フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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バルチスタの海が沸く Part.I

「磁気方位10時半方向、Unknown接近中、マークされていない反応です!」

 『マーサ・ルセリア』CIC。

「対空戦準備!」

 オルクーニュが下令する。

「高度は割り出せるか!?」

「はい」

 監視オペレーターは、右手のトラックボールを操作する。

 エクスプレッセスティ海軍向けのオペレーター用マン・マシンインターフェイス・デバイスは女性の体格を前提に設定されているため、つい最近まで前近代海軍の水兵をやっていたロウリアの巨漢オペレーターには少しばかり小さすぎる印象があるが、ゴツい指先で器用に扱っていく。

 そもそも、エクスプレッセスティ水上艦の標準型戦(C)情報処理(4)シス(I)ム、S-OYQ-9II(2)は日本のOYQ-9Eの機能を若干補完しつつソフトウェアとして再現し、x86-64系汎用ハードに実装したものなので、本来、MMID(Man Machine Interface Device)は変更しようと思えば割と簡単にできる。 …………のだが、『ハーク大王』『ミズ・トイネ』の要件細部の決定の際、ロウリア、クワ・トイネとも、

「できるだけ『ビフォーリア』(元ソ連1124P計画型ウクライナ海軍U206『ヴィーンヌツィヤ』購入後大改装)のままにして欲しい」

 と、要望されたため、エクスプレッセスティ艦の中古改装組と同じ寸法にされている。

 これは、「なぜか~」というものではなく、要するに、

「まだ頭で理論的な理解をしきれるか不安だから、視覚的にエクスプレッセスティが運用している姿のままにしておいてくれ」

 という理屈である。

 ただ、まるっきりそのままにしてあるのかというとそうではなく ────

「数が多いので……先頭の群は高度5,000m付近を飛行、その後ろに6,000m付近を飛行する群と、3,000m付近を飛行している群がそれぞれ点在しています」

 ──── そのひとつがこれ。エクスプレッセスティ国防軍は航空機等の高度は、NATOや日本国自衛隊に合わせてフィートを使用しているが、転移後の世界にはヤード・ポンド法が存在しない反面、ロウリアやクワ・トイネには既に航空作戦の概念が存在している。

 なので、人間の方を短期的に矯正することを避けて、情報機器類の表示をメートル法に変更している。もっともあくまで表示で、エクスプレッセスティ軍の情報機器とリンクした際に錯誤が起きないよう、内部処理はフィートのままなのだが。

 このあたりはS-OYQ-9IIがソフトウェア実装である、フレキシビリティを活かしたかたちだ。

 そう解説している間にも、オルクーニュは脳内で、グラ・バルカス帝国の技術水準である第二次世界大戦の史料の情報を引っ張り出す。

「先頭の群の目標をロック、中SAM発射!」

「了解!」

 中間の高度を飛んでいるのが急降下爆撃機、その上にいるのが護衛戦闘機、それより低い高度を飛んでいるのが雷撃機、という判断の下、艦対空ミサイルの発射が下令される。

 両舷に据えられた3R-E014-2可変角ミサイルキャニスターは垂直を向いたまま、管内でアスター30Block1NTミサイル合計4発がロケットブースターに点火して飛び出すと、艦自身が向いている北北西の方角へと、弧を描きながら向きを変え、白い煙の尾を引いて蒼い空へと飛んでいく。

 ほぼ同時に、『ハーク大王』からも、4発のアスター30ミサイルが発射される。

「次発装填SAM、ただし甲板作業は待て!」

 オルクーニュがインカムに向かって指示をする。

 エクスプレッセスティの可変角ミサイル発射機3R-E014-x(xはセル数)は、NATO型VLSを持たない艦の為の代替品として開発されたもので、同様の可変角多目的ミサイル発射機であるアメリカのMk.26などと異なり、戦闘中、敵の攻撃が想定される中で再装填する事は考えられていない。西側型の垂直発射ミサイルと東側型の斜め発射ミサイルで共有できるゲテモノ能力がある反面、再装填については安定した航行中を前提と割り切ることで実現したものである。

「いつでも戦闘出力出せるようにしておけ!」

『了解』

 この時点では、まだ巡航用の蒸気タービンのみで航行していたが、オルクーニュの命令を受けて、高速用ガスタービンが起動される。普段ほとんど陽炎が流れているだけの煙突から、一瞬だけ白煙が僅かに吹き出す。

 ロウリア艦2隻から発射できる中SAM・アスター30は合計8発。地球・21世紀の戦闘であれば、これでも相手の攻撃をかなりの割合で漸減できる計算になる。

 だが、同じミサイルを使用するSAMP/T同様に、大量投入・大量消費前提の第二次世界大戦の兵器運用とは、数の面ではどうしても不利があった。

 だが、相手が接近してくればRWS『SIGMA20』に搭載されている近SAM・『ミストラル』と、57mm砲、20mm機銃で迎え撃てる。

 ロデニウス北部沖海戦で200のワ()()ンの撃墜は、これらによるものだ。ドローンほど小さくもない第二次世界大戦型の航空機では、21世紀型砲熕兵器の対空射撃に対する脆弱性は、ワイバーンと比べても誤差のようなものだ。

 オルクーニュは、第零式艦隊の前に出て、相手の攻撃隊を殲滅するつもりでいた。

 だが、その思惑は外れることになる ────

 

 

「──── ッ!!」

 グラ・バルカス帝国海軍、第1次攻撃隊。

 戦闘機隊の彼らの眼下で、それは()()()()に発生した。

 突然高速の光の矢が向かってきたかと思うと、回避する間もなく、8機の『シリウス』艦上爆撃機が爆炎に飲まれ、炎の塊となって墜落していった。

 ──── だが、これが飛んできたということは、俺達は確かに敵の艦隊へ向かって飛んでいるということだ……

『攻撃隊各機、偵察機の情報では先頭にいるのは戦艦部隊、目標はその後方、空母機動部隊!』

『了解ッ!』

 無線で攻撃機がやり取りしている通話が流れてくる。

 それを聞いて、彼は唇の端を吊り上げた。

 ──青灰色の悪魔(MiG-29)がいないのであれば、この数のアンタレスを早々圧倒できる事はないはずだ……!

 彼はそう確信した ────

 ゴワッ!

「な、何!?」

 突然、彼の僚機が炎上し、炎と煙を引きながら墜落していく。その事態を思考で認識した時は、他の僚機共々、横転旋回の急機動で想定進行位置を回避する────

『ローガン、右 ──── いや、()だ、()を見ろ!!』

 彼らの隊長である、サルト飛行大尉の緊迫した声が、レシーバーから聞こえてくる。

 そう言われて、視線をそちらに向けようとすると、視界の上端になにか、異形のものが捉えられかけた。

 その次の瞬間、彼の意識は永遠に途絶えた。

 

 

 ── 速度で勝負するな。強引に格闘戦に持ち込め。さすれば我らは、尚無敵。

 国を出立する前に、繰り返し戒められた訓示が、自然と脳裏に流れる。

 ── 確かに水平速度は対等のようだが、動きは読み易い!

 エモール王国風竜騎士団々長、ウージは、風竜と思念を通じさせるその片隅で、それを言語にして確認する。

 第3艦隊の特設空母2隻は、ミリシアルの艦載機ではなく、彼ら12騎ずつを搭載してきていた。

 自国の圧倒的マジョリティである竜人族以外を差別的に見ており、故に他の国も、直前までの格付けとしてはより上位だったミリシアルやムーも含めて見下しているエモールだが、それでも現実から目を背ける事はできない。

 マグドラ沖海戦の後、エモールの騎士団もエクスプレッセスティ軍を視察した。彼らが目の当たりにしたのは、MiG-29(青灰色の悪魔)をはじめとする、超音速機を200機以上保有する圧倒的な空軍力だった。

 だが、その最中、エクスプレッセスティの戦闘機搭乗員が、苦笑しながらこう言った。

「あなた方とは、できればやり合いたくないですね」

 リップサービスである事は理解できたが、それが全てで言うだろうか ──── 視察に参加したウージの部下は、竜人族のプライドをあえて半分捨てて、真意を訊ねた。

 彼の直感は当たっていた。実際に、エクスプレッセスティは近隣にあるガハラ神国の存在もあって、風竜について徹底的に調査していた。その結果エクスプレッセスティ空軍、海軍の戦闘機パイロットに伝達されたのは、

「風竜と戦闘になった際はガンキルを厳禁する」

 ──── である。ガンキル、つまり機銃による有視界戦闘はしてはならず、常にミサイルで対処せよということだ。

 風竜は航空力学によって飛ぶ航空機とは全く異なる機動をする。エクスプレッセスティにはヘリコプターという特異な機動が可能な形態の航空機もあるが、これは構造上高速を出すことができず、転移前世界のテクニカルトライアル機でも500km/hに届かなかったと言う。

 彼が、更に一段恥を忍んで、風竜が人の作った航空機に対して優位を保つ手段について聞いたところ、「頭を抑えて高度的優位を常にとりつづける」事だと答えた。

 超音速機なら、それを実現するジェットエンジンの推力で離脱する事はできる。できるが、逃げる以外の選択肢は得策ではないということだ。

 ましてや、ムーやグラ・バルカスの往復式内燃機関や、原理は同じでも実用ジェット機の極初期の能力であるミリシアルのエンジンでは、風竜と上昇力比べをするのは自殺行為に等しい。

 他にも、高速時の急旋回など、500km/hを超える固定翼機には真似できないし、その搭乗員は感覚的に風竜の機動を推測できない。風竜にしかできないトリッキーな機動は武器になる。

 そしてそれは、その知識を騎士団員に徹底した後、ミリシアル軍との模擬空戦で裏付けられた。

 ミリシアル側は改良型 ──── 実際にはターボファン構造の魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの、バイパス比が狂っていて前ファンが抵抗になってしまっていたのを、ウクロボロンプロム・エクスプレッセスティ・サービスの ──── 滞在中に転移に巻き込まれたというイーウチェンコ出身の技術者の一言で前ファンを撤去してターボジェット構造にした、ほぼそれ()()のもの ──── の戦闘機『エルペシオ』3α型、当時は製造されたばかりだったその初期型を参加させたが、1対1では風竜は常に勝利し、同数戦でも引き分けにはなっても敗北判定はなかった。

 ただ、エモールの国力に、風竜自体の育成の困難さから、数で押された時には不利になることは否めない。だが、それはどの航空戦力でも同じことだ。MiG-29でも8倍の数のアンタレスまでは処理できても、これが20倍差になったら、ミサイル撃ったら後は尻に帆かけて逃げ出すしかない。

 この時、グラ・バルカス軍の第一次攻撃隊の戦闘機は72機。

 それに対して、エモール風竜騎士団は24騎。

 本来であれば避けるべき数の格差だが、風竜騎士団は彼らのみで戦っているわけではない ────

 

 

「う、嘘だろ…………」

 グラ・バルカス側の攻撃隊長を任されていた、『シリウス』艦上爆撃機の飛行隊指揮官のスバウルは、自分たちに向かってくるそれを見て、そう呟いていた。

 ミリシアル艦隊は、空母機による先制攻撃を放棄していた。

 艦隊決戦に持ち込めば有利なのは、マグドラ沖海戦で解っているのだ。今回はミスリル級戦艦の改装も完了しており、たとえグレートアトラスターの同型艦がいても対等以上に殴り合えるはずだ。

 なので、空母機はまず、先に押し寄せてくるだろうグラ・バルカス機動部隊の攻撃隊を確実に排除するように動いた。重攻撃機として完成した『ジグラント』3型を除き、制空戦闘機の『エルペシオ』3α型、戦闘爆撃機の『ジグラント』2α型、軽空母に搭載されている、エルペシオ3系ベースの戦闘攻撃機『エルペシオ』3Γ型、合わせて288機全てを迎撃任務につかせていたのである。

 数では2:1に見えても、グラ・バルカス攻撃隊の約半数は爆弾や魚雷を抱えた爆撃機や攻撃機、それも鈍重な『リゲル』雷撃機に空戦能力はないに等しい。それに対して、ミリシアル機はすべて邀撃任務の装備で襲いかかってくる。

 敵の尖兵であるジグラント3αが、風竜との戦いで算を乱しているアンタレスに襲いかかる。

 格闘性能ではなお、アンタレスが優位にあるように見えたが、とにかく速い。

 しかも、相手はその彼我の差を承知しているようで、アンタレスが、ジグラントに限らずミリシアル機を射点に捉えると、ミリシアル機はパワーダイブで逃れる。

 グラ・バルカス軍の単発単座戦闘機は、基本的に急降下加速性能が悪い。空冷エンジン機ゆえの広い前面投影面積、航続距離を稼ぎつつ安定した離着陸(艦)性能を確保するための低翼面荷重と高アスペクト比(つまり、より横に長い)主翼のためだ。

 ムーのスペアコブラは液冷エンジン搭載で前面投影面積が狭く、かつ機首を流線にできる。その上で高性能過給器と、ミッドシップエンジン配置の採用で、卓越した急降下加速性能を持ちながら、アンタレスにはまだ若干劣るものの高い格闘戦能力を確保している。

 それに比べると、エルペシオは格闘戦はあまり得意としていないようで、アンタレスは数的不利の中でよく戦っている。しかし、たまにバタバタっと落とされる部隊が散見された。飛行特性が全く異なるエモールの風竜が、混ぜっ返しに来るからだ。

 ── ミリシアルに……この世界の現地民にもこれだけの力があるというのか…………!

 スバウルは苦々しく思いつつも、

「降爆機、攻撃機は敵戦闘機に構うな! 敵艦隊上空に飛び込め!」

 そう、無線機で指示した。

 敵艦の対空火器の範囲内に入れば、戦闘機はフレンドリーファイアを恐れて入ってこないはずだ。

 

「敵編隊、想定位置で降下しません!」

「なんだと!?」

 マーサ・ルセリア CIC。

 オペレーターの言葉に、オルクーニュが驚愕に目を張りながら、声を上げる。

「RWSの射程外を通過します!」

「ちぃぃッ!!」

 オルクーニュは歯を食いしばり、艦長席の手すりを拳で叩きつけていた。

「空母を狙いに行ったか……」

 エクスプレッセスティの戦史資料を見る限り、グラ・バルカスの感覚でもミリシアルの主力戦艦群は高価値目標の筈だが、その上空を素通りするということは、そう判断された、と考えるのが自然だった。

「57mmは届きますが!」

「撃て! 即応弾を使い果たすまで撃て!」

 RWSの20mm機銃、ミストラル近SAMの有効高度は3,000m程度までだ。だがMk110 57mm砲は6,000m程度までは軽く届く。しかも発射速度は220rpmに達する。

 オペレーターの操作にスムースに(こた)えたMk110砲塔は、旋回しながら砲身の仰角を大きくとると、空の敵へ向かって剣呑なリズムをたて始めた。

 

 ── どうやら、判断は正しかったようだ。

 スバウルは、自身の判断の正しさに、少し安堵してしまっていた。

 ミリシアルの艦載装備の欠点に、高射砲がないことが挙げられる。近接防空火器として搭載される、20mm、25mmの対空魔光砲、機関砲はそれなりに優秀なのだが、これと戦闘機によるカバーとの間にギャップが生じていた。

 それでも、真上で空中戦をやると味方の射線に入りかねないので、ミリシアルの戦闘機は入ってこない。その上で高度を3,000m以上にとっていれば、安全に通過できるというわけだ。

 だが、スバウルの安堵はほんの一瞬で終わった。

 バカンッ、バカッ、バカンッ、ボンッ…………!!

「そ、そんな!?」

 高射砲の射撃であることは確かだった。だが、それは信じられないほど正確で、編隊を文字通り片っ端から、という感じで、シリウス爆撃機を破壊していった。

 





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