フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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注意!!
 ジェンダーについてややセンシティブな記述あります
 そして鉄オタシリーズです


熱の都 Part.I 【前書き必読】

 エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。エンチャントバリー地区。

 セダクション・モーターヴィーグル・エンジニアリング、エムブラセクス第2工場。

「本来はエナジポリスの工場のほうが大規模なんですが」

 セダクション第2広報課のミナ・ニコール・ホール・オオタは、連れている2人の女性に説明しながら、見学用の順路を歩いていく。

 軽自動車『チャーミ』のボディが、ベルトコンベアで流れながら、ロボットアームが部品の取り付けを行っていく。

 ドア、ボンネット、リアゲートの取り付けには、人の手の介在を必要とするが、その手には高度な、電動工具、空気圧工具が握られている。

「輸出台数が限られているので、現在は国内市場向けのエムブラセクス近郊の工場の方が、稼働率が高い状況です」

 塗装工程の後、最後に、機器、内装材の取り付けを終えて、完成車となり、組立時テストの為のシャーシダイナモへと自走していく。

「これほどの機械工場は、他にはムーにしかないでしょうねぇ……」

 神聖ミリシアル帝国、技術研究開発局総務部所属のミルヴィアが、その光景に圧倒されつつも、それに呑まれていることを表さないようにしながら、そう言った。

ムー(我が国)にもまだここまでのものはありませんよ……」

 ムー国、産業省技術局所属のソフィアンは、ミルヴィアよりはより素直に好奇心を表に出しつつ、言う。

「流れ作業を採用している工場は存在しますが、ここまで機械作業が大胆に採用されているような場所は……なるほど、作業員が女性でも全く問題ないわけだ……」

 パワートレーン取付作業場を見ながら、ソフィアンが言う。

「それに製品も……短いテスト走行でも解る、排気量660ccだとはとても思えない……」

「排気量……その数字は、小さいのですか? 大きいのですか?」

 工業製品と言えば広範において日本製信仰のあるエクスプレッセスティにおいて、め━━━━ ━━━━ずらしくアメリカのProChargerの遠心式スーパーチャージャーを組み込んだ、660cc・VVT-OHV 2気筒エンジンが、ボンネットの中に収まっていく。

 ProCharger製過給器は輸入もあったが、多用するコンプレッサーは、現地製造法人が存在している。

「ムーでは、これほど本格的な4輪車を走らせる規模の排気量ではありませんよ……せいぜい大型バイクか、もっと簡便な、長距離高速走行をしない自動車のクラスです」

「あー…………」

 ソフィアンの言葉を聞いて、ミナが振り返りながら、苦笑する。

エクスプレッセスティ(我が国)の軽自動車規格は、日本国のものと合わせるかたちで設定しているんですが、元々はそのような簡素な自動車を作るための規格だったんですよ」

「そうだったんですか」

 ソフィアンが、軽く驚いたように言う。

「はい。ですが、60年ほど前に、その日本国の富士重工というメーカーが、その規格内に本格的な乗用車の構成を収めました。以降、各企業が競い、さらに高性能、本格的な、中・長距離走行可能な経済車として、成立したのです。お恥ずかしながら、我が社の最初の乗用車はそのひとつである三菱自動車工業の軽自動車『ミニカ』のノックダウン生産でした」

「はー…………」

 ミルヴィアは、ため息のような声を漏らしてしまう。

 ── これだけのものを持つ国が、後追いしていた国が、どれだけ先進的なものなのか ──── ミルヴィアとソフィアンが想像したのは、『ド◯ゴン◯゙ール』のカプ◯ルコーポレーションの製品が溢れている “西の都” のような光景だった。

 

 

 1時間強ほど後。

 エムブラセクス中央駅、地上ホーム。

 キンコーン キンコーン……

 ガラララ……

『お疲れ様でした、エムブラセクス中央駅、終点、エムブラセクス中央駅です。どちら様もお忘れ物のなきよう、今一度お手回り品の確認をお願いします。本日はエクスプレッセスティ国鉄をご利用いただき、誠にありがとうございました。 ──── 12番線に停車中の電車は、折り返し東中央本線電車12:35発各駅停車ウテルショーム行となります。車内清掃の為一度扉閉まります。すぐにはご乗車になれませんのでご注意ください』

「ふーっ……」

 ステンレスの車体にレモンイエローの帯を巻いた、ExR(エクスプレッセスティ国鉄)3DR135系、6両編成から、ミルヴィアとソフィアンが高架ホームに降り立つ。

「あ、えっと」

 ミルヴィアが、上層へつながるエスカレーター通路へ向かおうとしたところ、ソフィアンがその背後から声をかけた。

「地平ホームへの連絡通路ですから、下層へ向かう通路に行かないと……」

「あ! そうでした」

 ソフィアンに言われて、ミルヴィアは、身体ごとソフィアンを振り返り、童顔にいたずらっぽそうな苦笑で、自分の額を手で軽く打った。

「でも、…………車両の冷房も、かなりの能力があるみたいですね」

 地上ホームへの連絡通路へと移動しながら、ソフィアンが一瞬、自分達をここまで運んできた軽量ステンレス車体の電車を振り返る。

「そうですね……ミリ()()アル()でも冷房できるのは、急行列車の、それも1等車、2等車と食堂車だけ冷房するのがやっとです」

 ミルヴィアはそう答えてから、

「確か、ムーの冷凍回路はエクスプレッセスティのものと同じ原理だと聞いていますが……」

 と、ソフィアンに訊ねた。

「能力が全然違いますよ……我々の鉄道車両の冷房能力は、ミリシアルと大差ないです。しかも、エクスプレッセスティの鉄道車両は、通勤型電車でも強力に冷房がかかっていますが、贅沢というのもありますが、それ以上に、乗降効率を重視してあれだけ扉開口面積が広い車両を冷房する能力のものは、我が国ではまだ試作レベルです……」

 ソフィアンは、そう答えつつ、あることも思い出した。

「────……それと、我が国の冷房や冷蔵庫の冷凍回路に使われる冷媒を、エクスプレッセスティの代替冷媒に切り替えてほしいと」

「ふむ、それはどういう?」

 苦い顔で言うソフィアンに、ミルヴィアが聞き返す。

「我が国の冷凍回路に使われている冷媒は、エクスプレッセスティではフロンR12やフロンR22と呼ばれるもので、これは、オゾンを分解してしまう性質があります。惑星の大気にはオゾンの層があり、これが太陽からの紫外線を減衰させているのですが、これらのガスを大量に排出すると、この層が薄くなり、地上の生命に悪影響を及ぼすというのです」

「なるほど……そう言えば、軽自動車に優遇政策をとって、自家用車の普及の大きな割合にしているのも、有害なガスの排出を抑える事がその目的のひとつだと言っていましたね……」

 ソフィアンの説明を聞いて、ミルヴィアはそこまで言ってから、考え込むように視線を上に向ける。

「あー……でもこれらって、エクスプレッセスティが “科学文明が超進化した世界から来た国” だから解っている事で、ひょっとしたら我が国の魔導技術にもなにかの、周囲に悪影響を与える要素があるのかも知れないな……報告書に入れとかないと」

 ミルヴィアが呟くように言った後、2人は移動を再開する。

「あ!」

 ミルヴィアがそれに気づく。

「いましたね」

 下りエスカレーター前にいる、打ち合わせした、待ち合わせのプラカードを持った人物を、2人は視界に捉える。

「すみません、お待たせしました」

 2人が、その人物に向かって少し小走りに向かっていくと、まず、ソフィアンが手振りを加えながらそう言った。

「いえ。約束の時間には遅れていませんから」

 相手の人物はそう言ってから、

「これよりお2人を御案内することになりました、エクスプレッセスティ産業・保健省燃油・ガス局のユウキ・アンドロヴァグ・フジワラと申します」

 と、自己紹介した。

「自分は、ミリシアル技術研究開発局総務部のミルヴィアです」

「よろしくお願いします」

 ミルヴィアが名乗り、ユウキと握手を交わす。

「私は、ムー産業省技術局のソフィアンです。よろしくお願いします」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 ソフィアンとも、ユウキは握手を交わす。

「通勤電車に乗せてしまってすみません」

「いえ、貴国の一般国民が、どのように技術の恩恵を受けているか観察することも、我々の任務のひとつですから」

「私達もです」

 ユウキが、少し申し訳無さそうな苦笑でそう言うと、ミルヴィアとソフィアンは、そう返した。

「しかし ────」

 ユウキは、2人をまじまじと見つめる。

「?」

「いえ、お二方とも、麗しい女性を派遣してきたな……と」

 キョトンとするミルヴィアとソフィアンに、ベリーショートの髪型にボーイッシュな雰囲気のユウキは、柔和な笑みを浮かべてそう言った。

「いえ、そんな……社交辞令としては少し言いすぎかと……」

 ミルヴィアは、満更でもない様子で苦笑しながら、そう言った。

 それに対して、ソフィアンは、少し緊張した様子を見せていた。

「も、もしかしてユウキさんは、その、シーメールかフタナリなのですか……?」

 交流が深いムーには、エクスプレッセスティの国民が、 “()()()()()” としている中に、男性機能を持っている者が居ることが、知識として一般国民にまで広まっている。そもそも、そうでもないと国が維持できない。

「いえ、それが……私は、より細かい分類で “ヒー(He)フィメール(female)” とされているグループでして」

 ユウキは、苦笑しながらそう言う。

「ヒーフィメールというのは?」

 ソフィアンが聞き返す。

「えっと、 “ジェンダー(Gender)トポロジー(Topology)” とも言われていて、性自認……──── つまり、精神的に男性なんですが、性機能は女性を望む、という存在です」

 性的マジョリティ層は、トランスジェンダーは単純に性自認側への身体変化を臨んでいる、と思いがちだ。

 だが、性自認と、持ちたい性機能が一致していないという例は、実際に存在する。

「へぇ」

 ミルヴィアは、そう声を出してしまってから、

「え、あ、すみません……」

 と、アンタッチャブルな部分に触れた、と、慌てて自分の手で口を塞ぐ仕種をしつつ、申し訳無さそうな顔をする。

「いえいえ。エクスプレッセスティ(我が国)でも多数派ではありませんから。ただ、それが不利益の理由にしない社会というのが、この国の建国の理念なんです」

 ユウキは、苦笑しつつも、どこか誇らしげにそう言った。

 実際のところ、エクスプレッセスティは性差別があるのかないのかと言われれば、転移前の地球の定義に当てはめれば、かなり激しい性差別が存在する国、となってしまう。

 ただ、「性差別を以って不利益を生まず、利益のみを生む」。つまり性的少数派を蔑視するのではなく、強烈な性個性を持つ存在として羨望視する社会なのだ。

 ちなみに、これはエクスプレッセスティ国内のみの統計だが、 “ヒーフィメール” の過半は、女性機能でしか体験できない妊娠・出産に肯定的だったりする。もちろん(?)出産後は、父親()に振る舞う。

「それでは、ひとまず列車の方に移動してしまいましょう」

 ユウキがそう言い、ミルヴィアとソフィアンを連れて、地上ホーム16・17番線へと向かう。

 エスカレーターを降りると、他のホームと異なり ──── 高架ホームの7・8番線と同じ、赤いエンボスタイル張りの特急・急行専用ホーム仕様になっている。

 ── 効率と()()重視の街作りかと思っていたけど、風格もそれなりに気遣ってるのね……

 連日機械洗浄をかけて清浄に保たれているタイル張りのホームを見て、ミルヴィアは胸中でそう呟いた。

『お待たせしました。17番線に13:00(時ちょうど)発、プロパラダイスス行、特急「フォリクナジー」15号が入線いたします。白線の内側まで下がってお待ち下さい。本日、フォリクナジー15号は12両編成での運転となります、編成は前から……────』

 編成のアナウンスが流れる中、ユニティパーク線、セクシュアリア線を通ってきた空車回送の列車が、プロパラダイスス側からホームに入ってくる。

「あれ、今日混んでるんだ。この時期に珍しい」

 ユウキがそう呟いた。普段、夏場のフォリクナジー15号はオフシーズン・オフピークで、8両編成での運転が定数になっている。

 銀色の車体、キハ189系の基本8両に、キハ179系の付属4両を連結した編成が入ってくる。

 キハ189系は、JR西日本キハ189系の準同型だが、他の気動車に合わせて三菱6D21の横置きシリンダー化・渦流燃焼室アルミシリンダーヘッド化であるP-DMF11HSCを搭載しており、出力は原型のSA6D140HE-2より100ps程低い360psになっている。

 また、基本2エンジンなのに対し、全室1等車とカフェカーは走行用エンジンが1基となっていて、形式はキロ187形・キハシ187形を名乗っているが、JR西日本キハ187系とは無関係だ。

 キハ179系は、キハ189系の増結用として台湾車輌で製造された。気動車製造ノウハウの蓄積が少ない台湾で製造することもあり、摺動部を減らすため電気式となっていて、キハ189系の進段シーケンサを読み替えて協調運転を実施する。

 キハ189系とキハ179系は、JR西日本キハ189系とほぼ同じ意匠の車体だが、運転台窓下の段差が直線的になっており、助手席窓下にLCDヘッドサイン表示器が取り付けられている。

 また、カフェカー・キハシ187形は、ラヴィサンセクス、ツォボフロウ/ツォボトレイサーのそれ同様、ニッポンハム・エクスプレッセスティ・ダイナーサービスが所有権の一部を持っている、キハ189系導入前から使っていた元・日本国鉄オハ50形から改造されたカフェカーの再改造車であるため、車体断面が異なり凸凹編成になってしまっている。

 熱を帯びた風が流れる駅構内に、じっとりと汗をかいたミルヴィアとソフィアンだったが、車内に入ると、やはり強烈な冷房が効いているのを感じ取った。

「すみません、1等車が用意できませんで……」

 その、カフェカーの2等客室部分の座席に2人を案内して、ユウキは申し訳無さそうに言った。

「いえ、こちらも仕事ですし」

「ないものねだりはできませんよ」

 ミルヴィアとソフィアンはそう言う。

「それに……2等車…………我が国の3等車に相当するとのことですが、それでこの内装ですか……」

 セミバケットのシートに身体を埋めつつ、ミルヴィアは周囲を見回しながら、言う。

 ミリシアルでもムーでも、長距離列車でも、3等車となれば板張りの座席に申し訳程度にクッションとモケットが張られているだけだ。

 自国では1等車でも通用してしまうだろう車内に、ミルヴィアもソフィアンもため息が出そうな感情を抱く。

 ただ、この車両は少し古臭い部分もある。日本型に倣った特急型だが、このカフェカーの2等座席部分は、()()()が50系客車なので、()()()()

 プルルルルルルル……

 電子音の発車ベルが鳴る。

『プロパラダイスス行特急「フォリクナジー」15号、発車いたします』

 アナウンスの後にベルが止み、扉が閉まった。

 ヴォゥ…………!!

 エンジンの爆音を轟かせつつも、フォクリナジー15号はエムブラセクス中央駅のホームを、滑るように出ていった。

 





『フォリクナジー』・『ツォボフロウ』・『ツォボトレイサー』(含む優等列車)編成図
https://twitter.com/kaonohito2/status/1797728408019128793
(2024/06/04-JST基準 改訂)

「わざわざ液体式と電気式で協調する意味あるのん?」
という意見もあるかと思いますが、台湾は日本のノックダウンレベルでしか液体式気動車・ディーゼル機関車の製造経験がないですし、外交的に台湾からも鉄道車両輸入の実績を作っておきたい事情からこうなってます。ええしわ寄せは現場に行くんですが。

評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2

ユウキは……

  • ミルヴィアを食う
  • ソフィアンを食う
  • 2人とも食う
  • 紳士と言う名の淑女はそんな事しない
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