────グラ・バルカス海軍東征艦隊の指揮官、アルカイドは、エクスプレッセスティ軍と思しき先制攻撃が、主に水雷戦隊、軽巡洋艦と駆逐艦を狙ったことについて、対潜能力を持つ艦を先に一掃して、潜水艦で大型目標を仕留める為、と考えていた。
だが、実際にエクスプレッセスティ軍の潜水艦は、今回の海戦では前方には進出してきていなかった。
では、なぜ真っ先に水雷戦隊を排除したのか。それは2つ理由がある。
まず、そもそもエクスプレッセスティが多用する水上・水中・空中発射の対艦ミサイルでは、重巡洋艦以上の装甲された大型艦を撃沈することが難しかった為。
もうひとつは、雷撃と防空能力を奪ってしまうことで、ミリシアル軍が有利に戦いを展開できるようにする為である。
神聖ミリシアル帝国、カルトアルパス。
外務省カルトアルパス庁舎、大会議室。
「一方的じゃないか」
緊急に開かれた、先進14ヶ国会議緊急防衛対策会議の場で、国防省の要員からの報告を聞いたリアージュは、まずそう一言、呟くように言った。
彼は外務統括官、つまりミリシアル外務省のナンバー2だ。
本来であれば、国防は完全に国防省マターだが、今回はグラ・バルカス帝国の攻撃が、先進14ヶ国会議を標的にしている事が明らかなため、これに対する防御を最優先課題とし、外務省中心で話が進んでいる。
もっとも、
実際、長官のアグラをはじめ、国防省の参加者は、どことなく誇らしげですらあった。
プロジェクターの表示画面と、手元の資料には、恐るべき戦果が記されている。グラ・バルカス帝国軍が送り込んできた戦力は、彼の国の戦い方に相応しい数だったが、それを数的不利の状況から相手に致命的なほどの大損害を与えて跳ね除けてしまった。
主役がエクスプレッセスティ軍である事は確かだ。その力が驚異的である事も。
ミリシアルが、自国の主力戦闘機エルペシオ3 ──── ただし、エンジン改良前の従来型 ──── と、同等かそれ以上としていた90機のアンタレス艦上戦闘機が、たった12機のMiG-29Hi/Sの前に全滅した。ただの、潰走、壊滅ではない。文字通り全滅したのだ。
── ワイバーンや、ムーの従来型の『マリン』では、相手にならないのは解っていたが、エルペシオ3並かそれ以上の戦闘機をしてここまで手も足も出ないとは……
どこか楽観的な国防省の人間とは対象的に、リアージュは別種の緊張を感じる。
しかも、ミリシアルの情報部は、 “MiG-37Si” なる新型機が計画されている事を、既に掴んでいた。
完全な新型機ではなく、シャーシとしてのMiG-29はそのままだが、低速で旋回性能そのものは良いグラ・バルカス機や、ワイバーンを想定とした、低空域での格闘性能を高める事を目的とした機体だという。
── だが、アンタレスですらMiG-29には対抗すらできないのは今回の事で証明された。いや、エクスプレッセスティはある程度シミュレートできていたはずだ。
リアージュは、喉が渇く感触を覚える。
グラ・バルカスの軍用機が、エクスプレッセスティにとっては自国の80年前の水準のものなのだから、その想定はできたはずである。
── だとすれば、これは、我が国も視野に入れたものかも知れない……
エクスプレッセスティは、ミリシアルとはグラ・バルカス帝国との対峙について同調しているが、少なくともムーやクワ・トイネ、ロウリアほどには蜜月の関係ではない。
そもそもにして、仮想敵国というのは、必ずしも現状における外交上の敵対国に限らない。純粋に軍事的に評価して、自国を攻撃し得る国は、全て仮想敵国に分類されうるのだ。
「──── よろしいでしょうか、リアージュ殿」
「え、あ、ああ……」
思考の坩堝に嵌っていたリアージュは、国防省の人間の言葉で我に返る。
国防省の人間が少々得意になっているのも無理はない。エクスプレッセスティ軍とムー軍が航空部隊を追っ払ってくれたとは言え、そんな無敵の超軍事力を持つエクスプレッセスティをして、
「戦艦の相手は戦艦にお願いしたい」
と言われ、実際に戦艦2隻をほぼミリシアル軍だけで屠って見せた。しかも戦艦の強化に関しては、技術供与ではなく、ヒントとなる情報 ──── これそのものは、エクスプレッセスティにとってはフィクションに過ぎない ──── こそ得たものの、ミリシアルが独自に開発したものだ。
「マグドラ群島基地の、陸軍、海軍航空隊の報告によりますと、第零式艦隊を攻撃したグラ・バルカス帝国の艦隊は、戦艦2、大型空母6を主軸とする大規模艦隊だったようですが、空母全てが損傷により航空機運用能力を喪失し、西へ向かって撤退しているとの事です」
「ふむ、それならば差し迫った脅威はない、という事でいいのか?」
国防省の人間から説明を受けたリアージュは、そう訊き返した。
「いえ。エクスプレッセスティ側から、その損害織り込み済みで、後続の本土攻撃部隊がいる可能性があると、通告を受けています。軍は引き続き、警戒態勢を保っています。フォーク海峡の外海側の防衛のため、第1、第2艦隊を向かわせています」
「エクスプレッセスティとムーの合同艦隊は?」
「あ、その事で丁度」
リアージュが訊き返すと、その相手はちょうどよかったとその話題を出す。
「EM任務部隊は現在、コースウィーヴスの沖合で、空母の航空機消耗品とミサイルの補充を行っているとの事です。それで、エクスプレッセスティ側がこの補給部隊のコースウィーヴス寄港の許可を求めてきていますが、外務省としては問題がありますか?」
「特にないな」
リアージュは即答する。
「戦いが起きる前なら、会議参加国としてのグラ・バルカス帝国の体面も考える必要もあったかも知れないが、もう始まってしまったのなら、なにも遠慮することはないだろう」
リアージュはそう言って、軽くため息を
「……その様子、会議で何かありましたか?」
「グラ・バルカスが、ミリシエントの各国に宣戦布告してきた」
「は?」
リアージュの言葉を聞いて、直接問いかけた彼だけではなく、国防省側の人間が一様に目を点にした。
「
「それは……まぁ……」
呆れ返ったリアージュの様子に、相手もどう反応していいのか困ったような様子になる。
仮に、エクスプレッセスティが、この会議に際しては対処の準備をしていなかったとしても、こんな真似をしたら増々敵対姿勢を強めるだけだろう。
あるいは、それも計算のうちなのかも知れないが ────
「エクスプレッセスティが転移してきたという地球も大概だが、グラ・バルカスのあったユグドという世界は、価値観がどうにも推し量れないな」
エクスプレッセスティの外交的価値観も、時に綺麗事と呼ぶ者はいるが、その綺麗事を押し通すためにあの軍備があると考えれば理解はできる。外交以外の価値観はともかくとして。
しかし、グラ・バルカスの価値観は、どうにも理解し難い。まるで戦争している状態が普通のようだと感じられる事さえあった。
「…………軍としては、停泊中のグラ・バルカス戦艦『ラス・アルゲティ』を封鎖したいと考えておりますが、外務省としてはどうですか?」
「構わない。むしろ早くしてくれ。今、ロウリアの『ハーク大王』が第2区画の出入り口を塞いでいるんだ」
他のムー地域参加国、ムー、マギガライヒの艦船もまだ区画内に取り残されていたが、ムーとロウリアは対グラ・バルカスに対しては明白な同盟国となっているし、マギガライヒはエクスプレッセスティに対して必ずしも好意的ではないグループだが、少なくともロウリアやその友好国、同盟国と戦端を開いた事実はない。つまり、ラス・アルゲティを出港させないために塞いでいるのだ。
ロウリア海軍初の近現代艦としてその名を冠されているとは言え、基準1,000トンに満たない小舟が、40倍近い戦艦相手にいい度胸をしている。
ロウリアは人的資源の質が悪いと分析されがちだが、現在の王立軍のベースである王都騎士団は、エクスプレッセスティをして「極めて士気の高い、その点においては恐るべき質の軍隊」「パーパルディア程度の装備水準だったら負けていた」と言わせしめる。
それほど大きさの格差があるとは言え、水深が浅く狭苦しい港湾内で、ハーク大王をその場で沈めてしまったら、その艦体が第2区画をそのまま塞いでしまい、ラス・アルゲティが港湾内から脱出することはまず不可能だ。
「了解しました」
リアージュの相手の彼がそう言うと、アグラが部下と2・3言葉を交わし、その部下が会議室から出ていった。
「この戦闘が起こったことと、その結果から、この後の先進国会議でエクスプレッセスティがグラ・バルカスに対して、公になにかを突きつけて来ると思いますが……」
「まぁそうなるだろうな。我が国やムーも、批難決議、制裁決議を用意しているが、もっと強烈な要求を出すだろう」
国防省側の問いかけに、リアージュも承知していると言うように返した。
「我が国としては止めるつもりはないな。セットで敵認定されても得るものがない。むしろ我が国の国益の為には、同調した方が得策だろう」
エクスプレッセスティ、グラ・バルカスの両国の台頭により、世界序列1位というミリシアルの立場が、徐々に脅かされてきてはいる。
しかし、エクスプレッセスティは兵力の量、特に海軍においてその制約が大きいため、その点をムーやミリシアルに頼ろうとしている。
今回も、MiG-29の神がかり的な性能を見せつつも、グラ・バルカス攻撃隊邀撃ではムーの新型戦闘機が重要な役割を果たし、艦隊決戦ではミリシアルの戦艦が存在感を放ち、それぞれ体面を保つ以上の実績を上げた。
「“女しかいない国” だけに、相手を立たせるのは得意、という事か」
「勃たせるって……流石にそれは緊張感がなさすぎないですか?」
「そう言う意味で言ったんじゃない」
帝国文化会館、ロビー。
2日目の会議前、各国の使節団員が自国同士、あるいは他国の使節と談笑している。
「失礼、アニュンリール皇国の使節団の方とお見受けするが」
「ああ……」
そう声をかけられた、アニュンリール皇国の代表のカール・クランチは、最初、気怠そうな返事をした。
先進国会議には、南方世界を収める有力国として、実質的な固定枠扱いで参加しているが、それ以外の点について他国の認識は極めて低く、彼らに興味を示す者は皆無と言ってよかった。
クランチも、他の国の住人を寄せ付けがたい、生気のない顔、感情が欠落したかのような口調、それでいて、目の中に潜む、他者への強い蔑み、それらを放っている。
それは、彼らが、この会議においても少数派である人間外の存在、背中に翼を持つ種族である事と無関係ではないように感じられた。
エクスプレッセスティでは天使の想像図として描かれる事が多い姿だが、その翼は一方が黒くなっている。
そのような背景があったので、逆に、彼に声をかけた存在をみた周囲で、わずかに驚きの様子があった。
「余はロウリア連合王国国主をしている、ハーク・ルセリア・ロウリア35世と言う」
「ロウリアの王が、我々になんの用だと言うのだ……」
これがまだ他国であれば、クランチも多少の礼儀を見せたのだろうが、旧文明圏外国の中でも、エクスプレッセスティの転移前は、特に評価の低かったロデニウス大陸の国家が相手だからか、相手が国家元首であっても、慇懃の様子すら見せなかった。
「そう邪険な顔をしないでくれ」
気分を害した様子もなく、ルセリアは苦笑しながら言う。
「
ルセリアがそう話しかけるものの、クランチの態度は、ルセリアに興味すらないといった感じだ。絵ヅラ的には、気さくそうに話しかける少女に対し、疎ましそうにしている初老の堅物男性、といった感じで、一方でルセリアが “ウザ絡み” しているようにも見えるので、どちらに対しても印象が非常によろしくない。
「一体何の用だというのか……」
「まぁまぁ、『広大な土地を支配しているだけの蛮族国家』、そう見做されている国同士、多少は仲良くしようではないか」
「必要性が感じられないが……」
一見、なんとかクランチが打ち解けてくれないかと言葉をかけ続けるルセリアに対し、しかしクランチの素っ気ない態度は続いた。
すると、そこから、ルセリアは、声の声量を落としつつ、至近距離であれば響くような低い声になる。
「それは、実態が乖離しているからか?」
「!?」
ルセリアの言葉に、クランチの表情が一瞬、強張った。
「
「なぜ、そのような事を……?」
「そうだな、老婆心ついでに言わせてもらおう。今の貴国に対して、エクスプレッセスティ共和国は、非常に強い関心を持っている。ただし、
「何を知っていると言うんだ……人間の中でも特に野蛮と言われる国の王が」
ルセリアの表情から、それまでの何処か飄々としていた笑みが消えた。
「検体No.11518B」
「!?」
先程よりもさらに、クランチの表情が劇的に変わり、目に見えて顔色が悪くなる。
「この事は、エクスプレッセスティは知らない」
険しい顔で、睨むようにクランチに視線を向けながら、ルセリアは言う。
「少なくとも我々と、クワ・トイネ公国が認識している範囲では、だが。あの国は、人権だなんだとしがらみがあるからな。ただ、なんの為にやっていたのかは、多少遠回しになるが説明させてもらうつもりだ」
ルセリアの言葉に対し、クランチは愕然とし、言葉を継げないでいる。
『間もなく、1642年先進14ヶ国会議、2日目を開催いたします。各国の代表の皆様は、議場にご着席願います』
ルセリアが使い勝手良すぎるのなんとかならんかね。
(しかも動かしていて楽しい)
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独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食