フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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過ぎた自尊心、国を()()す。 Part.Iの一部を変更し、オブイェークト19周りの設定を変えました。



女豹の峠

 

 ヒノマワリ王国。

「ちょ、ちょっと大丈夫?」

「曲がるよ、そーれっ!!」

 ドライバーは声を上げつつ、両手で回し始めてから片手だけをステアリングに押し付けて一気に回す。比較的広いとは言っても、まだ自動車が導入されていない、ヒノマワリ王都・ハルナガ京の交差点を、角形の筒を束ねたようなものを背負った、軍用仕様の大型トラックが右折していく。

「な、なんじゃあ、あの筒っぽのバケモノは…………」

 SAMP/Tのアスター30Block1NTミサイル発射機を背負った、4軸AWDの『ディオナトラ』が器用に路地に吸い込まれたのを見て、老人が腰を抜かしている一方で、子どもたちが、

「あれなんだろー?」

 と、好奇心旺盛そうに眺めている。

『4号車指定位置に到着』

「了解」

 エクスプレッセスティ()()、第6防空旅団麾下の小隊長、アキ・エリザベス・フジワラ大尉は、まず無線での報告に対し、自身のレシーバー・マイクのコードの途中、胸元に留められたPTTスイッチを押しながら、答える。

「クロエ准将、展開完了しました」

「了解」

 ハルナガ京の、西端の一角に設けられた、エクスプレッセスティ・ムー連合軍大規模野戦指揮所。

 エリー ──── アサギと同じパターンで、日系でありながら西洋名であるミドルネーム由来の短縮形を名乗っている ──── の報告を受けて、緊張感のある表情で応答してから、気まずそうな苦笑になる。

「どうしました?」

「いえ……空軍に命令していいものかな、なんて……」

 エリーが不思議そうに問いかけると、クロエが、苦笑したまま頬をかきながら、そう言った。

 海軍と同じアスター30Block1NTを使う、中・長射程SAM(地対空ミサイル)システム、SAMP/Tは、本土防空の為に空軍地上部隊として配備されている。

 エクスプレッセスティは軍統帥権の並立を認めていないが、それでもちょっとした塀がある程度の感覚はある。

「世界の反対側から命令を待ってたら、時間がいくらあってもありませんよ」

 今度は、エリーの方が苦笑して、そう言った。

「もういつでも発射できる?」

 表情から笑みを消して、クロエが問いかける。

「いえ、まだ車両が指定位置に着いただけです」

「じゃあ、もう起こしちゃってください」

「了解しました」

 エリーは、クロエに返答した後、無線のPTTスイッチに手を伸ばす。

「発射機、起こせ。レーダーシステム起動」

『了解』

 ハルナガ京の、王廷の付近に停車していた5N014レーダーシステム車が、アウトリガを広げ、フェイズドアレイ・アンテナを展開し始める。周囲の通行人が、呆然としてそれを見上げる。

 5N014は、エクスプレッセスティ国防省がGRAU indexに準じて付番した形式番号だ。中身はSAMP/Tの基本レーダーシステムであるArabelなのだが、車台はソ連時代に試作されたオブイェークト19をベースにした、エクスプレッセスティのビックリドッキリメカこと2P014装輪・装軌併用車台に載せたものである。

 その傍らにいるSAMP/T指揮管制システム車5K014は、これもSAMP/T標準のものを、BTR-60 ・ BTR-70の解体部品で製作された2P011車台に載せたものだ。

 5N014と5K014は、長距離移動の際は発射機トラックがトレーラーとして牽引し、展開場所に着いてから自走して配置に着く。

 両者は、ダブルキャブ・スーパーロングボディ仕様の『ファイター』の電源車とケーブルで接続されている。

PTO(Power-take-Off)設定確認、起こせーッ!!」

 PTOトランスファが “走行” から “油圧” になっているのを確認してから、その声が上がる。鈍い衝撃音を立ててから、ゆっくりと発射機のキャニスターが身を起こし始める。

「こ、この筒っぽも上を向くんか……」

 発射体制に入るため、キャニスターが水平位置から垂直へと姿勢を変えるのを見て、ハルナガの住民が息を飲む。

 もっとも、子どもたちばかりは、

「すっごーい!」

「ねぇねぇ、これどうするの?」

 と、エクスプレッセスティ軍のオペレーターの傍まで寄っていって、好奇心旺盛そうに、オペレーターを見上げなら、口々に問いかけられてくる。

「あー、えーと、これはSAM、地対空ミサイルで……────」

 別にSAMP/Tの存在自体は軍事機密でもなんでもないので、オペレーターは説明しようとするが、ムーにもまだ存在していない兵器をどう説明したものか、と困惑しつつ思案する。

「グラ・バルカスの軍隊が、ヒノマワリに攻めてくるかもしれないって話は聞いてる?」

「うん」

「これはその、グラ・バルカス軍の飛行機を撃ち落とすためのものなのよ」

「へー…………」

 理解できたのかできていないのか、オペレーターとキャニスターを交互に見ながら、子供達は生煮えの声を出す。

 ゴォォーッ

 油圧駆動の発電機の音が聞こえてきたかと思うと、バン、と、キャビンのドアを閉める音がする。そして、もう1人のオペレーターが顔を出した。

「これの近くは危ないから、いい子には飴あげるから少し離れていようねー」

 運転席から、自分たちの糖分補給の為に積んであった、袋入りの『チェルシー ヨーグルトスカッチ』を掲げて見せて、言う。

「はーい!」

 そう、素直に反応する子どももいれば、

「ちぇーっ!」

 と、不服そうに声を上げる子どももいたが、結局、全員が飴をもらって、その場を去った。

 飴を配り終えて、去っていく子ども達に手を振っていたところへ、もう1人のオペレーターが、腕組みをしたまま、

「グラ・バルカスの飛行機を落とす……か」

 そう言うと、唇を閉じて複雑そうな表情をしながら、キャニスターを見上げる。

「1斉射32発ですか……再装填にだいぶかかると」

 指揮所では、SAMP/Tの発射機とともにハルナガ入りしたミックが、クロエにその話題を話しかけていた。

「失礼……エクスプレッセスティの兵器の精度は、我々ムー軍の者でも認めるところなのですが……」

「閣下のおっしゃりたいところはわかっております。せめてもう1個小隊引っ張ってこれたら良かったんですが」

 クロエも難しい表情で言う。

 第二次世界大戦期のレベルでしかないグラ・バルカス軍の航空機が、アスター30から逃れるのは、よほどの幸運がなければ無理だろう。

 だが、低速・低高度のUAVを除けば、32のターゲットを仕留めれば相手の攻撃をほぼ無力化できる現代と異なり、航空機自体が、数十機、数百機で侵入してくる、大量生産・大量消費の第二次世界大戦期の航空兵器とは、その面では相性が悪いのである。

 それなら量もある程度投射したいところだが、SAMP/Tはエクスプレッセスティ本土防空の要であり、貴重な虎の子だ。ついこの間まで、5セットしかなかった。2020年頃から右派政党のFSIが追加取得を求め、最終的に6セットを追加する予定だったが、この内4セットは、エクスプレッセスティの地に届くことなくウクライナへと向かい、現在は7セットが全数だ。

 もちろん、SAMP/Tが全てではない。旅団防空隊の9K12『クーブ』短射程SAM、2K015自走高射機関砲、他にUAV対策用に『ミストラル』近接SAMの4連装発射機とT75 20mmリボルバーカノンをセットにした銃座を、小型トラック ルーシアの荷台に載せた急造高射砲があるが ────

「軍の陣地を攻撃してくれればまだいいんですが、あっち(グラ・バルカス)の価値観と戦略ドクトリンだと、ハルナガに無差別攻撃する可能性が、結構あるんですよね。それをやられたらと思うと ────」

「完全な侵入防止は不可能、と。それは厄介だな……」

 手で顔を覆いながら言うクロエのそれに釣られるかのように、ミックも、言葉に続いてため息を()いた。

 

「て、敵の大砲の位置がわかる!? これでですか!?」

 アルーから派遣されてきた、ムー軍の砲兵であるアーツが、展開作業中のそれについて訊ねて、答えを聞いて、驚愕の声とともに、それを指差しながらのけぞってしまう。

「まぁ100%ってわけじゃないですが……とは言え、システムは日本製ですからね」

 アストリッド・ハーゲンと名乗った、エクスプレッセスティの砲兵少尉が、苦笑交じりに答える。それがどれほどのものなのか、アーツは解らなかったが、とにかくエクスプレッセスティにとって “日本製” は絶対的信頼の証らしい。

 アーツは、雑木林にこのレーダーが身を隠す凹みを、あっという間に作ってしまったクボタ製のバックホー付ブルドーザーを見ながら、その認識を反芻する。

 JTPS-P16対砲レーダー。2015年のエクスプレッセスティ-日本防衛装備移転合意で購入された装備品のひとつだ。

 外見的にはだいぶ変わる、というより別物だ。というのも、日本では車台は7トントラック、3・1/4トラックを使っているが、エクスプレッセスティ軍仕様は、アンテナを2P014車台、レーダーシステムを2P011車台とし、レーダーシステム車が牽引する電源・燃料トレーラーか小型トラック電源車がこれに着く。

「キャタピラ下ろしちゃえ」

「OK。キャタピラ下げ」

 アンテナ車のキャタピラが接地し、地面を踏みしめる。方向を変えつつ、雑木林の凹みに引き込まれるように移動していく。

 そのとなりへ、レーダーシステム車もバックで入っていく。

 レーダーシステム車が予定待機位置についてから、フェイズドアレイ・レーダーのアンテナを展開し始める。

「向こうの大砲はだいたい掴んでます。こちらの155mmに勝る射程のものは限られていて、いずれもこのような山間部での攻勢には向いていません。敵砲兵が四苦八苦している間に火点を特定して潰します」

「ですか……いや、でしょうね……」

 2S016自走砲、 Thunderbolt-2000/Mk45『雷霆』の発射機が並んでいるのを見て、アーツは、単純に敵が迫ってくるのとは、また別の緊張を感じる。

「こちらの155mmを上回る砲としては、口径240mmの列車砲がありますが、今回の攻勢には出てこないでしょう。万一出てきても、こちらも戦術弾道弾を用意してきていますので」

 9K79-1『トーチカU』。最新鋭ではなく、数的には主力とは言い難いが、迎撃困難なピンポイント破壊兵器として実戦配備は続けられていた。

 今まで出さなかったのは、最大の理由はその必要がなかったからだ。自軍の航空部隊が出せない状況で、且つ、ピンポイントで破壊すべき高価値目標がなかった。

 だが、グラ・バルカス程度の軍隊が相手なら、ヘッドショットの手段は持ち込んでおくに越したことはない。

 

 

 グラ・バルカス帝国、レイフォル属州下。

 対ヒノマワリ・ムー侵攻の拠点、バルクルス前哨基地。

 その名前がグラ・バルカス風になっていることで解る通り、もともとのこの地域の地名ではない。

 本来であれば、この前哨基地はヒノマワリ王国へ10~20kmほど東に侵入した場所へ設置されるはずだったが、そのヒノマワリ王国への対処で、エクスプレッセスティに先を越されたために、ヒノマワリ王国が開き直ってしまって自陣営に組み込めなかったため、レイフォルとの国境線の西側に攻勢開始拠点を設けざるを得なかった。

 グラ・バルカス帝国陸軍第8軍団第4機甲師団は、攻勢の為、出立の準備を整えていた。

 戦車はエンジンを始動させ、砲兵隊は、すでに国境線付近の砲兵陣地に展開している。

 エクスプレッセスティのムー内陸部、ヒノマワリ到着前に、ヒノマワリ王都ハルナガ京を制圧し、ムー南西端のアルーを砲兵隊の射程下に収める、できればアルーを制圧したかったが ────

 第8軍団がこのバルクルスに資材を集め始めた時、エクスプレッセスティ軍の姿は、アルーにすら届いていなかった。

 第8軍団々長のガオグゲル中将が、この隙をついて、ハルナガ京からアルーへ向けて一気呵成に進撃することを上申した。

 だが、その上申は退けられた。

 準備不足の段階で進撃し、兵站線を伸ばせば、エクスプレッセスティ軍に漸次撃破されることになる、との事だった。

 ──── 参謀本部は、枯れすすきを恐れ過ぎなんじゃないのか?

 ガオグゲルは苦々しく思うことしかできない。

 エクスプレッセスティ軍のうち、空軍、海軍の、荒唐無稽なほどの強さは、実際に海軍が二度の大敗を喫したことで確実だ。

 だが ──── これも何度目かの表現になるが、陸軍はまだエクスプレッセスティ陸軍と直接戦っていないため、どうしても楽観論が湧いてしまう。

「全部隊、進撃開始いたします」

 ガオグゲルが、基地の指揮官公室の窓から、発進する戦車隊を見ていると、背後の扉から、第4機甲師団々長のボーグ少将が入室し、そう伝えてきた。

 ガオグゲルは初老の男性で、軍人と言うには些か痩躯の中背、ネィティブ・グラ・バルカシアンに多い堀の深い顔立ちをしている。

 ボーグは、壮年期の盛りという年格好で、全体的に体格はがっしりしており、若々しい顔立ち、目尻は垂れ下がっているのだが、細い目は眼光鋭く見える。

「ボーグ君、帝国陸軍は強い。そうだな?」

「はっ、その通りであります!」

 ガオグゲルの問いかけるような言葉に、ボーグは、直立して、ハキハキとした声で答える。

「その中でも、君の第4機甲師団は飛び抜けて強い! そして今回の作戦、君達の部隊に与えられた最も重要な役割は、この強さを見せつけることだ!」

「重々承知しております」

 ガオグゲルの叱咤に、ボーグは傅くようにそう言った。

「“女だけの軍隊” ──── そのような(たわ)けた存在を、たちどころに粉砕し、帝国陸軍の無敵ぶりを示し……────この世界の蛮族共に、帝国に抗うことの恐ろしさを思い知らせる、ということですな」

「うむ、勝算は充分にあるのだな?」

「ハッ! エクスプレッセスティ軍の前衛部隊と思われる部隊が、国境線の東側、およそ6kmの場所に展開しているのを確認しています。まずは急降下爆撃隊を中心にこの前衛部隊を航空攻撃で叩き、更に砲撃を以って粉砕し、残った部隊を戦車隊にて撃滅します」

「ふむ? 航空攻撃には重爆隊も出撃しているはずだが……?」

「重爆隊72機のうち、48機は侵入後、東進してハルナガ京を攻撃するとの事です」

「ハルナガ京をか……」

「はい。どれほど強い軍隊でも、兵站を潰されれば脆いものです。同時に、ヒノマワリ王国の住民に、我が帝国に逆らう愚を思い知らせることも目的です。これは今のうちに、やりしかありません。エクスプレッセスティ空軍がミティオに進出する前に、やり尽くすのです」

 ミティオは、アルーの東北東、キールセキ峠にあるムーの軍事基地だった。アルーにはもともと、レイフォルとの軋轢を嫌って空軍用の滑走路自体がないため、このミティオが空軍基地としては南西端の場所だった。

 だが、エクスプレッセスティの空軍機が数個小隊単位で展開するとなると ──── ソ連型戦闘機の中でも “前線戦闘機” にカテゴライズされる機体ばかりのため、滑走路のコンディションはシビアな要求をしない。

 しかし、最も肝心な点、燃料の問題があった。ムー空軍はガソリンエンジンで、エクスプレッセスティ空軍の大半の機体はジェットエンジンだ。ムーの航空基地に進出するためには、ジェット燃料の備蓄・補給施設を建設しなければならない。これが、まだ終わっていなかった。

 グラ・バルカスの航空戦力を考えると、輸送用のコンテナをそのまま貯蔵施設に使う量では足りない。

 ただ、Br-1050AEWは、すでにこの方式で、1個小隊がミティオ基地に展開していた。

「ふむ……考えられる限り最善だな。だが、戦車戦は想定外だぞ、心配はないか?」

 ガオグゲルは、確認するようにそう言った。

「問題ありません。敵の戦車は120mm砲装備という情報がありますが、おそらくこれは歩兵直掩用の臼砲や榴弾砲の類でしょう。仮にそれに応じた防御力を持っているとするなら、何より機動力が衰え、我が軽快な戦車隊の敵ではありません!!」

 ボーグは、自信に満ちた表情で、そう言い切った。

 すると、

「ところでボーグ君」

 と、ガオグゲルが、話題を変えるように切り出す。

「急な作戦準備で、兵にストレスが溜まってはいないか?」

「はっ、皇帝陛下の為と士気を保っているようですが、やはり大海を隔てた異国の地(ゆえ)、望郷の念から精神的に参っているものも出てきてはおりますが……しかし、御心配の必要はありません。我が部隊は精強で、それは肉体に留まらず、精神面でも……────」

「ボーグ君」

 ボーグの言葉を途中で遮り、ガオグゲルは、彼の肩にぽん、と右手を置いた。

「──── 戦争には精神的優位が必須なのだよ。君だって、ハルナガ京空爆を作戦として受け入れているじゃないか。つまり、そう言う類のものだよ」

「ま、まぁ……ハルナガ京の現地民には、犠牲は出るかとは思いますが……」

 ボーグは、そう言いつつ、どこか気まずそうに言うものの、ガオグゲルの言葉の真意を完全に把握できずにいた。

「地上戦になれば、どうやっても捕虜は出るだろう。そこでだ……君達が敵兵をどう扱おうが、私は咎めるつもりはまったくない」

「閣下、そ、それは!」

 ボーグは、慌てたように声を出す。

「ここには前世界のような戦時国際法などない。捕虜の取り扱いなど、どのようなものであっても、一切咎められないと言うことだ」

 ガオグゲルの下劣な感情に染まった表情に、ボーグは、更に意識を張り詰めさせた。

「か、閣下、2,000名以上の俘虜が、エクスプレッセスティに抑留されているのですぞ!?」

「だからどうした。いや、むしろこのままで、その俘虜が返ってくる目処はあるのか?」

「それは…………」

 ガオグゲルの言葉に、しかし、ボーグは言葉を詰まらせてしまう。

「身の程を知らず、軍隊ゴッコをしている女どもに、自身をわきまえさせる為だ。その方が俘虜の開放にもつながるだろう……()()を上げたまえよ、ボーグ君」

 

 






オブイェークト19(ウクライナ語版Wikipedia)


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