フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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今回、クワ・トイネの地理関係や、それにまつわるロウリアとクワ・トイネ、双方の政治的経緯について、独自の考察を含んだ内容が含まれます。

…………だって、こうでもしないとエジェイとギムの位置関係を合理的に説明できないんだもの……


クワ・トイネ西部騎士団 斯く戦えり

 エナジポリス。エクスプレッセスティ国防軍第8陸軍保管庫。

「あー……私、所持申請出してたんだけどなー」

「え、アンタ、ガノタなの?」

 2人のエクスプレッセスティ陸軍兵士が、DPM機関銃を整備しながら、雑談していた。

 ……

 …………

 ……………………

 も、(もとい)、雑談しながら、DPM機関銃を整備していた。

 円盤弾倉の変形が問題になることが多いものの、旧ソ連のそれも旧い銃ということもあって、精度は高いとは言えないが、信頼性はかなり高かった。

 ソ連崩壊後も旧ソ連構成国や旧ワルシャワ条約機構加盟国に大量に保管されており、エクスプレッセスティ国防軍創設期にその一部を弾丸とともに譲ってもらい、2014年の防衛力本格整備の開始まで、主力兵器の一翼を担っていた。

 “ナマモノ”である弾丸に関しては、西側製の安全性の高い雷管を採用したものを調達していた。

 ただ、使用弾種の7.62×54mmR弾が、その後にエクスプレッセスティが小銃弾として採用した弾丸と異なるため、現在の主力小銃、RPC Fort-206/243が採用され行き渡ると、それと入れ替わりに、基本モスボール保管された。

「まぁねー……」

 2021年度いっぱい(2022年3月31日)までは、特別に所持申請を出せば、装備品として与えられる事もあった。

 それで、申請する者の殆どがガノタ女子。

 というのも……言うまでもないかも知れないが、『機動戦士ガンダム』の機動兵器モビルスーツ、MS-06『ザク』の標準兵装、M-120A1『ザクマシンガン』に似ているからである。

「じゃあキラ派? アスラン派?」

「んー……種死はあんまり好きじゃないんだけど、あえて言うならシン派?」

「ああ……」

「でも、シリーズ全体で言ったら、断然プルツーかな」

「そっちかよ」

「それにしても、あー……新人だと思って遠慮してたのが失敗した。さっさと申請しておくんだった」

 旧くても信頼性のある銃。と言っても、やはり保管状態次第でだいぶ差異が出る。

 概ね良好だったものは、ウクライナとポーランドから受け取った物。両国とも、一丁事あらば、第二次世界大戦どころか第一次世界大戦期の兵器でも持ち出して戦うという気概があったからか、軽くグリスアップして新しい弾丸をセットするだけで射撃可能なものがほとんどだった。

 一方、どうしようもなかったのがロシア提供分。はっきり言って()()()()()()()()()をされていたものを押し付けてきたとしか思えない状況で、実際殆どが分解されて使える部品だけストックに回された後、そのまま廃棄された。

 で、所持申請自体は、2022年度以降もできたが、許可が降りる率が一気に下がった。というのも、譲ってもらった元であるウクライナがロシアの侵攻を受けたため、すぐにでも射撃可能な状態の物は、ウクライナに供与してしまったのである。

 現在エクスプレッセスティ国防軍が保管しているDPMは、多少の整備が必要なものだった。なので、装備調達・管理部付の兵士が交代で、24時間1丁1丁、分解して磨いてグリスアップして組み立てる、の作業を地道にやっていた。もちろん、それ以外の部隊からも動員はされていて、この第8陸軍倉庫以外の場所、またエムブセラクスの陸軍基地でも、日中で最大3桁の隊員が割かれている。

 ようやく昨日、第一陣を、ISOの方が「どうして日本のコンテナを基準にしなかった? ん?」という状態で、日本とエクスプレッセスティに大量に蔓延った日本国鉄/JR型の19系コンテナに積み込んだ。今日、ちょうど今この時間に、双胴輸送船に積み込まれているはず、だったが……────

 ヂリリリリリリン……ヂリリリリリリン……

 電話機のベルが鳴る。軍で構内電話に使われている他、エクスプレッセスティでは電話加入者が自身で音響端末が用意できない者の為に、国営通信企業「ウィスペックスシークス」(“Wispexcex”)がレンタル用としている品。小型の卓上壁掛け両用の、受話器の下にダイヤルがある、つまり……はっきり言って日本の電電公社制式電話機601小型-A1Wのコピーである。いやメリットはある。とにかく受動素子のみで構成されているので壊れないのだ。まぁ、ウィスペックスシークスの電話交換網はインターネット接続サービス用の光ファイバーを使ったIP電話なのだが。

 それと軍用構内電話で使われるのはもう一つ理由があり、それは物理ベルは音が通りやすいということだ。多少周囲が騒がしい状況でも、交換機側電源だけで動くし、呼び出し音も通じる、とそういうわけである。

「ったく、この忙しい時に……」

 ガノタ()()()()方の女性兵士が、少し苛立ったようにしながら、ため息混じりに立ち上がり、電話機のところまで行く。

「はいもしもし、こちらエナジポリス第8陸軍倉庫」

 不機嫌さを隠さないという軍人にあるまじき態度で、受話器を取り、そう返答した。

 だが、電話の向こう側の相手から、短くその事実を告げられると、ワナワナと震え始めた。

「くっそ、ふざけんな!」

 ガチャン、と、受話器を叩きつけるように、受話器位置に戻した。

「どうしたの……?」

 ガノタ兵士の方が、おずおずと問いかける。

「始めやがった! なんでもう少しだけ待てねぇ!!」

「え?」

「ロウリアだよ! クワ・トイネ国境を超えて、ギムを攻撃している!!」

 

 

 時間は少し遡る────前日の夜。

 ロウリア王国、東部国境線付近。

「アデム殿、この度はクワ・トイネ侵攻軍副指揮官の就任、おめでとうございます」

「白々しいですねぇ……ローブで隠していても、いやらしい笑みが透けて見えますよ」

 アデムの言う通り、彼に声をかけてきた相手は、深くフードを被り、闇夜の中でその人相を隠すようにしている。

「まぁ、あなた方のおかげ……ということになりますのでね、一応お礼は言っておきますよ」

 アデムは本当に謝意を伝えるつもりがあるのかないのか、やはり何処か狂気を感じさせるような笑みを浮かべながら、そう言った。

「ええ……どうぞ、我らが支援したワイバーンで武勲を立ててくださいませ」

「ありがたく使わせていただきますよ。まぁ、私は亜人が殺せれば、それでいいのですけどね」

 そう伝えた瞬間、アデムの笑みに垣間見える狂気が、最大限のものになった。

「おお、怖い怖い……」

 ふざけ混じりなのか、口元を覆うようにしながら、ローブ姿の男はそう言う。

「それでは、軍人ではない我々は、ここで退散いたしますよ」

 

 ────翌朝、国境のクワ・トイネ側。

 ギムを守るため、クワ・トイネ西部騎士団はそのほぼ全数がここに集められていた。

 ……が、前夜に東側でキャンプを張ったロウリア軍との兵力差は、1:10と、圧倒的にクワ・トイネ側の寡兵だった。

 ──本当にここで守れるのか……

 クワ・トイネ西部騎士団々長のモイジは、愛用のグ()ートソ()ドを真正面の支えにするようにして、瞑想するように目を閉じ、心の中で自問自答していた。

 ここギムは、クワ・トイネ公都からも、ジン・ハークからも不便な土地で、一応国境線はここに存在しているものの、元々はどちらからも見捨てられた農村があるだけだった。

 転換点になったのは、現ロウリア王、ハーク・ロウリア34世が、ロウリア王国内で発言力を持ち始めた頃────と、クワ・トイネ側は認識しているが、とにかくその時期から、ロウリア王国内で亜人排斥活動が激しくなり、行き場を失った亜人が、ギムに集まりだし、クワ・トイネがこれを保護した。

 一応、ロウリアの主張する国境線を越えて東側とは言え、この位置はそれまで一種の、既存の国家の統治の空白地帯(ってエクスプレッセスティみたいだな……)だった。だが、クワ・トイネの亜人難民受け入れ方針は、それまでクワ・トイネが西の守りとしていた城塞都市エジェイから一気に版図を広げた、と、ロウリア側にはそう見えて、刺激してしまった。結果的に、ハーク34世の発言力を補強し、ロウリア国内で東征論が盛り上がることになった。

 この為、短期間に人口が集まって都市化してしまったものだから、ギムは国境の街であり、人口密集地でありながら、まともな防壁がなかった。

 ────ヴォオォォォォォウ……

「団長、ロウリア軍のヴォ()ーク()ライ()です」

「モイジ団長……」

「うむっ」

 ──解っている。ここまでしてもらっておいて、エクスプレッセスティを恨むのは筋違いだと……より根本的に、邀撃の体制を整えていなかった我々の落ち度だと……

 

 一方。

「さぁ、皆さん、行きましょう」

 これから行われるであろう事態を想像し、アデムはサディスティックな笑みを隠さず、麾下の部隊に下令する────

 

「撃てッ!!!!」

 

 ドォン!!

 雷鳴のような音が聞こえてきたかと思うと、ほんの少しだけの後に、ロウリア軍の隊列で爆轟が発生した。

 本来防衛に適した重装歩兵をあえて突撃力として使うロウリア独自の戦法に従って、突進を開始したロウリア軍の陣形に、ポッカリと穴が空くように、数十人もの兵がなぎ倒された。

「な、なんですかっ、コレはッ……何が起きているんですかっ!?」

 アデムも、あり得ない事態に、馬上で狼狽える。

 

「撃てッ、後のことは考えるなッ、今は1人でも多くロウリア兵を薙ぎ払えっ!!」

 モイジの号令に呼応して、6門の榴弾砲が火を吹く。

 本格的な供与は間に合わなかった。だが、エクスプレッセスティ国防省装備調達・管理部の権限で渡せる限界の数のM-30 122mm榴弾砲が持ち込まれた。

 もちろん、持ち込まれていたのはこれだけではない────

 

「くっ! 竜騎士団に前進を! 敵には大魔導士がいる! あの目障りなパ()()ドの先を焼き払え!」

 アデムは、全ては理解できなかったが、このまま一方的に攻撃を受けるのは得策ではないと判断し、竜騎兵に深部への攻撃を命じた。

 150に達するワイバーンが、ギム防衛線に向けて突撃する。

「馬鹿なっ……この数、我が国の保有する飛竜の総数を越えているっ」

 モイジは、空を覆わんとしている()()()()()()()に、驚愕の目を向けることしかできなかった。

「ありえんッ……敵の指揮官は正気かッ!?」

『こちら第2飛竜隊、敵騎に向け、突撃する!!』

 魔導通信機から、味方の飛竜隊からの声が聞こえる。

『飛竜を討てるのは飛竜のみ────ドラ()グゥ()ーン()の誇りにかけて、僅かなりとも道連れにしてみせるっ!!』

 威勢のいい声だが、同時に、これ以上ない悲壮感に包まれていた。

『モイジ団長! ギムを────クワ・トイネを! 後を頼みます!』

 しかし、あまりに寡兵。

 24騎のクワ・トイネ飛竜隊が、文字通りの全滅に至るまで、数分しかかからなかった。その時点でのロウリア軍の竜騎隊の損害は、3騎のみ────

 

「ははははは、いいですよッ、その調子で、防塁の中の亜人共も、それを守ろうとする人間も、焼き殺してやるのです!」

 優勢を取り戻したと感じ、アデムは笑いながらそう叫ぶ。

 

 ──空さえとらせなければ、あるいはと思ったが、やはり、無理か……

 モイジは、悔しさに奥歯を噛みしめる。ギリ、と己の頭に響いた。

 ──ならば……

「殺せっ! 1人でも多く、ロウリア兵を道連れにしてやれっ!」

 モイジは、自軍に檄を飛ばす。

 

 ゴォッ……

 ロウリア軍竜騎隊は、空中での僅かな抵抗を払い除けると、パリセードを焼き払うべく、急降下の体制から、導力火炎弾の投射体制に入った。

 バキッ!!

 導力火炎弾はパリセードに命中し、その部分に穴を開け、崩壊させた。

「はははは、いいですよ、その調子でパリセードも兵も焼き払ってしまいなさい!!」

 アデムは威勢のいい声を上げるが────

 ──何か、おかしい?

 竜騎隊の何名かが、それに気がついた。

 本来、導力火炎弾は焼夷効果を持つ。木製のパリセードなど、1発命中すれば、たちまち炎上するはずだ。

 だが────眼の前のそれは、命中した部分には穴が空くのだが、延焼する気配がない。

 

 ────1ヶ月ほど前。

「いいですか、これは在庫はこれきりしかありません。日本と連絡が取れない以上、追加の供給は無いと思ってください」

 そう言って、クワ・トイネ西部騎士団にそれが持ち込まれた。

 エクスプレッセスティから派遣されてきたにしては、珍しく、何処にでもいるような男性だった。

「あくまでこれは、エネルガズムが企業として、クワ・トイネに掛け売りするものです。木製のパリセードを構築したら、これを満遍なく塗ってください。飛竜の炎の威力を、かなり削ぐことができるはずです」

 トラックいっぱいに搭載された、一斗缶に詰められたそれは、日本の塗料メーカーが開発した、木材を耐火材化する塗料だった。

 本来は、エネルガズム自身が設備に使うために輸入したものだったが、この事態にあって、クワ・トイネに()()を決定したものだ。

 

 ──本当に、木材が燃えなくなるとは!

 ()()を構えたクワ・トイネ兵は、その直前まで半信半疑だったそれが、現実になったことに、驚きを隠せなかった。

 だが、同時に、自分達のなすべき事を忘れてはいなかった。

 ──いいマトだ……!!

 その視線の先には、高い攻撃力と引き換えに、その瞬間、ワイバーンが取らざるを得ない無防備な姿。

 

「ギャアォッ、アクゥゥゥンッ!!」

 飛竜の悲鳴が上がった。

 すでに、クワ・トイネの飛竜隊は全滅している。

 従って、今、悲鳴を上げて墜落していくのは、どうやってもロウリアの竜騎隊。

「これは……い、一体、どうしたというんだッ!?」

 アデムが、それを信じられないと目を見開いている間にも、飛竜隊の先鋒が、3騎、6騎と落ちていく。

 

 M-30榴弾砲と同時に、当然、6基のZPU-4 14.5mm対空機銃も、ギムに運び込まれていた。

 地球では、超音速ジェット機相手にはどうやっても使えないが、陸戦兵器としては現代でも使われているもの。

 レシプロ戦闘機と比しても低高度までにしか到達できないワイバーン相手には、充分すぎる兇器だった。

 しかも、導力火炎弾を放つ瞬間は、ワイバーンは胴を頭から尻尾まで直線に伸ばし、翼を完全に広げなければならない。それが対地攻撃である場合、ワイバーンならではの低高度機動力を封じられた状態で、高度の有利を急速に失っていく。

 そんなものは、大地に固定された対空機銃のマトでしかないのだ。

 それに加え、パリセードごと破壊するというロウリア側の目的を防いだ結果、生き残っていた、クワ・トイネ本来の対空兵器である高角弩弓も、飛竜を狙い撃つ。

 

「何をしているんだッ! 進め────ヒッ!!」

 正体不明の、ただ敵の攻撃だとだけ解っているワイバーンへの攻撃から逃れるために、一瞬、ギムの防陣の真上からワイバーンが遠ざかった瞬間、122mm砲弾がロウリアの重装歩兵に降り注ぐ。

「何をしているんだッ! パリセードはもう穴だらけだぞっ、騎兵隊は突進してクワ・トイネ兵を攻撃するんだっ!」

 アデムが命令する。魔導師の攻撃だとするなら、圧倒的多数の騎兵の動きにまでは追随できないだろう、そう判断した。

 だが、ここでもアデムの思惑は阻まれる。

 突進を始めた騎兵隊が、次々と、血しぶきを上げながら倒れた。

「な……な!!」

 

 パリセードの前方に気付いた土塁の背後から、クワ・トイネ兵の構えたDPM機関銃が、いともたやすくロウリア騎兵隊の命を刈り取っていく。

 

 だが────

 

「団長、122mm砲弾は尽きました。機銃弾も同じ」

 敬礼しながら、クワ・トイネ兵が指揮官であるモイジに報告する。

「…………斬り込むぞ」

 モイジはそう言って、グレートソードを構え、突撃の体勢を取る。

 剣を、あるいは槍を、戦斧を、構えられる限りの者が構え、モイジに続いた。

 

 ────クワ・トイネ西部騎士団の健闘も、矢羽尽きてはここまでだった。

 




驚いたことに、自分はてっきり厳しいコメントが来るかなと思っていたのですが、意外に内容を噛んでくれている感想が届いて、嬉しい限りです。
おひとりおひとりに返信をすべきかと思いますが、コピペ連投になってしまいそうなので、ここでお礼を述べさせていただきたく存じます。

ボルドーワインさん、sx2さん、それとこまめに感想をくださっているぴょんすけうさぎさん、感想ありがとうございました!


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2
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