フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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甲鉄獣の屠場 Part.III

「そろそろ、敵の艦隊が見えるはずだが……」

 パトンは、乗機である『リゲル』雷撃機の操縦席で、呟くように言った。

 リゲル雷撃機は、空冷複列星型14気筒エンジンを搭載した、全金属低翼単葉の艦上雷撃機だ。登場した時はそれまでの複葉機から一気に洗練された画期的な機体だったが、水平最高速度は370km/hと、些か旧式化が進んでいた。

 開発されたばかりの『シリウス』艦上爆撃機や、ユグドでも未だ最強の名を(ほしいまま)にしていた『アンタレス』艦上戦闘機と比べると、相対的な性能評価は低下していた。

 とは言え、ムーとミリシアル、それにエクスプレッセスティの、ごく一部の国を除けば、航空戦力と言えばワイバーンというこの世界では、敵にとって迎撃不能で圧倒的な攻撃力を持つ存在だった。 ──── はずだった。

『敵艦隊発見!』

 先行するシリウス爆撃機の隊長機から、その一報が入ってきた。

「全隊、突入準備! 制空隊は先行せよ!」

 パトンはそう下令しつつ、自らも21機の直下の編隊を率い、雷撃のために降下、し始めた時だった。

 ボンッ、ボンッ

『うわぁあぁぁぁッ!!』

 上空の制空権を奪取するため、先行していた戦闘機隊の存在していた空間で、爆発の閃光が瞬いたかと思うと、隊内の無線に絶叫が響いた。

「どうした! 何があった!?」

『光が、光が追ってくる……駄目だ躱しきれな ──── ザザッ』

 切羽詰まった声で応答が入ってきたかと思うと、その途中で、その無線機からの送信が途絶えた。撃墜されたのだ。

「敵がいるのか!?」

「い、いえ、見た限りでは……────」

 偵察員がそう言いかけた時、

 

 ドゴォオォォォォン!!

 

「な、何だ、何がおきた!?」

 突然の轟音に、パトンは声を上げる。

 てっきり、何か爆発が起きた音かと思ったのだが、その直後、

「敵……敵です!!」

 後席の偵察員が声を上げた時には、既に自機の真上を、後方から、まるでこちらが止まっているかのような速度で、複数の、異質だが明らかに航空機が抜き去っていく。

「制空隊! 敵の戦闘機がそちらへ向かっているぞ、落とせ!!」

 パトンがそう言ったが、その時には既に、その航空機は制空隊の戦闘機をも抜き去っていた。

『とんでもない上昇力だ!! バカな、それでも速度が落ちないぞ!!』

 戦闘機隊の誰かの叫びが、無線に乗る。

 航空機にとって、降下以外の機動、特に上昇は速度を()() ──── グラ・バルカスではそう認識されていた。いや、実際にはエクスプレッセスティ、つまり地球でもそれは、基本的には同じだ。

 ただ、この傾向はアンダーパワーのレシプロ機で顕著であり、ジェット機でもほとんどの場合はそうだ。

 だが、超音速ジェット戦闘機においては、本来速度と引き換えにして主翼の揚力を得るところを、高速を発揮するためのエンジンの推力そのもので力任せに上昇する機動が可能になる。

 とは言っても、これもレシプロ機や戦闘機以外のジェット機から見た場合、()()()()()というだけの話で、急上昇が速度と引き換えの機動であることは間違いない。

 ただ、機種によってそれなりに差がある。

 前線戦闘機として、前任のMiG-23、Su-17(Su-22)の可変翼に変わる短距離離着陸能力の付与手法として、単発のF-16より軽い機体に2基のクリモフRD-33エンジンを搭載したMiG-29が得意とする機動のひとつである。

 一度アンタレスをやり過ごしたMiG-29Hi/Sは、その編隊の前方で相対する場所、高度はやや上を占めた。

「ッ!」

 ASRAAM・短射程AAM(空対空ミサイル)を発射した瞬間、アンジーの腰のあたりをさらなるエクスタシーが襲ったが、構わずそれに抗わずに放出しつつも、身体のその他の部位は関係がないかのように戦闘行動を続けていく。

 混乱の中、グラ・バルカスの攻撃隊側は把握できていなかったが、グラ・バルカス攻撃隊の邀撃に向かってきたMiG-29Hi/Sの数は、『ヴァルキュリア』の全力 ──── 12機にすぎない。

 にもかからわず、彼らの前にMiG-29が直接姿を表した時点で、90機が出撃したアンタレスのうちの43機が、既に中射程の『ミーティア』AAMで撃墜されていた。

 アンタレスの編隊との距離を一気に縮めながら、1機あたり3発のASRAAMが放たれる。

『ロケット弾だ!』

 無線で誰かが叫び、それと同時に、回避しようとアンタレスの編隊は散開する。

『駄目だ、駄目だ追ってくる!!』

 射線から逃れたと思ったアンタレスに向かって、ASRAAMは向きを変える。

 IIR(赤外線画像)誘導のASRAAMにとって、ワイバーンよりはよほど相性がいい。セダクションの技術者から見れば極めて旧態依然とした、熱効率の悪いレシプロガソリンエンジンの発熱を像として捉え、そちらへと向かっていく。

 戦闘、にすらなっていなかった。たった12機のMiG-29に対して、さらに29機のアンタレスが落とされた。

 何機かのアンタレスが、AAMの発射直後のMiG-29を狙ったが、アフターバーナーを使うまでもなく、易々と振り切る。

『畜生!』

 再度離脱したMiG-29が、攻撃隊のその上で反転して、アンタレスの背後に迫る。

「こんな出会いで残念ね。サヨナラ」

 ウェポンセレクターは “Gun”。アンジーはヘッドマウントディスプレイの中で、照準リングが緑になった瞬間、トリガーボタンをわずかに押す。

 ダダダッ

 T75リボルバーカノンからの20mm機銃弾がアンタレスに吸い込まれ、炎を吹きながら分解していった。

「駄目だ……勝負にすらなっていない……」

 パトン機の通信員が、一方的に落とされるアンタレスを見て、諦観の声を出す。

 この時、流石に彼らも、敵戦闘機の数が、両手でかぞえられる程度の数しかない事に気がついていた。

 だが、最初の数では本来、圧倒的有利が見込めるはずの大差があったはずが、 ──── ユグドでもこの世界でも、最強の名を轟かせたはずのアンタレスが、あっという多数が撃墜され、最早数の有利も失いつつあった。

 ──よもや、 “超音速機” の能力がここまでとは…………!!

「だ、だが!」

 パトンは、胸中で呟いた後、気を取り直したように声を出す。

「あの数では、攻撃機まで手が回らないだろう! 幸い、他に艦隊直掩の戦闘機はいない! 戦闘機隊の犠牲を無駄にせず、敵艦隊を撃滅して────」

 パトンの、致命的に間違ってはいないが根本的に間違っている内容の檄の途中で、

「敵戦闘機と思わしき編隊、さらに接近します!!」

 と、偵察員が声を上げた。

「今度の機体は、超音速機ではありません! プロペラ機です!!」

 異質の存在に見えたMiG-29に比べれば、それはまだしも、パトン達に理解しやすいシルエットをしている。

「味方機ではないのか!?」

 パトンのその問いかけには、相手の行動によって答えがもたらされた。

 ドガガガガガッ!!

 降り注いできた20×102mm弾のシャワーが、たちまち10機ほどのリゲル雷撃機を炎に包ませた。

 グラ・バルカスでは珍しい、液冷と思われる鋭い機首。パトンはその姿を至近距離で目にした。明らかに味方のシルエットではない。

 ムー国防軍戦闘機、『スペア(Súper)コブラ(Cobra)』。転移時、エクスプレッセスティ国防軍が動態保存兼エアショー用として保有していた、8機のベルP-63『キングコブラ』のうち3機を提供してもらい、それをリバースエンジニアリングしつつ、完全なコピーではなく改めて設計された新型機だ。

 P-63の先代に当たるP-39『エアラコブラ』に対して、P-63は航続距離が1,000kmを割ってしまうというウィークポイントがあったが、スペアコブラは1,200kmまで戻すことに成功した。それでいて、水平最大速度は708km/hと、P-63よりも高速になっている。

 エンジンはパトンらの認識通り、液冷V12気筒なのだが、彼らにとって “常識” となっているエンジン搭載位置とは異なり、P-39、P-63と受け継がれた、コクピットブロック後方のミッドシップレイアウト。固定武装はプロペラ同軸にT75 20mmリボルバーカノン1門、翼内にM621 20mm ガス・ブローバック機銃2門。翼内の武装については任務別にいくつか設計、制式化されているが、現在はまだ20mm 2門のものだけが量産に乗っている。

 超音速には程遠いとは言え、それでもアンタレスより優速だ。MiG-29がアンタレスを襲っている間に、攻撃隊の上方を占めた、32機のスペアコブラは、パワーダイブを伴ってシリウス爆撃機、リゲル雷撃機に襲いかかる。

「クソッ! このままでは全滅してしまう!!」

 パトンは毒()いた。そして、ムー戦闘機の参戦で、自身の過ちに気がついた。

 エクスプレッセスティ戦闘機は、アンタレスの相手で手一杯だったのではない。後続のムー戦闘機が攻撃機の迎撃に専念できるよう、エクスプレッセスティ機が徹底してアンタレスを排除したのだ。

 その間にも、姿勢を立て直したスペアコブラの編隊が、パトン達の方を指向する。

「各機、各々の判断で空戦域から離脱せよ! 爆弾、魚雷は投棄しても構わん!!」

 パトンは、これ以上の進撃は不可能だと判断し、無線に向かって声を張り上げた。

 ──だが!

 指示したはいいものの、各々を待ち構えているこの後の運命を考えると、パトンの心は押しつぶされそうになる。

 ──シリウスはまだ、爆弾さえ捨ててしまえば、なんとか振り切れるかもしれない。だが、リゲルはどうやっても助からない……

 自身の身も危うい状況で、指揮官として苦しむパトンだったが、彼の苦悶はさらに激しくなる────

 

 

「あーっはっはっは!! 御機嫌よう! グラ・バルカス海軍の諸君! そして永遠にさようなら!!」

 MiG-29Hi/USのコクピットに、パラノイア爆撃娘の声が響き渡る。

 通常、対艦攻撃ミッションでも、主翼最外側のハードポイントには自衛のためにASRAAMを2発、搭載していることが多い。

 だが、パーパルディアに引き続いて、今回もMiG-29に追いつけるような相手が皆無なので、代わりにAGM-119A『ペンギン』短射程対艦ミサイルを搭載していた。

 イリーナ達は、グラ・バルカス海軍の機動部隊本隊を有視界内に捉えていた。6隻もの空母がいたが、どの艦も5発以上のUMAMM-1ミサイルを受けて、炎上している。

 終末誘導移行時に目標を逸していたミサイルが命中したのか、軽巡洋艦も1隻、燃えていた。

 ただ、イルネティア南岸沖海戦の時のように、直ちに沈むようなダメージを負っている艦もなかった。

 できれば潜水艦で狩り尽くしたいところだったが、あらかじめ観測艦で海底地形を把握しておいたイルネティア近海とは異なり、このあたりの海底地形の資料がなく、ミリシアルに黙って測量をするのも憚られた。

 潜水艦自身がソナー類で座礁を避けながら行動することはできるが、能力をフルに活かすことは難しい。なので、今回は潜水艦は、ミリシアル本土強襲を実行にされた時の後詰めになっていた。

 この時、イリーナ機は後席のナオミが操縦していた。イリーナはFCS用のジョイスティックを持ち、傷が浅そうな空母を選んで、ペンギンASMを発射する、この行程を2度繰り返した。

「コントロール、返しますね」

「OK。コントロールON」

 イリーナに操縦が戻る頃、海上ではどうにか火を消し止めようとしていた空母にペンギンASMが飛び込み、ガソリンにでも引火したのか、再度炎が上がった。

「これは君たちへのせめてものレク()()エム()だと思ってくれたまえ!!」

 グラ・バルカス艦隊の上空を通り抜けざま、イリーナはスロットルレバーを戦闘出力に押し込み、アフターバーナーに点火する。

 今まで、 “超音速機” という情報は与えられていたが、いまいち想像がつかず認識できていなかったグラ・バルカス海軍の将兵の真上で、MiG-29Hi/USが音速突破の衝撃波を響かせた。

 

 

「母艦が攻撃を受けています…… “超音速機” の攻撃により、成す術もなく……」

 通信員が、静かだが悲壮感に満ちた声で、パトンにそう告げた。

「我々が何をしたというのだ!」

 パトンが嘆きの声を上げる。

「外交的に侮蔑され、挙げ句に皇族を殺され、我が帝国は武に頼らざるを得なかった! この世界の列強とやらを下して、ようやく活路を見いだせたと思ったら、 “女だけの国” とかいうふざけた国が出てきた! 所詮女と思ったら、こんな目にして尚、信じられないような武力を持っていやがる上に、我が帝国の何がそんなに気に入らないのか、ちょっとでも癪に触れば叩き潰しに来る! 帝国は、帝国はそんなに罪深い事をしたというのか!? パガンダのような実力もない野蛮人に従っていればよかったとでも言うのか!? そんな、そんなバカな!! そんなバカな話があってたまるか!!」

 嘆きの声を張り上げつつも、パトンは、敵に対して自身がとれる最後の、そして己が考える最良の行動を実行へと移していた。

「野蛮な現地人共に、戦争キ◯ガイの女ども! これが、これが帝国の魂だ!!」

 ────────パトン機は、ミリシアル戦艦カンショ・バクーアの左舷に体当りし、彼の意識は全ての苦悩から解放された。

 

 

─※─キリトリ─※─

 

 

ここまでの戦闘結果

エクスプレッセスティ共和国

 損害なし

 戦死者なし

ムー国

 戦闘機1機損傷

 戦死者なし

神聖ミリシアル帝国

 戦艦1に軽微な損傷

 戦闘攻撃機6機被撃墜

 戦死12名

グラ・バルカス帝国

 撃沈 戦艦2 重巡洋艦3 軽巡洋艦3 駆逐艦8

 大破 空母6 (うち2隻は復旧放棄・雷撃処分)

 艦上戦闘機90機中86機被撃墜

 艦上爆撃機53機中44機被撃墜 2機帰投中に墜落

 艦上攻撃機57機全滅

 水上偵察機3機被撃墜

 戦死15,353名

 捕虜134名(ミリシアル)

 

 グラ・バルカス海軍の東征艦隊の全滅のファクターとして、アルカイドがエクスプレッセスティ潜水艦を意識しすぎた事が挙げられる。

 結果論ではあるが、これによって防空陣形を崩し、ミリシアル機による攻撃で重巡洋艦3隻の撃沈と戦艦2隻の損傷を受けることになった。

 

 この『マグドラ沖海戦』以降、かつてのグラ・バルカス戦艦『グレートアトラスター』に代わり、 “青灰色の悪魔(MiG-29)” は力と恐怖の代名詞となった。

 





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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……

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