フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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1642年 先進14ヶ国会議 Part.I

 神聖ミリシアル帝国、港湾都市カルトアルパス。

 帝国文化会館、へ向かう道中。

「パーパルディア()()()近代的な町並みのようね……」

 都市の街並みを見ながら、ハンナは呟いた。

「様式に関しては、そんな感じですね……」

 チャウが、自身も周囲を見渡しながら、ハンナのつぶやきに反応する。

 1930年代のニューヨークに、若干、産業革命黎明期のヨーロッパのテイストを混ぜた、といった様相だ。

 エクスプレッセスティで超高層に分類されるビルもある。それどころか、高さだけで言えばエクスプレッセスティでもっとも高い、エナジポリス・トレード・センターと、エムブラセクスのセクリベレ・スピレの2つのビル(共に地上58階、308m)よりも高いビルが、チラホラとある。

 理由は簡単で、建物の強度、耐震・免震構造の基準が、日本のコピペに近い為だ。エムブラセクスもエナジポリスも軟弱地盤の為、この点では妥当なのだが、耐震・免震に関しては明らかに過剰である。

 地震や地盤強度の不安のない場所でならば、例えばニューヨークのエンパイア・ステート・ビル(地上102階、443.2m)は1931年に完成している。

「確かに、エナジポリスやエムブラセクスに比べると、どことなく野暮ったい感じを受けますのう……」

「文化の違い、という範囲ではあるようにも見えますが……」

 同道しているクワ・トイネ使節団は、キョロキョロと周囲を見渡すものの、ハンキとヤゴウはそう呟いた。

 彼らは、先にエクスプレッセスティの────というか、日本式の、いくつかの例外はあるものの、基本的に「まずは合理性、実用性ありきで基本設計を行い、()()の部分はあくまでその余録でやる」という様式を見慣れてしまっている為、それが先進建築として頭に焼き付いてしまっている。

 ついでに、未だ超高層はないとは言え、既にクワ・トイネ国内にも、日本の技術移転を受けたエクスプレッセスティの建設会社がある程度の規模のビルを建ててしまっていて、クワ・トイネ政府要人は、それらの技術について説明を受けている。

 これらの事から、かえって自国と同じテイストのあるミリシアルの建物は、規模から先進的であるとは思うものの、エクスプレッセスティの街並みに比べて、どこか野暮ったく見えてしまうわけである。

「あれ?」

 リカが、それを見つけて、軽く驚いた表情をした。

 そこは鉄道駅の駅前広場のようだった。鉄道が存在しているという情報は既に入手していたが、問題はそれではない。

 日本の新宿ALTAを思わせる、街頭ビジョンが設置された駅前商業ビルがあった。

「テレビがあるとは知ってたけど……平面型ディスプレイが存在しているって事か……」

「それは、先進的な技術なのですかな?」

 呟くように言ったリカの言葉に、リンスイが問いかける。

「ええ……我々の世界では、40年程度前に実用化された技術です。そう聞くとだいぶ前になるように聞こえるかも知れませんが、他の様式が80年程度前であることを考えると、突出していますね」

「なるほど……魔導技術の方が先行する分野もあるということですな」

「ですね」

 リカとリンスイが言葉を交わしていると、

「こちらが会場になります」

 帝国文化会館に辿り着くと、案内兼護衛役の、ミリシアルのSPリーダーがそう言って、待合場へと、エクスプレッセスティ、クワ・トイネの両使節団を迎え入れた。

「ほう……」

 通路から続いて、広くなった待合場を見回す。

「どこかで見た覚えがありますね……」

「日本の国会議事堂に似ている気がしない?」

 チャウの呟きに、ハンナが言う。

「あ、それですね」

 チャウが納得の言葉を出した。

「日本国にもこのような建物があるというのですか?」

 軽くショックを受けた様子で、ヤゴウが問い返す。

 彼らにとって、エクスプレッセスティが “転移前の最先進国” と評価する日本国は、(まさ)しく “想像を絶する超文明国家” なのだ。

「ええ、日本の国会議事堂は最高立法府であると同時に、歴史的建造物として、改修しつつも建造時の姿を保っています。貴国の政治部会場などもそうでしょう?」

「あ、言われてみれば確かに」

 クワ・トイネ公国の最高意思決定機関である政治部会、その議場である『蓮の庭園』は、屋根に覆われた大きな池の中央に小島を設け、その上の大きな(あずま)()が議場になっているという、合理性よりもクワ・トイネ公国の、国風、国是を反映したものになっている。

 当のエクスプレッセスティはどうかと言うと、国会は二院制で、完全直接選挙の衆議院と、地方自治体の長による推薦が必要な参議院で構成されていて、各々の議事堂は別の建物となっている。

 それで、その議事堂は、割とありきたりな、面白味のない建物だったりする。 ──── ────昼間は

 夜は、モール状の、ピンクバイオレットのイルミネーションをチカチカさせている立法府なんぞ、早々あるものではない。

 ────閑話休題。

 

 ザワザワ……

 妙にざわついている周囲を見ると、エクスプレッセスティとクワ・トイネの使節団に対して、他国 ──── 特にミリシエント地域や、ムー地域でもムーとさほど親交のない国家の使節団が、チラチラと視線を向けながら、ヒソヒソと会話をしている。その目つきは、どこか蔑視を感じさせるものだ。

「…………まぁ、想像したとおりね」

「ですな」

 ハンナがやれやれと言ったように呟くと、リンスイが同意の声を出した。

 魔法文明の国の間では、大東洋戦争は、形式上はエクスプレッセスティの勝利となっているが、実態はパーパルディアが一定のところで矛を引いた、と考えている国が少なくない。

 理由は、エクスプレッセスティがパーパルディアにほとんど勝者としての要求をしていない事と、エクスプレッセスティ側として参戦した、とされるリームがパーパルディアに併合された事、それに加えて魔法文明が未発達で、魔法技術に関して、彼らが文明圏外と蔑むクワ・トイネやロウリアの助力を得なければならない程の(彼らにとっては)技術後進国である事、そしていつものように「“女だけの国” であり、武には劣る」という決めつけ、これらが合わさった結果である。

 地球ならば、クラウゼヴィッツの戦争論に基づけば、エクスプレッセスティの戦争目的が「友好国をパーパルディアの侵略から保護する事」であり、それは完全に達成されている事を理解できる筈なのだが、この哲学はこの世界にはまだない。

 このような偏見を持つ国だと、グラ・バルカスの超戦艦『グレートアトラスター』の鹵獲も、西方文明圏外としてはそれなりに発展していたイルネティアの協力と、ムーから調達した兵器で、辛うじて達成していたのでは? と考える事も珍しくない。

 実際、ミリシアルも最初はそう見ていた。だが、フィアームら使節団を派遣した結果、超音速戦闘機の保有、自国の技術では達成できなかった準高速鉄道、人口あたりでムーを遥かに凌ぐ総発電量、このあたりを目の当たりにし、ミリシアル自身はその認識を改めた。

 これらに対して、当のエクスプレッセスティはと言えば、グラ・バルカスと対決姿勢にあるとは言っても、究極的には、

「助けてくれと言われれば助けるが、そのつもりのない国にわざわざ手を差し伸べるつもりはない」

 と、パーパルディアに対するフェンとアルタラスとの時から、変わらないスタンスをとっている。エクスプレッセスティ軍だってエクスプレッセスティの税金で整備されているのだから、当然である。

 なので、こういう場面にあっても、「言わせておけばいい」と、放置しがちだった。

「おお、到着なされましたか。ハンナ長官」

 周囲がひそひそ話をしている中で、その姿に気づいた人物が、手を振りながらそう声をかけてくる。

 声の主は、ロウリア連合王国筆頭大臣、マオスだ。

 ハンナ達が視線を向けると、どういう経緯か、パーパルディア皇国外務局長のエルトが一緒にいる。

「ご無沙汰しております、マオス閣下。それにエルト局長」

 ハンナが(こた)えた。

「貴女とは初対面ですね、エルト外務局長。クワ・トイネのヤゴウと言います」

 個人的に、ロウリアや、それを支援していたパーパルディアに今ひとつ心を許しきれていないリンスイに代わって、ヤゴウが、エルトにそう挨拶をした。

「カイオス局長はご創建ですか?」

「ええ、えーと……」

 握手を交わしながら、ヤゴウが訊ねるが、エルトはどこか困惑した様子になる。

「まぁ生きてはおりますが……なんと言うか……」

「“ポーション漬け” ですな……」

 エルトの歯切れ悪い言葉に、ムスッとした様子を隠せないリンスイが、察したように言った。

「まぁ……そう言うことです」

 エルトは苦笑しながらそう言った。

 エクスプレッセスティから輸出・現地生産されている、『リポビタンN3』。これを毎日のように消費している状態を、「ポーション漬け」という表現がなされるようになった。

「ところで、ヤゴウさん」

「はい」

「これは()()()私的な質問なのですが、よろしいでしょうか?」

 エルトの質問に、ヤゴウは不思議そうな顔をする。

「はい、構いませんが」

「その……お付き合いしている女性が、いたりしませんでしょうか?」

 ハンキが、「ブッ」と吹き出した。

 

 

『これより、先進14ヶ国会議を開催致します』

 ミリシアルの進行役が、そう告げる。

 議場は、議長席が並ぶ机の置かれたスペースを中心にして、同心円状の列をおよそ135°でピザカットにした形態になっている。

 今回、『先進14ヶ国会議』に参加する国は、次の通り。

 

ミリシエント地域(旧第1文明圏)

 固定枠:神聖ミリシアル帝国 エモール王国

 持ち回り枠:トルキア王国 アガルタ法国

ムー地域(旧第2文明圏)

 固定枠:ムー国

 持ち回り枠:マギガライヒ共同体 グラ・バルカス帝国

フィルアデス地域(旧第3文明圏)

 固定枠:パーパルディア皇国

 持ち回り枠:パンドーラ大魔法法国

大東洋及びロデニウス大陸地域(旧東方文明圏外)

 固定枠:エクスプレッセスティ共和国

 持ち回り枠:クワ・トイネ公国 ロウリア連合王国

ブランシェル地域(旧南方文明圏外)

 アニュンリール皇国

 

 元々、旧第2文明圏の固定枠はムーとレイフォルの2ヶ国だったのだが、グラ・バルカス固定枠参加に対してエクスプレッセスティの強硬な反対があったためこれは実現せず、しかし他に固定枠参加に値する国家がないと判断され、ムー地域固定枠は1ヶ国欠位の、13ヶ国での開催となった。

 また、ブランシェル地域は、固定枠はないが、以前から常にアニュンリール皇国が事実上の固定参加となっていた。

「今回は末席での参加だと思っていたけれど、結構議長席に近い位置に置かれたわね……」

 ハンナは、少し緊張した様子で、議場を見回す。

 末席とは程遠く、他に列強を名乗る4ヶ国とともに、最前列だ。

「他意はありませんが……────」

 隣席のエルトが、声をかけてくる。

「──その席は、前回まで我が皇国の席だったのですよ」

「えぇ……」

 ハンナが、少し困惑した様子を見せる。

「いえ。本当に他意はありません。どのような面から見ても、今は貴国がその席にあるべきであることは明白ですから」

 エルトは、ハンナの様子を見て、軽く慌てたようにしながら、フォローした。

「と、言うことは、貴国のその席が……」

「はい。前回までレイフォルの席でした」

 ハンナの問いに、エルトはそう答えた。

 そんなやり取りをしていると、青白い腕で挙手があった。

『エモール代表、発言を許可します』

 議長がそう告げると、ハンナらからは、ムー、ミリシアルの代表を挟んで反対側にいた、エモール王国の代表が、その場で立ち上がった。

 その身体つきはかなり大きく、身長は2mを超えている。肌の質は、人間やエルフと言った、基本的に哺乳類系の知的生命体とは異なる印象があり、頭には立派な角が生えていた。

 エモール王国は、竜人族が治める国で、国民はほぼ単一の種族で構成されている。国内のマイノリティ種族を蔑視する差別主義が激しい国で、それなりの軍事力を持っているものの、宗教国家的な面が強く、総人口は100万人という事もあって、現在では周囲に対する野心もない、関わらなければそれまでの国だった。

 ただ、エクスプレッセスティとは、少しの縁がある。

「エモール王国のモーリアウルである。今回は何よりも先んじて、皆に伝えなければならない事がある。火急の件につき、心して聞いてもらいたい。特に、今回初参加となる、クワ・トイネ公国、ロウリア連合王国も、重要な位置にあると考えてもらいたい」

 場内がざわつく。

 開会まで、「なぜ東方文明圏外国が……」と、各国の代表がこの様に扱っていた2ヶ国が、重要な存在になるという。

「……先日、我が国は “空間の占い” を実施した」

 場内のざわめきが、少し大きくなる。

 エモールの秘儀、 “空間の占い” を知らない者は、この世界には存在しない。否、1ヶ国だけ、この場に例外があった。

「結果、古の魔法帝国────忌まわしきラヴァーナル帝国が、近いうちに復活するとと判明した」

 モーリアウルの言葉に対し、今度はどわっ、と、強いどよめきが起こった。

「な、なんてことだ……」

「あれは伝承ではなかったのか……」

「伝承が本当ならば、我らが抗する(すべ)はないぞ!?」

 各国の代表が、怯えるような、困惑したような声を出す。

「なるほど、古代魔法帝国の伝承が特に伝わる我々に、浅からぬ縁があるということか」

 実際の末席に配置されていた、マオスが険しい表情で、呟くように言う。

「そうであれば、トーパも呼ぶべきでしたな」

 隣席のリンスイが、手振りを交えて言う。

 モーリアウルは続ける。

「空間の位相に歪みが生じ、時期や場所の正確な情報は観測できなかった。その後に計算した結果では、今から4年乃至、25年のうちに、この世界の何処かに出現すると考えられる」

 直接の完全な観測ができなかったため、過去の蓄積されたデータから割り出した数字だった。

「4年から25年だと、できることがだいぶ変わるなぁ……」

 ハンナは、他の各国の代表とは違い、腕組みをして考え込むように呟いた。

 ただ、ラヴァーナル帝国の伝承は1万年前の出来事だったと言う。そのレベルの、しかも国家ごとと言うタイムスリップの結果を、外部から観測したものなのだから、それでこの程度の誤差であれば、むしろ驚異的なのかも知れない。この世界には22世紀からやってきて練馬区の戸建住宅に住み着いている猫型ロボットも、日本の離れ島に住んでいる、抜けているところもあるがガイノイドや恒星間宇宙船を造れるほどの天才工学博士もいない。

「神話や伝承がどこまで本当なのか、奴ら────ラヴァーナル帝国にどれだけ対抗できるか、検証する必要があるだろう。光翼人が残した遺跡の高度さは、諸君らも知る通り、現在になってなお、文明の規格外の発展度を物語っている。今後、我らは────」

 

「────世界の存亡に関わらない程度で、どの国も戦争を経験して、ラヴァーナル帝国復活に備える必要がある」

 

 





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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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  • そんなことよりカツ丼定食
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