フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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前話を『炎の夜宴』から『炎の夜宴 Part.I』に改題しました。


炎の夜宴 Part.II

 ドパダダダダダダ……

 ガシャン、ガシャン、グシャッ、ガシャッ!!

「ぐぁぁっ!」

「がはっ……」

 BTR-4SEの“攻撃班”が、RWSで兵舎に20mm機銃の掃射を加えている。T75リボルバーカノンの他に、オプションスナップにM621ブローバック機銃を装備していた。

「さ、殺意が高いなんてもんじゃねぇ! 徹甲弾で壁ごとブチ抜いてくる!! 建物に掩体物の効果はないぞ!!」

「逃げろ、頭低くして逃げるしかねぇっ!!」

 阿鼻叫喚で逃げ惑うグラ・バルカス兵の叫び声通り、20mmAPDSの掃射を浴びた建物は、穴だらけにされた後、強度を失って崩れかける。

 ゴワッ、グワッ、ゴワッ、グォワッ!!

 T-64-120が、滑走路の奥に向かって120mm榴弾を繰り返し撃ち込む。

 既に燃料施設と弾薬庫は炎上していたが、かろうじて原型を保っていた施設、それに、駐機場に停められていたベガ重爆撃機が破壊される。ベガ重爆撃機は主脚を破砕され、地面に落下するかたちになった胴体はそのまま潰れた。

「敵戦車にこれ以上の跳梁を許すわけにはいかん! 小隊突撃用意!」

 混乱から回復したグラ・バルカスの部隊が、T-64-120に一矢報いようと、攻撃の準備を整えている。……と、言っても、現代…………とは基礎設計年次的に言い難いものの、基礎設計の優秀さとウクライナの先端装甲戦闘車両技術でアップデートされ、21世紀の戦場で第一線を張ったT-64に有効な打撃を入れられる砲兵器は、グラ・バルカスにはもはや存在しないと見做すしかない。彼らは、装甲車両破壊用の破甲爆雷と、火炎瓶を手に持っていた。

 どれだけ重装甲の戦車でも、大抵の場合、後部のエンジンルーム周りは必ずしも装甲が充分ではないし、エンジンやトランスミッションにダメージが入れば行動不可能になる。

 ただ、これらの装備は砲やロケットによる投射武器ではない。歩兵が決死隊となって肉薄攻撃をするしかなかった。

「幸い、敵は戦車掩護の歩兵が充分ではない! 無防備なところを叩く! 我々の戦果は帝国に語り継がれるものになるであろう!」

「おぉーッ!!」

 腕を振り上げて言う小隊長に、部下が声を上げる。

「突撃ィッ!」

 彼らは、隠れ潜んでいた建物の影から飛び出し、視線の先に存在する戦車の後部側面に向かって我武者羅に走り出した。

「ん?」

 1両のT-64-120の砲塔内。車長用の監視装置の、赤外線画像モニタに、接近してくる歩兵相当の熱源が表示される。

 RWSの操作盤に手を置く。

「!?」

 そのT-64-120の『Sarmat20』RWSが向きを変え、戦車隊めがけて突進してくるグラ・バルカス肉薄攻撃隊の方を向く。

 ダダダダダダ……

 M621 ブローバック機銃が火を吹く。肉薄攻撃隊は20mm機銃の掃射を受け、たちまち十数人が、爆ぜて血と肉の塊に変えられた。

「パンサー4リーダーより各局! 基準線の右翼方から敵歩兵が攻撃を仕掛けてきている!! 警戒せよ!!」

『パンサー3リーダー了解』

『ブレイク! パンサー3、パンサー4、こちら1IMTリーダー、こちらの攻撃の状況は!?』

 クロエが問いかけてくる。

「パンサー4リーダーから1IMTリーダー、見える範囲の航空機は破壊しました! 滑走路の奥の方までの確認はできていません」

『こちらパンサー3リーダー、パンサー4リーダーと同じ認識です』

『了解。飛行場破壊は終了していい、後退を開始して!』

『パンサー3リーダー了解!』

「パンサー4リーダー了解!」

 クロエからの指示に従い、滑走路攻撃に向かった8両のT-64-120は、砲塔を(てき)(がた)に向けたまま、後進で、司令部本棟の方へと後退を始める。

「ぬぉっ!」

 両手を拘束されたガオグゲルが、BTR-4SEに押し込まれる。ティイナが背中を押した時、ガオグゲルはハッチのステップで脚をもつれさせ、前へ向かって倒れ、車内の床に転がった。

「えー……これ連れてくの……」

 捕虜になっていたエクスプレッセスティ兵の1人が、あからさまに嫌そうな顔をしてそう言った。

「上手いこと捕まえられたからね。この襲撃作戦自体、アルーHQ(ムー大陸派遣軍司令部)は承知してるけど、本国には報告だけしか行ってないから。証人が要るんだよ」

 ユキが、曲げた人差し指でガオグゲルを指差しながら言う。

 ヒノマワリでの会戦を終えて、そのままある分だけ補給しての作戦展開など、本来なら常識がないにも程がある。それだけ、可能な限り迅速な対応を迫られたからでもあるが、その為に本国の国防省、作戦統括本部の返答を待っている時間的余裕がなかった。

 これには、現状、ムー大陸とエクスプレッセスティ本国間の通信が、短波狭帯域通信しか存在していない事も影響している。

 もっとも、そもそもアルーHQには状況に応じて作戦の変更・付加の権限が与えられている。これは今回に限ったことではなく、エクスプレッセスティ国防軍が自身の統帥権下で遠隔地に軍を派遣する際の手続きとして元々定められているもので、西側諸国の軍隊としては特別異質なものではない。

「ち、中佐……」

 ガオグゲルは、身体を起こしてユキを振り返り、わざわざ階級で呼びつつ、縋るような視線を向ける。

 ユキは、ガオグゲルを見ながら呆れきった表情をしたあと、視線を上げて、車内の自軍兵に対して言う。

「一応、本国に送致する事になるし、国防省から怒られたりマスコミに嗅ぎつけられた時に騒ぎになったりしない程度に人権尊重しておくこと」

 それから、ユキは視線をティイナに向ける。

「この場の指揮とこいつらの見張りは任せていい?」

「中隊長はどちらへ?」

 ユキの言葉に、ティイナが聞き返す。

 すると、ユキはガオグゲルを親指で指しながら、

「こいつ乗っける分、窮屈になるでしょ。私は戦車に同乗させてもらうから」

 と、言う。

「それでしたら、私か、あるいは誰かをそちらに向かわせますが? その方が……────」

「言いたいことは解ってる」

 ティイナは、怪訝そうに言いつつ、言葉尻を濁したが、ユキは、苦笑しながら返す。

 自他共に認める “合法ロリ” のユキよりも、体格の大きい者が移乗した方が、この場のスペースは空く、と、ティイナは考えていたし、ユキもそう認識していた。

「けど、T-64の操縦助手席も窮屈だからさ」

 これも今一度説明しておくと、エクスプレッセスティの主力戦車のハイ・ロー・ミックスのローサイドであるT-54-120は、自動装填装置を備えているにも関わらず、抱えているトランスミッション固渋の問題から、それに対処する役として、操縦助手を設けて、4人乗りとしている。

 T-64-120にはその問題はないが、クルーの融通の際や、ゲスト席として、操縦助手席を追加している。

 ただ、T-64は元々3人乗りだ。T-54-120と共通の砲塔に換装する関係で、自動装填装置が砲塔ベルトから、西側型と同じ砲塔後部に移ったことで発生したスペースを活用するかたちで設けられたが、その為にT-64-120の操縦助手席はかなり狭い。

「そう言うことなら、了解しました」

「なんかあったら無線で呼んで。些細なことでも。2号車の連中にも伝えといて」

「了解です」

 ユキの追加の指示に、ティイナも再度返事をする。

「さて、と……」

 様子を伺いつつ、ユキは、メチャクチャになった司令部本棟から外へと出た。

 BTR-4SEの停車している空間の左右を、T-64-120が敵の進入を阻むように固めている……が……

「ありゃ?」

 BTR-4SEが前方を向けているその先で、1両のT-64-120が、へたり込んだような状態になりながら、エクスプレッセスティ国防軍では珍しい装軌装甲車両が牽引の準備をしていた。

「どうしました? センパ……旅団長」

 手にM9/357を持ちつつ、腕組みをして、持ち前の童顔に苦い表情でその光景を見ていたクロエに、ユキが訊ねる。

「キャタピラ切られた」

 クロエが答える。その通り、片方のキャタピラが転輪・起動輪から外れてしまっている。

「ありゃ。結構やるなぁ」

 ユキは、感心したように言いながら、戯け混じりの表情で、キャタピラの外れた足回りを凝視する。

「最初にパリセード引きずりながら押し込んだ時に、もうクリアランス狂ってたところへ、何度も銃撃されて、弾片を起動輪が噛んで、外れかけてたところに動かして引き千切っちゃったのよ」

 クロエがそう説明している間にも、BREM-61装甲回収車の作業員が牽引の準備を整えていく。

 珍しい、西側型のトーションバーサスペンションをもつその車体は、エクスプレッセスティ国防軍の整備が本格化する以前に保有していた、ACT-61装甲輸送車を改造したものである。

 で、このACT-61、建前上は「アメリカから購入した、廃棄された装甲車両の部品を使って組み立てたもの」とされていたのだが、 ──── はっきり言ってしまうと日本の61式戦車のものだったりする。日本国内で一旦解体された後、部品単位で、書類上アメリカを迂回して運ばれたわけだ。

 この事実を、ACT-61時代は知らぬ存ぜぬで通していて、BREM-61へ改装時も、

「装輪式のBREM-60回収車(BTR-60種車)の次って意味」

 と言い張っていたのだが、最近になって、

「61式だよ」

 と、開き直るようになった。

 とは言うものの、今となっては魔改造された車体の一部と、足回りだけが61式戦車から引き継いでいる部分で、クレーンの着いた車体の上部は近年改造されたにしては東側型丸出しの外観をしているし、動力系はPTO(Power-Take-Off)付の6M60エンジン2基にしてそれに合わせた伝達系に取り替えられている。

 周囲は、散発的に発砲音は聞こえるものの、既にグラ・バルカス軍の部隊は組織的な抵抗をする能力を失っており、この作業をしていても、相手の襲撃が成功する恐れはかなり低いように見えた。

 グラ・バルカスにそれがどこまでできるかは未知数だが、置いていって分解されるわけにはいかないのだ。多少の危険を甘受してでも、持ち帰るしかない。なので、もともと回収班は、襲撃部隊のやや後方、呼ばれればすぐに駆けつけられるところで待機していた。

「よーっし!」

 作業にあたっていた1人が、そう言って身体を起こし、手を掲げて合図をする。

「ちょい後ろ下げて!!」

 ガコン、とトランスミッションのギアをつなぐ音がして、BREM-61は、T-64-120に繋がれた牽引棒の、牽引車側の端へ向けて、そろそろと後進する。

「1IMTリーダーより各局、総員、撤収準備」

 その光景を見ながら、クロエは無線のPTTスイッチを押しつつ、そう告げる。

 滑走路攻撃に向かったT-64-120に続いて、施設を銃撃しに行った攻撃隊のBTR-4SEが、本棟前の集団のところへ引き返し始めている。

「フック上げて!」

 油圧駆動の牽引フックが上がり、ちょうど真上に来ていた牽引棒のリングにフックがかかる。作業員がハズレ止のワイヤーを装着した。

「OK、撤収準備! 総員乗車!」

 回収班の班長が、声を張り上げて指示する。作業員はBREM-61のキャビンと、同じく回収班用の、既存のBTR-70の改修車であるBTR-70SEに乗り込んだ。

 班長だけは、クロエの下へと小走りにかけてきた。

「作業終わりました。いつでも出発できます」

「了解、ご苦労さま。指示あり次第他の部隊と共に撤収」

「了解です」

 クロエが、労いつつ、次の指示を出すと、班長はそう言って敬礼し、BREM-61のキャビンへと向かっていった。

 クロエはもともと乗っていたパンサー2小隊2号車に乗り込み、ユキはその3号車に同乗させてもらう。

「捕虜回収班、出発」

 クロエが無線で指示すると、半ば後部を本棟に突っ込ませていた、回収隊のBTR-4SEが、前進して、その場から離れる。

「パンサー1及びパンサー2各局、本棟攻撃用意!」

 クロエが指示すると、キャタピラを切られた1両を除く7両のT-64-120が、主砲を本棟の1階に向ける。

「中に遺体があるし、ちょっと後味悪いけど、すぐに復旧されるわけにもいかないしね……」

 クロエは、そう呟いてから、再度無線のPTTスイッチを押し込む。

「撃てっ!!」

 ドドドッ ドドドドッ!

 7門の120mm滑腔砲が、本棟の1階部分に砲弾を撃ち込んだ。

「撤収! 全隊撤収せよ!」

 崩れていく司令部本棟を余所に、エクスプレッセスティ軍の車両は、車体の向きを変えながらバルクルス基地の敷地外へ向かう。

 そのまま、東方、ヒノマワリ領内へと撤退していった。

 

 

 夜が明ける。

 バルクルス基地は、 ──── すべての機能をほぼ失い、無惨な焼け跡と化していた。

 航空燃料タンク軍はすべて破壊され、まだ火災は鎮火していなかったが、あらゆる設備が何らかの重大なダメージを負っており、消火の手段はなく、燃え尽きるに任せておくしかなかった。

 生き残りのグラ・バルカス兵は、本来、指揮を執るガオグゲルは居らず、建造物に対してあらゆる破壊が行われた基地の跡で、呆然、愕然としてただ佇んでいた。

 

 

ヒノマワリ会戦及び第一次バルクルス基地攻撃。

結果 ────

エクスプレッセスティ軍 損害

 戦車1 被撃破・損傷

 戦死9

 捕虜11(奪還済)

ムー軍 損害

 戦闘機6 被撃墜

 戦死 4

グラ・バルカス軍 損害

 戦車331両 喪失

 その他車両224両 喪失

 砲 33門 喪失

 航空機(空戦によるもの)

  戦闘機8 被撃墜

  単発爆撃機4 被撃墜

  双発爆撃機42 被撃墜

 戦死6,156

 捕虜102 (ムー)

 捕縛156 (エクスプレッセスティ)

 

 グラ・バルカス軍の捕虜・捕縛は、投降後、本人の希望により、エクスプレッセスティ軍に捕縛か、ムー軍捕虜かに分けられた。

 また、航空機の飛行中の撃墜は上記の通りであるが、最終的にバルクルス基地配置の航空機はベガ重爆撃機1機を除いて破壊された。

 






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