「敵戦艦発見!」
神聖ミリシアル帝国海軍、第零式艦隊旗艦、戦艦『カンショ・バクーア』。
戦闘艦橋。
見張りの報告が入ってくる。
「数は2隻、オリオン級戦艦と思われます。随伴艦なし!」
「どうやら、航空隊は自分達の仕事を果たしてくれたようだな」
艦隊指揮官のバッティスタが、満足そうに、口元に笑いを浮かべながらそう言った。
「本職としては、些か複雑ではありますが……」
『カンショ・バクーア』艦長、ロリアナが、呟くような口調でそう言った。努めて中性的な言い回しを心がけているが、ミリシアルでは珍しい女性軍人である。
それは、カンショ・バクーアが、ゴールド級戦艦とされつつ、次級・ミスリル級の兵装のテストベッドとして、特異な設計と立場にある事、その為に実戦艦としての位置付けが他の同型艦より低く設定されている事と無関係ではない。
だが、今はそれ故に、カンショ・バクーアは重責を背負っていた。
とは、言うものの ────
「顔に出ているぞ、艦長」
バッティスタが、苦笑しながらそう言った。
「満更でもないようじゃないか」
「嘘はつけませんか」
ロリアナも表情を崩す。
「私が女であれ、本艦の立場がどうであれ、戦艦の艦長として、同格の敵と撃ち合ってみたいと思うのは無理からぬことでしょう?」
「まぁ、そうだな」
バッティスタは、シンプルに同意する。
「戦艦の相手は戦艦にお願いしたい……エクスプレッセスティにそう言われては、尚更だ」
「敵戦艦、こちらに向かってきます!」
さらなる報告が入ってきた。
「前方主砲戦! 主砲魔力回路起動、強化装甲スタンバイ!」
「了解! 主砲魔力回路起動!!」
ロリアナの命令に、威勢のいい復唱が返ってくる。
「目標、敵1番艦!! 光学照準で行く! できないとは言わないな!?」
「問題ありません!」
ロリアナの言葉に、カンショ・バクーア砲術長が答えた。
ミリシアルの戦艦は警戒・火器管制に魔信探知機を使用している。だがこれは、対象の発する魔力を探知している為、エクスプレッセスティ、ムー、グラ・バルカスの兵器には、兵器そのものには反応しない。
軍艦の場合、多数の乗員がいるため、それの反応を拾うことで発見が可能だが、多種族の混和が生じているムーはともかく、ほぼ人間だけしかいないエクスプレッセスティとグラ・バルカスの軍艦には、警戒用としてはともかく火器管制用には不安が残る。
さらに、これは情報提供ではなく、ミリシアルの情報部が独自に調査したものだが、エクスプレッセスティには遠隔操作の軍用無人艇が存在するとの情報を得ていた。こうなると魔信探知機ではお手上げである。
ミリシアルの技術部は急ぎ、反射波を利用するレーダーの開発に取りかかった。最初に手を付けたのは、科学文明国と同じ電波式レーダーを魔力電力変換で駆動するもので、これはミリシアルが発掘した古代魔法帝国の遺品に拠る。
並行して、エクスプレッセスティ軍の技術部から提案されたのは、電波式レーダーの概念を応用し、電力への変換ではなく、魔導周波を使ってその反射波を捉えられないか、というものだった。
この2種の開発が並行して行われていたが、まだ実戦配備には至っていない。
「主砲、射撃準備完了!」
「照準よし!」
主砲塔からの応答と、砲術長の報告がロリアナにもたらされる。
「撃てーッ!!」
ドゴゴゴォオォォォッ!!
ロリアナの号令の次の瞬間、カンショ・バクーアの主砲、38.1cm魔導砲の前部搭載、3連装の第1砲塔と連装の第2砲塔の5門が火を吹いた。
「敵戦艦発砲!!」
コルネフォロスの艦橋にも、カンショ・バクーアの主砲の発射炎が視認されたという報告が入る。
「応射せよ!」
「撃てッ!!」
アルカイドが命令し、一瞬にも至らない直後にバーダンが自艦に号令する。
ドゴゴォッ!!
コルネフォロスの35.6cm連装砲、2基4門が、迫るミリシアル艦隊に向かって砲弾を撃ち出す。
この時、度重なる転回と、機関の損傷度合いの相違から、梯形に並ぶ形で進んでいた2隻は、プロキオンの方が先行する形になっていて、ミリシアル艦隊はプロキオンを1番艦と認識していた。
ドザザザザザ……
コルネフォロスの射撃の一瞬後に、カンショ・バクーアの砲弾が、プロキオンの周囲に着弾した。
真正面同士を向いていて、晒している面積が少なかったのが幸いしたのか、カンショ・バクーアの第1斉射は、命中弾は出なかった。だが、プロキオンの左右に至近弾の水柱が上がり、夾叉されている。次は当たるかもしれない。
「敵艦で複数の爆発炎確認!」
オォォッ、と、艦橋に歓声が上がる。
コルネフォロスか、僚艦のプロキオンのものか解らないが、2発の砲弾がカンショ・バクーアの主甲板と第2砲塔に命中していた。
「初弾命中とは縁起が良い、艦長! 空母隊に遠慮する必要はないぞ!!」
「了解です!」
先程まで、悲壮感が漂っていた雰囲気から一転、アルカイドとバーダンの声に勢いが戻ってくる。
だが ────
「被害状況を知らせ!」
「破孔なし!!」
「主砲塔の動作に支障なし!!」
ロリアナの命令に、即座に報告が返ってきた。
「どうやら、新型装甲強化
口元で不敵に笑いながら、バッティスタが言う。
「ええ、化学式の砲弾相手にどうなるかと思いましたが、充分以上に有効なようです」
ロリアナも、表情に喜びを隠さずに言う。
ミリシアルの戦艦は、機動力を確保するために、総質量に対して装甲重量をあまり割いていない。
この性質は、地球では第一次世界大戦前後にブームとなった巡洋戦艦、そのイギリス型のものに近いと言える。
その代わり、魔力伝達率の高い金属を使用し、魔力を印加すると硬度が変わる帯魔性装甲材を用いた装甲が用いられている。この装甲材の基本成分がそのまま、ミリシアルの戦艦の艦級名になっている。
それでも、グラ・バルカスの戦艦を相手にすると考えたときは、そのままではかなり心許ないものだった。
そこで、エクスプレッセスティの技術供与 ──── ではなく、ミリシアルの情報員や軍関係者が、エクスプレッセスティで入手・視聴した創作物の架空の装甲、それにヒントを得て、新たな装甲強化法が編み出された。
物理面では単純に硬度を増していた従来品に代わり、帯魔性装甲材に単一結合の層を形成させ、そしてその結合の方向を層ごとに変える事で、抗堪性を極端に上げる、魔呪干渉式
なによりリーズナブルな事に、この装置は既存艦も、装甲材そのものを交換せず、呪発装置のみの交換で搭載できる。
そして、カンショ・バクーアはこの試作呪発装置の試験艦となっていた。
実用化は既に果たしており、現在改装中の他の戦艦と、計画中の超大型巡洋艦に搭載される事になっていた。
「これであれば、巡洋艦部隊を矢面に立たせる必要はないと思いますが……」
「うむ!」
ロリアナの進言に、バッティスタは力強く頷く。
「陣形このまま、本艦を盾にし、敵艦隊への攻撃続行!!」
「了解、陣形このまま、攻撃続行!!」
バッティスタの指示を、通信員が威勢のいい声で復唱する。
「目標そのまま、撃ち方続け!!」
「了解!」
ドゴゴゴゴォォッ!!
ロリアナの号令とともに、カンショ・バクーアは、手負いとは言え2隻の戦艦相手に、主砲を撃ち続ける。
「命中! 命中!!」
コルネフォロス、プロキオン、両艦とも、カンショ・バクーアに複数の命中弾を出し、その度コルネフォロスの艦橋で歓声が上がり、熱気が増していく。
「…………おかしい……」
「お
「なにか言ったか?」
「いえ! おかしいとは?」
呟いたアルカイドに、バーダンが問い返す。
「今ので何発命中した?」
「え……?」
「艦の規模や、着弾の水柱の大きさから、敵戦艦もこちらとはほとんど同格のはずだ。なのに、なぜ、平然と撃ち返してくる?」
「それは ────」
ゴワッガァアァァァァンッ
バーダンが返答しようとした時、射撃音とは別の轟音が響いてきた。
「プロキオン被弾!」
絶叫のような声に、アルカイドとバーダンは、右舷側前方を進んでいるプロキオンを振り返る。
プロキオンの前部から、もうもうと黒煙が上がっている。注視すると、第2砲塔がスクラップになっていた。
いくらなんでもおかしい。誰も気が付き、そして、それまでの興奮に氷水を浴びせられた。相手には少なくとも4発の命中弾が出ているにも関わらず、平然と撃ち返してくる。それに対して、こちらはただの1発でこの損傷だ。
──エクスプレッセスティは戦艦を持っていない、戦艦を建造する技術を持っていない国だったはず……だとすれば、これはエクスプレッセスティの技術供与だけでなし得ることではない……
「ッ、列強1位の座は、伊達ではないという事か…………!!」
アルカイドは、まだ裸眼で見るのには若干の困難がある程度の距離の彼方の、敵戦艦 ──── カンショ・バクーアに、憎悪の表情を向け、睨みつけた。
「て、敵艦発砲!!」
カンショ・バクーアの5門の主砲が、プロキオンを狙って無慈悲に発射された。
グラ・バルカス艦隊もカンショ・バクーアに向かって斉射する。
だが、最早戦艦同士の決着は完全についていた。
3発の砲弾がプロキオンに命中した。傷口をさらに深く抉られ、プロキオンは戦う力のほとんどを喪失し、その生涯をも閉じようとしていた。
「頭に乗っていられるのも今のうちだ、現地人ども!!」
バーダンが、憤怒の声を上げる。
「まもなく200機の攻撃隊が到着する! そうなれば貴様らなど全滅だ!!」
──その役割は、果たせそうだな。
バーダンの声を聞いて、アルカイドは声に出さずに呟いた。
──── カンショ・バクーアの呵責のない射撃が、コルネフォロスに襲いかかった。
神聖ミリシアル帝国西南西沖。海戦海域より北北西約800km。
エクスプレッセスティ海軍、空母戦闘攻撃隊。
「~♪」
隊長でもあるイリーナ・ルデレンコ中尉が、鼻歌を鳴らしているのを聞いて、彼女の
「今回の任務、嫌じゃないんですか?」
「どして?」
ナオミの質問に、イリーナが意外そうに訊き返す。
「ミサイルですよ?」
ナオミは、重ねて問いかけた。
イリーナは、無誘導の爆弾だろうとロケット弾だろうと、針の穴を通すかのような精密さで命中させる天性の才能と引き換えに、誘導兵器だと途端に気乗りしない態度になる。
それが今日は、長射程対艦ミサイルでの作戦だというのに、機嫌が良さそうだ。
「だって空母だよ、空母、それも一大空母打撃群!! 海軍攻撃機乗りなら、一度は夢でしょ、空母部隊攻撃! それもチャイナのハリボテじゃない、アメリカばりの!」
妙にハイテンションな口調で、イリーナはそう言い、指まで振ってみせた。
「ナオミこそ、去年からずっと空母やりたかったって言ってたじゃない」
「まぁ、そうなんですけどね」
イリーナの声に、ナオミがそう答えた。
「……と、1攻撃地点、接近です」
ナオミは、ディスプレイの表示を見て、そう言った。
「割当通り
『了解』
既に、ダッソー Br-1050AEW 『アリゼ』が発見、追尾していた目標は、既に MiG-29Hi/US の火器管制レーダーにも補足されていた。
「グラ・バルカス海軍飛行隊の諸君! 気の毒だが君らに帰る巣箱はない!」
イリーナはその声とともに、彼女の愛機の両翼から、
8機の MiG-29Hi/US から、36発の対艦ミサイルが発射高度から海面近くに舞い降り、そのスレスレを、まだ目視には程遠い彼方の目標に向かって飛翔していく。
──── その南方上空。
『コルネフォロスから入電中、敵艦隊上空に直掩機なし』
「…………」
『コルネフォロスよりメッセージ、「奮闘するも敵戦艦1隻に傷を与える事は最早叶わず。帝国に栄光あれ!」以上』
ミリシアル艦隊を目指す攻撃隊に、そのメッセージが伝えられた。
その意味する事は、誰にも、言うまでもなかった。全滅だ。
いくらなんでも相手を舐めすぎていた。敵を攻撃するのに、艦隊があまりにも寡兵過ぎた。
それに、外交的に致命的なミスを犯していた。ミリシアルとエクスプレッセスティは可分だと判断してミリシアルに吹っかけたら、対策されていてエクスプレッセスティに介入の口実を与えてしまった。
『今聞いたとおりだ』
攻撃隊長のパトンの声が、無線を通して攻撃隊各機の乗員に伝えられる。
『東征艦隊は残念なことになった。だが、我々がその敵を討つ。エクスプレッセスティ艦隊の活動が想定されているが、如何に高い性能を持っていようと、保有する空母はただの1隻。我々を止める術はない。我が帝国の真の力を、現地人と奉ろわぬ女どもにもせ点けてやるのだ!!』
現時点、この瞬間にまだ浮いているかどうかすら解らないコルネフォロス、東征艦隊の無念を想って、それを晴らすべく、戦爆合計200機の攻撃隊は、ミリシアル艦隊に向かって飛行を続ける ────
さらにその西方、高度56,000ft(約17,069m)から、29,500ft(約9,000m)まで下りてきたMiG-29、戦闘飛行隊の単座型MiG-29Hi/Sが、火器管制レーダーに獲物を捉える。
ウェポン・セレクターは
「戦闘開始。MAAM発射後、小隊毎の判断で行動」
戦闘飛行隊指揮官、チポー・アンドロジナス・ズマ大尉は、淡々とした口調で無線越しに指示した後、自身もヘッドマウントディスプレイの、敵を示す
普段はイリーナとの対比で、どこか寂寥感のあるクールな女性と思われがちだが、実際には負けず劣らず情熱的な面もある。
ただ、彼女のその情熱は、表情よりも別の場所に出やすい。寂寥感を感じさせる振る舞いは、その
チポー、というファーストネームがより安易にそちらを連想させるため、ミドルネームの短縮形であるアンジー(“Andgee”)と名乗っているが、そのアンドロジナス(“Androginas”)こそ、“Androgynous”(「両性具有」)が由来、つまりアンジーはフタナリだった。
アンジーの小さく舌なめずりをする時、彼女は小さめのそれを強く勃起させていた。
ロックオン可能な目標を選択して、操縦桿のトリガーを押し込む。
その瞬間、強い放出の欲求を感じる。冷静そのものの操作を続けつつ、構わず搭乗員服の下の衛生パッドに向かって射精した。
独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
-
あり
-
なし
-
そんなことよりカツ丼定食