グラ・バルカス帝国、レイフォル地区、旧首都レイフォリア。
超巨大戦艦『グレートアトラスター』による艦砲射撃によって、一度文字通りの灰燼に帰したレイフォリアにはグラ・バルカス式の都市施設を建設している。
ただし、それらはすべてグラ・バルカスが、レイフォル地区として編入した旧レイフォル領の統治と支配の為のものであり、レイフォル市民は惨めな生活を続けていた。
レイフォリア近郊には軍事基地も建設され、グラ・バルカス帝国海軍航空隊用の滑走路も設けられている。レイフォリアの上空には、警戒か、それとも威圧か、レシプロ空冷の低翼単座戦闘機『アンタレス07式』が飛び回っている。
ミリシアルの特使が、魔導動力のゴールド級戦艦『ガラティーン』で、グラ・バルカス側と接触するためにやってきていた。
グラ・バルカス帝国は、自国の本土についてすらほとんど秘匿しており、外交上の接触についても、他国の使節を本土に案内することはなく、レイフォリアをその接触点としている。
──
特使団のリーダーである、ミリシアル外務省西部担当部々長のシワルフは、空を舞うグラ・バルカス機を見上げながら、複雑そうにため息を
他の役付の特使団、国防省情報管理部のパーシャ、技術開発研究局総務部のゴルメス、情報局のカリンテも、シワルフと似たような様子で、浮かない顔をしている。
上空を飛び回っている戦闘機を見上げる。確かに、ミリシアルの最新鋭戦闘機『エルペシオ3』よりも速度が出ているように見える。
はっきりと言ってしまうなら、ミリシアルにとって実用的な戦闘機は『エルペシオ3』が初めてと言ってよかった。
それまでも生産・配備に至った戦闘機はあるが、肝心のエンジンが安定した推力と現実的な燃費に落ち着いたのが、割と最近の事だったりする。
主翼も試行錯誤を続けて、エルペシオ3の、地球で言うテーパー翼に近い構造で落ち着いた。
アンタレス戦闘機はそれを上回っているかも知れない ──── その事実だけであれば、ミリシアルの人間がこれを見れば、グラ・バルカスの技術力に戦慄していただろう。
だが、今の彼らの胸中は ──── 確かにその感情がないわけではない。だが、同時に、諦観という感情、そしてさらにはグラ・バルカスに対する同情すらあった。
「戦艦は流石のものだわ……」
港湾内の艦隊を見て、カリンテが呟く。
「そうだなぁ……我が国のミスリル級、いや、計画中の新型艦とほぼ同じ大きさに見える。レイフォル程度では、あれは手に負えなかっただろうな」
それに続くかのように、ゴルメスがそう言った。
「実際に対面で話すのは初めてか……出るのは悪鬼か、はたまた悪魔か……」
シワルフはそう呟いた。その、 “悪鬼” 、 “悪魔” と言った表現に、
特使団が上陸すると、グラ・バルカス合同庁舎会館なる、グラ・バルカス帝国政府機関が入っているビルに案内された。
石と木を組み合わせた素材でできた建物は、角ばった印象を受ける。基本的に直線を使って構成されていて、ガッチリとしていて、重厚感や息苦しさを感じさせる。 ────
「エクスプレッセスティの様式に似ていますね」
「ああ! そうか、どこかで見たと思っていたら、それだ!」
カリンテが小声でいった言葉に、合点がいった、というように、ゴルメスが口に出した。
エクスプレッセスティは、これがま━━━━━━━━た日本からの伝染影響で、他国の現代様式に対して、
グラ・バルカスとの大きな違いは、エクスプレッセスティのそれは威圧感、重厚感、と言ったものがあまりなく、ピンクやオレンジと言った暖色系の明色を使いたがる傾向がある事だ。
だが、特急『ラヴィサンセクス』号に連結されている特等車『セデュシアン・カー』は、車体は重厚感のあるナイトパープルに塗られ、車内は彩度を抑えたシックな装いで、これはグラ・バルカスの様式に近いものを感じさせる。
また、エクスプレッセスティで外国の賓客を受け入れる際に良く使われる、エムブラセクス・プリンスホテルや、エナジポリス・コーストホテルのスイートルームも同様の傾向があるが、 ── ── 傾向も何もこのエクスプレッセスティのトップ2ホテルはそもそも日系だ。コーストホテルは、アパホテルグループである。
これについて、彼らはエクスプレッセスティが提供してくれた “写真” で、知ることになった。ただし情報局のカリンテは、実際に入国したことがある。
他にも違和感に気づいた。照明だ。グラ・バルカスは重厚感がある建物に対し、照明はやたらと暖色系で、どこかチグハグさを感じさせる。それに対して、エクスプレッセスティは淡白な色の照明が使われていることがほとんどだ。ホテルのように重厚感を出しつつも威圧感を抑えて温かみを出す場合、グラ・バルカスのそれに近い色の照明が使われている。 ──── まぁ要するに白熱灯と蛍光灯の違いなのだが、ミリシアルの人間はそこまでは知ることができない。
応接室に案内された4人がグラ・バルカスの外交官を待っていると、扉が開き、グラ・バルカスの外交官ダラスが入室してきた。
ミリシアルの4人は立ち上がって、一礼する。
「初めまして。神聖ミリシアル帝国外務省、西部担当外交部々長のシワルフと申します。今回は、貴国から打診のあった先進国会議への参加、及び会議の枠組みの変更について、主催国を代表して参りました。応対して頂き誠にありがとうございます」
シワルフの振る舞いは、どこに出しても恥ずかしくない程、礼節を重んじた丁寧なものだったが、ダラスはどこか滑稽なものを見るような視線を、シワルフらに向けている。
「まぁ、本来であれば、回答は3週間前の筈でしたが、急な事でありましたし、あなた方現地人の技術では、
「ああ、それについてですが」
ダラスが、どこかミリシアルの人間を嘲るように口元で笑いを浮かべながら言っていると、カリンテがわざと遮るように被せて言った。
「年度末の3月末日を以ってですが、その呼称は廃止する事が決定しました。以降は『ミリシエント大陸』、周辺地域を含む場合は『ミリシエント地域』となります」
──怖い者知らずも、使いようだな。
シエルフが、カリンテの言動に、胸中で苦笑する。
実は、ミリシアル情報局のグラ・バルカス外交担当は別の人間が予定されていたのだが、突然の体調不良で長期入院を余儀なくされ、カリンテが担当する事になった。 ──── 名前がドラ◯゙ン◯゙ールシリーズ最悪級の悪役と被るだとか、そんな理由では決してない。ないったらない。
「ほ、ほう……」
ダラスは、カリンテの言動に少しペースを乱されつつも、不快感を口にしないよう、堪えていた。
──ちっ、チープな煽りは通用せんか。
パーシャは、胸中で舌打ちしつつ、苦々しく呟いた。
──ここで激昂してくれれば、先進国会議に関する話題はご破産で済むものを……
「それで、我が帝国の参加如何について検討いただいた結果は?」
ダラスは、慇懃無礼な態度を保ちつつ、シワルフに向かって問いかける。
「そうですね、それに先立ちまして、まず、神聖ミリシアル帝国外務省、及び国防省が主催を務める先進11ヶ国会議準備会は、会議の枠組を変更する事を決定しました」
「枠組を変更?」
応諾でも拒否でもない、想定外の答えが出てきて、ダラスは、少し戸惑いながらもそれを態度に出さないようにしつつ、問い返す。
「はい。まず、第1文明圏、第2文明圏、第3文明圏、南方文明圏外、それに従前には参加資格がなかった東方文明圏外国について、この区分名を変更します。旧第1文明圏は、先程カリンテが言いました通り『ミリシエント地域』、旧第2文明圏は『ムー地域』、旧第3文明圏は『フィルアデス地域』、南方文明圏外は『ブランシェル地域』、旧東方文明圏外は『大東洋及びロデニウス大陸地域』、と、それぞれ変更されます。それと同時に、『大東洋及びロデニウス大陸地域』に、固定1枠、持ち回り2枠を設定しました。この新設の固定枠は、エクスプレッセスティ共和国の持ち枠となります。これに伴い、会議名も『先進14ヶ国会議』、となります」
「それで」
シワルフの長い説明を聞いて、ダラスは、焦れたように不快感を露わにし始めた。
「我が帝国の参加の如何はどうなっている!?」
「そうですね、それについての回答は、次回開催については、旧第2文明圏、ムー地域の持ち回り1枠を貴国とします」
「な────!?」
シワルフの答えを聞いて、ダラスは、一瞬絶句し、それから激昂した。
「ふざけるな!! 我が国はレイフォルに代わる形での参加を希望していた! それを退けるとは、我が帝国を侮辱するのか!?」
「はー…………なるほど」
シワルフは、自身の胸倉を掴みかけたダラスの手を、そっと押し返すようにしながら、今度は「俺のターンだ」とばかりに、慇懃無礼な皮肉たっぷりの苦笑を浮かべる。
「既に決定している固定枠国家に、貴国の固定枠参加を強硬に反対している国がありましてねぇ」
「どこの国だ! その命知らずの不遜な国は!?」
「エクスプレッセスティ共和国ですよ」
「何だと!?」
シワルフの答えに、ダラスは、ますます激昂して、荒い言葉を吐く。
「つまり、貴国は我が帝国ではなく、エクスプレッセスティ共和国を重視するということだな!?」
「端的に言ってしまえば、そう言うことですねぇ」
狙って神経を逆撫でするシワルフの言葉に、ダラスはますますヒートアップする。
「巫山戯るな! “女しかいない国” が、我が国より重要だと!? 貴殿は気が狂ったのか? それとも国ごとか!?」
「なるほど、やはりその程度の認識でしたか」
シワルフは、やれやれと言ったようにする。
「貴国の戦闘機、『アンタレス07式』でしたか」
シワルフに代わって、パーシャが言う。
「エンジン出力は 1,000hp から 1,650hp 、水平最高速度は……そうですね、 600km/h には届かない、と言ったところでしょうか」
「!?」
窓越しに空を見つめるようにしながら、呟くように言ったパーシャの言葉に、ダラスの顔色が、突然変わった。
「カリンテ君」
「はい」
パーシャが指示すると、カリンテは、5枚の写真を、天地方向がダラスから見て正しくなるように、テーブルの上に置いた。
「こ、これは…………」
その写真を見て、ダラスは、言葉を失い、ガクガクと震え出しながら、その写真を凝視した。
──なぜ、この写真がここにある!? 国籍表記は一部、違っているが……有り得ん! 絶対に有り得ん!! ユグドの、他国の戦闘機の写真が、なぜここに存在している!? 情報流出とか、そんなものではない!! 絶対に有り得ん!!!!
「どうやら見覚えがあるようですね」
脂汗を流し始めたダラスに、シワルフが皮肉たっぷりの笑みで言う。
「
「エクスプレッセスティの最強戦闘機、 MiG-29GE 『ファルクラム
「────────な……な!?」
想像を絶する数字を出され、ダラスは絶句してしまう。
「我が国が貴国ではなく、エクスプレッセスティを優先した理由が、これでおわかりいただけましたでしょうか? 貴国とはやってみないとわからない、しかしエクスプレッセスティには絶対的に、絶望的に勝てない。そう言うことですよ。絶対に敵に回すわけには行かないのです」
「そ、そ、そ、そんなバカな。貴国はペテンにかかっている。騙されているんだ!! “女だけの国” に、そんな物がつくれるはずがない!!」
「そうですね。貴国はエクスプレッセスティ共和国が転移国家だという事はご存知ありませんか?」
狼狽える声を出すダラスに、シワルフが訊ねると、
「それは…………」
と、ダラスは言葉を失う。
その様子を見て、シワルフ達は、おやっ? と、意外そうな表情をした。
「どうやら、説明の必要はなさそうですね」
シワルフはそう言って、その部分を省いて説明を続ける。
「エクスプレッセスティ共和国が保有する戦闘機の大半は、
「我々情報局は、実際にこの目でそのシーンを見ています。ただし、 MiG-29 より少し前の世代の戦闘機を高性能戦闘攻撃機にリプレースした、 Su-22UGE 『
シワルフに続いて、真摯な表情のカリンテがそう言った。
「エクスプレッセスティも、貴国に対して
ニヤニヤと笑いながら、ゴルメスがそう言った。
「どうなさいますか? 持ち回り枠で参加致しますか? それとも参加拒否をなさいますか?」
シワルフが、畳みかけるようにそう言った。
「そ、即答はできない……い、一度本国に持ち帰らなければ……」
ダラスは、憔悴感を隠せず、カラカラに乾いた喉で、そう言った。
「そうですか……では、お決まり次第、我が帝都ルーンポリスで承りましょう……貴国の帝都の場所が解っていれば、こちらが出向いても構わないのですけどね。それとも第三国ということで、エムブラセクスで面談いたしましょうか?」
シワルフは、嫌味たっぷり、皮肉たっぷりにそう言って、
「それでは、失礼いたします」
慇懃無礼に言い、そして、ミリシアルの特使団は、応接室を後にした。
後には、最初の、横柄さ、高慢さをすっかり失い、憔悴した様子のダラスと、5枚の────エクスプレッセスティが提供した、グラマンF4F『ワイルドキャット』、スーパーマーリン『スピットファイア』、メッサーシュミットBf109、マッキMC.201『サエッタ』、ヤコブレフYak-1、それらが撮影された写真が、残された。
地球の他国のWWII戦闘機を見て動揺させるシーンですが、グラ・バルカスの戦闘機が日本機に似ているのだから、米英独伊ソの機体を見せればなーんか反応するだろうなーと独自解釈で書きました。
評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。
https://twitter.com/kaonohito2
独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食