ヒノマワリ王国、ハルナガ京西部上空。
『トート4より入電中。レイフォル側国境線より156機の
ムー国戦闘機『スペアコブラ』操縦席。
上空直掩にあたっていた、ムー空軍の戦闘機隊に、アルーの作戦司令部から指示と状況説明が、無線で届けられる。
エクスプレッセスティから先行して派遣されている、空中早期警戒機 ダッソー Br-1050AEW 『アリゼ』のトート小隊が、ヒノマワリ王国北部上空の警戒にあたっている。ハルナガ京の東側上空を飛んでいるにも関わらず、グラ・バルカス機はバルクルス基地の滑走路を離陸し、巡航高度に達した時点で探知されていた。
「来よったな!」
ムー空軍のパーテリム中尉は、レシーバーでそれを受け取ると、不敵な笑みを浮かべた。
「大方エクスプレッセスティ空軍が来る前にひと暴れしようという算段だろうが、儂らを甘く見過ぎだ!」
パーテリムはベテランパイロットではあるのだが、現役パイロットが務まる時点で解る通り、老齢と言うほどの年齢ではないにもかかわらず、やや年嵩の口調で会話する。
また、
「中尉? 軍歴の長さから言えばとっくに佐官以上になってて……────」
と、エクスプレッセスティ軍の関係者は、そこまで言うと、何かを察したようにして、急に呆れ混じりの苦笑になり、そして、納得したようにこう言う。
「ああ、
パーテリム自身は、最初、やはりどうしても相手が女性という事で、同じカテゴリで扱われる事に抵抗があったのだが、
「誘導装置の性能限界を超えた正確無比な攻撃で、すべてのミッションをやり遂げる」
と、いう評価と戦歴に、逆に呆然とさせられたとか。──── 閑話休題。
「小隊各機、敵制空隊をやる! SAM部隊の目標を減らしてやるぞ! 儂についてこい!」
『了解!』
グラ・バルカス帝国の主力戦闘機、『アンタレス』07式3型の編隊の頭を抑える高度から、真正面へ向けて緩降下で突っ込んでいく。すでにスロットルは戦闘出力に押し込まれている。
「はっ、数だけは揃えたようだな!」
眼下に見える敵地上部隊の姿を見て、グラ・バルカス帝国陸軍襲撃機隊を率いていたスカイラー大尉は、そう言って舌舐めずりをした。
戦闘車両にはカムフラージュネットをかけてあるようだったが、上空から見れば、掘ってある塹壕や、兵士の姿は一目瞭然だった。
「所詮 “女だけの軍隊” の、戦争ゴッコにはここまでが限界ってことだ! 全機、小隊ごとに突撃せよ!!」
スカイラーの下令とともに、体勢を整えたシリウス急降下爆撃機が、各々の目標に向かって急降下を始める。
ダイブブレーキで急降下速度を調整しつつ、照準器に捉えられた、おそらく1個小隊の戦車へ向けて、500kg爆弾を投下する。
ブランコ型投下機によってプロペラ回転範囲外に出す形で投下された爆弾は、機体を追い越すようにして落下し、敵地上部隊に叩きつけられる。
爆弾が炸裂し、複数の戦車は燃えるように弾け飛んだ。
「ハハハッ、帝国陸軍航空隊の恐ろしさ、思い知ったか!!」
「かかったかかった♪」
小型トラックごと収まる程度の深い塹壕の中、カムフラージュネット越しに響いてくる爆発音と振動に、アサギは多少堪えるような表情を浮かべつつも、口元で不敵に笑う。
「ちょっと爆撃が派手ですね、砲兵がひきつけられるまで保ってくれないと困るんですが」
そう言うイーネだったが、やはり、感情が溢れ出してしまうといった様子でニヤニヤと笑っている。
ハルナガ京指揮所
「目標48、国境線地帯より更に東進します! 地上のレーダーにも捉えられました!!」
「中SAM発射準備! 発射の判断はエリー小隊長に任せます!」
オペレーターの声に、クロエは、無線のPTTスイッチを押しながらそう指示を出しつつ、天幕の外へと出ようとする。
「旅団長、危険です!」
「民間人が攻撃に晒されて、軍人が生き残ったなんて笑い者でしょうが!!」
止めようとする旅団司令部のオペレーターに、クロエは、多少ぶっきらぼうにそう言って、青空の下へ出る。
見上げると、自然にできるにしては不自然なほどの、幾条もの筋状の雲が見える。そしてそのうちのいくつかは、追っている内に黒い煙となっていた。
目に見える限りの状況で、ムー空軍機が優勢のように見えた。
それを視認して、クロエは、口の端を吊り上げつつ、無線のPTTスイッチを押す。
「短SAM、近接対空、スタンバイ」
「前にいる15機程は護衛戦闘機だ。その後ろのカタマリをロックして」
「了解、目標ロック」
SAMP/T指揮管制車。
エリーの指示に、オペレーターが答える。
スペアコブラとアンタレスの乱戦が、ハルナガ京上空にも及んでいる。
ムー空軍機、ムー海軍機には、誘導兵器のフレ
「全弾発射!」
「了解、中SAM発射!」
バシュゥッ!
バシュバシュバシュバシュバシュッ…………!!
「うわぁ!」
ハルナガ京の住民には、屋内退避が呼びかけられていたが、子供達は窓からそれを見ていた。
ブースター点火の閃光の後、キャニスターから飛び出したアスター30ミサイルが、サステナーから光の尾を曳いて、西へと向きを変えて飛んでいく。
「クソッ!」
アンタレスのコクピットで、グラ・バルカス陸軍航空隊の戦闘機搭乗員、小隊長リースク中尉が毒
視界の中で、また1機、僚機がバラバラになった。
── エス共の技術支援があったとは言え、ムーにまでこれほどの力があったとは…………!!
確かに、エクスプレッセスティの超音速機を相手にするよりは遥かにマシだ。
しかし、その “マシ” とは、 ────
「いきなり有視界外から中射程AAMが飛んできて編隊がボロボロ、生き残りも正確無比の短AAMと機銃で
──── ではない、というだけだ。
程度の差はあれど、水平最高速度、急降下性能、横転性能、何れもがアンタレスよりスペアコブラの方が上だ。 “ムー軍機も無傷ではない” と言うだけで、空戦域はムー側のコントロール下にあった。
──── 閃光、衝撃。
『ば、爆撃隊が!!』
無線越しに聞こえる、悲鳴のような絶叫。
48機の双発機、『ベガ』重爆撃機に、地上から放たれた光の矢が突っ込むと、ほとんどの機体は、1発で、一瞬で空中分解しバラバラになった。
命中しながらも即時の撃墜を免れた機体も、ただそれだけだ。骨組みだけになった翼が、漏洩した燃料で激しく燃えている。10分は保ちそうになかった。
「哀れだと思うが、これは戦争なのでな! 恨むな!!」
リースクに限らず、爆撃隊が爆炎に包まれたのを見て、一瞬だがグラ・バルカス戦闘機に動揺が見られた。
パーテリムは、その隙を逃さない。編隊機動から外れている1機のアンタレスを、
アシストに入る
ダダダ…………ッ
曳光弾の炎を曳きながら、3丁の20mm機銃の射撃がアンタレスに吸い込まれる。一瞬後、アンタレスは炎に包まれ、分解しながら墜ちていった。
「なめるな、現地民ども!!」
眼の前でバラバラになるアンタレスを見たリースクは、激昂しつつ、アンタレスに捻りこむような急旋回をさせる。
多少とは言え、スペックのほとんどで劣っているアンタレスだが、現時点の ──── 高度6,000m以下の領域であれば、その旋回性能は他の全金属機の追随を許さぬほどのものを見せる。
「道連れぐらいは作らせてもらう!!」
OPLの照準リングにスペアコブラの1機を捉え、リースクがトリガーを一瞬、押し込む。
機首機銃ではないためか、それとも銃の性能差か、後方からの銃撃は胴体の真芯を捉えなかったものの、主翼の外皮が剥がれ、分解し始める。
「やられたッ!!」
誰かが、悔しさと悲鳴の混じった声を上げる。
クロエ達が見上げている視界内で、アンタレスの射撃がスペアコブラに命中し、スペアコブラの外皮が剥がれ、煙を吹き出す。
そのまま大地に叩きつけられるかと思ったが、機体が完全に揚力を失う前に、パイロットは脱出に成功した。白いラウンド型のパラシュートが展開される。
「よかった……────」
クロエ達が、安堵の声を漏らした、その直後。 ────
『野蛮な現地民が! 生かして返すかよ!!』
リースクが、無線のレシーバー越しにその声を聞いたかと思うと、自身の小隊の1機が、増速してリースク機を追い抜く。
「何をする気だ! アルベーシ、止めろ!!」
リースクが、絶叫に近い怒鳴り声を上げるが早いか、彼の小隊僚機であるアルベーシ少尉機は、脱出したスペアコブラのパイロットに向かって ────
「貸りるわよ!!」
その光景に、その場にいた者が唖然とする中、クロエは、その行為を働いた許さざるべき敵戦闘機を視界で追ったまま、傍らにあった、指揮所防衛の防空歩兵が配置しておいた、トレイスティの荷台に乗ったMANPADSミストラルの発射機の照準器に取り付いた。
「
ドシュッ……!!
発射されたミストラルは、メインサステナーに点火すると、発射時にセットされた赤外線画像 ──── アルベーシ機のエンジンを追い、その至近に迫り、炸裂。無数のタングステン球に穴を穿たれたアンタレスは、空中分解しながら、放物線を描いた先で大地に叩きつけられた。
「くっ……」
リースクは表情を歪める。
味方機であり自身の部下であるアルベーシの被撃墜には心が痛む。
だが、脱出したパイロットをわざわざ甚振るなど、騎士道精神に悖り合理性にも欠ける行動をとったアルベーシが狙い撃ちされるのは、因果応報という想いも同時に頭をもたげた。
『戦闘機隊、全機撤収せよ、全機撤収せよ』
無線越しにバルクルス基地の航空隊司令部から指示が入る。
「小隊全機、撤収するぞ」
リースクが無線で指示すると、アンタレスはスペアコブラとの格闘戦から離脱して空戦域から離れようとする。
リースクがざっと見渡した限り、アンタレスは思っていたよりはかなり多く残っていたが、編隊を組み直すほどの余裕はないようだった。
一方で、ハルナガ京への爆撃は阻止されたものの、エクスプレッセスティ・ムー連合軍の前衛と思しき地上部隊は、シリウス爆撃機とベガ重爆の爆弾を浴びて、赤い光を放ちながら燃えていた。
『アルーHQより第33飛行隊各局。Enemyは全機反転、深追いするな。直ちに基地に帰投し次の出撃に備えよ』
「33-1リーダー了解」
パーテリムが無線に返答し、彼の麾下の中隊が、最終的にはスペアコブラ全機が空戦域から離脱する。
「砲兵隊、目標、敵前衛部隊! 攻撃開始ッ!! 敵の前衛部隊を粉砕せよ!!」
「全車射撃準備!! すわぁーて、メスガキ砲兵魂見せますかね!!」
先に火を吹いたのは、グラ・バルカス軍の15cm重カノン砲だった。
この野戦砲は、グラ・バルカス帝国陸軍では、実用の範囲では最大の野戦砲だ。
大砲自体のスペックとしては、2S016自走榴弾砲の、39.3口径155mm砲とほぼ対等ではある。
第二次世界大戦後、兵站のスマート化と、野戦砲全般の長射程化の要求から、大型野戦砲は105~155mmの長砲身榴弾砲に集約されたが、グラ・バルカスにとっては、長射程のカノン砲と、曲射で面制圧を行う榴弾砲とは、まだ別カテゴリの大砲になっている。
航空攻撃で炎上しているそこへ、15cm榴弾が降り注ぎ、燃え盛るその火勢が一時的に強まる。
「敵火点特定! 座標データ設定されました!」
アルーの国境線付近に展開している作戦司令部に、中型トラック・ファイターをベース車とした野戦情報管理・指揮通信車が配置されている。NATOのLink16戦術データプロトコル準拠の野戦情報管理システム群が搭載され、広範囲の送受信の為の大型アンテナと燃料タンクを抱えたトレーラーが付属する。もっとも今は、ムーの商業電源から電力を貰っているが。
対砲レーダーによって検出された、グラ・バルカス軍砲兵部隊の射撃位置から、味方砲兵の射撃目標が設定され、砲兵部隊に送信される。
『1IMT、砲兵隊、ロケ隊、全力射撃!』
クロエの命令が、無線越しにアストリッド達に届けられる。
「撃て! グラ・
アストリッドが号令をかける。他の砲兵小隊も、同時に射撃を開始した。
ドォン!! ドドドドォン!!
ヒュボッ、ヒュボボボボッ!
32門の自走榴弾砲が、一斉に火を吹き、雷鳴のような轟音を響かせる。
同時に、Thunderbolt-2000も同じ目標へ向けて射撃を開始する。8両16基の発射機から、96発のMk45ロケット弾が、炎と煙の尾を曳いて、空中に弧を描き、グラ・バルカス軍砲兵陣地に降り注ぐ。
ここでひとつ、グラ・バルカス側に不幸があった。エクスプレッセスティ軍展開前にヒノマワリ領内に侵入・展開できなかった事だ。
これが何を意味するのかと言うと、エクスプレッセスティ側は、遠慮なくクラスター弾が使えるのだ。
台湾原設計の高精度な信管であり、不発弾発生率は極めて低いとは言え、ヒノマワリ領内にバラまいてしまうリスクは回避したかった。──── が、もともと同情していないレイフォル内なら、誤差範囲の不発率なら構わないだろう、となってしまったのである。
クラスター弾頭のMk45は、降下中に信管が作動して親弾が分解し、518個の子弾へと分かれて、グラ・バルカス軍砲兵陣地に降り注ぐ。
グラ・バルカス帝国陸軍、第4戦車師団
『こ、こち、第6砲兵中隊陣地……ッ、無数の、爆弾の雨が……砲も、兵も……ッ、敵は、敵は親子式の砲弾をピギ━━━━ッ!!』
無線越しに、味方砲兵隊の断末魔が聞こえてきた。最後の甲高い音は、通話中の電話機が破壊される際に出るノイズだ。
「信じられん……砲兵の手数でこちらが負けるとは……!!」
第4戦車師団、野戦指揮車。
歩兵輸送用の
大量の野戦砲部隊を展開して、敵の軍勢をあらかじめ破砕し、敵の反撃能力を奪ってから進軍する ──── グラ・バルカス帝国陸軍が得意とする戦法の、お株を奪う制圧射撃だった。
砲の門数ではグラ・バルカス側が勝っていたのだが、自動装填装置を搭載し、1門あたり即応の6発を立て続けに撃ち込み、重砲弾だけで台頭、ロケット砲の分エクスプレッセスティが勝った形だった。
「だが、敵の前衛も壊滅している!! 曲射砲だけでは機甲部隊の前進を食い止めることはできん! 全車、前進! 敵の残存部隊を破砕するのだ!!」
ボーグは、真っ当に状況を把握して、戦車部隊に進軍を下令する。
──── そう、ボーグの判断は間違っていなかった。技術格差を考えたとしても、極めて合理的な判断だった。
ただし ──── その見えている情報が、厳密に正確ならば、だが。
『ヒノマワリST、こちらアルーHQ、受信できていますか?』
「こちらヒノマワリST、
『敵戦車部隊の前進を確認、間もなく国境線を超える』
「了解。撤収します」
『Good luck.
アサギは、無線でのやり取りを終了すると、妙にニヤニヤとしながら、ダブルキャブ・スーパーロングボディの小型トラック・ルーシアの運転席に乗り込む。
「さーて、ずらかりますか」
「それ、軍人の言い方じゃないですよ」
アサギの言い様に、助手席側から乗り込むイーネが、わざとらしく咎めるように唇を尖らせつつも、自身も楽しさを隠せない様子で言う。
「でも、こういう戦争もあるって、その……──── すみません、やっぱりおもろいです」
「でしょう? それもここまでハマるとね」
イーネの言葉に
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