──ここから……ここからどうやって、当初の予定に続くべきか……
シエリアは、左手の親指の爪を噛みながら、思考に苦慮している。
議場は、ロウリアに続いて、クワ・トイネが、エクスプレッセスティの援助による国内の発展について説明している。
先行している分、ロウリアよりも既に完成している設備は多い。
入江のマイハークは拡張に難があると言うので、当初荷揚げ用の仮設港としてマイハークの西に設置されたそこは、現在では新しい港湾都市として、ノライコト、という名が着けられ、僅か3年程度で、そこそこの都市に発展していた。
そのノライコトと、クワ・トイネ公都、マイハークとの間を結ぶ鉄道は、早くも電化され、エクスプレッセスティ国鉄の3DR135系の同型車と、それをベースとして開発された急行用転換クロスシート車2DR251系の映像が表示される。
「エクスプレッセスティ国内では、転移前の外国……主に最大の友好国である日本から購入した中古車両がまだ使われていますが、これらの電車群は我が国のために新たに製造されました」
ヤゴウが説明すると、議場内がざわつく。
「普通、他国に譲渡するとしたら、自国向けに新規製造して、それによって余剰を発生させ、それを譲渡するのではないか?」
マギガライヒ共同体の代表が、思わずと言ったように訪ねていた。
「普通はそうです。実際、我が国の鉄道車両の過半はエクスプレッセスティの余剰旧型車です。この2形式については、運行する路線の事情の為に特別、用意されたのです」
ヤゴウは、手振りを加えながら説明する。
「車体を構成するこの銀色の板は、ステンレスと呼ばれるもので、錆がほとんど出ず、数十年に渡って強度を保つことができるというのです」
その説明を聞いて、議場がさらにざわついた。
「錆びない金属板だと……」
「
「ミスリルやオリハルコンならそれも可能かもしれないが、これほど潤沢に使うとなると、ミリシアルぐらいにしか不可能だぞ……」
実際、日本初のオールステンレスカーとして製造された、東急電鉄初代7000系電車は、25年経って、強度計測をしたが、製造時からほとんど落ちていなかったと言う。
ただし、外板と強度材の一部だけをステンレス張りにした、セミステンレス、あるいはスキンステンレスと呼ばれる構造の場合、ステンレスとその他の金属材の接合部が早く劣化してしまい、強度維持には普通鋼の車体より手間がかかる。これらの車輌の開発意図は海水などの塩害対策が主だったが、オールステンレス車体が実現可能になると、早々にそれに置き換えられていった。
エクスプレッセスティ国鉄で、わざわざ1,435mm標準軌の普通鋼車に、スキンステンレスカーの営団3000系や同5000系から取り外された台車を履かせて使っているのは、それが理由だったりする。
「何より錆びないため、ノライコトやマイハークのような、海岸沿いで、潮風を受ける地域に適しています。これはエクスプレッセスティの国内でも同じです。内陸に存在する首都エムブラセクスは元日本車が多いですが、港湾都市のエナジポリスでは自国製造のより新しい車輌が多く使われています」
ヤゴウがそう説明すると、スライドはノライコトの港湾設備地区の画像に変わる。
そこでは、エクスプレッセスティから運ばれてくるガス燃料の備蓄設備が建設されていた。設備自体は割と早い段階で設置されたが、ロウリアへの陸路ルートの設定もあって容量不足となり、それに見合った新しい設備を用意しているところだった。
「エクスプレッセスティには、ウェットガスと呼ばれる、各種燃料の原料になるガスが産出します。転移前は世界最大級の埋蔵量を誇ったそうで、幸いな事にこのガス田も国土と一緒に転移してきたのです。これはエクスプレッセスティからの技術支援を受ける国々の動力源になっています」
「────!!」
ヤゴウの説明を聞いて、シエリアははっと気がついた。
「ハッハ!!」
議場内の空気に水を差すかのように、シエリアが声を上げる。ヤゴウに集まっていた視線が、シエリアに向く。
「ハッハッハ、ククク、ハーッハッハ……なるほど、なるほど、そう言うことか」
何が言いたいのかと、他の参加国の代表達が戸惑っている。
「それはこういうカラクリだ。技術支援を行い、自国産の資源を使わせるようにする。そうすることで、自国に逆らえないようにするわけだ。つまり、エクスプレッセスティ共和国は武力を使わないだけで、こうして周辺国を従えさせるわけだ…………程度が低いこの世界の現地人には理解できないか……ククク……」
シエリアがそう言うが、ヤゴウは、とにかく困ったような、何を言えばいいのか解らず、隣のロウリア代表のローレリと顔を見合わせる。
だが、すぐに、視線をシエリアに向け直す。
「そのあたりは承知しておりますが、何か?」
「はっ!?」
ヤゴウの言葉に、シエリアは、驚いた表情になって、目を
「私から説明しても良いのですが……ここはエクスプレッセスティ代表に説明していただいた方がよろしいでしょう」
「解りました」
ヤゴウに代わって、ハンナがマイクを手に取り、立ち上がる。
「クワ・トイネ代表の説明にもありました通り、我が国には転移前世界有数のガス田が存在しました。その出荷量は国際市場の価格を左右するほどでした」
険しい表情のハンナの説明に、議場にどよめきが起きる。
「我が国の経済はその加工と輸出による収入で発展し、建国から短期間で高度経済成長に至る事ができました。ですが、突然の転移によってその販売先を喪失してしまったのです。これは、ガスの採掘・加工事業の大幅縮小に繋がり、我が国の国民所得を押し下げる結果となりました。そこで、我が国は急いでこの世界に販売先をつくる必要があったのです。クワ・トイネやフェン、トーパの開発支援、ロウリアの復興支援はそう言うことです。それでも、現状ではまだ転移前の出荷量の1/10程度にも届いていないというのが実態です」
「……そうだとすると……仮に支配するにしても、収奪どころではないわけだ……」
アガルタ法国の代表が、唸るようにしつつ、つい、といった感じで、オンになったマイクにそう言ってしまっていた。
「そうですね、仮に支配、被支配の関係だったとしても、その相手が経済的に発展しなければ、我が国の利益になりません」
ハンナが、あくまで仮定の話としてそう言ったのだが、
「支配、被支配の関係と言ったな!」
と、シエリアがその言葉尻を捉えた。
「化けの皮が剥がれたとはこの事だ……どうだ、我が国に従え。我が帝国に従えば、グラ・バルカス帝国、帝王グラルークスの名において、永遠の繁栄を約束しよう!! このような軽薄なものではなく……訊ねる、今この場で我が国に忠誠を誓う国はあるか!?」
シエリアの物言いに、各国の代表は、
「あの女、正気か?」
と、他の国々は口々に囁くも、シエリアに向ける視線は、呆れ、怒りを通り越して、憐憫すら感じさせるものだった。
各国代表が、どうご丁重にお断りしようかと、当惑していると、シエリアの左右に、彼女の随行員が立ち上がった。よく見ると、どこか硬さを感じさせる制服、軍服姿だった。
「沈黙は反抗と見做す!」
「じゃあ言っちゃうけどそれってエス共と敵対しろって事だろんなもん真っ平御免に決まってるじゃん!!」
「はぅっ!?」
脅すように言ったシエリアだったが、どの国の代表か、即座に端的な言葉を投げかけられて、シエリアは短く声を上げてしまう。
彼女の随行員も、困ったような視線でシエリアを見る。
「ど……ど、どうやら、グレートアトラスターの件だけを見て、エクスプレッセスティ共和国が強国の様に捉えられているようだが……それは正確ではない! 確かに、質の上では我が帝国を上回るのかも知れないが、数は我々より遥かに寡兵と解っている。軍事力は総合力だ! 如何にエクスプレッセスティが強力な軍事力を持っていると言っても、数が行き届かないのであれば、あらゆる国々を我が帝国から守り通すことなどできるわけがない!」
シエリアは、強気を取り繕うと、そう言って、大見得を切ったが、
「えぇ……」
と、各国の代表はドン引き気味の困惑顔でシエリア達を見る。
「なにを言ってるんだ……」
「エクスプレッセスティが、イルネティアを守る為に、はるばる西方に艦隊を派遣して、それに敗れたことは、もう忘却の彼方なのか?」
「オツムの程度があれだから、パガンダやレイフォルがちょうどいい相手だったんだろうな……」
「ええい、煩い!!」
あんまりな物言いを聞こえよがしに言ってくる各国の代表に対して、シエリアは、声を荒げる。
「きさまらの言い分は解った。ならば、まずは中央世界などと自称し、傲慢に振る舞うこの大陸の、列強とやらに対して我々の力を示してやろうではないか。それを見て考えを変えるというのであれば、それを受け入れ歓迎しよう。帝王様は寛大だからな。では現地人ども、確かに伝えたぞ!」
シエリアはそれだけ言うと、嘲笑うような表情を見せた後、席を立って退席しようとし ──── ────
「なるほど、うまくエクスプレッセスティとの直接対決を避けたか。よほど怖いと見える」
────────シエリアよりさらに若い、瑞々しい女性 ──── というより、少女の声だが、シエリアより遥かに老獪そうなケレン味溢れる口調で、議場を後にしようとする彼女らに投げかけられた。
シエリアが驚いて振り返る。他国の代表もそちらに視線を向けた。
議長席の後ろの部隊に、2人の人物が立っている。
「フン、小賢しい真似だ。あくまで武に頼るというのであれば、正面から挑んで倒してみせよ。このようなやり方では、勝ったところでその後を統治できる訳がなかろう!」
今度は、シエリアと同じ年格好の青年の言葉が、投げかけられる。
「ロウリア王、ハーク・ルセリア35世と……」
「パーパルディアの、ルディアス皇帝……」
事情を知っている国以外の、各国の代表が、その姿を見て、声を漏らす。
すると、その様子を見て取ってから、ルディアスは1枚の文書を、議場に向かって掲げた。
「クワ・トイネ公国、ロウリア連合王国、ムー国、そして我がパーパルディア皇国は、神聖ミリシアル帝国と無制限の相互安全保障に合意、即日発効となった!!」
「ミリシアルとの交戦国は、この各々の国とも同時に交戦国と見做される。これがどういう意味を持つか、理解できるな!?」
ルディアスに続いて、ルセリアも語気強く声を上げた。
「あ……あ…………」
シエリアの顔が引きつり、表情が崩れ、泣き出しそうな様子で、その場にへたり込みかける。随員がなんとかそれを支えた。
────ミリシアルとエクスプレッセスティとは、敵対関係ではなかったのか…………これで、エクスプレッセスティに我が国に対する、軍事的なフリーハンドを与えてしまった…………!!
ミリシアル南西海域、神聖ミリシアル帝国領マグドラ群島、北方沖。
グラ・バルカス帝国海軍東征艦隊旗艦、戦艦『コルネフォロス』、戦闘艦橋。
「敵艦隊は戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦6隻です。想定より少ないようです」
艦長のバーダンが、艦隊司令のアルカイドにそう伝えた。
「列強1位という国の、主力中の主力だと聞いていたが。これでは調子抜けしてしまうな……」
アルカイドは、表情を曇らせて、そう言った。
自分らの艦隊は、オリオン級高速戦艦2、重巡洋艦3、軽巡洋艦2、駆逐艦6の13隻。
「そうですな。この程度の戦力に圧勝したところで、然程威張れはしないでしょう。ただ、グレートアトラスターがない今、現地人共に我々の実力を見せて萎縮させる事は必要でしょう」
「そうだな。外務省の愚かな方策で、最新最大の戦艦が、みすみす敵の手に渡ることになってしまった。そのツケが我々現場に回ってくる」
アルカイドは、少し苛立ったような口調で言い、軽くため息を
バーダンなど、本来であれば同じオリオン級でもベテルギウスの艦長に内定していたにも関わらず、そのベテルギウスがイルネティア南岸沖海戦で損傷した。
R-360K『ネプチューン』が命中したベテルギウスは、当初深刻な損傷ではないと思われたものの、舷側の副砲群を破壊され長期間の修理を要した。
その為ベテルギウスは東征艦隊配属を解かれ、同じオリオン級のコルネフォロスが配置され、バーダンはこの艦長として赴任した。
「まぁ、今回はエクスプレッセスティ軍が参加してくる事はないだろうから、現地人だけとの戦闘だな」
「まぁ、対峙するのは初めてのことですから、なんとも言えませんが」
バーダンがそう言ったのを見て、アルカイドも口元でニヤリと笑った ──── その時だった。
「レーダーに多数の感! 高速で接近してきます!!」
レーダーオペレーターが、突然声を上げる。
「何!?」
「ダメです、これは……あまりに速い!!」
対空か、対水上か、アルカイドとバーダンがその確認をしようとする前に、レーダーオペレーターが絶望的な悲鳴を上げた。
そして、 ────
ドッグワォァン!!
水雷戦隊の、軽巡洋艦と駆逐艦が次々に大爆発を起こす。
駆逐艦はたった1度の爆発でスクラップと化し、漂流物へと成り果てた。
軽巡洋艦は1度の爆発では致命的とまではいかなかったが、そこで2回目の爆発が起き、こちらも断末魔の様相を呈している。
「な、なんだこれは ──── ありえん! ミリシアルにはこんなモノは存在していないはず……」
バーダンが、憔悴した声を上げる。
「腹を括れ」
先程までとは一転、表情を険しくしたアルカイドが言う。
「ミリシアルでも、ムーでもないのだとしたら、可能性はひとつしかない」
「ま、まさか ────」
バーダンの「まさか」が、通信室から事実となってもたらされる。
「会議使節団から緊急電、エクスプレッセスティの分離に失敗、エクスプレッセスティの重要友好国と、我が帝国は交戦状態となりました ──── ────!!」
独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食