フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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カルトアルパスの訪問者達

 神聖ミリシアル帝国、港湾都市カルトアルパス。

 ここは、世界有数の港湾設備を持つ都市であり、つい最近までは、寄港する船舶の数もミリシアル国内では最大だった。

 エクスプレッセスティ共和国のエムブラセクスに対するエナジポリス同様、帝都ルーンポリスに匹敵する大都市で、 “ミリシアルの第二の心臓” と呼ばれ、ていた。

 ────過去形になったのは、ここ1年ほどの事だ。カルトアルパスは最大幅14km程度のフォーク海峡を隔てた(ない)(かい)にあった。この為、3つの理由から、エクスプレッセスティ船が入港を避けるようになった。

 1つ目は、ミリシアルが海峡内の海底地形の詳細なデータを寄越さない為、エクスプレッセスティの大型船では座礁する危険性があった。

 エクスプレッセスティの大型船の多くは、喫水を浅くするための規格型双胴船だが、それでも政府が保証できない以上、保険会社が嫌がり、カルトアルパス寄港便の保険が発行されないか、発行しても法外な程の保険料が必要になり、公有民間問わずカルトアルパスに寄り付かなくなった。

 ミリシアルに黙って海洋測量艦『センスウェイブ』(元・JMSDF(日本海上自衛隊)『すま』)を寄港させて、測量してしまえという話もあったが、グラ・バルカス帝国への対応に重点をおいている今、そこまでしてミリシアルと悶着起こすのはいかがなものかという事で、それは避けていた。

 これに付属する2つ目の理由として、海峡内通過中、ほとんど無防備の状態に晒されるという点があった。

 エクスプレッセスティとグラ・バルカスの対立が深刻化している今、船舶が閉じ込められるような事態は回避する必要があった。外海側河口に潜水艦が潜んでいたりしたら目も当てられない事になる。

 そして3つ目は、これは、エクスプレッセスティはミリシアル側にわざわざ指摘していないのだが、カルトアルパスの実情である。各国の諜報要員が入り込み放題で、ここに下手に寄港すると、エクスプレッセスティが新世界技術流出制限法の規制対象としている技術や物資、機器類、これらが盗難される可能性がある為、エクスプレッセスティ政府が自国船籍のカルトアルパスへの寄港を避けるよう通達していた。なのでその分、余計に保険料も釣り上がる。

 もっとも、エクスプレッセスティ自身もここからエージェントを出入りさせていたため、その理由自体は国内にも公にしていない。

 エクスプレッセスティが避けるものだから、フィルアデス・ロデニウスの有力国であるパーパルディア皇国、ロウリア連合王国、クワ・トイネ公国も避けるし、ムー国も避けてしまう。

 この為、皮肉なことにエクスプレッセスティとの正式国交樹立後、かえってカルトアルパスは以前の盛況さを失いつつあり、特にエクスプレッセスティ船籍船が寄港するようになった、東部のゴースウィーヴスにその地位を脅かされ始めている。

 ────このカルトアルパスの港湾管理局々長でのブロントは、まだ敢えて寂れたとまではいかないものの、エクスプレッセスティとの国交樹立時の1年前と比べると、明らかに衰退したカルトアルパスに、些かの理不尽な思いが混じった寂寥を感じていた。

 彼はカルトアルパス港湾管理局の局員として、この都市の繁栄に誇りを持っていただけに、念願の局長に就任したものの、彼の責任ではないとは言え、カルトアルパスが衰退し始めたことに、若干の鬱屈も感じていた。

 ただ、今日ばかりはその責任感と矜持を保って、業務に臨んでいた。

 『先進14ヶ国会議』……カルトアルパスはその会場だった。この為、様々な国の外交官が乗った船舶が、このカルトアルパスにやってくる。

 重責を感じつつも、これは彼にとって密かな楽しみでもあった。ブロントは、日本語のスラングで表現するとミリオタ、特に海軍オタクだった。各国大使が乗ってくる軍艦を見る事が、彼の楽しみだった。

「この辺りのは代わり映えせんな……」

 湾内交通管理所で、ブロントは、湾内交通管制・通信士が進入してくる各国の船団の交通を捌いている声を聞きながら、窓から見える大港湾に進入してくる魔導戦列艦の姿を見て、そう呟いた。

 今、入ってきたのは、旧第1文明圏、ミリシエント地域の持ち回り枠であるトルキア王国と、アガルタ法国の、使節団の船団だった。

 外見的な特徴が出にくい魔導戦列艦の姿は、ブロントも少し食傷気味だった。

「ここに第零式艦隊があれば、各国の艦隊も貧相に見えるんだがなぁ……」

 ブロントは、腕を組んで、少し複雑そうな表情をしている。

 元々、『先進11()ヶ国会議』の開催期間中、ミリシアル海軍の最主力である第零式艦隊は、とある理由から、ミリシアル本土から南西沖のマグドラ群島で演習を行うことが慣例となっていた。

 …………が、現在はその第零式艦隊自体、半数が緊急改装中だった。エクスプレッセスティから、魚雷の存在の情報がもたらされたためだ。

 とりあえずの応急措置として、『魔光式防雷壁』が開発され、各艦に設置されたが、抜本的な解決としてはやはり物理装甲を追加するしかないということで、巡洋艦以上はこの改装が行われることになった。

 また、グラ・バルカス帝国が外洋型潜水艦を保有している可能性が極めて高い事も、合わせてエクスプレッセスティから伝えられた。

 エクスプレッセスティは、ウミノシルエット級護衛艦がかつて搭載していた、コンベンショナルな設計の水中ソナーと、やはり真新しさはないRBU-1200 5連装対潜迫撃砲の設計とサンプルを、ミリシアルとムーに提供していた。

 ミリシアルでは、ソナーに関しては概念をもとにして魔導式のものを新たに開発し、対潜迫撃砲は発射装薬と炸薬を自国製のものに改設計して、駆逐艦に取り付けを急がれている。

 そんなわけで、第零式艦隊には、既存艦大改装が始まるまでは技術部付とされていた、ゴールド級戦艦に属しつつ、次級・ミスリル級戦艦の武装テストベッドとして建造された戦艦『カンショ・バクーア』と、装甲巡洋艦1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦6隻と、平時定数の16隻に対して約半数の9隻だけが実働状態だった。

 ──エクスプレッセスティは、どんな艦で来るだろうか……

 そこに思考が及んだ時、ブロントはそれが気にかかった。

 エクスプレッセスティ艦はカルトアルパスを避け、ゴースウィーヴスに入港し、陸路でカルトアルパスに来る、という下馬評を覆して、エクスプレッセスティ政府は、直接、カルトアルパスに来訪すると伝えられていた。

『大東洋地域、ロウリア連合王国、到着しました。小型戦闘艦1です』

「了解。第4区画へ誘導せよ」

 ──ロウリアか……一昨年までは文明圏外で、魔導戦列艦すら持っていない蛮国だったはずだが……

 それを聞いて、ブロントは胸中で呟いた。

 エクスプレッセスティの要求で、「公の場で蛮族・蛮国扱いするんじゃねぇ」(超意訳)と通達されていたが、内心の呟きではどうしても出てしまう。

 しかし、誘導を受けて、湾内に進入してくるロウリア艦を見て、ブロントは思わず立ち上がり、その姿を凝視した。

 ロウリア海軍旗と、王室旗を掲げて入ってきたのは、小ぶりながらも明らかに金属でできた艦だった。ミ()()ルやムーのものとは明らかに異質だ。

 それは、エクスプレッセスティの『ビフォーリア』をリバースエンジニアリングした、ソビエト連邦1124P計画型コルベットのデッドコピーで、輸出・委託生産型として若干のダウンスペックをしたものだ。エクスプレッセスティ国内では1124PEC計画型と呼称されている。

 ダウンスペックとは言うものの、発射可能な艦対艦ミサイルを、射程が短く、サステナーが固形ロケットであるSM39/M『エグゾセ』とした点がほぼ唯一となっている。

 ちなみにSM39/Mは、潜水艦発射型のSM39を、エクスプレッセスティの第3セクター軍産企業体、B(ブリュンヒル)F(デ・ファイア)A(ーアームズ)が水上発射型に変更したものだ。本来の水上発射型は「MM」で始まるが、BFAの独自形式であるため、先頭は「SM」のまま、サブタイプ「/M」を後ろにつけている。

「エクスプレッセスティが供与したのか……」

 エクスプレッセスティ艦は大きさが当てにならない、という話は、ブロント達も知っていた。無敵巨大戦艦だと言われていたグラ・バルカスの『グレートアトラスター』を行動不能に追い込み、鹵獲した艦隊は、潜水艦を含む数隻の小型艦だったと言う。

 しかし何より彼らの想定外だったのは、エクスプレッセスティがぽん、とロウリア()()の国に鋼鉄艦を、供与なり売却なり、渡した事だ。

 この世界の常識では、先進的な国であるほど、自国の優位性を保つために、自国の技術、特に軍事に関するものを他国に渡さず、秘密にするものとなっている。

 以前、エクスプレッセスティがクワ・トイネやフェンに兵器供与をしたという話はあった。だが、それらは侵略が迫り瀕した友好国に対して、緊急的に行われたもので、その殆どは陸戦兵器だったと言う。

 だが、軍艦となると……対艦ミサイル搭載のコルベットなど、別の第三国への攻撃に使われる可能性が否定できない。

 ──だが、現状では、特にエクスプレッセスティの立場では、不思議でもないか……

 グラ・バルカスはミリシアルともいつ戦端を開いてもおかしくはない関係とは言え、エクスプレッセスティのグラ・バルカスに対する反応は、 ────

「問答無用、黙って滅べ」

 ────ぐらいの勢いであるため、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 ──それにしても、だ。ロウリアの今の国王はエクスプレッセスティが擁立した傀儡だと言われるが、先進的な軍艦を与えてくれるなら、傀儡でも万々歳じゃないか……

 ブロントはそう思いつつ、複雑な意識が絡まりあったため息を()いた。

『ムー地域、グラ・バルカス帝国、戦艦1、到着しました』

「了解、第2区画へ誘導せよ」

「来たか……」

 会話を聞いたブロントは、多少好奇心を示して、窓から港湾内を見る。

 すると、予告通り、大型の戦艦が1隻、進入してきた。

 ──あの程度か。

 グラ・バルカス海軍のヘルクルス級戦艦、『ラス・アルゲティ』の姿を見て、ブロントは少しだけがっかりしてしまった。

 少なくともサイズでは、自国のミスリル級戦艦と大差がない。計画中の新型艦は、グレートアトラスターを上回るサイズになるとも言われているから、むしろミリシアル優位のようにすら見えた。

 ──これではエクスプレッセスティには勝てないな。

 軍艦オタク、ブロントはそのような感想を抱いた。まだ直接見たことはないが、エクスプレッセスティ海軍唯一の大型艦、空母『ヴァルキュリア』の大きさと大差がないだろう。空母の戦力は搭載機によるところが多いが、それを言ったらなおさらグラ・バルカスに勝ち目がないような気がする。

「しかし、酷い煙だ」

 ブロントは、それは声に出てしまった。

「これも、技術の差かも知れないな……」

 『ラス・アルゲティ』は、煙突から重油焚きボイラの黒煙を吐き出しながら航走している。

 ミリシアルなど、魔導動力の船舶には無縁のものだ。

 だが、同じ機械文明の筈なのに、先程入ってきたロウリアの、おそらくはエクスプレッセスティ製コルベットの煙突からは、派手にもうもうと煙を出してはいなかった。

 エクスプレッセスティ艦は、蒸気タービン・ガスタービン併用が多いが、蒸気タービン用のボイラはいずれもJet-A燃料を主燃料とし、自国産GTL(Gas-to-Liquid)燃料を補助バーナーで噴射する高温高速燃焼缶で、黒煙はほとんど出ない。

「きょ、局長!!」

 ブロントが自身のオタ知識と知的探究心を頭脳で働かせていると、交通管制士が、焦ったような声をかけてきた。

「どうした?」

「エクスプレッセスティ機が、湾内に着水の許可を求めてきています!」

「機? 機とはどういう事だ?」

 管制士の言葉に、ブロントは最初、想像ができず、そう訊き返していた。

「飛行艇です! エクスプレッセスティの使節団は飛行艇で来訪しています!」

「そう言うことか。 ────っておい、別に慌てる必要はないだろう。湾内に阻害する船舶がいるのか?」

「あ……いえ」

 ブロントに言われて、その管制士は、考えたら何をそんなに慌てていたのか、自身で分からなくなり、気恥ずかしさで赤面した。

「他の船舶に、湾内の移動を一時中止させろ。その間に着水を」

「りょ、了解」

 管制士が職務に戻ったのを確認してから、ブロントは窓から湾内を見る。

 すると、湾の東側から、新明和SS-2V総統専用飛行艇が、イーウチェンコAI-20DMターボプロップエンジンの爆音を轟かせながら、姿を表した。

 ヒィイィィィン……

 ──ムーのエンジンに比べると、だいぶ甲高いな……

 ブロントがそう思っている間にも、SS-2Vは、主翼上面の気流を安定させてSTOL(短距離離着陸(水))性を確保するBLC(境界層制御)装置を、三菱TS1ターボシャフトエンジンで作動させながら、すっと湾内に着水した。

「だいぶ大型の飛行艇だな……飛行艇であのサイズが可能なのか……」

 ブロントは、声に出して呟いた。

 サイズで言えば魔導戦列艦の半分より小さいだろう。だが、どこの国もがフネでやってくる中、颯爽と大型飛行艇で現れた事は、下手にこれみよがしに大型戦艦を見せつけるよりも、ずっとセンセーショナルに見えた。

「エクスプレッセスティの飛行艇、艀は要請できるかと聞いてきています。なければ展開式のボートで上陸すると」

 管制士は、今度は職務に臨みつつも冷静な様子で、ブロントに訊ねた。

「すぐに行ける艀はあるか? あ、サイズは考慮しろよ?」

「呼び出してみます。エクスプレッセスティ機には少し待ってもらいます」

「そうしてくれ。あ、衝突させないよう気をつけるよう言付けるように。ぶつけたりしたら、カルトアルパス港湾管理局は国内外から笑いモノになるぞ」

「了解です」

 管制士が通信機に向かって、しばらくすると、小型ボートほどの動力付き艀が、SS-2Vが接岸した桟橋へと向かっていく。

 艀がSS-2Vの客室扉に横付けすると、開いた扉から、女性には不釣り合いな、重厚なトランクを持ったハンナ・テイラー外務省長官と、ノートパソコンケースと1/87 MSM-〇3を抱えたチャウ・アシュリー・ゴック外務副次官、リカ・マルセラ・イシカワ陸軍技術少尉、それに、同乗してきたクワ・トイネのリンスイ外相と、ヤゴウ外交官、ハンキ軍務次官が、艀に降り立った。

 

 





以前クワ・トイネのミドリ達が見てしまった、空母『ヴァルキュリア』の艦橋の壁面に描かれてしまっているイラストのイメージ。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1760918546778083630

評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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  • そんなことよりカツ丼定食
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