「────というわけでして、他力なのは不本意ですが、エクスプレッセスティが提供してくれた情報に、グラ・バルカスの外交官が慌てふためいている姿は傑作でしたよ!」
神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス。
情報局、局長室。
局長のアルネウスに、カリンテが失笑を禁じえない様子で、そう言った。
「グラ・バルカスの戦闘機についての推測は、どうだったかね?」
アルネウスがカリンテに問いかける。
「流石に、はいそうです、とは答えませんでしたが、あの
エクスプレッセスティは、既にアンタレス07式を、動画、静止画の両方で撮影していた。良く似ている、三菱A6M 零式艦上戦闘機ではない。アンタレス07式そのものの物だ。
その資料から、エクスプレッセスティの、国防省、内務省交通局、新明和エクスプレッセスティサービスの技術者が解析し、だいたいの性能を割り出したわけである。
「うぅむ、それは爽快だが、それはそれとして、エクスプレッセスティの間諜の能力には警戒しなければならないな……既に我が国の情報もかなり抜き出している……」
アルネウスは、深刻そうな表情でそう言った。
「そのエクスプレッセスティですが────」
同じく、局長室にいたライドルカが、切り出した。
「──航行の安全のために、航空機による測量をしたいと、領空内の飛行を、外務省に対して求めてきています」
「うーん……それは流石になぁ……」
ライドルカの言葉に、アルネウスは、難しそうに顔をしかめて、唸るような声を出した。
地図は戦略情報でもある。ミリシアルとエクスプレッセスティが、現状手放しの友好国とは言えない以上、その情報を収集される事は、ミリシアルとしては簡単には認めにくい。
「ちなみにこれが、エクスプレッセスティが現状、作成済みの地図だそうです」
そう言って、ライドルカは、折りたたまれたA2版のプリンタ用紙を取り出し、アルネウスの執務机の上で広げてみせた。
「こっ……これは!!」
それを見て、アルネウスは思わず声を出していた。カリンテも、驚愕に目を見開き、息を呑む。
それは、フィルアデス大陸、ロデニウス大陸と、ムー大陸東部、それとその周辺部分の精細な地図だった。
それに、ミリシエント大陸や、ムー大陸西部、グラメウス大陸西部も、海岸線については既に記載されている。
「こ……これだけの地図を、エクスプレッセスティはどうやって……」
「大型飛行艇、PS-2/Sを用いて作成した地図とのことです」
愕然とした様子で、途切れ途切れの言葉を出したアルネウスに、ライドルカはあっさりとした口調でそう言った。
「航空測量でも、ここまで精度の高い地図が作れるものなのか……」
アルネウスが言う。
「あれ?」
カリンテが、それに気付いた。
「この点は?」
そう言って、ムー大陸の西方の海上に記されている点を指差す。
その点は、ムーの商業港マイカルと、イルネティアの王都キルクルスから伸ばされた、細い線の交点となっている。
「グラ・バルカスの帝都、ラグナの推定位置です」
「なっ!?」
ライドルカの淡々とした言葉に、アルネウスとカリンテは、再び驚愕し絶句する。
「エクスプレッセスティは、既にグラ・バルカス本土にも間諜を侵入させているというのか……」
「いえ」
アルネウスが愕然とした様子のまま言うが、ライドルカはそれを即座に否定した。
「その事自体については、エクスプレッセスティ側は肯定も否定もしませんでしたが、この場所の割り出しはもっと簡単です」
「と、言うと?」
カリンテが、不思議そうな、どこか好奇心を惹かれたような様子で問いかける。
「通信ですよ」
「通信? 確かにレイフォルと本土との通信はしているだろうが……ま、まさか!?」
ライドルカの答えを聞いて、アルネウスは、そこまで言い、さらに驚愕の様子を見せた。
「エクスプレッセスティは、グラ・バルカスの暗号を破っているのか?」
「それについても、エクスプレッセスティ側は肯定も否定もしていません。ただ、前回の報告にあった電子計算機を使って、解析している事は認めていますが……」
ライドルカは、一旦そこで軽く区切り、手振りを交えて続ける。
「この推定はもっと単純です。通信そのものを利用したんですよ。ラグナからレイフォルに向かって送信される電波を、マイカルとキルクルスで鋭指向性のアンテナで発信方向を特定したんです」
「あ! そう言うことか!!」
ライドルカの説明をそこまで聞いて、アルネウスはカラクリに気付いた。
「この線は、マイカルとキルクルスで、グラ・バルカスの同じ電波通信を傍受した方向への延長線、その交点が、ラグナか、そうではないとしてもグラ・バルカス本土の要衝ということか!!」
「はい。これ自体は、一度気付いてしまえばムーにもできることだそうです」
アルネウスの言葉を、ライドルカが肯定する。
「頭隠して尻隠さずとは、まさにこの事だね……」
カリンテも言う。
「それは単純だとしても、やはりエクスプレッセスティを優先した判断は正しかった。航空測量でこれほど精度の高い地図が作れてしまうのだからな……」
「グラ・バルカスなど、自国の位置すら隠したがる臆病者ですからね。どちらが “女々しい国” なのか、わかりませんよ」
緊迫した雰囲気の中で、カリンテは、どこか緊張感に欠けた様子でそう言って、失笑するように息を吐いた。
イルネティア王国、王都キルクルス。
早朝────────
イルネティア王国の将軍、ニズエルは、半覚醒の状態にあった。
イルネティアはある程度発展しているものの、緑地が多く、美しい緑に囲まれた都市は、それを包む薄い
心地よい
ビーッ! ビーッ!!
と、強烈な警報音が、彼の意識を一気に覚醒させた。
彼は飛び起きると、枕元に置いていたスタンド型の魔話機を手に取る。
「どうした!?」
『哨戒中の竜騎士隊が、グラ・バルカスのものと思しき艦隊が接近しているのを発見しました! 位置はドイバの西方沖、距離約120km! 艦種は大型戦艦1、中型戦艦1、巡洋艦6、駆逐艦13、航空母艦2!! こちらへ向かって東進しているとの事です!!』
ドイバはイルネティアの港湾都市で、商業都市としての規模は、王都のキルクルスより大規模と言えた。
イルネティア軍は、最初にグラ・バルカスが接触してきた時には、明らかに解る空母以外、近代艦の区別をつけることができなかったが、エクスプレッセスティが買い取ったムーの巡洋艦を供与されるにあたって、エクスプレッセスティの艦種区分に合わせるように改められた。
「解った! 総員第1種戦闘配備! 全軍に非常招集! 海軍は全艦、港外に出て出撃準備に備えよ! 竜騎士団も直ちに全騎、発進準備体制に入れ! 陸軍部隊も各担当地で陸戦に備えよ!! ただし、こちらからは絶対に手を出すな!」
『了解です!』
向こうからかけてきた通信だったが、ニズエルが一刻も惜しいと、通話を切りかけた時。
『待ってください! 今、エクスプレッセスティ軍側から、ドイバの滑走路の1本を使わせて欲しいと要請が入っています!!』
「エクスプレッセスティ軍か……」
ニズエルは、一瞬だけ、判断に迷った。
ドイバに展開しているのが、 MiG-29GE や MiG-23GEN など、エクスプレッセスティ空軍の主力戦闘機隊であれば、ニズエルも即断していただろう。
だが、ニズエルはそもそも、 Su-22UGE も含めて、超音速ジェット機をまだ目にしたことがない。
エクスプレッセスティ空軍がこの地に運んできたのは、3機のアントノフ An-3 だった。飛行速度はワイバーンと大差ない。その性能を知らされて、ニズエルは落胆してしまった。
「……解った。北第1滑走路なら好きにして良いが、こちらの竜騎士隊の妨害は絶対にしないようにと、特に念を入れて伝えよ」
『了解です。以上、失礼します』
北第1滑走路は、ドイバの竜騎士団基地の中では最も古い滑走路だった。短く、狭く、運用が著しく制限されるため、エクスプレッセスティ軍が来るまでは、既に使用休止になっていて、事実上放擲されていた。
エクスプレッセスティ機の受け入れのため再整備したが、離陸促進装置の再活性化は行われなかった。そもそも、エクスプレッセスティの航空機にはあっても意味がない。
通話を終えると、ニズエルは、手早く着替えを済ませ、急ぎ王宮・ランバール城へと向かった。
ニズエルが登城すると、イルネティア現国王・イルティス13世はすぐ来ると言われ、略式拝謁の間に通された。
するとそこに、ディープブルーにマイクロミニスカートという、自国とは異なる軍装を身に着けた、女性……が先に到着していた。
ニズエルの姿を見つけると、彼女……はニズエルに敬礼する。
「これはお恥ずかしいところをお見せしました」
本当に恥じ入る思いをしながら、ニズエルは、返礼しつつそう言った。自国の指揮官が真っ先に行動しなければならない状況で、援軍に来た他国軍の指揮官が先に登城している。
「いえ、自分も先程到着したばかりですし、国軍の総指揮官として、他に指示を出す必要もあるでしょう」
イルネティア派遣艦隊指揮官、アシャ・セミナス・エリザベス・タマン海軍准将は、ニズエルにそう言った。
ニズエルが何か発言しようとした時、ニズエルが持っていた携行型魔信機がさらに、緊急コールのアラームを鳴らす。
「失礼」
ニズエルはそう言い、「お気になさらず」とアシャが言い終えるのを待たず、魔信機のマイクに向かって話しかける。
「何があった?」
『はっ、報告します! 哨戒中の竜騎士が艦隊に接触したところ、グラ・バルカス海軍と名乗った上で、外交官が同乗しており、至急会談を開いてほしいとのことです。なお、「担当者不在等の言い訳は聞かない。国の最高決定権者を出さない場合、実力行使に踏み切る」との事です!』
「そうか……解った。追って連絡する。しばらく待て」
『了解!』
ニズエルがそう指示している間にも、イルティス13世が入室して、上座に立った。アシャが敬礼をし、イルティス13世の「楽にせよ」という合図でそれを解いた。
「陛下、現状ですが……」
「いや、もう今ので状況は理解した。グラ・バルカス艦隊の規模は?」
ニズエルが言いかけると、イルティス13世は手振りを加えて制止しつつ、訊ねる。
「現在確認しているだけでも、戦艦2、巡洋艦6、駆逐艦13、空母2が、ドイバ西方沖をこちらに向かって航行しているようです」
「
思わずと言った様子で、アシャが呆れたようにそう言った。
エクスプレッセスティも砲艦外交をしないわけではない。むしろ積極的にやる。以前にも説明したが、軍艦による海外訪問の際、VLS搭載とレーダーリフレクション低減の為にどこかのっぺりとしている最新鋭のヴェネレイト級ではなく、元ソ連艦として威容のある『ファネシー』『ヴィールニィ』を使う事が多い。
だがこの艦隊の内容は、もう最初から実力行使で相手を黙らせる事が目的としか思えなかった。
「……先制攻撃をして良いのでしたら、直ちに追っ払いますが」
アシャがあっさりとそう言うと、イルティス13世とニズエルは目を向いてアシャを凝視した。
「い……いやパガンダの例もある。問答無用というのは避けたい」
イルティスは、驚愕を隠せない様子でそう言った。
「そうですね……ただ追い返すだけなら簡単ですが、できれば二度とイルネティアに近付かないよう、この艦隊に取り返しがつかない打撃を与えたいですし……」
──ほ、本気で言っているのか……?
アシャの言葉に、ニズエルは驚愕と僅かな疑心をもって、アシャを凝視している。
「ただ、あちらから手を出すのを待つ、というのであれば、どの程度か解りませんが、イルネティアに被害は出ます……それが現状の、私達の限界ですが、よろしいですか?」
アシャがイルティス13世に問いかける。
「…………いや、やはり対話ができるうちは最大限の努力をしたい」
「そうですね……」
イルティス13世の答えに、アシャは、
「距離が近いのであれば、どうとでもなるのですが……本国からすぐに増援を送り込める場所ではないですし……」
アシャはそう言って、軽くため息を
「それで、グラ・バルカス側は国の全権委任者を出すように言っていますが、どうなさいますか?」
「解った。おそらくあの外交官だな……私自身が国主として対応しよう」
ニズエルの問いかけに、イルティス13世はそう答えた。
その重々しい言葉は、国主として覚悟を決めたようにそう言った。
「グラ・バルカス軍の攻撃があり次第、我々は反撃します」
アシャは、表情を引き締め、鋭い眼差しで、イルティス13世に告げた。
「うむ……ニズエル将軍、我が軍の対応はどうなっている?」
「はっ、既に全軍に総員招集をかけました。少しでも戦を有利に進められるよう、海軍の艦隊には外洋で待機することを命じております!」
イルティス13世の問いかけに、ニズエルはそう答えた。
「さすが我が忠臣よ。頼んだぞ!」
イルティス13世は、ニズエルにそう言ってから、再度、アシャに視線を向ける。
「アシャ提督……情けない国主と思われるかも知れませぬが、どうか、よろしく頼みます」
アシャは再度敬礼する。
「ハッ! 武力侵攻を企図しているのであれば、思い通りにはさせません!」
独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食