国防省近くの居酒屋にて
エクスプレッセスティ共和国、首都エムブラセクス。
国防省と合同会館駅の道程の途中、
カンカンカンカン……
グォオォォォ……タタンタタン……タタンタタン……
元相鉄新6000系……とほぼ同じ顔つきの運転台を新たに造られた元小田急2600形、ExR305系が、電動機の轟音と、車輪がレールの継ぎ目を踏むジョイント音を立てながら通過していく。
合同会館駅周辺は官庁街 ──── 時系列に沿って正しく言うならば、鉄道の西中央本線と東中央本線を繋いだ東西横断の線の南側の市街地が手狭になり、元々は北部本線のエムブラセクスへの連絡路線にすぎなかった北南線の、広い駅間の真ん中あたりの低地価地帯として官庁街化し始めたので、合同会館ビルの建設とともに駅も設置された ──── で、外務省現庁舎がある関係で、外国の大使館も多い。
──── 居酒屋『うえだや』。
カウンター席と座敷席のある、和風テイストをもつ、日本の居酒屋、そのコピーと言った様相の大衆居酒屋だった。
スッ
キンコーン、キンコーン……
自動ドアではない、蝶番の扉が開くと、カウンターの奥で来店を知らせるチャイムが鳴る。
「いらっしゃいませー」
ルーツ的にニグロイド系に属しながら、肌の色がやや明るいという、エクスプレッセスティの先住民族
「お1人様ですね? テーブルにご案内しますか?」
「ああ、いいえ。カウンターで」
店主の問いかけに、明らかに男性の声が答えた。
「はれ?」
それを聞いた、すでにカウンター席にいる、2人連れの女性の片方が、入口に現れたその彼の姿をみて、声を上げる。
「ガイ君じゃん。おーい」
エクスプレッセスティ共和国国防軍陸軍第25空挺中隊々長、ユキ・マデリーン・サイトウ中佐、彼女がその知った顔をみて、手を振りながら声をかける。
「どうも」
トーパ王国騎士団、在エムブラセクス大使館付武官のガイは、苦笑気味の表情で挨拶をしながら、ユキの
「ご無沙汰してます。ここで会うとは思いませんでしたが」
ガイはそう言いながら、椅子を引いて、そこに腰掛けた。
「まぁ、私達は普段、他所様と違うカレンダーで仕事してるから」
ユキは、苦笑しながらガイにそう答えてから、
「でも意外だな」
と、言う。
「何がです?」
「いや、今の世界の人達の文化だったら、洋風のバーの方がしっくり来るんじゃないかって」
問い返すガイに、ユキが自分の思ったところを口にした。
「いや俺は、どっちかって言うと多少ガヤガヤしているところの方が落ち着くんで……トルメスでの行きつけも、酒も出す食堂ってところで、雰囲気としてはこっちに近いですよ」
「あー、そっか、言われてみればそうかも」
ガイの説明に、ユキは、わざとらしく視線を上に向けながら、そう言った。
「注文、いかが致しますか?」
注文票を持った店主が、カウンター越しにガイに訊ねる。
「取り敢えず大ジョッキ。それと串揚げ盛り合わせの大を」
「はーい」
ガイが、右手の指を掲げながら頼むと、店主は、手書きの注文票にササッと書き込み、一度調理場の奥へと向かっていった。
「インテリのモアだったら、ああいうシックなバーってやつも似合うんでしょうけどね……」
苦笑しながら、ガイはユキに向かってそう言った。
「ああ……ってうーん、私は直接会った事ないからなぁ」
ユキは、困ったような苦笑でそう返す。
「あれ、そうでしたっけ?」
ガイは、軽く驚いたように言う。
「私トーパ行ってないよ」
「あ、そうだっ……たか……」
「楽しそうねー2人とも」
そこまで会話が進んだところで、ガイとユキの間に挟まっていた人物が、カウンターに伏せるような姿勢から、一度身を起こして姿勢を直しつつ、女性にしては低い声でそう言った。
第19装甲連隊々長、フォン・クロエ・ミン・ピーチュアン大佐、と、ガイは認識していたが……
「クロエさん、だいぶ酒が進んでるみたいですけど……」
少し心配気な表情になって、ガイが訊ねる。
クロエはすでに、ビールから、今はじゃがいも焼酎のロックに移行していた。
日本文化の影響が強いエクスプレッセスティにおいて、焼酎と日本酒は一般的な酒類だったが、当然だが転移により本場日本の銘柄の輸入は途絶えており、今は国内の和酒メーカーであるセクレツミズ醸造所の銘柄が寡占している。
地酒としての焼酎の開発に際して、サツマイモ栽培が限定的で、大麦に至っては零細レベルしか存在しないため、国内栽培されている品目として、日本では少数派だが存在する、じゃがいも焼酎、小麦焼酎の銘柄が登場した。まぁ大量生産の銘柄だと輸入小麦を使っているが。
──── 閑話休題。
「なにか……あったんですか?」
酒で顔を東南アジア系の浅黒い肌でも解るほどに紅潮させつつ、不貞腐れたような様子のクロエを見て、ガイは、どこか唖然としたような様子で、そう問いかける言葉を発しつつ、ゆっくりと視線をユキに移す。
「うん、凄いのあった」
ユキの方は、はしゃぐような様子で、満面の笑顔で言う。
「クロエ先輩、この度、第1
完全に面白がっている様子のユキは、手をクロエに向けてヒラヒラとさせながら、そう言った。
「第1、って……」
ガイが、クロエの顔を覗き込む。
すでにエクスプレッセスティに赴任して長い彼は、この国の軍のごく基本的な構成ぐらいはだいたい頭に入っている。
「栄転じゃないですか!」
「そそ」
「ってことは、
「いえーす。准将に昇進」
ガイの追加の質問に、ユキが即答する。
「…………ってのに、なんでヤケ酒みたいになってるんですか?」
「
ガイのその問いかけに、クロエは、そう言ってカウンターに突っ伏した。
「お待たせしました。串揚げの盛り合わせの大です」
カウンター越しの店主がそう言って、ガイの前に盛り付けられた串揚げの皿と、調味料用の小皿をおいた。ビールはすでに来ている。
「ここは食い物もうまいからついつい通っちまうんですよね~」
小皿に醤油を垂らしながら、ガイがそう言った。
「そうそう」
ユキが同意の言葉を返す。
「ありがとうございます。日本で修練してきました」
フェチ族系の女性店主は、微笑を浮かべて言う。
「へーっ、そうだったんだ」
「まぁ、名古屋なんですが……」
感心したような声を上げるユキに、店員は苦笑交じりになって付け加える。
「まぁ確かに串揚げの本場って言ったら大阪のイメージ……でも名古屋も結構有名だよ」
ユキはそう言って、
「じゃあ私にも串カツ3本追加」
「かしこまりました」
と、追加の注文をすると、店主が受けて、調理場へと向かった。
「名古屋って確か、日本国の第3の都市で、今のエムブラセクスと同じぐらいの規模だって聞きましたけど……オオサカって言うのは?」
「大阪は東京に次ぐ2番目の都市だよ。人口では名古屋の倍で東京の1/3、だったかな?」
ガイの問いかけに、ユキはそう答える。
「詳しいんですね……」
「私一応日系だから」
「あ、そうなんですか」
「そ。髪の色は薄めだけど」
ユキとやり取りした後、ガイはまだ中身の残っているジョッキを煽ってから、
「で、クロエさんは何を騙されたんです?」
と、訊ねる。
「ムー国の防衛のために、1
クロエは、ため息を
「その話は、聞いてますけど……」
「まぁ、積極的に隠してるわけじゃないからね」
ガイの言葉に、ユキが付け加えるように言った。
「ただ、味方のムーも相手のグラ・
「まさか、それが嫌ってわけじゃないですよね!?」
ガイが、驚いたような表情になって、問いかける。
クロエは以前、トーパが魔王ノスグーラの軍勢に侵攻された時、エクスプレッセスティの派遣部隊の長として戦った、今やトーパでは伝説の戦車乗りである。
それが怯懦で配転を拒んでいるのかとなったら、ガイに限らず、あの戦いを知っている者は失望してしまうだろう。
「別に戦場に行くのが嫌ってわけじゃないわよ。ただ、最初は
エクスプレッセスティ陸軍は東側型の諸兵科連合と西側型の弾力運用を両立するにあたって、陸上自衛隊の編成法を応用している。その関係で、大隊、師団、という単位が存在しない。
したがって、連隊長をしばらく経験するか、功績があれば、次は旅団長、という流れは自然なのだが……
「トーパでの武功があれば、妥当なんじゃないかと思いますが……」
「そう思うよねぇ」
ガイが不思議そうに言うと、ユキも苦笑しながら同意の声を出す。
「そうだけど普通、
泣き笑いのような表情で、クロエは言う。
番号の後、特に「統合機械化」「空中機動」「水陸両用」とつかない旅団は、一般旅団群とされる。だぁあぁぁいぶ前に説明しているのだが、この一般旅団群は、転移前、不安定な地域で陸続きだったエクスプレッセスティにおいて、非合法武装集団の侵入を撃退するため、装輪戦闘車両を装備して機動力を確保する編成になっている一方、戦車は歩兵直協の為の、少数のユニットしか配備していない。
「いきなり1IMTとか、連隊長先任ばっかりじゃーん! やりにくいよー!!」
子供が泣くような素振りで、クロエが声を上げる。
「そうは言っても……軍隊とか騎士団とか、胸章の装飾が少しでも豪華な方が絶対じゃないですか……」
「私もそう言ってるんだけどさー。そもそも、
どうフォローしたものかと困っている様子で言うガイに、ユキが付け加える。エクスプレッセスティは国自体の歴史が浅い分、軍隊の平均年齢も若い。
「どーせ相手は持ってたってせいぜいブリキに豆鉄砲なんだから、そこまで深いこと考えないでいいじゃん。下手したら魔王より楽かもよ?」
ユキはお気楽そうに、手をひらひらとさせながら言う。
すると、クロエはジトーっとした視線を、ユキに向ける。
「
「へっ?」
クロエの言葉に、一瞬、呆気にとられたような表情になるユキだったが、
「いいの? 行く行く! ぶちのめし甲斐のある連中だし!!」
と、興奮したような笑みになって、前のめりになるようにそう言った。
ガン、と、クロエは、脱力したように、カウンターに落下するように突っ伏した。
数日後、エナジポリス軍港。
「そっち全部締まってるー?」
車体を挟んで反対側から問いかける声が上がって、聞いた
「オーケー! 全部締まってる!」
「りょうかーい。そしたら出してー!!」
ガリュリュン!!
合図の声に、国産 (原設計三菱ふそう) 8DC2Sエンジン仕様のKrAZ-6446トレーラーヘッドが、そのエンジンを始動する。主力戦車T-64-120を載せた装軌式装甲車両輸送用トレーラーのリアスロープゲートを跳ね上げ、目前に繋留され、サイドランプのスロープゲートを下ろしている規格型双胴船の輸送船へと向かっていく。スロープゲートの前でも交通整理を行っていて、複数のレーンから流れてくる戦車とその運搬車が、輸送船に飲み込まれていく。
別の埠頭では、メインローターを外して輸送状態のヘリコプター、カモフ・アントノフKa-26An/Dと、ミル・アントノフ(ミル・ボーイング) Mi-17An(Bo)/Dの各種が並べられ、クレーン付き輸送船仕様の規格型双胴船に、そのクレーンで積み込まれていく。
「レシプロとは言え戦闘機のいるところにヘリじゃ心許ないのは解るけど……」
ヘリコプターの積み込みが行われている、埠頭の見える通路で、イーネ・グレイシス・アダムス陸軍兵曹長が、空軍滑走路のある方を見て、呟くように言う。
滑走路に隣接する
が、その更に奥の格納庫で整備中のアントノフAn-12BK-100が、そのシャッター開口部から機首を出している。
「あんな
ボーイング747などを見た事がないイーネにとっては、新明和US-2派生型飛行艇とAn-12は、それこそ “超文明世界で製造された巨人機” なのだ。
「あー…………」
一緒に確認作業をしていた、グレイス・アサギ・アダムス陸軍大尉が、面白そうな苦笑をしながらそう言った。
「ああ見えて、状態良くない滑走路でも離着陸できるから。滑走距離も短い部類だし」
「そうなんですね」
「それに、ムーの方にも土木機械の導入がだいぶ進んでるし、あっちでやっといてくれる分もあるでしょ」
アサギは付け加えるように説明する。
科学文明国であり、比較的基礎技術力の高いムー国では、大型船舶建造用ドックなどを自国で建設できる為、建設機械はエクスプレッセスティからの輸入だけではなく、コマツやヤンマーの機械など、地球へ帰還する・連絡できる場合にはエクスプレッセスティ政府が補償することを前提にリバースエンジニアリングした結果を使って、ムーで再設計されたものが出現している。
「ま、固定翼機は後からでもひとっ飛びだし、その準備をするのも私達の仕事ってね」
アサギは、イーネに向かってウィンクしながらそう言った。
2人は、船舶輸送の部隊に先んじてムーに飛び、受入れの準備をする。An-12と同クラスの新明和CS-2輸送飛行艇を使うが、ムーの港湾部であれば、飛行艇は滑走路がなくとも発着できる。
エクスプレッセスティ国防軍は、グラ・バルカス帝国からのムー及びヒノマワリ王国防衛の為、第1機械化旅団のほぼ全体と第2旅団の一部、それに加えて、転移後に実戦経験のある第18装甲連隊と第25空挺中隊(どちらも平時第5空中機動旅団麾下)、統合作戦司令部後方支援隊・施設隊、総兵員数15,000名を超える、転移後最大規模となる軍部隊の派遣を決定した。
空軍も、準備が出来次第、MiG-29GEの2個飛行小隊8機とMiG-23GENの1個飛行隊16機、スホーイSu-22UGEの1個攻撃飛行隊と2個偵察飛行小隊の計24機、ダッソーBr-1050Aの1個攻撃飛行隊16機、Br-1050AEWの1個警戒飛行隊4機を展開する。
これに海軍も加えると、総人員数20,000名以上となる、転移後どころかエクスプレッセスティ建国以来最大の軍部隊派遣作戦が開始された。
ExR305系はなんで運転台を作り直しているのかと言うと、できるだけ運転台の構造、運転士の位置を揃えておいた方が、運転士の感覚に負担が少ないからです。
『インフュソール』(含む優等列車)編成図
https://twitter.com/kaonohito2/status/1797728408019128793
(2024/06/04-JST基準 改訂)
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