神聖ミリシアル帝国、カルトアルパス、帝国文化会館。
先進14ヶ国会議々場。
「なんだ、あの女ども、まだいたのか」
「盗人猛々しいとはこの事だな」
前日、事実上の宣戦布告をぶち上げておきながら、今日も議場に姿を見せたシエリア達グラ・バルカス帝国使節団を見て、他の国の使節達が隠す気もないかのように言い合っている。
「このままでは帰れないという事だろう」
「まぁ当然だな。いまや世界中が敵も同じだ」
聞えよがしにそう言われても、シエリア達は、生気のない表情でやや俯きながら、黙り込んでいる。
他の国の参加者は、まだマグドラ沖海戦の発生自体を伝聞程度にしか認識していなかったが、シエリア達には当然、その悲惨な結果が伝えられている。
しかも、シエリア達が帰還する手段もなかった。
議場での悶着があった時には、すでに戦艦ラス・アルゲティの停泊区画を、ロウリアのミサイルコルベットが塞いでいた。虜となったラス・アルゲティは、昨夜のうちにミリシアル軍によって武装解除させられた。
『えぇ……静粛に願います』
議長席のリアージュが言う。各国の使節が彼を注目すると、その表情が険しいもののように感じられた。
『まず、神聖ミリシアル帝国として、皆様にお知らせいたします。昨日午後、我が国の領土であるマグドラ群島、並びにその近海で演習中の、我が国海軍の第零式艦隊が、グラ・バルカス帝国海軍から奇襲攻撃を受けました』
リアージュの言葉に、議場内でどよめきが起こる。
「あの状況で、本当に攻撃したのか……」
「相手はミリシアル軍だぞ……パガンダやレイフォルとはわけが違う」
『静粛に願います』
騒然としかけた議場内に、リアージュは再度そう告げた。
『奇襲攻撃、とお伝えしましたが、我々の方ではすでに、そのような事態が発生し得ることを予知していました』
リアージュの説明をそこまで聞いて、シエリアははっと顔を上げ、末席付近の自国の席から、リアージュを凝視する。
『我が神聖ミリシアル帝国は、ムー国、エクスプレッセスティ共和国と共同でこの事態に対処しました。我が軍の強化された戦艦、ムーの新型戦闘機、エクスプレッセスティの超音速戦闘機は、グラ・バルカス海軍に致命的な打撃を与え、部隊を撤退に追い込みました。我々の損害は軽微なものに留まっています』
リアージュが説明すると、先程よりも強いどよめきが議場内に響く。
「流石は列強1位だな……」
「ムーが新型戦闘機を開発しているという話は聞いていたが、すでに実戦配備されていたのか」
「グラ・バルカスの戦闘機は、第二文明圏で猛威を振るっていたと聞くが、エス共の超音速戦闘機はそれ以上のようだな……」
『どうやら、我々の出番はなかったようだな。残念だ』
モーリアウルが、あえてマイクを使い、口元で不敵に笑いながらそう言った。
エモール王国は、ミリシアルからの要請で、この会議に参加する自国の使節団の護衛という体で、風竜騎士団32騎を派遣してきていた。
風竜は上位竜種である属性竜の一種で、その身体は羽毛に包まれ、それは空気抵抗を減じるようになっている。その最高速度こそ500km/h程度とされているが、航空機とは根本から異なる複雑な機動が可能で、生命体としては最強の空の覇者だ。
騎乗する航空戦力として考えた場合、問題になるのがその騎乗者の耐性となる。生身の人間ではその機動によって生じる重力に耐える事ができないが、エモールの人口を構成する竜人族であれば、その身体の強靭性、低酸素環境に対する耐性は、その能力をほとんどスポイルさせずに済む。
加えて、風竜自身が高い知性を持っている。
エクスプレッセスティは情報収集でこの存在を知っていたが、その結論は「第二次世界大戦水準の戦闘機を凌駕し
ちなみにエモールへの要請はミリシアルの判断によって行われたもので、エクスプレッセスティは直接には関与していない。
モーリアウルの発言は、マグドラ群島を襲撃したグラ・バルカス海軍の空母を全部追い返した事で、とりあえず脅威は薄まっていると判断されている事からきている。
『グラ・バルカス帝国代表、本件について、この場で説明したいことがあるなら、発言を許可しますが、如何なさいますか?』
リアージュがそう告げると、各国の使節はシエリアへと視線を向けた。
シエリアは、震えながら立ち上がる。
『ぎ……議長は今、奇襲攻撃を受けたと言ったが、此度の戦い、我が方の艦隊がエクスプレッセスティ軍から先制攻撃を受けたのだ!!』
シエリアの発言は、今回の戦いに限って言えば間違いではない。
ミリシアルの第零艦隊とグラ・バルカスの東征艦隊が接触する前に、エクスプレッセスティ軍がグラ・バルカス軍の水雷戦隊への攻撃を実施した。
『被害者は我々だぞ。しかも、これほどの軍事力を持っている国が、その力をいいように振り回すというのは、それこそ危険ではないのか?』
感情論で訴えて、自国の陣営に転ぶ国が現れるかと期待しての発言になっている。
すると、ハンナが挙手した。
『エクスプレッセスティ共和国代表、発言を許可します』
『ありがとうございます。今、自称グラ・バルカス帝国代表は、先制攻撃を受けたと言われていますが、昨年の自称グラ・バルカス帝国によるイルネティア侵攻の際の武力衝突以降、グラ・バルカス帝国なる集団と戦闘行動停止の合意は成されておらず、我が国としては先制奇襲攻撃には当たらないという認識です』
『議長! 私からも補足をさせてください』
ハンナに続けて、ムー代表が挙手をし、発言の許可を求めた。
『ムー代表、発言を許可します』
『ありがとうございます。今、エクスプレッセスティ代表が仰られたイルネティア王国での両国の武力衝突ですが、グラ・バルカス帝国より恫喝を受けていたイルネティアに対して、我が国の仲介によってエクスプレッセスティ共和国の軍事介入が実現したものであります。ですが、その後、イルネティアとグラ・バルカスの間で、なんらかの戦争終結に向けた交渉がなされているとの事実は存在しません』
「なんだ……それは……」
「最初から戦争継続中だったんじゃないか」
「その上で、準同盟国に攻撃をしかければ、迎撃されるのはなにも不思議じゃないな」
「やっぱり頭グラ・
ハンナとムー代表の発言を聞いて、他の参加国の代表が、呆れた声を出す。
『静粛に願います』
リアージュが、三度、議場内にそう告げる。
『グラ・バルカス帝国代表、再度反論すべき点はありますか?』
「…………」
シエリアは、何か言わなければならないと感じていたが、なにも言えなかった。このままではまずいとは解っていたが、これ以上の大胆な交渉は、彼女達に与えられた権限を超えてしまう。
『では、エクスプレッセスティ共和国が提案する、グラ・バルカス帝国に対する要求について、決議を行いたいと思います。まず、その内容をお見せいたします』
リアージュがそう言うと、彼の背後のスクリーンに、プロジェクターがその内容を投影する。
1.グラ・バルカス帝国は、イルネティア王国に対する不当な武力行使について、その立案・実行に携わった者をイルネティア王国に引き渡すこと。
2.グラ・バルカス帝国は、イルネティア王国に対する不当な武力行使によって、イルネティア王国が受けた損害に対し賠償すること。
3.グラ・バルカス帝国の海軍戦力は基準排水量52万トン未満とすること。ただし、そのうち6,500トンを超える艦艇については、同じく23万トン未満とすること。
4.グラ・バルカス帝国の航空戦力は作戦機数1,000機以下とし、うち、戦闘機、爆撃機、攻撃機に類するものは、520機以下とすること。
5.グラ・バルカス帝国の陸上戦力は、兵員数12万7千名未満とすること。
6.以上3項目について、エクスプレッセスティ共和国、神聖ミリシアル帝国、ムー国、エモール王国のいずれかが公的な監察を行い、厳正に守られているか把握できるようにすること。
7.グラ・バルカス帝国は、旧パガンダ王国領、旧レイフォル領を除く、獲得領土から即時撤兵し、中央歴1639年10月1日を基準として原状復帰すること。
「な…………な……な、何だこれは、これでは我が帝国に死ねと言っているようなものじゃないか!?」
議案を読んで、シエリアは愕然とする。
「底が知れるな」
モーリアウルが言う。
「
「ぐ……」
『これでも』
マイクを使い、怜悧な表情と口調で、ハンナが言う。
『専守防衛であれば過剰な程度の許容のはずですが。これらの数字は、転移直前の日本国のものを参考にしたものです。航空機については、技術力の差を反映させています。そもそも、我が国としては、 “グラ・バルカス帝国” なる集団が独立主権国家の要件を満たさず、よって国家としては認めないという立場に変わりはありません。今回、国家としてこの会議に招待したミリシアルの顔を立てて、
『…………それでは、決議に移りたいと思います』
リアージュがそう告げた。
ミリシアル艦隊を破壊し、参加国に恐怖を与え、動揺させるというグラ・バルカス帝国の目論見は、その大失敗によって粉砕された。
その綻びは1年前、グレートアトラスターが鹵獲された時点で生じていたのだが、それでも、グラ・バルカス帝国、エクスプレッセスティ共和国どちらもが、この世界の大半の国家にとって掴みどころのない存在だったため、決定的ではなかった。
だが、ミリシアルの戦艦相手にグラ・バルカスの戦艦が敗北を喫したことで、恐怖は薄らぎ、その上でこの世界で傍若無人に振る舞う事に対しての怒りだけが残った。
議案は、賛成12、反対1の圧倒的多数で採択された。
グラ・バルカス帝国使節団は、この決議に対して拒否を表明した。
──── 1週間後。
エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
総統官邸、総統執務室。
「あー、それなら私も行けばよかったー」
ハンナ達から報告を受けて、わざとらしく悔いるような態度で、総統エミリア・ハートリーがそう言った。
アラフォー差し掛かりのシーメールのはずだが、持ち前の童顔と相まって、小娘がわがままを言って拗ねているようにしか見えないから困る。
「またそう言うことを……」
傍らに控えていた、マリーナ・ボロティン総統府付情報総局長が、口元で小さく笑いつつも、呆れたような視線をエミリアに向ける。
「ルセリア王とルディアス皇帝は行ってたんでしょー」
やる気を無くした、という感じで机に突っ伏しながら、エミリアは言う。
「お二方とも顔見せ程度ですよ」
ハンナもそう言って窘める。
「それで、この後の事なんだけど」
マコト・ハンナ・イノウエ国防省長官が切り出す。
「マリーナ」
「はい」
エミリアが、姿勢を直しながら、マリーナに促すように言った。
「マグドラ沖海戦以降、グラ・バルカス帝国海軍の活動は低下しています。ムー以東には水上艦はほとんど出てきていません」
「うーん……」
マリーナの説明を聞いて、マコトは腕を組みつつ、首を傾げて唸り声を出した。
「海軍戦力だけでも、まだエク
「ウチだけならね」
マコトが疑問を口にすると、エミリアがあっさりとした口調でそう言った。
「今回、ミリシアルとムーが参加していたため、海の上で力押しは無理だと判断しているようです」
マリーナが説明する。
「海の上では……ね」
「はい」
マコトが疲れたような表情と口調でそうボヤくと、マリーナが続きを言う。
「陸路からムーへの侵攻を企図しているようで、かなりの戦力をすでにレイフォルに上陸させています。それに、ムーとの間にある、ソナル王国、ヒノマワリ王国に対して領空侵犯を繰り返しています」
「うーん……ヒノマワリ王国か……」
エミリアは苦い顔をして、頭を抱える仕種をした。
「あそこに対して侵攻してくるとなると、こっちの世論が暴発するのが心配なのよね……」
ヒノマワリ王国はそのルーツがルーツなため、ここに侵略の手を伸ばすとなると、単に侵略行為という以上に、エクスプレッセスティ国民を煽る事になる。
「相手になってやる準備は整えているけど……相手の技術レベルが技術レベルだけに、今度ばかりは
「
マコトの言葉に、エミリアは、自分の首元をさすりながらそう言ってから、視線をハンナに向ける。
「ムーの方で受け入れるかどうか、調整を続けて頂戴」
「了解しました」
引き締まった表情で、褐色肌の美魔女はそう言った。
独自の種族(亜人)やその国家を登場させるのは……
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あり
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なし
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そんなことよりカツ丼定食