フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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天王山、ヒノマワリ会戦! Part.III

「止まれっ!」

 モント・セラト軍曹のハウンドIは、後進で迫る敵戦車から逃れようとしていたが、そのモントが慌てた声を出し、ハウンドIは急停止した。

 ハウンドI数両と、歩兵部隊直協のシェイファー軽戦車が停車し、前進も後退もしない状態になっている。

「一体何が……」

 セラトが呟きかけた時、

 ゴワァッ!!

 自分達が来た、街道のレイフォル側で、紅蓮の()(ばしら)が上がった。

 モントは、レシーバーのケーブルの途中に付いているPTTスイッチを押す。

「師団本部、何があった? 応答してください!!」

 モントがそう問いかけるが、直接の応答はなかった。その代わりに、パニックのような通信がレシーバーに飛び込んでくる。

『師団本部はもうない! 敵の伏兵が殿(しんがり)の補給部隊を攻撃している! 指揮車は地雷で吹き飛ばされた!』

 

 ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ!!

 街道両側の雑木林に、4門ずつ偽装していたM-30 122mm榴弾砲が次々と火を吹く。

 着弾の度、グラ・バルカス軍のトラックが襤褸切れのように破壊されながら、積載物が爆散しながら炎の塊を飛び散らせる。

 前方、ハルナガ京(かた)への進軍がほぼ止まっている。バルクルス基地方、最後尾は、指揮車や数両の輸送車、タンク車が地雷で爆破され、第4機甲師団の退路を塞いでいた。

「ちょっとオーバーキルだけどまぁいいか!」

 茂みに伏せている、エクスプレッセスティ軍25AC(第25空挺中隊)所属の対戦車小隊の隊員が、カムフラージュの下のRK-3対戦車ミサイル発射機の照準器を、後続の砲兵部隊の直協役であるシェイファー軽戦車に向ける。

「後方!」

「後方クリア!」

 一緒に発射機を運んできた隊員が答える。

「発射!」

 バシュッ!!

 発射されたRK-3 Corsar対戦車ミサイルは、照準器が照射している誘導レーザーを追って、その先にあるシェイファーに命中する。

 40t級のT-72やT-90の正面、あるいは50t級のT-80の側面を撃ち抜くためのタンデムヒート弾頭が命中した、8t足らずのシェイファーは、炎の槍に貫かれたかと思うと、爆散して装甲板が弾け、残骸は松明のように燃え上がった。

「戦車がやられた!」

「林に伏兵がいるぞ! 探せ!」

「そんな暇与えるわけないでしょーが」

 兵員輸送用のトラックやハーフトラックから降りたグラ・バルカス軍歩兵が捜索しようとすると、その声に25ACの迫撃砲小隊の隊員が少し抑えた声で言う。

「これでも喰らえ!」

 そう言ってトリガーレバーを引く。

 2B9E-81。今一度解説しておくと、つい最近まで西側には似たような概念の兵器がなかった2B9M自動迫撃砲を国産化するに当たって、旧ワルシャワ条約機構標準の82mmから、NATO標準の81mmに変更したものである。

 先込め式のオーソドックスな迫撃砲と異なり、4発のクリップに留められた迫撃砲弾が連射される。

 ドンドンドンドン!!

 迫撃砲弾が着弾すると、グラ・バルカス軍の歩兵が爆風で薙ぎ払われ、彼らを乗せてきたトラックやハーフトラックが破壊され、炎上する。

「25AC各員へ、突撃は自重しろ味方の砲の邪魔になる ────」

 ユキは、右手にエクスプレッセスティの標準小銃弾である.243W(Winchester)S(Super)S(Short)M(Magnum)仕様の「Malyuk」ブルパップアサルトライフルを持ったまま、左手で無線のPTTスイッチを押しながら、言う。

「──── それ以外は自由にやっていいぞ!!」

 ユキがそう言った次の瞬間、左右を挟まれ、後方を破壊された自軍車両で塞がれたグラ・バルカス軍歩兵に向かって、呵責のない.243WSSMの火線が襲いかかった。

「がぁっ!!」

「ひぃっ!」

 グラ・バルカスの歩兵小隊長、コーレ・ギドー中尉は、倒れ込んできた自軍兵を見て、竦み上がりながら小さく悲鳴を上げた。

 部下がバタバタと倒れていく中、彼はうまく車両の残骸の間に隠れ、エクスプレッセスティ軍の掃射から逃れていた。

 ── こ、これはエクスプレッセスティが80年進んでいるからなんかじゃない! 完全に作戦負けだ!!

 ギドーは、声に出さずに叫んでいた。

 確かに、戦車の性能差や、ドローンヘリや対砲レーダー、対戦車ミサイルの存在はある。

 だが、今第4師団が圧されているのは、それ以外の要素も大きすぎる。デコイで航空攻撃や事前砲撃を浪費させられたが、デコイ戦術は新しいものでもなんでもない。地球なら紀元前には存在したものだ。

 ── こちらの尖兵を止めたのは戦車の性能ありきだが、伏兵を潜ませ、後尾をリモコン地雷で吹き飛ばして、包囲殲滅する。 ── こ、これに必要なのは高度に訓練された兵と、砲兵の手数だ!!

 ここまで来ると、今自分達を包囲しているエクスプレッセスティ軍の女性兵士が姿を現したとしても、ギドーのプライドは傷つかなかっただろう。雑木林に潜みながら撃ってくるのは、ギドーの想像通り、エクスプレッセスティ陸軍空中機動旅団群の中でも、転移以降歴戦の25ACなのだから。

『敵戦車、後退してきます!』

「対戦車小隊、次発行ける!?」

 空挺歩兵小隊の報告を受け、ユキは射撃を中止してPTTスイッチに手を伸ばす。

『いつでも!』

「じゃあやっちゃって!」

 ユキがそう言うと、ほんの僅かの間を開けて、RK-3ミサイルが放たれる。

 後退してきたハウンドIの正面にRK-3が命中すると、炎の槍に貫かれたハウンドの開口部という開口部から炎が吹き出し、そのまま燃え上がった。

 

「ダメだ、これじゃ後退もできないぞ!」

 自車の中で、モントが声を上げる。

 退却しようにも、後方は敵の伏兵に攻撃されている。野砲と対戦車砲も隠れているようだ。

 ドゴォオォォォンッ!!

 モント達が立ち往生している間にも、敵の()()()は味方を破壊しながら迫ってくる。

「おい! 白旗はないか!?」

「ど、どうするんです!?」

 モントの言葉に、操縦手のジブラ・ルタルが困惑した声を出す。

「俺達だけでも降伏する! エクスプレッセスティ軍に対しては、白旗を掲げれば降伏するという合図になるらしい! 戦車の能力で負け、作戦でも負けている……もう、生き残るには白旗を掲げて降伏する以外にない!!」

 グラ・バルカス帝国軍は、この世界において敵軍に降伏する可能性を考えておらず、エクスプレッセスティに限らず、どの旧文明圏の降伏の合図も、末端まで知らせていなかった。

 白旗、というエクスプレッセスティに通じる降伏の合図も、大佐以上の身分にしか知らされていなかったが、モントは将校への昇進を目指していた事から、この情報を上官の1人から入手していた。

「で、ですが!」

 ジブラが食い下がる。

「エクスプレッセスティは我が国を独立国家として認めていません! 捕虜として取り扱ってもらえるか……」

「確かに帝国に帰れるかは怪しいが、少なくとも、イルネティアでの戦いで捕縛された2千人以上の抑留者は生きている! レイフォリアには2ヶ月毎に抑留者の状況が送られてくるんだ!」

 これも、モントが司令部の近くをうろついていたために入手した情報だった。

「少なくともここで確実に死ぬよりはマシだ!」

「し、しかし急に白旗と言っても……」

 ジブラの困惑は当然だった。想定していないのだから、用意されているわけがなかった。

「ええぃっ、仕方ないッ!」

 モントは、手早く軍服をはだけ、白いシャツを脱ぐと、その袖を長柄のスパナに縛り付けた。

 

「ん!」

 エリカが照準器のスコープを覗いた時、それに気がついた。

「全車、射撃一時中止」

 胸元の、無線のPTTスイッチを押しながらそう言った後、

「前方、白旗掲げてるっぽいのがいる。確認して」

 と、エリカは車長に指示した。

「了解」

 車長はそれに(こた)え、T-64-120の換装された砲塔に載っている小型R(Remote)W(Wepon)S(Station)『Sarmat20』に前方を向かせ、そのカメラで前方を見る。

「道路中央の敵戦車、白旗を掲げています!」

「降伏ってことかし……────」

 

「降伏だ、降伏する! 俺達は降伏する!! 捕虜にでも何でもしてくれぇ!!」

 モントは、上半身裸のまま、自車のハッチから身を乗り出し、即席の白旗を大きく振った。

 ── 砲撃が停止した。解ってくれたのか!?

 モントがそう思ったときだった。

 ドォン!!

 敵戦車が砲撃を中止したのを、好機だと思ったのか、僚車の1両が発砲した。

「馬鹿野郎!!」

 

「効いたァ……」

 ハウンドIの、低初速57mm砲弾がT-64-120の装甲を貫通できるはずがなかったが、それでも砲塔に命中したことで、車内に鋭い音が響く。

「どいつがやった!? 白旗のやつ!?」

「違います!」

 RWSのカメラで観察していた車長の返事を聞き、エリカは無線のPTTスイッチを押し込む。

「白旗を掲げているやつ以外を片付けて!」

 エリカは言いつつ、自身も照準器のスコープを覗き込む。

 

 バコッ! ドゴォン!!

「うっく!」

 モント車の隣で、T-64-120に発砲したハウンドIが、敵の戦車の砲に撃ち抜かれ、瞬時にスクラップに変えられた。

「くっそ、ダメかぁ……」

 敵の戦車は砲撃しながら、自分達へ向かって前進してくる。

 愚かな僚車のおかげで、降伏の機会も失ったと、モントは、一旦は諦観のあまり呆然としかけた。

「!」

 しかし、敵はモントの乗車を狙わず、まだ動き続けようとする僚車を次々と狙い撃っていく。

「デカくて砲の威力があるだけじゃない……照準器の精度もとんでもないぞ……」

 誤射があってもおかしくない、隣接した僚車を正確に撃ち抜いたのを見て、モントは、目を剥くようにしながら、息を呑んだ。敵戦車の砲の大きさを考えれば、まさに針に糸を通すかの芸当だ。

 先頭を走っていた敵戦車が、モント車の正面の傍まで来て、停車した。

『こちらはエクスプレッセスティ国防軍、第18装甲連隊々長補エリカ・シュミット。降伏の意図あるなら、両腕で(まる)を作れ』

 外部スピーカーの女声にそう指示されると、モントは、一瞬慌てた後、白旗を砲塔の上において、両腕を円形状にした。

 すると、相手の戦車のハッチが開き、長い銀髪の、連隊の副指揮官をやっているにはずいぶんと若い、というか、幼い顔立ちの女性が、一旦車体前部に立ち、そして地面に降りようとする。

『エンジンを停止させてください』

 先程とは別の声で、スピーカーから指示が飛ぶ。

「お、おい、エンジン切れ、エンジン!」

「は、ハイッ!」

 モントに指示され、ジブラは、少し慌てつつも、エンジンを停止させた。

『降車してください。武器の類は回収させていただきます』

 銀髪の副指揮官 ──── エリカは、ニューナンブM9/357『ピースキーパー』サブマシンガンを手にしている。COP.357ペッパーボックスピストルが収まった胸ホルスターも身に着けている。

 もう1人、本来の砲手が降りてきた。ニューナンブM57C『アジャスタブルハイパワー』の収まった胸ホルスターを着けている。

「お前ら、出てこい」

 モントは、自身もゆっくりとハッチから車外へ出ようとしつつ、部下の乗員達にそう指示する。

「うわぁ…………」

 車外に出て、周囲を見渡したハウンドIの乗員の誰かが、漏らすように声を上げた。

 街道は残骸で埋まりかけていたが、その全ては自軍の戦車だったものだった。

 砲手に武器類を回収されながら、モント車の乗員達は、唖然とした様子でT-64-120の巨体を見上げていた。

「デカい……戦車長の言う通り、これが戦車だと言うんなら、俺達のが戦車を名乗るなんて、80年早いなんてものじゃないですね……」

 ジブラが、ため息交じりに呟くように言った。

 エクスプレッセスティ共和国国防軍陸軍第1統合機械化旅団とグラ・バルカス帝国陸軍第4機甲師団の激突は、これで一旦はひと段落をついた。

 グラ・バルカスの第19偵察隊など、ごく一部の部隊が、25ACが補給のために離れたところを見計らって撤退に成功したが、部隊としての第4機甲師団は事実上喪失し、師団長のボーグは戦死、師団参謀長のサミーはエクスプレッセスティ軍に捕縛された(エクスプレッセスティの公式上は、グラ・バルカス軍は非合法武装組織であるため「捕虜」とはされない)。

 戦車の能力差が目立つが、エクスプレッセスティ側がデコイ戦術で砲撃戦に勝った上で邀撃戦力を温存した事、グラ・バルカス側が師団で車列をつくって進撃してしまった事、占領ありきで本部隊や輸送隊まで車列に加わった結果、エクスプレッセスティ軍の伏兵戦術で殿を潰されて包囲された事など、俯瞰して見ると、ギドーが感じた通り、力押しが通用すると判断したグラ・バルカス軍と、惜しまず搦め手を使ったエクスプレッセスティ軍との、作戦の差が勝敗を分けたかたちになった。

 

 

 ──── とは、言うものの……

「やっぱり相手にこの規模の戦力があると、損害なしってわけには行かないか……」

 グラ・バルカス軍の戦車の残骸が折り重なっているところまで、トレイスティでやってきたクロエが、そう言いながら降車すると、忍び手で手を合わせて黙祷する。

 基本的に既存の宗教と相性の悪いエクスプレッセスティだが、冠婚葬祭には宗教的儀式がどうしても関わる。それに、人間の多くは “無宗教” にはなれても、 “()()()無神論者” になることは難しい。

 日本人なんかその最たるものだ。西欧のキリスト教圏の国家に所属する団体が日本を調査すると、「“無神論者” が多い」という結果を発表してしまうのだが、実際に「神様仏様」と念じた事のない日本人の方がごく少数だろう。空気当然なので、特定の宗教を信仰しているという()()()()()だけで、厳密には無宗教ですらない。

 話をエクスプレッセスティに戻すと、下手にカルトでも出現されると困るので、建国当初は国家主導で特定の既存宗教を導入した。どれかと言ってしまうと建国理念とぶつからない神道だ。ただ2022年に日本の神道政治連盟がジェンダーマイノリティ否定活動をやったため、エクスプレッセスティの神社庁(この事件までは、日本から一歩引いて「分神社庁」を名乗っていた)と日本の神社本庁とは直接の関係を絶っている。

 ──── 閑話休題。クロエが黙祷を終える。

 既に後方隊の遺体回収隊のファイターのパネルバンが到着し、比較的原型をとどめている遺体から遺体袋に詰め、その荷台に手早く、しかしぞんざいにならないように積み込んでいく。

 精神的に「グラ・バルカス許せん」という世論、また戦略的に、ガスの販売先、一部工業生産の肩代わり先として、生命線であるムーを防衛する必要、両者に後押しされている派兵だったが、数えられる程度とは言え、ついに戦死者を出してしまった。

 加えて……────

「捕虜の可能性?」

 本部隊の隊員から報告を受けたクロエが、困惑した声を出す。

「はい。ドックタグが発見されない、行方不明の者が11名いまして……」

「捕虜か……実際にそうならまずいわね……」

 クロエは、深刻そうな険しい表情で、腕組みをしながら言う。

「バルクルス……グラ・バルカス側の拠点、誰か入り込んでる?」

「えっと……ええ、一応」

 本部隊員は、そう言いながら、声に出すのを避けて、シャープペンシルで付箋に走り書きして、それをクロエに見せる。

『ウィラ・マロンウォズ少佐』

「彼女か……頼りにはなるけど……」

 その名前を見て、クロエは、かくん、と脱力するようにしてそう言った。

「まぁいいわ、確認・誘導役はいるって事なら、厄介なことになる前にとっとと奪還しますか」

 クロエは、ため息交じりにまずそう言ってから、

「第101ロケ小隊に準備させて」

 と、指示を出す。

「あ、派手にやるつもりなんだ」

 そこに通りかかったユキが、妙にニヤニヤしながらクロエに声をかける。

「アンタみたいにスマートなのは性に合わないからね」

 やれやれと言った表情をしながら、クロエはそう言った。

 






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