フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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暴虐には暴虐を編
破綻へのテイクオフ


 エクスプレッセスティ共和国、首都エムブr「押し込めーッ!!」

 午前8時、少し前。

 E(エクスプ)x(レッセス)R(ティ国鉄)北南線、アフェクト駅。

 既に電子音の発車ベルが「プルルルルルル……」と鳴り響く中、「押し屋」「尻押し」と呼ばれるアルバイト要員が、停車中の10両編成の電車に通勤客を押し込んでいる。

 ExRには北部本線という、港湾・工業都市エナジポリスから、東部プラ連山系の麓の北部の田園都市ネクタリアまで伸びる路線がある。が、首都エムブラセクスを経由しないため、エナジポリス近郊区間以外は、点在する中小都市近郊の交通と、農業関係の貨物輸送が主体の、 “本線” とは名ばかりのローカル線になっている。

 北南線はその北部本線とエムブラセクスを結ぶために建設された路線で、基本はこれもローカル線なのだが、途中にある都心40km圏内の地方都市エンブリオンがエムブラセクスのベッドタウン化したため、エムブラセクス中央駅を起点として60kmのところまで電化され、ホーム有効長も伸ばされた。

 アフェクト地区はエムブラセクス北側の外縁部に存在する住宅街であり …… つまり、それだけ鉄道の利用者が多い。

「ムギュ……!!」

 扉の方向から加わる圧迫により、彼女────キラ・キャサリン・テイラー・カマチは、より奥の乗客に押し付けられる。

 彼女のそこそこ豊かなバストに、硬い筋肉が押し付けられる感覚があった。

「あら? オトコ?」

 キラが相手を見上げると、短髪の美丈夫の顔があった。

「すっ、すみません。俺……自分はトーパ大使館の者でして……」

 相手がそう言うのとほぼ同時に、

「閉めろーッ!!」

 と、車外で叫び声が上がった。

 ExR303系(元・相鉄新6000系)に、他の系列同様、ホーム長合わせの18m車2両と、歯車比を変えた相鉄旧6000系電動車を挟んでいる。混雑の酷い路線のため、18m車は客室扉が片開き片側4扉の、元京急700形・800形がクハ1200形・サハ1700形として組み込まれている。京浜急行電鉄は1,435mm軌間の為、台車は元営団3000系・5000系から外してきたものに履き替えている。

 電車の塗装はラインカラーの、濃いストロベリーピンクとなっていた。

 その、両開き・片開きが1編成中に混在する扉が、「キンコーン、キンコーン」という扉作動チャイムと共に、プシューッと空気式ドアエンジンの音を立てて閉じられる。

「ふぅ……」

 押し屋の1人が、ホームで息を()いている背後で、電車がホームから走り去っていく。

 電車の塗装はラインカラーの、濃いストロベリーピンクとなっていた。

 その車内。

「外交官? だったら大使館近くに官舎とかないんですか?」

 エルフの混血者に見られる、やや尖った耳の持ち主に対し、キラはそう問いかける。

「いえ、自分は正規の外交官ではないんです。一応大使館付武官なのですが、体の良い雑用係みたいなもので」

 相手は苦笑しながら答えた。

「あー……まぁ都心部は地価も高いですしねぇ……」

「そう言うことです。それと、ついでにこの国の生活様式というものをリサーチしてこいと……」

「そう言うことでしたか」

 相手に対し、キラも苦笑した。

『次はー合同会館、合同会館です』

 北南線のエムブラセクス近郊区間が混雑するのはもうひとつ理由がある。途中に官庁街があるのだ。お陰で平日8時台の乗車率は平均約220%と、ワースト1になっていた。

 電車は強めにブレーキをかけつつ、合同会館駅のホームに滑り込む。エムブラセクス中央駅北側の開発開始後に設置された、プレハブ構造の簡素な規格型駅だ。

「お、降りまー……」

 キラと、相手の男性が、反射的に声を出すものの、

 プシューッ…… キンコーン、キンコーン

 という音とともに、扉が開くと、2人が乗っていた車両の、片開きの扉に向かい、2人が動くまでもなく凄まじい降車客の流れで、歩いているのか浮いているのか解らないまま、ホームに押し出されていた。

 駅名どおりに、西口側に政府機関が使う共用のホール設備のあるビルがある。西口側には簡素な、東口側にはループのある、それぞれトロリーバスの発着場がある。

「それじゃあ、失礼します」

「あ、ええ……失礼します」

 キラの挨拶に、相手の男性がそう言って、キラは自身の職場である外務省へと向かった。

「おはようございます」

「あ、おはようございます」

 キラは、門から中に入る際に、守衛の立番に挨拶して、外務省本館に向かう。玄関でICチップ入りのIDカードで扉のロックを外し、中に入ると、そのまま、そのIDカードを出退勤記録機にもかざす。

 総務国際本部。各国との個別の部門の他に、国際連合を始めとして、国際会議や、多国間の条約についての事務一般を取り仕切る部門だ。

 転移後、国連とのやり取りがなくなったため、半ば開店休業状態だったが、神聖ミリシアル帝国の使節団から先進国会議を提示されて以降は、一転デスマーチ職場化した。もっとも、とりあえず開催までの間の仕事量が多いだけで、常態化するわけではないのだが。

 エクスプレッセスティ共和国政府は、当初、ミリシアルが提示した「先進11ヶ国会議」について、辞退する方針だった。その上で、列強第1位とされるミリシアルに、そのプライドを毀損するような条件をふっかけて、

「あくまで参加するつもりはない」

 と、意思表明した────つもりだった。

 ところが、フィアームらミリシアルの使節団が、自国を遥かに凌ぐエクスプレッセスティの技術力を目の当たりにしてしまった結果、

「エクスプレッセスティ共和国と敵対する事態は全力で回避しなければならない」

 と、判断したミリシアルは、先進国会議の主催者として、エクスプレッセスティの言い分をほぼ丸呑みにしてしまった。

 ある意味とばっちりを食らったのがクワ・トイネ公国とロウリア連合王国で、エクスプレッセスティが「新設の“大東洋枠”の最初の持ち回り2ヶ国は、クワ・トイネとロウリアにする事」と、あくまでミリシアルが蹴飛ばすことを前提にした条件だったため、いきなり「参加してください」となったものだから、両国のリンスイ外務卿やマオス筆頭大臣は、エクスプレッセスティが “差し入れ” た『リポビタンN3』(日本国内商標『アルフェNEO』)を1日3本消費しながら準備に追われていた。

 そして、外務担当が激務になったのはエクスプレッセスティも同じ事。

 キラが自身のオフィスに入ると、職員の机には資料が山積みされていて、乱雑としている。さらに、帰宅を諦めた2人程が、ビニールシートと布団を敷いて寝泊まりしていた。

 キラは、出勤早々疲れたような表情になりながら、ため息を()きつつ、

「ちょっと、そこの2人、もうすぐ始業時間になるわよ」

 と、そう言いながら、自身のデスクに向かう。

 そのキラの机の上も、資料が山積みにされ、USB接続ケース入りの2.5インチHDDが置いてあったりする。

「んぁ…………はっ!? ちょ、ちょっと、朝よ朝!!」

「ふぇ……」

 2人が起き、外が明るい窓と、8時30分に差し掛かりつつあるカシオ製壁掛け時計を見て、慌てて起床し、布団を片付け始めた。

 キラは自身の席のパソコンを休止から復帰させ、パスワードを入力する。通常画面に復帰すると、資料作成中の Power Point のウィンドウが表示された。

「さてと、今日中にこの資料は仕上げたいわね」

 他の職員も入室してくる中、キラは呟くように言いながら、始業時間を迎えた。

 

 

 グラ・バルカス帝国、帝都ラグナ。

 外務省、外務大臣執務室。

「現在のところ、エクスプレッセスティ共和国の国際関係ですが……────」

 外務事務次官のパルゲールが同席する中、外務大臣のモボールに、東部方面異界担当部長兼第3課長のシエリアが説明を始める。

 シエリアがどうして部長と課長を兼任しているのかと言うと、昨年の今頃、イルネティア南岸沖海戦の頃までは、ゲスタという人物が部長を務めていたのだが、この人物があからさまな男尊女卑思想の持ち主だった。

 その酷さたるや、直属の部下であるシエリアにも暴言を度々吐いていた程だった。

 彼の思想が、“女性だけの国”エクスプレッセスティ軽視に繋がり、結果として外務省側が軍に、グラ・バルカスの力と恐怖のシンボルだった超巨大戦艦『グレートアトラスター』を単独行動させ、結果としてグレートアトラスターがエクスプレッセスティの潜水艦の攻撃で行動不能に追い込まれ、鹵獲され、またそれが遠因で空母2隻を喪失する、という事態を招いた ──── という()で外務省の責任をゲスタにおっ被せ、哀れ彼は外務省の庶務総部という、外務省職員でありながら外交には基本的に関わらない職へ飛ばされた。

 ちなみにこの部署は元々女性が多く、彼はオバタリアン職員に揉まれて、今では胃薬が手放せない状態になっている。

 本来であれば第3課長に新たな人間を据えるべきだったが、先進14()ヶ国会議に向けてエクスプレッセスティ共和国への対応方針を決める必要があったために、第3課長を他者に引き継いでいる余裕がなく、会議までの間はシエリアが兼任する形になった。

 そして今、グラ・バルカス帝国でも、先進14ヶ国会議に向けて、準備が進められていた。

「まず、地理的にエクスプレッセスティに近い、フィルアデス大陸とロデニウス大陸の周辺諸国については、基本どの国に手を出してもエクスプレッセスティの許容範囲を超えるでしょう。特に ────」

 シエリアは、モボールの執務机に広げられた地図を指差す。

 地図とは言っても、ミリシアルや、ムー国、パーパルディア皇国で一般に購入できる地図を繋げたもので、エクスプレッセスティが航空測量で作成したものとは比べものにならない程、雑なものだ。

「──クワ・トイネ公国、フェン王国、ロウリア連合王国、パーパルディア皇国。このあたりに手を出すと、確実に、介入、報復を招くと言っていいでしょう」

「ふむ、他の地域は?」

 モボールが、続きを促すように言うと、シエリアは、地図の指差す場所を大きく変えつつ、説明する。

「ムー国に関しては、これは先に挙げた4ヶ国以上に関係を重視している国ですので、エクスプレッセスティの逆鱗と言っても過言ではありません。同様に、ムーの友好国についても、どのあたりまでが許容範囲か、現在のところははっきりと言えません」

「とにかくやりにくいな」

 モボールがぼやくように言う。

 エクスプレッセスティ政府は、グラ・バルカス帝国について「国家の3要件、 “国土”、 “国民”、 “主権を保持するための統治能力” を満たしていないため、独立主権国家とは認めず、非合法武装組織と見做す」としているため、エクスプレッセスティ自体以外でも、下手につつくと相手は理性のタガが外れた状態で報復してくる可能性が高い。

 極論すると、エクスプレッセスティが独立国として承認している国は、どれを攻撃してもエクスプレッセスティに報復の大義名分を与える危険性があった。

「この際、逆にエクスプレッセスティと関係が良くない国を挙げてもらえないか?」

 パルゲールが、手振りを加えつつ、シエリアに求めた。

「はい。 ────まず、クワ・トイネ公国の南に位置するクイラ王国。人種政策で()()が合わず、ドライな関係を保っています。ただし、エクスプレッセスティはこの国から、石油をはじめとする必須の資源を輸入しているため、迂闊に手を出すと自国の安全保障が脅かされる為、他の友好国同様、介入してくる危険性は極めて大きいです」

「……まぁ、地理的にも近いしな…………」

 それを聞いて、モボールが、軽くため息をつくようにして、言った。

「それと、実際のところは神聖ミリシアル帝国と、その影響が強いミリシエント地域、以前は中央世界を自称していた地域ですね。ここにある国とは基本的に関係良好とは言えません」

「意外だな……────」

 モボールは、最初そう言ったものの、

「──ああ、そう言うことか」

 と、呆れの混じった苦い顔になって、自己完結したように言った。

「そうです。このあたりの国は、科学文明を理解しきれないため、我が帝国同様に、エクスプレッセスティも下に見る事が多いからです。エクスプレッセスティ側もこれらの国はバカにしてジョークのネタにする事が多いです」

 シエリアも言い、やはり呆れたような様子で息を吐き出した。

「他にも、ムー大陸、旧第2文明圏でも、今回の会議に参加するマギガライヒ共同体なども、同じ傾向にあると見ていいです」

「なるほど……」

「それと────」

 納得の声を出したパルゲールの声が、更に続く前に、シエリアが続ける。彼女の指は、ミリシアルからずっと南の、少し大きめの島を指していた。

「アニュンリール皇国。こことは積極的に敵対しているかどうか以外、 ──── 表現を選ばずに言えば、エクスプレッセスティ側の扱いは我が帝国と同じです」

「! つまり、国家として認めていないと?」

 モボールが、気付きつつも眉を潜めながら、そう言った。

「はい。この国も鎖国を敷いていて、本土を隠しています。この島はいわば“出島”です。しかも、我が帝国の収集した情報からも、どうも胡散臭い部分があり、それがエクスプレッセスティ側の不信感と言うか …… 不快感となっているようです」

「ふむ……もし、帝国軍がこの国を攻撃した場合、エクスプレッセスティの報復や介入の心配はしなくても大丈夫だと考えていいのか?」

「100%断言できない、という程度ですね。まず我慢するでしょう……いえ、我慢も何もありませんね。『あーそーですか』で意にも介さないかも知れません」

「そこまで嫌われるのも、ある種才能だな……」

 パルゲールが、呆れた様子でそう言った。

「エクスプレッセスティ共和国と、現状で武力衝突の事態を避け、我が帝国の地盤を固めるとすれば、どの様に振る舞うべきか?」

 モボールが問いかける。

「ある程度のリスクを甘受する前提であれば、ムー、パーパルディア、ロウリア、クワ・トイネ、フェン、これらの国とその友好国を避ければ、エクスプレッセスティも手が出しにくいと思われます」

「根拠は?」

「エクスプレッセスティは、立憲議会制の共和国家です。我が帝国を国家として認めず、 “非合法武装組織” と定義することで、自国の軍事介入の手続きをスキップしているとは言え、どの国もあの国もとやっていては、戦費負担について追求されるでしょう」

「まぁ、そうだな」

 シエリアの説明に、モボールも説得力を感じて、短く言った。

「特にミシリアルがその中に入っていないのは大きいな……併呑して前進基地にし、同時に戦力を喪失させれば、エクスプレッセスティだけではその後の対処も難しくなるだろう……」

「ただ、もしミリシアル攻撃を先に行った場合、抑留者の返還は絶望的になりますが……」

 シエリアが、眉を顰めて言う。

 イルネティア南岸沖海戦で、鹵獲されたグレートアトラスターの乗員を中心に、2,000名を超えるグラ・バルカスの海兵がエクスプレッセスティ軍に捕縛されている。

 エクスプレッセスティは彼らを正規の軍人と見做していない上、交渉チャンネルが存在しないため、捕虜として返還を要求することすらできない。

「…………難しいな。これは外務省だけでは決定できない問題だ……特に、家族との矢面に立っている軍本部の意向がはっきりしないと、なんとも言えん……」

 その軍本部、本部長のサンド・パスタルらは、政府内にある慎重論と積極論とに板挟みになっていて、この問題について決定することができずにいた。

 家族側も「抑留者が帰還するまで軍事力行使は慎重になるべき」という主張と、「武力行使をしてでも抑留者を奪還するべき」という2派に分かれてしまっている。

 モボールは、肘をついて組んだ手の上に顎を乗せて、ため息を吐いてから、言う。

「先進14ヶ国会議より以前に、政府として意思決定ができるといいのだが……」

 





原作キャラがエンカウントしています。解った人いるかな?


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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  • そんなことよりカツ丼定食
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