「ようこそ、『
ゲストを迎える時は「海上自衛隊って言うよりイタリア海軍だよね?」と言われるエクスプレッセスティ海軍だが、このときばかりは、艦長のペイジ・タイラー中佐は、怜悧な声で、淡々とそう言った。
「貴様ら、何をやっているか解っているのか? 私は外交官だぞ、グラ・バルカス帝国の」
後ろ手に手錠をかけられた状態で、艦橋に連れてこられたダラスは、ペイジを睨みつけながら、低い声でそう言った。
「ほー……では、そのグラ・バルカス帝国とやらは、どこにあるのですか?」
怜悧さに、僅かな呆れを交えて、質問すると言うよりは明らかに嘲るように、ペイジはダラスに問いかける。
「そ、それは……」
ダラスは言い澱む。
「いいか?」
ギンッ、と、ダラスが、女にこれほどの凄みの効いた睨み方ができるのか、と感じるほどの眼力で、ペイジはダラスを睨みつけた。
一瞬だけ、同じく連れてこられたスタールにもその睨む視線を向けた後、ダラスの顎を掴んで自身の顔に向けさせる。
「国家の要件は、『国民』、『国土』、『主権を保ち得る統治能力』だ。グラ・バルカスのどこに『国土』があるんだ? 『国民』は? まさかレイフォルやパガンダの市民がそうだとか寝言はほざかないよなぁ?」
「ぐ、ぐぐ…………」
「だ、ダラスさん……」
ダラスが言葉を詰まらせて、スタールが不安そうな声を出した時点で、ペイジは、2人をつまらなそうな視線で一瞥した後、ダラスの顎から手を離す。
「我がエクスプレッセスティ共和国政府は、『グラ・バルカス帝国』なる国家の、国体の確認をしていない。よって、エクスプレッセスティ共和国は『グラ・バルカス帝国』を『非合法武装集団』と認識し、『グラ・バルカス帝国外交官』はあくまで “
ペイジは、ダラスとスタールにそう言った後、
「SSMスタンバイ」
と、胸元のPTTスイッチを押しながら、インカムのマイクにそう言った。
『いつでも撃てます』
「撃っていいわよ。次発装填もSSMで」
『了解。SSM発射』
そのやり取りを見て、聞いて、ダラスはその事に気付いた。
──こ、ここは戦闘艦橋じゃないのか!? よく見ると、航海に必要な要員しか配置されていないように見える……
ダラスの思考がそこまで進んだ時。
ドッ、ヒュウゥゥゥゥゥッ……!!
艦橋後部、かつて2本存在していた煙突のうち1本が撤去されたその左右に配置された、可変角キャニスターから、8発のR-360K『ネプチューン』対艦ミサイルが発射される。
「!!!!」
艦橋の後ろから、轟音とともに炎の尾を引きながら8発の飛翔体が前方へ向かって発射されたのを見て、ダラスはとてつもない憔悴感に襲われた。
固形ロケットブースターで発射管から飛び出したネプチューンは、一定の速度に達したところでブースターを切り離し、メインサステナーのターボファンエンジンに点火して、グラ・バルカス帝国の空母に向かって、海面スレスレを飛行していく。
「な、なんだ今のは、何をした!?」
ダラスが、焦りの声で怒鳴るように問いかける。
「何って、決まってるじゃない」
ペイジは、口元で笑いながら言う。
「ちょーっとイケナイ空母機動部隊に、オ・シ・オ・キ・❤」
戦艦『グレートアトラスター』艦橋。
「予定の時間は過ぎている……一体何が起こっているんだ……」
ラクスタルは、艦長席で何度目になるかわからない呟きを発した。
「艦長! イルネティア海軍艦、接近してきます!」
「!」
兵から報告が上がる。
「数およそ15乃至20!! 近代艦がいます。艦影おそらくムーのラ・グリスタ級、もしくはラ・ホスタ級防護巡洋艦!!」
「ムーが供与したか……だが、それだとしてもこちらにとっては骨董品も同様だが……」
ラクスタルは焦れる。
イルネティア艦隊が向かってくると言う事は、交渉は決裂したということだろう。
だが、ダラスら外交官を回収しなければ、戦闘行為に移ることができない。
それとも────
「パガンダのように外交官を殺害したか? 蛮族のすることだから、あり得るが……」
だが、それならばイルネティアからなにかの通告があってもいいはずだ。
イルネティア艦隊は、グレートアトラスターを包囲しつつ、接近してくる。
──まずいな……このまま包囲されると、
ラクスタルは、どっしりと構えていなければならないこの局面で、焦りを隠せなくなりつつあった。
──何をやっているんだ……ダラス……
「た、大変です、艦長!!」
通信室からの伝令が、焦りきった様子でラクスタルの元に駆けてきた。
「どうした? 外交官の身に何かあったか!?」
ラクスタルも、最悪の事態を予想して、それを口に出して問い質す。
「い、いいえ! 違います!!」
「なら、どうしたというのだ……」
息の荒い伝令が、息継ぎで言葉を途切れさせた時、ラクスタルは、正体の解らない漠然とした不安を感じつつ、重ねて問いかける。
「空母が……」
「空母が?」
「機動部隊本隊が攻撃されました! 空母マルカブ、アルゲニブ、戦艦ベテルギウス、いずれも大破炎上中!! 特に空母2隻の損傷は極めて甚大!!」
「な────」
告げられて、ラクスタルは絶句した。
ドイバ西方沖、約63海里。
「早く火を消せ!!」
空母マルカブ艦長、ジェリック海軍大佐が、怒声を上げる。
中性的で女顔、声も高いジェリックだが、今は荒々しい言葉で指示を飛ばしていた。
マルカブはグラ・バルカス帝国の主力空母ペガスス級の1隻で、それなりに防御力もある空母……のはずだった。
ほんの10分ほど前、マルカブとアルゲニブが、このような
2隻の空母は、直掩のベテルギウス、巡洋艦6隻、駆逐艦13隻とともに、イルネティア本土攻撃に備えて、微速で東進していた。
突然、対空警戒レーダーに、8つの
そして、その時にはすべてが遅かった。
飛翔体は極低空を戦闘機より遥かに速い速度で飛行しており、レーダーに捉えられた時には、もはや戦闘機を向かわせることも、対空射撃による対応もできなかった。
あっという間に、飛翔体────ネプチューンミサイルは、次々と、2隻の空母とベテルギウス、1隻の駆逐艦に突入した。
駆逐艦は悲惨だった。ただの1発で、キャニス・ミナー級駆逐艦が廃艦やむなしの破壊を受けていた。
それに対して、空母、戦艦に対して、ネプチューンの威力は必ずしも充分ではなかった。
ネプチューンの“致死量”は、およそ排水量 5,000t に対して1発とされている。しかもこれは、直接的に装甲で防御することを半ば放棄した、現代艦が基準だ。
25,000tを超えるグラ・バルカス海軍の大型艦には、艦そのものには大したダメージを入れられないはずだった。実際、エクスプレッセスティ側もせいぜい航空機運用を不可能にする程度を期待していた。
ただ、ネプチューンが直撃する直前、2隻の空母はちょっとした混乱状態にあった。自艦隊への直掩、グレートアトラスターから要請があった場合のスクランブル待機、そして攻撃隊の準備と、飛行甲板・格納甲板の要員は忙殺されていた。
そこへネプチューンが着弾した。空母を狙って3発ずつを発射していたが、1発は慣性誘導からアクティブレーダーホーミングに移行した時点で発射時の目標を逸しており、駆逐艦に突入した。
マルカブに2発、アルゲニブに3発が命中した。
……覚えて居られるかも知れないが、エクスプレッセスティの空母『ヴァルキュリア』は、あるものを搭載する事を危険視し、ミル・アントノフ(ミル・ボーイング) Mi-17An(Bo)/D ヘリコプターの開発に踏み切った。
一方、グラ・バルカスの空母では、現状、どうやってもそれを排除できない。
それは────────
ガソリンである。
ネプチューンの爆発の衝撃と爆風で、ガソリンをたっぷり飲んだ搭載機が破壊され、直後に引火。大火災が発生した。
マルカブに命中した1発は、進入高度が僅かに高く、飛行甲板に直撃していた。搭載機、給油車が破壊され、大爆発を起こし、この時点で飛行甲板に大穴が開けられた。
アルゲニブには3発が命中したが、艦そのものに対してのダメージは最初、それ程でもなかった。だが、複数の火災が発生し、対応が充分行えていないうちに、他の飛行甲板上の搭載機にも延焼し、炎上中の搭載機から燃える油脂類が滴り、木製の飛行甲板自体が燃え始めた。
空母はトップヘビーになりやすいため、難燃化技術が未発達な一方、エンジンがレシプロだった第二次世界大戦時の空母は、基本的に木製だった。
この脆弱性を解決しようと、飛行甲板装甲化の試みが行われ、日本では『大鳳』、イギリスでは『イラストリアス』級が設計されたが、いずれも復元性(船舶が傾いた際、自然に水平に戻ろうとする力の事)確保のために飛行甲板の高さを下げざるを得ず、排水量に大差ない前級より搭載数が激減してしまった。
アメリカは第二次世界大戦時にはこの試みを実行しなかった。
ただ、地球の空母はいずれも飛行甲板の耐熱不燃化の必要に迫られた。それはジェット機の登場である。
一方で第二次世界大戦時のようにガチガチに装甲することはトレンドから外れたため、巨大化することで解決を図ったアメリカ以外の空母は、トップヘビーを避けられる程度で耐熱不燃化した。
ジェット燃料は揮発度が高くなく、ガソリンに比べると遥かに安全性が高かった。
当たり前だがエクスプレッセスティはジェット機空母しか運用したことがない。グラ・バルカスの空母が第二次世界大戦相当の存在で、飛行甲板が木製であるという情報はあったので、「飛行甲板破壊して本国送還にしたろ」という程度でネプチューンを発射したのだが、エクスプレッセスティ側の想定を遥かに超えて、実際に被弾した、マルカブ、アルゲニブのガソリン火災は深刻なものになっていた。
さらに不幸だったのは、急速に炎が広がったため、本来、火災に対処するはずの、応急要員、甲板要員の少なくない人員が、炎に巻かれて絶命した。
さらに、炎に炙られ続けた弾薬類が、甲板上で爆発を繰り返し始めた。
ドゴォオォォォン!!
マルカブの艦尾付近で大爆発がおきた。弾薬庫か、それとも給油用のガソリン設備が、高温で誘爆を起こしたのだろう。
「艦長! 今の爆発で消火栓が使用不可能になりました! 放水もできません!! 格納甲板の艦尾応急班との連絡も途絶しました!!」
──燃え尽きるのを待つしかないか……
空母の上部構造物は脆弱だが、船としての艦体は強靭で、上部構造物が破滅的な損傷を受けてもそう簡単には浮力を失わない。
ジェリックがそう考え、指示を出そうとしかけた時、さらなる悲痛な報告が入ってきた。
「艦尾プロペラシャフト軸受損傷! 第1軸停止! 他の軸からも大量浸水が発生しています!!」
絶望的だった。そこから浸水が始まったということは、最早マルカブが船舶としての命すら失いつつあるということだ。まだ隔壁で浸水を抑えることはできるかも知れないが、それができたとしても、機関室まで浸水するのは時間の問題だろう。
「総員退艦だ。急げ」
ジェリックは無念の思いで、短くそう言った。
『女の出来損ないのようなやつに、軍艦を指揮させるべきではない』
ジェリックは、自身の見た目から度々そう謗られていた。グラ・バルカス帝国全体では、女性軍人は皆無できなかったが、海軍には極端に少なく、しかも地上要員や、航空機の
そんな中で、ジェリックは空母マルカブ艦長、そして今回のイルネティア攻略で名を上げ、そのような誹謗を払拭したいと願っていたが、どうやらそれは果たせそうにない。
「ハッ……総員退艦、下令いたします」
ジェリックの心中を知ってか知らずか、副長はそう言って、ジェリックの命令を艦内に発した。
ジェリックがこの時、 “船長の最終退船の大原則” (軍艦・船舶の長は、乗員・乗客のすべてに責任を持ち、非常時の脱出にあたっては全要救者の退船・退艦の後に自らが脱出する事。ただ日本では、その結果死亡した船長・艦長、ついでに類似例として鉄道列車の機関士・運転士に、上位の責任者が “死人に口無し” で責任をおっ被せてしまう事態が散見されたため、法律上は廃止されている)に従ったものか、或いは生還を望まず最初から艦と運命を共にするつもりだったのかは、この後も本人が語らず不明である。
ただ、結果を言えば、艦橋に残ったジェリックが、結果的に生存した。
この頃、最初は爆発的な損害を受けていなかったアルゲニブは、懸命の消火活動が続けられていた。
だが、なまじ最初に爆発しなかったがために、マルカブの総員退艦発令までに、飛行甲板と格納甲板で、給油設備の誘爆により合計3回の大爆発を起こした。
その衝撃が大きく、無数の箇所で小規模な漏水が発生し、時間の経過とともにそれが貯まって、ゆっくりと右舷側に傾き始めた。
3度の大爆発以外にも、繰り返される爆発で、浸水は段々と酷くなり、さらに右舷側へり傾きが発生するため、それを水平に戻すため、左舷側の区画を隔壁で閉鎖して注水する、を繰り返したため、舷側が徐々に低くなっていた。
そして、ペガスス級航空母艦……グラ・バルカス帝国のほとんどすべての空母に共通するある問題が、アルゲニブの命運を決めた。
グラ・バルカスの空母は、舷側に突き出し、下方を向けた煙突を採用している。
これは、飛行甲板上に排気が滞留することを防ぎ、さらに海面で排気が冷却されるため、艦周辺の気流の乱れを抑える事もでき、メリットが大きかったのだが、致命的な欠陥もあった。
それは、一度煙突が水没すると、そこから逆サイホン管効果で、一気に艦内、しかもボイラー室に大量の浸水を発生させてしまうのである。
マルカブの総員退艦発令から、およそ20分後────
ボゴッ、ドグワァアァァァァン!!
凄まじい衝撃とともに、アルゲニブは艦体が裂け、その一部が木っ端微塵になりながら、大爆発を起こした。
煙突から大量の海水がボイラー室へと逆流した結果、水蒸気爆発が発生したのだ。
その直前まで航行への復旧の努力が続けられており、アルゲニブの乗員、搭載機搭乗員は、生存者ゼロという悲惨な事になった。
さらに、漂流中のマルカブの乗員のほとんども絶命し、その時点での生存者の多くも、急速に沈んでいくアルゲニブの艦体が発生させた渦に引き込まれた。
その上、その救助のために、動力をほとんど切った状態(この時にスクリューが回っていると、巻き込んでしまう)で2空母の付近に接近していた駆逐艦の乗員の一部が死傷した。
そして悲惨極まる事に、これらの駆逐艦は、自艦の安全確保のために、スクリューを起動して離脱する事になった。
グラ・バルカス帝国海軍の誇るペガスス級空母、マルカブ、アルゲニブは、敵側にも想定外の破壊を受け、喪失された。
独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食