で、それを抑えるのですが……────」

 ベルーノは、手振りを加えながら、フィアームとライドルカに説明する。

「大胆な後退翼は、逆に低速飛行時に失速速度が高くなるという欠点があります。そこで、主翼の後退角を変化させることで、特に離着陸時の低速飛行の安定性を確保するのです。 ───で、あっていますでしょうか? マリナ少尉」

 フィアームとライドルカに向かって言い、最後に確認するように、マリナとプラムの方を向いた。

「はい。正しいです」

 マリナは、そう答え、説明する。

「MiG-23は元々、前線戦闘機────つまり、整備の行き届いていない野戦飛行場から運用する事を念頭において設計された戦闘機で、離陸滑走距離を短くするために可変翼が採用されています。ただ、逆に野戦飛行場では可変翼の点検整備が負担になるため ──── あちらを見てください」

 マリナは、説明を途中で途切れさせると、手で別の方向を指した。

 そこには、双発にしては小柄な戦闘機がスクランブル待機していた。

「後継機であるMiG-29では、可変翼ではなく、大出力のエンジンで短距離離陸能力、上昇能力、高速能力、それに運動性を高めています」

「エンジン────そうだ」

 マリナの説明を聞いたところで、ベルーノは思い出したように言う。

「エクスプレッセスティの航空機は、必ずしもプロペラがついていないようですが、エクスプレッセスティも“魔光呪発式空気圧縮放射エンジン”を使用しているのですか?」

「あ────」

 ベルーノに問いかけられて、マリナは後頭部を掻くような仕種をしながら、言う。

「──まぁ原理としては近いです。根本的に違うのは熱源ですね。我々の熱機関は基本的に純粋な(ばけ)(がく)反応を用います。我が国の航空機用エンジンの大半は、Jet-Aという灯油に近い性質の燃料を使います」

「なるほど」

「? ??」

 ベルーノは顎を支えるような仕種をしながら言うが、フィアームはどこか置いてきぼりになっているような表情をしている。

 技術屋のベルーノは魔石由来の反応の代わりに、化学反応である燃焼で熱を得て空気を膨張させている、とだいたい見当がついたのだが、フィアームは魔石由来以外の熱源をイマイチ理解できなかった。

「それと気になったのですが、我々の先導についたあの攻撃機……────」

「ああ、すみません」

 ベルーノがさらに問いかけようとすると、マリナとプラムは、揃って気まずそうな苦笑を浮かべる。

「通告された……その、ゲルニカ35型の速度性能が低すぎて……戦闘機だと、MiG-23でも失速の危険性があったもので。あの機体はダッソー Br-1050Aと言って、元々は艦上機なので、低速域での失速の危険性が低いんですよ」

 それを聞いて、フィアームは不愉快そうに表情を歪める。だが、当のベルーノはそれには構わず、

「いえ、私が気になったのはエンジンの方でして。確かにプロペラ機ですが、ムーの往復式機関とは異質のもののように見えたものですから」

 と、手振りを加えながら、マリナ達に問いかけるように言った。

「! さすが御国の技術開発に携わってる方らしいですね、お気付きになりましたか」

 マリナはハッとしたようにベルーノを見ながら、答える。

「Br-1050のエンジンはターボプロップ、或いはガスタービンと呼ばれる形態で、噴射式エンジンの噴射推力を直接使うのではなく、タービンで回転動力として取り出すタイプのエンジンです」

「なるほど……そのような構造も可能ということですね。これは帰国したら研究のテーマになりそうだ」

 ベルーノは、一旦マリナから視線を外し、口元に指を当てて呟くように言った。

「あっと……すみません。列車の時間が迫っております。ひとまずは移動を」

 プラムがそう言った。然程距離があるわけではないが、彼女らをエナジポリス駅まで送迎するため、来賓送迎用の『デリカ コーチ』(三菱3代目P系『デリカ』ベースのライセンス継続生産車で、原型の2代目『デリカスターワゴン』とは別にデリカバンから再度乗用化されたもの)が停車している。

 ──自動車はムーにもあるが……洗練されているのもそうだが、この形態は……?

 やはり、ベルーノが乗り込んだところでどこかキョロキョロとしていると、

「どうかなさいましたか?」

 と、サードシートに収まっていたプラムが訊ねた。

「いえ、自動車はムーで見て知っていたつもりなのですが、この自動車はどこにエンジンが搭載されているんですか?」

「ああ」

 ベルーノの疑問に、当然女性のドライバーが振り返って、運転席と助手席の間からベルーノを振り返って、苦笑する。

「この形態はアンダフロアエンジンのキャブオーバー構造でして。エンジンはこの下あたりに収まってます」

 運転手はそう言って、ベンチシートの中央席をポンポンと叩いた。

「ああ、そうか、だから床面が高いのか……あ、すみません」

 ベルーノはそう言って、フィアームと並んで、セカンドシートに深く座った。

「出しますよ」

 運転手はコラムシフトのギアを入れて、デリカを発進させた。

 

 エナジポリス駅────

 5面6線の単端式ホームがズラリと並ぶ、その特急専用ホームに、特別急行『ラヴィサンセクス』14号が9両編成を横たえている。

 コンコース側から見えた流線型の前頭部を見て、フィアームやライドルカは、ギョッ、としてしまった。

 ExR(エクスプレッセスティ国鉄)681系は、動力系の性能はJR西日本681系だが、前頭部は同683系と同じで連結器が露出している。また、車体はどちらとも異なるステンレス製だが、フラグシップトレインとして淡いストロベリーピンクに、編成中のカフェカー、1等車、1等・特等個室車『セデュシアン・カー』は濃いブルーパープルに塗装されている。

 そのエムブラセクス側の先頭車は、貫通路のある構造をしているので、フィアームとライドルカは、ホッとしたような、失望したような気持ちになった。

 12両編成での運転であれば、エムブラセクス側先頭車も流線型となるのだが、オフピーク・オフシーズンの列車であるため、付属3両は連結されていない。

「どうされたのですか?」

 妙な様子を見せているフィアームとライドルカに、プラムが訊ねる。

「いえ……この特急列車の先頭車の構造が、我が国の“弾丸列車構想”のそれに酷似していたものですから」

「…………御国でも、高速鉄道の構想がお有りで?」

 プラムが、少し興味が惹かれたような表情で、フィアームに問いかける。

「え……ええ、200km/h程度を目標として、技術開発を行っています……が」

「そうでしたか。エ()スプレッ()セス()ィでは鉄道輸送網の充実化を優先したため、寄与が中・長距離旅客輸送に限定される高速鉄道よりも、都市圏輸送と貨物輸送への貢献の大きい中速鉄道の建設に重きをおいて整備してきました」

 フィアームのどこか奥歯の挟まったような物言いに、プラムは若干の苦笑で謙遜したようにそう言った。

「! という事は、そうした技術自体は……」

 プラムの言い回しに、ライドルカの方が気付いて、プラムを覗き込むように言う。

「はい。高速旅客鉄道は、私達の転移前世界には存在していました。中でも世界最先進国のひとつに数えられる日本には、最高速度320km/hを出しつつ、60年以上に渡って自責事故による死者が皆無という記録があります」

「320km/h……ちょ、ちょっと想像の範囲を越えていますね……しかもそれで事故が皆無とは……」

 フィアームも、ライドルカも唖然としたような表情になって、絞り出すように言う。

「鉄道においては何より安全、次いで正確性です。我が国は鉄道敷設にあたっては日本国より技術を導入しました。おかげで他の先進国を差し置いて『世界で2番目に鉄道が正確に動く国』とも言われていました」

 にこやかな表情で、プラムは説明する。

「それに、エナジポリスとエムブラセクスを結ぶこの西中央本線は、日本の新幹線の技術を応用した準高速鉄道として建設されています。この681系電車は最高速160km/h、表定速度およそ108km/hで約480kmの区間を結びます」

「最高速度160km/h……!!」

 フィアームはそう言って絶句した。

 ミリシアルも在来線高速化180km/hを目指して、雷力ロータリー式機関車を投入した。だが、カーブやポイントでの脱線事故が相次いだため、120km/hの制限がついた。

 120km/h程度など、エクスプレッセスティにとっては、東中央本線の『ツォボフロウ』『ツォボトレイサー』に使われている、60年前の日本製気動車キハ181系の速度レンジである。

「では、車内へどうぞ」

 発車時刻が迫り、プラムは2人を車内に誘導する。ベルーノは既に乗車していた。

 クワ・トイネ視察団ほど大所帯ではないことと、準備期間が短かったこと ──── それに、国を格付けしたがる“列強”としての()()()()を発露させないようにすること、等の理由から、貴賓車は用意されていない。

 編成中央部、着席定員僅か8名という豪華個室車両、サイロ681形 “Seducean Car” の、特等個室2室が、フィアームとライドルカの為に用意されていた。

 エクスプレッセスティ国鉄名物とも言える、太ももも露わな制服を着けた、小柄なセデュシアン・カー・アテンダントが、フィアームとライドルカの個室の間の仕切り扉を開く。

「これが列車の中なのか……」

 どうぞ寛いでください、という、プラムの言葉を受けて、フィアームはネクタイを緩めつつ、室内をキョロキョロと見回していた。

「まるでパーソナルオフィスじゃないか……」

 座席はリクライニングのソファ、エンターテイメント用のタッチスクリーン付マルチディスプレイが付いている。

 カフェカーの注文も、端末で発注すると、アテンダントが個室まで運んでくれる。

「では、『ラヴィサンセクス』での旅をお楽しみください」

 準備を終えたアテンダントは、一礼して、乗務員室に戻っていく。

 フィアームは背広をハンガーにかけて、ソファの柔らかさを試すようにしながら、飛行機旅で軋んだ身体を、そこへ沈ませた。

「ベルーノ技師は、お相伴が私で申し訳ありません」

「いえいえ、充分ですよ」

 ベルーノは1等個室の方で、やはり2室が連結される事で、向かい合わせになったマリナが苦笑している。

「いえいえ、よろしければ貴国の技術について、お聞かせ願えたらと思いますよ」

 ベルーノも返すように、微笑みながら言った。

 プルルルルルルル……

 電子音の発車ベルがホームに鳴り響く。

 パーン、と、軽い電子笛を鳴らしながら、ラヴィサンセクス14号は、エムブラセクス中央駅へ向かって、VVVFインバータの励磁音を響かせつつ、滑るようにホームから出ていった。

 





エクスプレッセスティ国鉄特急乗務員 #NaiDiffusionV3 版と、特別車『セデュシアン・カー』アテンダントさん。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759226186478338141

『ラヴィサンセクス』(含む優等列車)編成図
https://twitter.com/kaonohito2/status/1797728408019128793
(2024/06/04-JST基準 改訂)

評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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