イルネティア王国、ドイバ西方沖約64.8海里。
グラ・バルカス帝国海軍、イルネティア王国先遣艦隊は、戦艦『ベテルギウス』、空母『マルカブ』『アルゲニブ』、以下、巡洋艦6、駆逐艦13隻のちょっとした ──── グラ・バルカスにとっては ──── 艦隊が、西に向かっている。
そして、その艦隊の旗艦として、グラ・バルカス帝国最新にして最大の超巨大戦艦、『グレートアトラスター』が、威容を放ちながら進んでいる。
その、グレートアトラスターの艦橋。
「ラクスタル艦長、今回は我々の要請を受け容れて頂き、まことにありがとうございます」
当然、軍人ばかりの中で、明らかに異質な、ビジネススーツ姿の人間が2人。そのうちの1人が、艦長のラクスタル大佐に、軽くお辞儀をするようにしながらそう言った。
「いいえ、ダラス殿」
明るい表情のラクスタルが返事をした相手は、先日、レイフォリアでシワルク達に醜態を見せたダラスだった。
「これも国のためです。我が艦が敵に対しての威嚇になり、それが国家の為になるのであれば、我々としても本望です」
まだ交渉が終わっていないにも関わらず、ラクスタルはイルネティアを“
グレートアトラスターは、パガンダ、レイフォルを単艦で滅ぼした、現世の伝説とも言える存在だった。この為、この世界においては他国の恐怖と絶対的な力の象徴となっており、恫喝外交の手段としてはこれ以上ない存在であり、手段だった。
イルネティアの国の規模を考えると、些か過剰であるという意見もあった。しかも、ラクスタルはその懐疑派の1人だった。
しかし、征服後の支配・統治、それにイルネティアの周辺国、特に友好関係にあるムーを考えると、その威容と威力を見せつけておくことは、グラ・バルカスにとって利益と言えた。
ラクスタルもそこまでは否定できなかったため、海軍司令部からの直接の命令が出れば、軍人として従うことにやぶさかではなかった。
「報告します!」
乗組員、伝令員の1人が、ラクスタルとダラスが会話しているところへ、そう声を上げながら、駆け寄ってくる。
「会談の要請について、イルネティアはキルクルスで、国王が直接応対するとのことです」
「ほう……国王が出てきたか。これは楽しみだな」
ダラスはそれを聞いて、ニヤリと口元で厭らしく笑う。
「ではラクスタル艦長、打ち合わせ通りに」
「そのことですが……」
ダラスに対して、ラクスタルは困惑した顔で言う。
「エスコートの駆逐艦を6隻……いや3隻でいい、伴わせてくれませんか?」
「まだ言いますか……」
ラクスタルの言葉に、ダラスは、はぁっ、とわざとらしく大きなため息を吐き出した。
「いいですか、列強とやらですら、『グレートアトラスター』ただ1隻に勝てない、というのが重要なのです。レイフォルを単艦で滅ぼしておきながら、イルネティアのような、小国とも呼ぶのも烏滸がましい存在に、護衛を着けていったのでは、その存在価値が薄らいでしまうのですよ」
ダラスは、演説ぶつようにそう言ったが、
「だが、超音速機を持っている国があるという報告をもたらしたのは、ダラス殿でしょう?」
「まぁ、そうですが。そうは言っても、エクスプレッセスティ共和国ははるか東方の国、それに、軍は質の面ではともかく、数の面では帝国に及ぶべくもない寡兵。これがあのふざけた国の周辺、ロウリア連合王国あたりであれば覚悟と注意が必要でしょうが、はるか彼方からさっとやってきて我々を攻撃する、なんて現実的ではないでしょう」
ダラスは、まるで自分自身にもそう暗示をかけているかのように、ラクスタルに反論した。
──危険なのは、空ではないんだがな……外交官にその想像をしろと言っても無理か?
ラクスタルは、苦々しくそう思いつつも、
──まぁ、ダラスの言うことも正しいだろう。ムーのような有力な友好国ならともかく、西の彼方の小国の為に、帝国と対峙するとは考えにくい……
と、自身の考え過ぎと判断した。
こうして、『グレートアトラスター』は、単艦イルネティア本島へと向かった。
────ラクスタルの懸念するもの、海中に潜む憎悪に気づかずに。
数時間後。王都キルクルス、ランバール城。
迎賓室。
グラ・バルカス帝国側は2名、いちおうはベテラン外交官であるダラスと、外務省の新人スタールだけが着席する。
その向かいに、イルネティア側、国王イルティス13世、そしてニズエル将軍を含む、10人程の重臣が、並んで着席していた。
「先の話……1ヶ月以外にレイフォリアまで全権大使を寄越すように
ダラスは、先日のミリシアル特使に見せた動揺と憔悴はどこへやら、相手を最初から自国の一部であるかのように、高圧的に言う。
「外交担当のビーリー侯が、所要で国内外を飛び回っておりましてな、それ故に、国内でなかなか話がまとまとまらず……その件に関しては失礼致しました」
──ビーリーは、こんなのを相手にしていたのか。申し訳ないことをした…………
イルティス13世は、ダラスの居丈高ぶりに内心で辟易しつつも、国王という立場を敢えて傘に着ないように注意しながら、そう答えた。
「蛮族が……遅れる場合は連絡を寄越すという常識すら知らんのか。まぁ連絡をよこしたところで、その事実には変わりない。帝国の命令に逆らったのだからな。はっきり言おう。最初の1ヶ月も、帝王グラルークス様が慈悲によりお与えくださった1ヶ月だ。お前達にとっての命の1ヶ月、それを蔑ろにしたツケは大きい。さっさと回答を聞かせてもらおうか」
──!!
ダラスの瞳は、有無を言わせない強烈な威圧と迫力を発していたが、その一方で、僅かだが焦りの色があることを、イルティス13世は見逃さなかった。
「今後はそちらの会談要求を、極力無碍にしない事を、国主としてお約束いたします。ですので、以降も対話を続け、お互い歩み寄ることはできませんでしょうか?」
そう言ってイルティス13世が頭を下げる。彼の臣下も、それに倣った。
「ダメだな。既にタイムリミットは過ぎている。我々は既に有り余る慈悲をお前達に与えた。いくら文明水準の低い現地人でも、時間の大切さくらいは解るだろう」
ダラスの言葉に、途中でニズエルがはっと気づき、
「そうですね。時間は大切です。我々西方文明圏外でも、最近その事を教わりました。最近外交関係を開いた国に、このような物を頂きましてな」
と、イルティス13世に先んじて、そう言いながら、左手の腕につけていたそれを外し、ダラスに見せるように、テーブルに置いた。
「腕時計か。まぁ確かに貴国のような蛮国には……────」
ダラスは、言いながら、ニズエルのつけていた腕時計を観察して、途中で言葉を途切れさせた。
──こ、これは────!!
かっ、と、ダラスが目を見開いたところで、イルティス13世はすかさず、腕時計の由来を説明する。
「それは、エクスプレッセスティ共和国のマコト・ハンナ・イノウエ国防省長官から、同じ軍のトップの
イルティス13世の言葉を聞きながら、ダラスは先程までの気迫はどこへやら、脂汗をかきながら、時計を凝視する。
「どうされたのですか? ダラスさん!」
スタールが怪訝そうに声をかけるが、ダラスはすぐに返事をすることができなかった。
ダラスの視界の中で、 G-SHOCK GW-3000B-1AJF が、秒針の微かな音を立てながら時を刻む。
──これは間違いない……
「我々は────」
イルティス13世は、それまでの下手に出る口調と様子を消し、重い声を出した。
「我々は、本当の、本物の成熟した文明を持つ国がどのようなものか知っている。貴国がパガンダやレイフォルから受けた仕打ちには同情するが、無法に無法で返すというのであれば、それはただの野蛮人だ。慈悲で最後の機会をやったつもりだったが、無駄だったようだな」
そう言って、イルティス13世は立ち上がる。
「この無礼者を国外へ退去させろ!!」
イルティス13世の号令ともに、近衛兵が2人を拘束し、ランバール城から連れ出した。
キルクルス、王軍司令本部。司令部公室。
「待たせたな」
ランバール城での会談に参加していたニズエルが到着する。
室内には高位の指揮官が集っており、また、直接通信設備が設けられており、そのオペレーターが既に位置に着いている。
そして、アシャもイルネティア王軍の高位指揮官の中で立っていた。
「我が国を高く評価して頂き、ありがとうございます。イルティス13世陛下にも、厚く御礼をお伝え下さい」
「いえ、グラ・バルカスの外交官の憔悴しきった様子、実に溜飲が下りました!」
アシャの言葉に、ニズエルも一瞬笑みを浮かべた。
「それで、今後の対応ですが」
アシャは表情を引き締めると、イルネティアの指揮官達が広げている海図に、自身もニズエルとともに向かった。
「まず、ドイバ西方およそ64海里、つまり、約120km弱を東進している空母機動部隊ですが、これはグラ・バルカス外交官がイルネティア本土を離れた時点で攻撃し、お帰りいただきます」
「そんな事が可能なのですか!?」
イルネティア海軍総指揮官のオシアが驚いたように言う。
「ええまぁ、撃沈はちょっと難しいのですが、火傷ではすまない程度にはなってもらいます」
アシャは自信有りげにそう言ったが、すぐに険しい表情になる。
「問題は、ドイバ南側に停泊している戦艦 ──── グレートアトラスターです」
アシャが、グレートアトラスターの所在地を指差すと、ニズエルも、オシアも、他の指揮官も、表情を引き締める。
「本当に……本当に申し訳ないのですが、我々がこの艦を仕留めるまでの間、時間稼ぎをしていただけますでしょうか?」
「と、言いますと?」
オシアが訊き返す。
「この艦は、パガンダ、レイフォル侵略の際の戦功が神格化され、政治的、精神的意味を持ちすぎている。この1艦だけで、周囲の国家を脅せると、グラ・バルカス側も判断している」
「確かに……今回、艦隊の本隊を離れたところに置いたまま、我が本土に接近してきたのも、目的のひとつはそれでしょうな」
ニズエルが、納得の声を出した。
アシャはその言葉にうなずくと、さらに続ける。
「それが今回、護衛を連れずにやってきた。こちらとしては、一方的に攻撃できる千載一遇の機会なのです。どうしても沈めたい。なので、逃げ切ることができないよう、イルネティア海軍に足止めしてほしいのです」
「…………つまり、我々に矢面に立てと言う事ですか」
「はい……」
オシアの言葉に、アシャは、苦悩の表情で答える。
「…………必ず、グレートアトラスターを沈められますか?」
オシアは問いかける。
「────!!」
アシャが顔をあげると、オシアは、真剣な眼差しをアシャに向けていた。それは、強烈だが、アシャを責めるものではなかった。
「……必ず沈めます」
「解りました」
アシャが、
「援軍に頼り、自国の為に命を賭す気概のない者が、軍人は名乗れません」
「オシア提督……」
アシャが、そしてニズエルが、オシアに熱い眼差しを向ける。
「解りました。イルネティア海軍の犠牲を無駄にしません。必ず ──── 必ず、沈めます。浮いてグラ・バルカスには帰しません」
「我々にこのような扱いをして! 貴様ら、後でどうなるか覚えていろ!」
ドイバの港湾で、突き飛ばされるようにしてグラ・バルカス海軍に引き渡されたスタールは、イルネティア兵を振り返って睨みつけ、そう言った。
「どうやら、エクスプレッセスティ共和国から何かを引き出したのは事実のようだが……所詮“女だけの国”、それでなくともこのような、世界の反対側の国に、何ができると言うんだ? せいぜい、幻想を
先程まで言葉を失っていたダラスも、凄みを効かせた低い声で、イルネティア兵にそう言った。
たじろぎもしないイルネティア兵に、ダラス達は最後まで悪態をつきながらも、グラ・バルカス海軍兵が操作する内火艇に乗り移る。
その内火艇が、港外に出たときだった。
バシャァアァァァッ!!
内火艇の進路の少し先で、突然、砲弾が着水した水柱が上げる。
「な、な!?」
『
女性の声が、大音響で、グラ・バルカス海軍の内火艇に向かって響いた。
『こちらはエクスプレッセスティ海軍、フリゲート艦「ライバーシー」!! 自称「グラ・バルカス海軍籍」船は直ちに停船せよ! さもなくば撃沈する!!』
────ダラスらが知っているイルネティア海軍とは、明らかに異色の鋼鉄艦が、彼らの乗る内火艇の進路に立ち塞がった。
独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食