フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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解錠

 ────────数週間前。

 エクスプレッセスティ共和国。

 当初2,000名を超えていた、イルネティア南岸沖海戦で捕縛・抑留となった()()グラ・バルカス帝国軍人の収容手段として、転移時にエクスプレッセスティ内で虜になったクルーズ船2隻を借り切り、それに当てていた。

 流石に豪華コース料理が毎日出ると言う訳ではないものの、過酷な強制労働、劣悪な居住環境を想定していたグラ・バルカス軍人にとっては、想定とは正反対の天国のような場所だった。

 一応、起床時間、食事時間、最終就寝時間は決まっている。また、労働時間もあるが、1日4時間の軽作業だ。

 後は、自由時間と言って過言ではない。

 コストの掛かる船内の遊興施設は稼働していないが、代わりにホールに、ファミリーコンピュータ、スーパーファミコン、セガ サターン等が用意され(実際にはそのものではなく、x86-64系パソコンによるエミュレーター)、グラ・バルカス人にとっては文字通り未来世代のエンターテイメントが供された。

 他にも、身体を動かせる、ジム設備も用意されている。

 さらに、お国柄がお国柄だけに、肉欲解消に娼婦を呼ぶ事すら可能だった。

 ──軍人の牙を抜くには、一番効果的な手段だな。

 多くの軍人が、最初戸惑ったこの状況を、ラクスタルは、早い段階でそう見抜いていた。

 今では、多くの者がこの頽廃的な生活に溺れてしまい、本国に帰って、再度軍人としてやり直そうという考えの者が少数派になってしまった。

 ついでに、アダルトビデオ紛いの啓発ビデオに嵌った結果、500人程が既にエクスプレッセスティ共和国政府の配下に下ってしまっているし、中には()()()()()()()()()()()()()に目覚めるやつもいる。

 そしてラクスタル自身、正直、自国の正当性に疑問を持ち始めていた。

 エクスプレッセスティ共和国の、この世界の転移直後の事情は、自国(グラ・バルカス帝国)と大差がないように思えた。

 違うのは、その後の処遇だ。

 確かに、ロウリアでは王家に由来を持ちつつ、自国に恭順な人物を王位につけた。パーパルディアでは、従来の政権を一掃し、自国を、高く、かつ好意的に評価する人物を長とする政権を打ち立てた。

 だが、それでも国を滅ぼしたわけではない。むしろ与えてすらいる。

 その根底の違いは解っている。エクスプレッセスティが資源産出国だからだ。単純な国益を考えても、姿勢を正させた後は、発展させた方がいいのは事実だ。グラ・バルカスも自国を賄う程度の資源はあるが、それ以上ではない。

 ──だが、それでも、だ。

 さらなる外敵が現れた時、共に戦うと言ってくれる国は、グラ・バルカスにいるだろうか…… ────

 ラクスタルが、度々陥るその思考の渦に心を落としていると、港湾内に響く霧笛の音が聞こえてきた。

 エクスプレッセスティ最大の港湾都市であるエナジポリスの沿岸部で、霧笛の音など珍しくもなんともない。

 だが、この時はその音を聞いて、ラクスタルは、音源の方を向いた。

 軍港施設の方から、甲板上が平面の、特徴あるシルエットの軍艦が、外海に向けて進んでいる。

 ──空母、か……

 エクスプレッセスティ唯一の航空母艦、『ヴァルキュリア』。エクスプレッセスティはこの空母を軽空母と呼んでいたが、艦そのものの規模はグラ・バルカスのペガスス級と大差がない。

「…………」

 別にどうということもないはずだ、と、ヴァルキュリアの出港を見ていたラクスタルだが、はっと気がつく。

「おい、今日は何日だ!?」

「え?」

 たまたま近くにいた、自軍の海兵に、ラクスタルは問い質すようにした。

「今日は ────」

 その答えを聞いて、ラクスタルは自身の想定が正しいことに気付く。

「先進国会議に向けた出港だ」

「えっ」

 険しい表情のラクスタルに、海兵は短く驚きの声を上げるも、

「ああ……示威目的、砲艦外交ですか……」

 と、納得したように、落ち着いた声で言った。

「珍しい事じゃないんじゃないですか? 多分、他国も軍艦を代表団につけるでしょうし」

 ラクスタルの懸念に気づかず、海兵は気楽そうに言う。

「違う! 空母だぞ、水上戦闘艦じゃないんだ。狭い湾内に入り込んでしまったら、ただのデクノボウじゃないか。ムーの複葉機ならまだ解る。離陸滑走距離は短いだろうからな。だが、エクスプレッセスティの空母艦上機は、大型の超音速機なんだぞ!」

「え、と、という、ことは……」

「おそらくはグラ・バルカス軍の作戦を察知したんだ」

 ラクスタル自身、本来の自国軍の事を、「我が軍」、「我が帝国」と呼ばず、無意識にそう呼んでいたが、それに対する指摘はない。

「で、ですがどうやって……」

「おそらく、間諜によって…… ────」

 そこまで言って、ラクスタルは気がつく。

「暗号を解読されたんだ!!」

「ええっ!?」

 海兵も驚きの声を上げる。

 グレートアトラスターがエクスプレッセスティ軍に降伏した時、艦設備の追加の破壊を禁止されたため、暗号機がそのままエクスプレッセスティ側に回収された事自体は、ラクスタル達にとっては、既知の事実だった。

「で、ですが暗号機が手に入っても、コードが変更されれば、そう簡単には……」

 第二次世界大戦において、機械式暗号は比較的強度の強い暗号だった。

 ドイツや日本が使用していた『エニグマ』及びその発展形は、早期に解読されていたと言うが、実際には暗号機のアルゴリズムを割り出されただけで、実際にはそこからさらに、暗号文の統計と解析を行って、暗号を制作するコード(キー)を取得する必要がある。

 逆に暗号を運用する側は、傍受側がコードの取得で解読できないよう、一定期間ごとにコードブックを変更する。

 日本海軍の暗号の脆弱性は、このコードブックの取り扱いが極めて杜撰だったことに由来する。

 酷い時には、コードブックの更新時期に新旧のコードで同じ内容を送信していたため、連合軍側はすぐに新しいコードを取得することができた。

 同じ暗号機を使っていながら、日本陸軍の暗号は比較的硬かったとされる。これはコードブックの取り扱いが海軍よりは厳格だったためだ。

 また、陸軍の一部の暗号は、この機械式暗号に、より原始的な暗号を重ねる事で強度を増していた。

 これは文章中の漢字を同じ読みの別の漢字にすり替え、その漢字をまた別の読みにすり替えるというような手段だ。

 子供の暗号遊び程度のものだったが、機械式暗号を破って文書を取得しても、バラバラにした漢字の読みが出てくるだけなので、漢字文化のない(中国は日本とはまるで違う)連合軍にとって非常に厄介だったと言われる。

 暗号機のアルゴリズムを取得されることを以って、暗号を破られた、というのであれば、日本側もいくつかの連合軍機械式暗号機のアルゴリズムを取得している。その対抗策として米軍が導入したのが「コード・トーカー」である。 …………のだが、実はこれこそ日本の二番煎じだったりする。

 …………このあたりの事情が変わってくるのが、1980年代以降のコンピューターの飛躍的な性能進化だ。

「この国には、超高速で計算できる電子式コンピューターがあるだろう!」

「え」

「暗号機の基本構造を知られたら、通信文のサンプルを取得して、統計と解析でコードを割り出すことなんか、この国には造作もない事だということだ!!」

 そう、それこそコンピューターの得意とするところだ。しかも、エクスプレッセスティとグラ・バルカスは同じ日本語を話しているのは解り切っているので、その辺りも考慮しなくていい。

 エクスプレッセスティは、ムーと国交を結んで以来、マイカルとエナジポリスでグラ・バルカスの短波通信を傍受し、コンピューターでの解析に必要な暗号文のサンプルを取得し続けていた。後に、キルクルスにも傍受局が追加される。

 その時点では、法則性からまず暗号機のアルゴリズムの割り出しが行われていたが、これはコンピューターがあっても一朝一夕には成し遂げられない。

 だがグレートアトラスターを鹵獲し、暗号機本体を入手して、そのアルゴリズムを取得したことで、エクスプレッセスティのグラ・バルカス暗号解読は一気に進行した。

「おそらく、グラ・バルカス軍が先進国会議に艦隊を差し向け、それを叩くために、空母を出撃させたのだ…………」

「だ、だとしたら、帝国海軍は…………」

「…………いきなり再起不能、まではいかないものの、戦果にまるで見合わない大損害を強要されることは、間違いないだろうな…… ────」

 それを聞かされた海兵は戦慄していたが、ラクスタル本人は、どこか客観的にその事を思考させていた。

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

 ────────現在。

 ミリシアル南岸近海、神聖ミリシアル帝国領マグドラ諸島東方沖。

 EM特別任務部隊、と名付けられた艦隊が、東に向けてゆっくりと前進していた。

 

エクスプレッセスティ共和国国防軍

 航空母艦『ヴァルキュリア』

 ヴェネレイト級駆逐艦『ヴェスト』『アフロディーテ』

 イシュタール級駆逐艦『ディアーネ』

 フェネシー級駆逐艦『ヴィールニィ』

 アンドロジー級コルベット『ダニーポワー』『ビフォーリア』

ムー国国防軍

 航空母艦『ラ・コスタ』『エル・シエロ』

 戦艦『ラ・エルド』

 軽巡洋艦『ラ・シキベ』

 駆逐艦8隻

 

 19隻の2ヶ国の軍艦は、ラ・エルドを中心とするムーの水上艦による前衛部隊と、その後方、3隻の空母をエクスプレッセスティ水上艦が取り囲む空母部隊、2つの輪陣形をつくっていた。

 ──マイラス大尉が贔屓するのも無理はない……

 ムー国海軍のレイダー中将は、自身が今、乗っている『ヴァルキュリア』を観察して、内心でそう思った。

 ヴァルキュリアの動力はCOSAG(蒸気タービン・ガスタービン併用)方式だ。既に低・中速ディーゼルエンジンを実用化しているムーからすると、蒸気タービンと訊くと旧世代に聞こえる。

 だが、高温高速燃焼缶は、同じ熱出力のムーの水管式ボイラよりはるかに小型で、煙突からの排気にも、濛々と上がる黒煙の存在はない。

 マイラスのエクスプレッセスティの技術への傾倒は、彼が“色欲以外でエクスプレッセスティに弄された男”などと言われる原因になった。

 だが、レイダーは今、その理由を噛み締めている。

 合同艦隊として派遣されたムーの空母が、最新鋭のラ・ヴェニア級ではなく、その前級のラ・コスタ級となったのは、機関が原因だった。エクスプレッセスティから提供された新装備には、蒸気供給源が必要なため、完全ディーゼル動力のラ・ヴェニア級には、そのままでは設置できなかった。

「ああ、ここにおられましたか、レイダー中将」

 エクスプレッセスティ海軍の、アイサル・ソーニャ・バイタナ()()が、声をかける。

 エクスプレッセスティ軍の階級制度は、米軍のそれを準用しており、平時における実戦部隊の最高階級は少将となっている。任務につく際、率いる部隊の規模に応じた役職に必要な階級(中将、大将)になり、任務終了後退役しない場合は少将に戻る。

 元帥については米軍よりも旧大日本帝国陸海軍に近い、階級と言うよりは一種の名誉称号という扱いになっている。そしてエクスプレッセスティ国防軍設置以来、未だ元帥は出ていない。

 今回の部隊規模であれば中将程度なのだが、ムーの艦が指揮下に入るため、体裁としてムーの将官を同じかそれより下級のエクスプレッセスティ指揮官の隷下に入れるのはまずい、ということでアイサルを大将に任命した。

 エクスプレッセスティ側では、ムーの水上戦闘艦、その防空を担当するコルベット2隻はムー側の指揮官配下に入れる提案をしていたが、ムー側が自国より先進的なグラ・バルカス軍への対応は、自国の指揮官では不安があるとして、エクスプレッセスティ側に一元化された。

「グレイス3 ──── 早期警戒機が、ミリシアル艦隊に向かって南下中の艦隊を発見しました。ミリシアルからは該当海域にミリシアルが認識している軍艦・船舶は無いとのことです。これをグラ・バルカス艦隊と断定し、SSM(艦対艦ミサイル)攻撃を実施します。それとミリシアル艦隊に向かう航空機編隊が発見されているので、ミリシアル艦隊上空に戦闘機を向かわせます」

「了解。問題ありません。アイサル大将に一任致します」

 アイサルの状況説明と対応を説明されると、レイダーは少し恥ずかしそうに苦笑しながらそう返した。

『各艦、SSMスタンバイ完了』

 アイサルのインカムに、艦内通信で報告が入る。

「SSM発射。次発装填は先の指示通り」

『了解、SSM発射』

 エクスプレッセスティの各艦から、R-360K『ネプチューン』が、次々に発射される。

 海軍については西側寄りとは言え、ウクライナからも技術を導入していた関係でソ連の影響はキッチリ受けており、ヴァルキュリアにも空母だというのにSSMキャニスターが載っている。

 ヴァルキュリアのSSMキャニスターから飛び出した2発を含め、38発のネプチューンSSMが、グラ・バルカス東征艦隊に向かって飛翔していく。

 ──壮観だな……

 レイダーが声に出さずに呟いた後、戦闘機の発艦シークェンスへと移行する。

 レイダーは、私的な本音としてはこの為にヴァルキュリアに乗り込んでいた。ヴァルキュリアからなら、黒煙に邪魔されることなく、自国の空母からの発艦を目にすることができる。

 ラ・コスタの蒸気カタパルトには、()()()()()()()()()が、既にプロペラを回しながら、待機していた。

 






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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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