グラ・バルカス空母機動部隊が、まだ炎と戦っていた頃────
戦艦『グレートアトラスター』戦闘艦橋。
──少なくともイルネティアにはこんな事をする能力はない……ムーにもない……とすると……
ラクスタル艦長の思考は、ひとつの可能性しか残っていない事に至る。
──エクスプレッセスティか……
エクスプレッセスティの軍事力、軍事技術がどれほどのものかわからないが、そんな事ができる国がそれ以外に存在しない以上、その結論にしか到れなかった。
──だが、そもそもどうやって空母機動部隊を……
ラクスタルは、そこに思考をとられてしまった。
一度イルネティアの飛竜隊に接触されているが、その時点からはかなり場所を変えているはずだ。イルネティア軍の注目はグレートアトラスターに引きつけられていたはず。
──航空機……いや……
ラクスタルが思い至ったのはその可能性だった。
実は、対水上レーダー・対地レーダーは、精度はともかく、探知範囲は第二次世界大戦の頃から大して広くなっていない。
これは、地球が丸いのに対し、レーダーに使う
だが、レーダーの位置を高くすれば、探知範囲は劇的に広がる。
レーダーの送受信アンテナが高さ15m程度だと、20kmも見通すことができない。だが、高度3,000mに上がれば、それは一気に150kmを超えて探知できるようになる。
だが、そのような航空機が飛んでいれば、グレートアトラスターのレーダーに捉えられるはず ──── ────
────と、思い込んだところが、ラクスタルのグラ・バルカス軍人としての限界だった。
『トッポリーノ1よりキルクルス
『キルクルスHQ了解』
ドイバ上空 3,000m。エクスプレッセスティ空軍の空飛ぶギャグ空前絶後の
An-3 の最高速度は 260km/h 、巡航速度は 225km/h 。ヘリコプターのような独特な機動もしないため、第二次世界大戦レベルであるグラ・バルカスのレーダーでは、ワイバーンと区別がつかない。
────────ん長、艦長!!」
「ハッ!?」
部下の必死な声で、ラクスタルは思考の沼から引き戻される。
ゴーン!!
グレートアトラスターで、衝撃音を響く。音の割には、艦橋まで衝撃は伝わってこないが……
「指揮をお願いします!! イルネティア艦隊が攻撃を始めています!」
イルネティア海軍 旗艦・防護巡洋艦『レプシロン』。
エクスプレッセスティがムーから買い上げ、イルネティアに供与した巡洋艦は、つい先日まで、やはり旗艦だった戦列艦から、艦名を譲られた。
元々はムーのラ・グリスタ級防護巡洋艦で、記念すべきムー初の蒸気タービン艦、ラ・ホトス級の改良準同型艦だった。ただしラ・ホトス級とラ・グリスタ級のタービン機関は、組み合わせギアを持たず、高速・低速で使用タービンが別れていない、所謂直結タービンだったが。
ムーとしては当初、新造艦開発・建造費確保のための、巡洋艦のエクスプレッセスティへの売却にあたっては、もう少し旧型の巡洋艦を売却する予定だったが、イルネティアの風雲急を知り、エクスプレッセスティとの打ち合わせで、ラ・グリスタ級とラ・ホトス級の4隻を売却することに決定した。
玉突き方式で、より旧式の戦列艦が旧『レプシロン』に艦名を譲り、同じようにムー中古巡洋艦に艦名を譲った旧式戦列艦は、近い将来処分する事を前提に『第01 (~04) 特別戦列艦』として、固有名を振らずにあった。
「おかしいな……」
艦隊司令のルパイトは、眉を顰める。
「おかしぃ(*゚ー゚)のは
「なんか言ったか?」
「いえ! おかしいとは?」
『レプシロン』艦長、イトルが訊ねる。
「エクスプレッセスティの見立てでは、グレートアトラスターの主砲の射程は 40,000m から 50,000m。それが今、我がレプシロンの射程まで我々が接近しているのに、攻撃してこない。どういう事だ」
「…………外交官が帰還しないから、ではないでしょうか?」
イトルも、言われてみて訝しげに思いつつ、そう言った。
「その可能性はあるかもしれないが……」
当初、イルネティア軍側としては、ダラスらの乗った内火艇に続航してグレートアトラスターに接近し、射程内から一気に攻撃をかける …… という作戦だった。
だが、エクスプレッセスティ側が「交渉決裂確定の時点で空母に攻撃し、追っ払いたい」「グラ・バルカス帝国の主権の存在を否定する態度を明確にしたい」という事で、イルネティアの港湾から離れた時点で、ライバーシーが内火艇を捕獲した。
この為、懐に飛び込むまでの間、ある程度は損害を覚悟してグレートアトラスターの西側を塞いだのだが、グレートアトラスターはまだ攻撃してこない。
この時、グラ・バルカス海軍の2隻の空母は、攻撃側のエクスプレッセスティにも想定外の損傷と火災に見舞われ、グラ・バルカス艦隊は大混乱の真っ最中だったが、イルネティア艦隊にはこの事がまだ伝えられていなかった。 ── っつーか当のエクスプレッセスティがそんな大損害が出ているとは思ってもいなかった。
「まぁいい……砲戦距離最大! 射撃準備!!」
レプシロンの主砲、40口径15.2cm砲の最大射程は公称10,500m。ただし、これはあくまで砲の性能である。ラ・ホトス級開発の時点のムーでは、曲射での砲戦についての研究が稚拙で、統制射撃装置がないため、実際の有効射程は個別照準が可能な6,500m以下となる。
だが、ルパイトは、敢えて最大射程近くでの射撃を命じた。
──エクスプレッセスティが必ず沈めると言ったのだ …… 我々は充分、注意を引き付けるまで!!
ルパイトは、距離感が狂ってしまいそうな程巨大なグレートアトラスターを睨みつけながら、覚悟を決めた。
「砲戦準備よし!」
「撃ち方はじめ!!」
ドゴォッ!!
「応射せよ!!」
ラクスタルは命じる。
既にイルネティア艦隊が方位を開始した時点で、ラクスタルは砲戦準備を命じていた。
ドゴゴゴゴゴォン!!
グレートアトラスターの45口径40cm砲 ──── 実際には46cm砲なのだが、グラ・バルカス帝国海軍はこれを秘匿していた。だが、『大和』に酷似していたのが仇になり、エクスプレッセスティに端っから疑われてしまい、既に動画や写真を入手され、その上AI補正を含む分析で既に口径46cmと割り出されていた。そしてその情報を、友好国どころかミリシアルにまで伝えてしまっている。 ────、3連装3基の砲塔のうち、前部の2基6門が火を吹き、腹に響くような強烈な音が轟く。
ドゴォオォォォンッ!!
46cm砲弾が降り注ぎ、水柱が上がる中で、チカチカと炎が瞬いた。
その水柱の中心にいた防護巡洋艦『コウム』が、ただ1発の命中弾で、見る影もないスクラップと化していた。
「ぐぅうぅぅぅっ……、当たればひとたまりもないと、解っていたとは言え、こうも容易く……」
ルパイトは、悔しさのあまり唸り声を出す。
「敵主砲、左に向きます!!」
見張りの報告が上がる。
既に、巨大なグレートアトラスターの主砲塔が、向きを変えるのが見える程の至近距離なのだ。
ドバァッ!!
コウムのすぐ隣を航行していた巡洋艦『ハルケン』が、同じように水柱に包まれる。
ガララララ……
音速を超える巨砲の発射音が、着弾よりも遅れて聞こえてくる。
「ああ、『ハルケン』が……」
イトルが、気落ちしたかのような声を出したが────
「い、いいえ!」
崩れかけた水柱の中から、その飛沫を浴びつつ、ハルケンは26ノットの全速で驀進しながら姿を現した。
「健在です! ハルケン、健在です!!」
グレートアトラスターは
この当時の艦砲、長射程曲射砲は、「とりあえず目測つけて多くの砲弾撃ち込んでその中から命中弾を出す」というもので、それはレーダー照準でも、夜間や煙幕の様に光学的に視界を遮らない限り、純粋な光学照準と大差なかった。
最も近いだろう Mk.37 GFCS を持つアメリカですら、レイテ沖海戦で 1% を切るという、とても必中という精度ではなかった。
本当の意味で一撃必中と呼べる精度が確保されるのは、時代も大きく下ってベトナム戦争の頃だ。
ドンッ!
ハルケンの15.2cm砲が火を吹く。
それは、グレートアトラスターの分厚い装甲で守られた甲板や艦体、主砲塔ではなく、側面の高角砲群に飛び込み、至近の機銃座を薙ぎ払った。
「いいぞ! ────我々は無力ではないようだ! 攻撃続行、全艦全速!!」
グラ・バルカス海軍が、不死の魔王の様に思えていたイルネティア艦隊だったが、グレートアトラスターの砲が百発百中ではないこと、イルネティア側の攻撃がまったくの無力ではないことを知ると、艦隊の士気は一気に上がる。
「覚悟しろグレートアトラスター!! 我々は貴様の水先案内人だ!!」
「構うな! 手数はこちらの方が遥かに多い、あんな旧式巡洋艦が我が艦に与えられるのはかすり傷程度だ! 撃ち方続行!!」
ラクスタルもまた、部下を鼓舞し、イルネティア海軍を振り払おうと、グレートアトラスターに戦闘を続けさせる。
────グレートアトラスターより南側、海中。
「敵位置受信」
エクスプレッセスティ海軍、潜水艦『ミズフロス』、司令塔。
オペレーターが報告そう、大きくはないがはっきりと聞き取れる声で言う。
「1番2番USM発射。次発装填魚雷」
「了解」
艦長、ノムン・エリナ・ソグ中佐が下令すると、オペレーターがそれを実行していく。
シュッ、シュッ……
ミズフロスの魚雷発射管のうち2本から、耐圧カプセルに覆われたSM39潜水艦発射型対艦ミサイル『エグゾセ』が、射出される。
「アンテナマスト格納、潜望鏡深度を維持、方位修正右2°、
「了解」
ゴッ……
AIP用閉サイクル蒸気タービンの高温高速燃焼ボイラ部のバーナーが火力を増し、ラジアルタービンを有効な電気出力が得られる回転数にまで上げる。
一方、発射されたエグゾセは、海中で固定ロケットブースター『ナルヴァル』に点火し、加速しながら海面に出て、カプセルから分離し、そのままメインサステナー『トリスタン』ロケットに点火して、低空を飛翔していく。
「敵戦列艦部隊、攻撃を開始しました!!」
「クソッ……」
報告に、ラクスタルは表情を歪める。
グレートアトラスターが残り2隻のはずのイルネティア巡洋艦に翻弄されているうちに、戦列艦までもがグレートアトラスターに向かって砲撃を加え始めた。
グレートアトラスターの戦艦としての生命を司る部分、
──この、この…………この敵の、執念深さはなんなのだ!?
ラクスタルは、声に出さずに激しく毒吐いた。
「ええい、巡洋艦に限らんでいい!! 戦列艦でもいい、主砲の手の届く相手から殲滅しろ!!」
ラクスタルが、そう怒号を上げた時────
運命は、小数点以下12桁に至るだろう “可能性のいたずら” をしていた。
或いはトーパの人間なら、「太陽神に歯向かった報い」と言うかもしれない。
ミズフロスが発射した2発のエグゾセのうち、1発は、海面脱出時の衝撃で、
慣性誘導を終了し、ARHに移行するも、そのエグゾセは、自身のホーミングヘッドから発されるレーダー反射波を捉えられなかった。
本当に、本当に奇跡の出来事。
そのエグゾセは、反射波と思しきXバンドレーダーのパルス波を検知し、そこへ向かって己を導いた。
────Xバンドのパルスレーダー波を放つ、パラボラレーダーアンテナが添えられた測距儀めがけて、エグゾセは突入していった。
ドゴォゴォォン!!
「な…………」
ルパイトは、いやイルネティア艦隊の誰もが、一瞬見とれた。
明らかに自艦隊の攻撃ではない大爆発が2回、グレートアトラスターを見舞った。
そのうちの1発は、イルネティア艦隊の人間には詳しくは解らなかったが、グレートアトラスターの艦橋の天頂部付近、おそらくは重要な部分を破壊した。
だが────
ドゴゴゴォオォォン!!
その攻撃を受けてなお、グレートアトラスターの第2砲塔が火を吹いた。
「そ、そんな…………」
一転、ルパイトも、イトルも、絶望に打ちひしがれた。
「エクスプレッセスティの兵器でも、グレートアトラスターには効かないと言うのか……」
膝が崩れ落ちかけるのを、なんとか堪えていた。
ドゴゴゴォオォォン!!
グレートアトラスターの第1砲塔の射撃が放たれ────
「?」
狙われたであろう戦列艦『ワタルミ』の、グレートアトラスターとは反対側、数十m先に、3発の水柱が上がる。
「いえ……いえ! なにかが起こったようです!!」
命中は難しいとは言え、ここまでコンスタントに至近弾、夾叉弾を出していたグレートアトラスターの射撃は、大きくイルネティア艦から外れるようになっていた。
気付くと、先程までは3基の砲塔のうち、前部2基か、全3基が同時に射撃していたのに対し、3基の砲塔がバラバラに射撃している。
「…………これが……これがエクスプレッセスティ兵器の、本当の力か!!」
一度崩壊しかけた意気地と執念が、一気に蘇る。
「損害に構うなぁ! 全艦、全速で敵戦艦を翻弄しつつ砲撃を続行せよ!!」
『了解ィイィィィ!!』
独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食