フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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1642年 先進14ヶ国会議 Part.II

 ──な、何を言っているんだ?

 モーリアウルの言葉を聞いて、ある5ヶ国を除く、各国の代表は彼を凝視しながら、一様に疑問を抱いた。

「────今、私の言葉を聞いた者は、こう思ったはずだ。『そのような状況であるなら、尚更無用の諍いを控え、軍事力を増強するべきではないのか』と。我らも当然、その様に考えていた。だが ──── エクスプレッセスティ共和国代表に実際に説明してもらおう」

「はい」

 モーリアウルの指名を受けて、ハンナが立ち上がる。

「エクスプレッセスティ共和国代表、外務省長官のハンナ・テイラーです。先ずは、このような場にご招待頂き、栄誉に感じております────」

 ハンナはまず、注目する各国の代表に対し、社交辞令を述べた。

「まず、我が国が転移国家であるという事は、すでに公然のものになっている情報として述べさせていただきます。我が国は転移直後より、ラヴァーナル帝国の存在について、北部ロデニウス戦争、トーパの魔王軍侵攻事態、これを通して、その情報と接触する事となりました。そして、それは創られた神話の類ではない可能性があると感じ、情報を収集していたのです」

 どよ……

「エクスプレッセスティが、ラヴァーナル帝国について否定しない……科学文明の国だったはず……」

 場内がどよめく。

「その結果、私達はラヴァーナル帝国の技術力は極めて先進的であると判断しました。そして、その持ちうる力に対抗できる存在を、私達は転移前の1ヶ国しか知りません────」

「おお、そうなると、やはりそれは」

 ハンナの言葉を聞いて、マオスが呟く。

「日本国────」

 

「アメリカ合衆国です」

 

 マオスやリンスイの予想を裏切り、ハンナはその国の名を告げた。

「国家間のバランスで言えば、この世界での列強を全部合わせた以上の影響力を持つ超国家です。こと軍事力については、アメリカ1ヶ国と、それ以外の全ての国をあわせてようやく釣り合うという程度です。自身が建国以来の共和制民主主義国家であったため、表立って他国を侵略する事は、私達の国が建国された時期にはありませんでしたが、その能力を純粋に評価するならば、全世界の生殺与奪権を持っていた国、そう言って過言ではありません」

「こ、この世界の列強が、束になっても勝てないような国……」

 ハンナが説明を区切ると、各国の ──── エルト、リンスイ、マオスも含めた ──── 代表が、一様にそう呟いて息を呑む。

「そのような国しか、対抗できないのが、ラヴァーナル帝国だと……」

 ボソボソと上がる声を聞きつつ、ハンナは続きを述べる。

「その上で、先程のエモール代表の言葉につながるのですが、私達の転移前世界の長い歴史と、私達がムーについて精査した結果とを、合わせて言わせていただきますと、これは非常に残念な事ですが、技術力、軍事力の発展は、戦争が不可欠なのです。例えばムーは、基礎技術力は私達の転移前の世界に対して、50から60年程度の ──── ムー代表には失礼になりますが、それだけ遅れている程度なのです。ところが、兵器の水準はそれよりさらに40から60年程遅れていたのです。その理由は、ムーがそれほどの期間、大規模な戦争を経験していないため、と結論づけました」

 戦争はダメだ、という事は簡単だ。だが、地球の技術史において、戦争がそのブレイクスルーとなっているのもまた事実である。自動車、航空機、船舶、コンピューター、石油化学製品、保存食、テレビ放送、家電、ありとあらゆる現代文明の要素が、戦争抜きに(こん)(にち)、存在していないと断言していい。

 一見そうは見えない鉄道も、その最先端たる高速鉄道、その一番手である新幹線0系電車は、大東亜戦争中の航空機技術があって完成している。

「技術開発が滞るだけではなく、ある想定で開発された軍事技術が、机上の空論で、実戦では意外に役に立たなかった、という事もしばしばあります────」

 例えば戦車。戦車はそもそも、第一次世界大戦時に、塹壕戦を制圧する為の兵器として出現した。それが第二次世界大戦は、戦車戦と言えば特にヨーロッパの平野での大規模戦車部隊同士の戦いが発生し、それ以降も、各国の技術先進国の戦車はその延長線を想定して開発が続けられた。

 ところが1979年、早速これが行き詰まる。当時のソビエト連邦によるアフガニスタン侵攻において、陸軍大国ソ連の戦車軍団は、()ジャ(スラ)()ディ(抵抗)()()の携行対戦車兵器で大損害を出してしまった。その後のソ連崩壊もあって、戦車の敵は塹壕や市街地の建物などに隠れ潜む歩兵と、第一次世界大戦のそれに逆戻り。開発開始時期に対して制式化が遅れていた日本の90式戦車を最後に、大規模戦車部隊同士の戦闘()()を存在意義とした戦車の開発は事実上終わった。

 2022ウクライナ-ロシア戦争では、戦車が敵の塹壕に繰り返し主砲を撃ち込むという、まさに第一次世界大戦で戦車が誕生した原点に立ち返った運用をしている光景が繰り広げられた。

「戦争を経験する、というのは暴論としても、自国のみではなく多数の勢力間で実戦を想定したシミュレートを繰り返し、実用的な軍事技術を習得し高める必要があるでしょう。先のアメリカ合衆国はまさにそれ故に最強だったのです。侵略はしないが、地域強国が他国に()()()()()()()()()侵略した場合、直接介入するなり、防衛側に兵器供与を行って運用データを蓄積するなりしてきた事が、この国の軍事力の裏付けだったのです。私からの説明は以上になります」

「ハンナ代表、感謝する」

 ハンナが一礼した後、モーリアウルがそれを受け取って、謝辞を述べた。

「エクスプレッセスティ代表の言われた通りだ。利害や野心の為ではなく、これまでの様に技術の独占を、利益の代わりにそれを緩め、なおかつ、多数の頭脳の叡智を結集して、ラヴァーナル帝国の復活に備える事、それが不可欠になるということだ」

 息を呑んだかの様に、議場は静まり返っていた────が、

「くっ……くっくっ……」

 と、漏らすような、笑いの声が聞こえてきた。

「ッハァ━━━━ッハッハッハッ!!!!」

 1人の女性が、どこかわざとらしく、鼻につく哄笑を上げる。

 その女性に、議場内の視線が集まる。すると、女性は立ち上がって、不敵な笑みを浮かべる。

「ああ、いやいや……失礼。私はグラ・バルカス帝国代表、外務省東部方面異界担当部々長兼第3課長のシエリアと言う。フフッ、エクスプレッセスティ共和国は、ムーより進んでいる科学文明の国だと聞いているから、どれほどのものかと興味を持っていたが────」

 シエリアは、皮肉のこもった笑顔を()()ながら言う。

「現地人と揃って、過去の御伽噺のような存在を恐れるとは、その程度の低さに呆れを通り越して滑稽さを感じたのだ」

「そのエス共に『グレートアトラスター』を鹵獲されたのはどこのグラ・()()ルス様でしたっけねぇ!?」

「はぅっ!?」

 自身の言葉の直後に、誰かが投げかけた言葉にいきなり、その意気を挫かれた。

 ちなみにエス共、とは、エクスプレッセスティ共和国の国名が長ったらしいってんで、一部で言われ始めた、非公式の略称である。

 エクスプレッセスティを見下している国家が多いとは言え、実際にグレートアトラスターがエクスプレッセスティの虜になったのは、純然たる事実だ。

「な、な、な……」

 この場では強気を装うとしていたシエリアだったが、実際には割と豆腐メンタルな彼女は、その暴言に一瞬、オロオロと言葉に迷ってしまった。

「議長、よろしいでしょうか?」

 ハンナはすかさず挙手し、そう言った。

『エクスプレッセスティ共和国代表、発言を許可します。グラ・バルカス帝国代表、並びに他の参加国の方も、不用意な発言は慎んでください』

 議長にそう言われ、困惑した顔で周囲を見回しながら、シエリアは着座した。

「私達は、ラヴァーナル帝国が実在した事と、その技術力に関して、確証を得ています。トーパ魔王軍侵攻事態の際、魔王ノスグーラが、自身がラヴァーナル帝国に縁のある存在だと明かしていました。その後、トーパ建国神話の断片と思われるクワ・トイネ公国の民間伝承から、トーパ建国神話の『太陽神の使い』が用いたとされる“空を飛ぶ船”のひとつが不動となり、それが封印され保存されているという、クワ・トイネのリーン・ノウの森を調査しました。その結果、そこで発見されたのは、私達の世界でおよそ90年前に、イタリアという国で開発された、カント Z.50飛行艇だったのです」

 場内が再びざわつく。

「あれは確か、古代エルフの遺失魔法で保存された品物だったはず……」

「1万年以上前の遺品が、異世界で90年前に開発された飛行艇だった……と」

 そのざわめきが下火になるのを待って、ハンナは続ける。

「ただし、機体に記されている国籍表示は、白地に赤い太陽────日の丸、日本国のものでしたから、おそらく当時の大日本帝国陸軍が購入した物と推定されます。開発時期より数年後に、日本国、イタリア王国、それにもう1ヶ国、ドイツ第三帝国は軍事同盟を結んでいましたので、不思議なことではありません。これらの事実から、我が国はトーパ建国神話、そしてラヴァーナル帝国の存在は現実のものと判断しています。 ────私からは以上です」

「は、はっ」

 ハンナの、荒くはないが重みのある口調での説明が終わると、シエリアは、強気を装って、笑い声のようなものを出した。

「くだらないな。確かにラヴァーナルなどという国が過去にあったのは事実なのかもしれん。だが、過去の事ではないか。それが戻ってくる? しかもその根拠が()()魔王と “占い” だと? 話にならんな。それ自体が前史的かつオカルトなものだ。国際会議の場で真面目に議題として取り上げる精神が、我々には理解できないよ。しかもそこのトカゲ人間は、この世界で列強に分類される国の者らしいな」

「我々をリザードマン(爬虫人種)と混同しないでもらおうか、貴殿らは世界を知らなすぎるようだ」

 モーリアウルが怒気を孕んだ声でいい、隣りに座っている彼の部下が、シエリアを睨みつける。

「トカゲと同じように種類があるのか」

 しかし、それでもシエリアの侮蔑的な物言いは止まらない。

「そう言えば我が帝国が滅ぼした、貧弱極まるレイフォルも列強だったらしいではないか。 “占い” などと人間様の真似事をしている国が列強と崇め奉られている様では……世界会議、か。底が知れるな」

「でも、そのレイフォルを破ったというグレートアトラスターは、エクスプレッセスティの虜になり、貴国はイルネティア王国侵略に失敗したではないか」

「はぅっ!?」

 シエリアの傲慢な物言いに、エモールの友好国であるトルキア王国の代表がそう言うと、シエリアはまた意気地を挫かれて、彼女の素の表情で涙目になってしまう。

「ふむ、科学文明国にも種類があるようだな。エクスプレッセスティ共和国政府は “占い” を軽視せず、技術者を寄越したものだが。確かに不勉強ではあった」

 モーリアウルが、口元に明らかに皮肉な笑みを浮かべながら、言う。

「なんでも、単純な計算なら1秒間に220兆回できるという電子計算機なるものがあって、それでデータ解析をしたいと言う申し出だった」

「な!? ────何を言っているんだ。電子計算機の概念は我が帝国にも存在しているが……1秒間に220兆回? “女だけの国” のペテンにかかっているのではないか?」

 シエリアは、モーリアウルの言葉に一瞬、愕然となりながらも、弱気を見せないように、取り繕って言う。

 ──あ、こいつホントは不可能ではないと解ってるな……

 モーリアウルは、内心でそう思いながら、不敵に(わら)う。

「秘密主義の貴国にはそう見えるのだろう。だが、エクスプレッセスティはそうではないからな。全てを理解できている自信は我々にもないが、片鱗程度は解っているつもりだ」

「くっ……」

 シエリアが言葉に詰まったのを見て、モーリアウルは更に畳み掛ける。

「エクスプレッセスティの技術者はこう言った。『科学で証明できない事は存在しない。現状証明が成立していない事象は、ただ単にヒトの叡智がそれを理解するに至っていないだけだ』とな。我々が、魔法、魔導と呼んでいる事象も、系統立てて整理していけば、科学で説明できるようになる日は来るという。この考え方には大いに共感できる。少なくとも、見下すだけの貴国よりは遥かに、な」

「くぅぅ……」

 シエリアは、涙目で屈辱に(まみ)れた表情で、言い返すこともできずにすとん、と、落ちるように座った。

「あの、よろしいでしょうか」

 マオスの随員として参加していた、ロウリア連合王国外務部員のローレリが、マオスを差し置いて挙手した。

『ロウリア連合王国代表、発言を許可します。グラ・()()ルス帝国代表と、エモール王国代表は自制をお願いします』

「はい、ありがとうございます。では、事前に準備させていただいたスライドの上映をお願いできますか?」

『少々お待ちください』

 ローレリの言葉に、議場の証明が少し暗くなり、議長席背後のスクリーンに、スライド画像が表示された。

 それは、砂漠とまではいかないが、荒涼とした大地の様子だった。

「これは、一昨年の3月に、エクスプレッセスティの調査員が撮影した、ジン・ハークより南の平野部の光景です。我がロウリア連合王国の、特に内陸部は、陸続きでありながらクワ・トイネ公国と異なり、農耕地としては不向き、とされていました。ですが────」

 スライドが、次の画像のものに変わる。

 そこには、無数の朱が実った、広大なトマト畑だった。

「これは昨年の9月に撮影された、ほぼ同じ場所です。つまり、1年経たずに農業用地として整備されたのです」

 更にスライドは変わる。コマツ製ブルドーザーが荒野を拓き、三菱製トラクターが畑として耕していく。

「ご覧の通り、エクスプレッセスティから提供された機械類が、短期間に広大な農地を用意してしまったのです。国の強さというと、どうしても武の力に目が行きがちかも知れませんが、それだけが全てではありません。我がロウリアが前王(ハーク34世)までの拡大覇権主義から、現王様(ハーク・ルセリア35世)の “現在の国土の地力を上げる” という方針に転換できたのも、エクスプレッセスティの機械文明の助力あればこそです」

 ローレリが説明している間にも、農地予定地でスズキ・セダクション『スーパーキャリイ』ダブルキャブを自ら試乗するルセリアの写真、古典的な港町だった北ジン・ハーク港が、一転整然とした規格型の建物が並ぶ現代都市に変えられていく記録写真などが、スライドとして表示されていった。

「機械文明の優秀さを私達は知っています。クワ・トイネ、フェン、トーパなどもそうです。ですがそれは、武力だけではない、こうした、国を発展させていく力こそが、その本質だと言う事を、我が国として伝えたかったのです」

 ローレリは、冷静かつ友好的な口調でそう説明したが、このタイミングでこれを差し込んだことが、何を意味するのか、言われなくともどの国の代表も気付いていた。

 喧嘩を売るつもりで乗り込んできたシエリアは、己の惨めな感情を排除することができなかった。

 






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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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  • そんなことよりカツ丼定食
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