フェミニン国家召喚   作:神谷萌

120 / 152
訂正2024/03/07(JST基準)
ぴょんすけうさぎさんよりご指摘。前話にて、ラクスタルとアルカオンの取り違えがありました。



甲鉄獣の屠場 Part.I

 ── 確かに恐るべき攻撃手段だが、なぜ駆逐艦を狙った?

 アルカイドは、無惨な残骸と化した自軍の水雷戦隊の姿を見ながら、思考を巡らせる。

 そして、ユグドからの転移後、グラ・バルカス帝国海軍最大の屈辱である、グレートアトラスターが虜になった戦いに行き着く。

 ── 潜水艦か!

 アルカイドが最初に気付いたのは、それだった。

 潜水艦の攻撃を容易にするため、対潜能力を真っ先に奪った。そう考えれば辻褄が合う。

「まずい! このままだと艦隊まるごとグレートアトラスターの後を追わされるぞ!!」

「えッ!?」

 アルカイドが、切迫した様子で声に出すと、バーダンも憔悴して訊き返す。

「潜水艦だ! 現地人 ──── ミリシアル艦隊の海域には、エクスプレッセスティの潜水艦が展開しているッ!!」

「なッ!?」

「だから真っ先に、水雷戦隊を排除したのだ! このまま南下すれば嬲り殺しにされる!! 全艦直ちに、磁気方位基準で10時方向に転進! 陣形に構うな、各艦の判断で本隊方面へ退避せよ!!」

 アルカイドが命令を発する。

「面舵一杯! 変針後に機関全速!!」

 バーダンの命令で、コルネフォロスは乗員にGが感じられる程の急旋回をする。

「レーダーに感!」

 レーダーオペレーターの声が上がる ────

 

『マザーよりスクルド11、作戦決行』

『了解。(イリ)(ーナ)に一言』

『どうぞ』

『この割り振り、帰ったら覚えてろ』

 

「磁気方位190°方向より敵航空機と思しき反応、接近ちゅ ──── あ、あれ?」

 緊張しつつも、職務に忠実に対応していたオペレーターだが、急に戸惑った声を出す。

「どうしたッ!?」

「レーダーが異常反応、スコープが輝点で埋め尽くされて…………」

「水上も駄目です、使い物になりませんッ!!」

 バーダンの問いに、2人のレーダーオペレーターが悲鳴で答えた。それでも必死に、有効探知範囲を取り戻そうと、調整ツマミを操作する。

「……敵には、レーダーを妨害する手段があるようだな…………」

 アルカイドは、自身も精神的余裕を失いつつも、部下の不安を(いたずら)に煽らないよう、平静を保っていようとしたが、それも限界になりつつあった。

 レーダー妨害の概念はグラ・バルカスにも既にある。だが、地球ではチャフと呼ばれる、薄い金属箔を空中に散布して単純にレーダー波を撹乱する受動的なものか、大型の航空機に搭載する重量級のものになるかのどちらかだ。 ────流石に、相手の艦載機そのものが自軍の陸上の重爆撃機より重量があるとまでは、想像が追いついていなかった。

 

 ミリシアル領マグドラ諸島北方沖、グラ・バルカス帝国海軍東征艦隊南方上空。

「なんだ、算を乱して逃げ出すところのようだ」

 戦闘攻撃機『ジグラント』2α型を駆るミリシアル海軍飛行隊の爆撃機隊長オメガは、先程まで、巡洋艦、駆逐艦だった浮遊する鉄屑と、陣形を崩し、明らかに遁走しようとしている戦艦、大型巡洋艦の姿を見て、呆れたように言った。

 ミリシアルの軍用機も、エクスプレッセスティの技術協力を得て改良 ──── と言うか、熱源が異なるだけで基本的にターボファンエンジンであるミリシアルのエンジンを見て、

「えーいめんどくせー一旦前ファン取っ払っちまえ!!」

 と、ファンの送風量とコンプレッサーの吸気量が逆転してしまっている状況に、ウクロボロンプロム・エクスプレッセスティ・サービスの珍しい男性技術者(定住外国人)が、ウォッカ呑みながらそう叫んだ結果、ミリシアルの魔光呪発式空気圧縮放射エンジンも、多少の騒音増大と引き換えに、推力の大幅な向上を実現し ──── 試作用テストベッドに供された『エルペシオ』1型が離陸滑走中に分解した。

 ついでにノズルも溶けた。幸いテストパイロットは一命を取り留めたが、とりあえず現用機に搭載するエンジンは出力をデチューンし、制空戦闘機『エルペシオ』3型の改修機は水平最高速度720km/h程度、戦闘攻撃機『ジグラント』2型の改修機は同じく650km/h程度になるようにされた。

 この改修型はあくまで応急措置的存在であり、以前からの開発中だった後継機とは別であることを示すため、数字はそのままでサブタイプを付け、制空戦闘機型は『エルペシオ』3α型、エルペシオ3ベースの戦闘攻撃機型を『エルペシオ』3Γ型、従前からの戦闘攻撃機ジグラント2の能力向上型は『ジグラント』2α型とした。

 ちなみに本来なら “Γ” の前に “β” が来るはずだったが、どういうわけか、エクスプレッセスティ側の技術者が「それは縁起が良くない……」とあんまりにも深刻そうに言うので飛ばした。ビデオテープがどうとか言う話だったが、結局ミリシアル側は理解できなかった。

 マグドラ海軍航空基地を飛び立ったミリシアル軍攻撃隊は76機。54機がジグラント2α型、16機がエルペシオ3Γ型、そして6機は当初の開発意図を変更して、制式化されたばかりの『ジグラント』3型だった。

「全体突撃開始」

 最先任の指揮官として、攻撃隊全体の指揮をとるオメガは、魔信のインカムのマイクに、はっきりとした声でそう言った。

「爆撃隊、巡洋艦を狙うぞ」

『了解!』

 多少のもどかしさを感じつつ、オメガはそう下令した。

『空からの投射のみで、戦艦を撃沈するのは、可能ですが、極めて困難です』

 ナリマ・エジャクロ・ザモラというエクスプレッセスティ空軍少将が、そう語ったとされる。

『グラ・バルカス帝国では、航空機は戦艦に勝るという思考のようですが、これは我々の世界の80年前の戦争のときに言われたものです。しかし、実際には航空攻撃のみによって戦艦を撃沈した例は、極端に航空機側に有利なものしかありませんでした。それもそれから20年ほど経って、現在の我が軍のように高精度の対空兵器が出現すると、そのプラットフォームになり得る戦艦の撃沈は、()()()()()()()()を使わない限り、航空機にとって極端にリスクの高いものになったのです』

 真珠湾、マレー沖、シブヤン海、坊ノ岬沖。いずれも大艦巨砲主義は終わった、といいつつ、ろくに動けなかったり、戦艦側のコンデションが良くなかったり、コスト対効果ガン無視の大量投射を少数の戦艦が受けた結果だったり、と、見返すと航空機側に都合のいいシチュエーションばかりなのである。

 しかし、それならばなぜ、エクスプレッセスティは戦艦を持とうとしないのか、と、ミリシアル側の人間が訊き返すと、ナリマはこう答える。

『実際に戦艦を建造、保有しておられる貴国なら解るかと思いますが、戦艦はイニシャルコスト、維持コスト、ランニングコストとも膨大にかかります。その他の精密兵器が高額になった私達の時代には、戦艦のように用途が限定的される兵器に割く予算は効率的ではないとされたのです。ただ、海軍強国であり、資金にも事欠かないアメリカ合衆国と日本国には、航空機以外の兵器のプラットフォームとしての巨大艦に回帰する動きがあったのも事実です』

 最終的に、ミリシアル海軍として戦艦優位の考え方が誤りではない事が、エクスプレッセスティが証明してくれたのは良いが、航空機乗り自身のオメガとしては、複雑な心境だ。

 爆撃飛行隊に先んじて、戦闘攻撃隊のエルペシオ3Γが、敵艦攻撃の為に低空へと舞い降りていく。

 

 戦艦『コルネフォロス』、戦闘艦橋。

「敵機接近、少数機、急速接近中ですッ!!」

 既にレーダーに頼らずとも目視できる距離となり、対空戦闘配置に着いている。

「対空射撃自由!!」

 バーダンが下令すると、コルネフォロスの高角砲、対空機銃が、接近する敵機に対して激しく火線を放つ。

 僚艦の『プロキオン』も、同様に激しく撃ち上げ始めた。

「クソッ、クソッ、クソッ、落ちやがれ!!」

 毒()く声が聞こえるものの、それ以上の事ができない。

 グラ・バルカス帝国の対空兵器は、まだ一撃必中の現代兵器には程遠い存在だ。嘲笑うかのように、エルペシオ3Γが自機の攻撃射程内に飛び込んでくる。

「この高度、雷撃か!?」

 バーダンが、戦慄した表情で、その編隊が接近してくる方角を見る。

 だが、バーダンの予測は悪い意味で外れた。

 ドッ……!!

 エルペシオ3Γの主翼下から、2発の『アローエクスプレス』1型ロケット弾が発射される。

 アローエクスプレスは、エクスプレッセスティでは所謂 “NATO寄せ” で退役した、ソビエト連邦S-24 240mmロケット弾を、ミリシアル製の、つまり魔導系の炸薬・推進薬に変えてコピーしたものである。

 本来であれば完全にグラ・バルカス海軍の防空エリアから攻撃することも可能だが、無誘導なので命中させるとなると多少のリスクは負わなければならない。

 魔導式の炸薬は、信管である呪発回路の属性の割合を調整する事で、炸裂時の特性も変えられる。擬似的な APFSDS 弾のようにもできる。

 とは言え、このロケット弾の炸薬重量では、流石に戦艦の主装甲は貫けない。だが、主装甲ほどの厚みの無い高角砲や対空機銃座を破壊するのには、充分だった。

 対空陣形を整える暇もなく、無防備に晒された2隻の戦艦の舷側高角砲群に飛び込み、高角砲や対空機銃座を薙ぎ払った。

「ミリシアルにあんなものはなかった! なかったはずだ!! 我が帝国にもまだここまでの威力のあるものは無い! エクスプレッセスティが技術供与をしたんだ!!」

 バーダンが声を荒げる。

 

「なんだ、あれは?」

 エルペシオ3Γの編隊が戦艦2隻に襲いかかっている間、オメガの編隊は巡洋艦群に襲いかかろうと、中高度から接近していくと、彼らの眼下で、昼用花火のような爆発が無数に起こる。

「近接信管、というやつか」

 オメガは、少し呆れ混じりに呟いた。

 近接信管はエクスプレッセスティの現代兵器でも多数使われているが、グラ・バルカスのものは初歩的なもので、元々不発率が高い上に、使用周波数さえ割り出してしまえば妨害するのは難しくないと言う。

 しかも、その肝心の周波数を、グレートアトラスター鹵獲によって暴かれていた。

 電子戦ポッドを装備したミグ・ヒンドスタン MiG-29Hi/US 『シーファルクラム』が、グラ・バルカス艦隊に対して広帯域ジャミングをかけていることは、既にミリシアル側にも通告されている。

「我がミリシアルは、プライドよりも現実を採ったのだ。去年のイルネティアでの敗北でも、プライドを捨てられなかった代償を受け取るがいい!!」

 オメガは送信機を入れたまま吠え、ジグラント2αの編隊はグラ・バルカスの重巡洋艦に向かって急降下爆撃を開始する。

 

「敵機、巡洋艦直上、急降下ァ!!」

 嘆きの声にも聞こえる叫びが、コルネフォロスの艦橋に響く。

 どう考えてもオーバーキルと言っていい数の急降下爆撃機が、味方の重巡洋艦に向かって飛び込んでいく。

 急降下爆撃でも命中率はせいぜい40%程度だ。だが、1隻あたり18機も攻撃すれば、当たる数はそれなりになる。

 至近弾が上げる水飛沫と、回避の為に全力運転中の機関が吹き出す濛々とした黒煙の中で、チカッ、チカチカッ、と、爆発の閃光が確認できた。

「駄目だ……あれは助からない……」

 主砲弾薬庫に誘爆した1隻の砲塔が、コルネフォロスの檣楼よりも高く弾け飛ぶ。

 ──艦が生き残れるかどころか、生存者がマトモに残っているかどうか……

「敵小編隊、再度低高度より接近!」

「ふざけるな、両手で数えられる程度の数で何ができる!!」

 見張りの報告に、冷静さを失いかけていたバーダンが声を荒げる。

「いや……まずい! 艦長!! 回避させろ、雷撃だ!!」

 アルカイドが、慌てた声を上げた。

 

 開発最終段階にあったジグラント3だが、エクスプレッセスティの航空機の資料提供により、全くトンチンカンな設計をしている事に気がついた。

 気がついたのだが、 ────

「この形状、割とロマンだよねぇ……音速超えないなら、何かに使えないかな……」

 ────と、エクスプレッセスティ側の技術者が考えてしまった結果、ジグラント3は首の皮一枚繋がった。

 ジグラント3のもっとも勘違いしていた部分は、逆ガル型の主翼を採用していたことだ。

 逆ガル翼は、チャンス・ヴォートF4U『コルセアII(2)』など、プロペラ機で大径ペラを採用する場合や、愛知B7A 艦上攻撃機『流星』のように、爆弾倉を設ける場合など、主脚の延長を避ける事ができるという事が強みだ。

 だが、ミリシアル機は原理的にジェット機 ──── この時点で、利点が無いに等しく、逆に速度性能を高めるのであれば抵抗になってしまうのだが、亜音速の段階ならそこまで酷くもない。

 ちなみにH型尾翼は、左右の垂直尾翼を折曲げのない1面として強度を上げれば良しとした。

 そしてジェット機でも、亜音速攻撃機としてなら利点は見いだせた。胴体下ペイロードの空間確保である。

 普段MiG-23GENやSu-22UGEの狭っ苦しい胴体下に慣れさせられているエクスプレッセスティの空軍関係者には、実に魅力的に見えてしまった。

 しかも、ジグラント3は艦上運用もすると言う。主脚を伸ばしたり複雑にしたりすると、どうしても耐久性が落ちるため、艦上機としては短いに越したことはない。

 こうして、ジグラント3・『シュトルモヴィク』はこの世に生まれることになった。

 

 ジグラント3は10mを切る高度で、コルネフォロスとプロキオンに迫る。

 エルペシオ3Γのロケット弾攻撃で、左舷側の対空火器を1/3以上破壊され、近接信管も封じられていた2隻の戦艦には、わずか6機の雷撃機を跳ね除けることができない。

 1機あたり2本搭載されていた、魔導式の航空魚雷を投射する。

「敵機、魚雷投射しました! …………5線見えます!!」

 絶叫とともに、ジグラント3が、艦橋の至近距離を通過する。

 コルネフォロスは大きく転舵を続けていたが、ミリシアルの魚雷は無誘導だったものの、扇状に投射された6本の魚雷を回避しきれなかった。

 艦橋にまで伝わる衝撃とともに、2本の水柱が上がる。1本は左舷やや後方、1本は左舷側艦尾やや前に命中した。

「左舷側主機室付近に浸水発生!!」

「何!?」

 報告に、バーダンが驚いて、思わず訊き返すような声を出した。

「隔壁閉鎖間に合いません! 左舷側主機室への浸水、止められません!」

「そんなバカな! 航空魚雷だぞ、バルジアーマーをそんな易々と貫けるはずが……」

 特にミリシアルとは技術形態が違いすぎるため、誘導兵器の技術こそ供与できなかったものの、炸裂した爆薬の物理エネルギーを応用する方法なら渡すことができた。

 バブルパルス航空魚雷は、バルジアーマーを滅多打ちにして破孔を穿ち、コルネフォロスの命を急速に削っていく。

「…………変針、磁気方位210°」

「司令!」

 アルカイドの命令に、バーダンは、一瞬驚いた声を出したものの、すぐにその意味を理解した。

「敵戦艦発見!!」

 見張りの報告が入る。

「もはや手負いの艨艟2匹……一矢報いるには、後方の機動部隊から向かっている筈の攻撃隊の到着まで、敵を引き付ける以外にない」

 既に発見していた、戦艦『カンショ・バクーア』を旗艦とする第零式艦隊が、既にエスコートもない、艦隊とすら呼べない、満身創痍の戦艦2隻へと襲いかかろうとしていた。

 

 





す、すみません。週末は完全にブッチしましたが……月曜日の昼間には書き上がってました。
なぜ投稿が遅れたのかと言うと、また NovelAI Diffusion遊んでたスクルドくんとウェルダンディの全身画を描いてもらっていたからです。

https://twitter.com/kaonohito2/status/1767214814647173564
イケメンロリのスクルドくん。
ただし女扱いされるのは嫌いではない。(何

評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

  • あり
  • なし
  • そんなことよりカツ丼定食
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。