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ザッバァアァァーン
バルチスタ海、ミリシアル、グラ・バルカス両艦隊本隊を結ぶ直線上より西方。
海中に魔雷光式爆雷が投下され、数秒が経ち、爆発の水柱が
「今ので何隻目ですか……?」
「12隻目です」
部下は、淡々とした口調でそう答える。
しかし、それを聞いて、メテオスは気が抜けたようなため息を
「もう少し狩ったら、主力艦隊攻撃に向かうか……」
メテオスは、一度姿勢を正してから、呟くように言った。
彼の本来の性格は徹底した合理主義者である。だから、理性ではこの
それは逆説的な話だ。腐っても列強の一角を占めたレイフォルの海軍を、単艦で壊滅させたグレートアトラスターが、今度はエクスプレッセスティの潜水艦の前に敗れている。
ただ、同時に国内最高峰の大学を出て、その存在そのものがエリート集団である魔帝対策省に採用され、そこでの研究での成果と、自身の魔法技術の習得・研鑽とで、魔法技術者としての高い能力を認める大魔導師の称号を持っているほどのエリート故、プライドがやたら高いのも事実だ。
潜水艦が脅威だというのは理解できていても、やはりもっと目立つ役割を果たしたいと思ってしまう。
また、彼は、エクスプレッセスティ共和国、グラ・バルカス帝国の転移前から、文明圏の区分などくだらない、と考え、彼の研究の対象はその先入観にとらわれないものではあった。
だが、そのくだらないと考えていた枠組みも、エクスプレッセスティが先進国会議参加の条件として強く要求してきたことで、半ばなし崩し的に廃止されてしまった事は、列強1位の国のエリートとして、いたくプライドを傷つけられる出来事だった。もちろん、それを今まで金科玉条としてきた自国にも苛立ちを感じていたが。
しかし一方で、彼のその明晰な頭脳は動き続ける。
「ここまでの撃沈の記録は、きちんと記録してあるな?」
彼にしては珍しく、それは直感的なものだったが、ある種の確信を得ていた。
「はい、もちろんです」
「よろしい。後でレポートに使えるようにな。国防省に恩を売ることにしよう」
メテオスが感じたのは、この海域で立て続けに潜水艦を狩り出す事ができている、という事実に対する違和感だった。
── エクスプレッセスティは、自軍の潜水艦がどこにいるのか徹底して隠していた……
これ自体は国防省の人間も気付いているだろう。パーパルディアとの大東洋戦争の後、自国の外交的価値観を他国に認めさせる為、自国の軍事力、軍事技術力を惜しげもなく公開してきた。
潜水艦についても、特にイルネティア南岸沖海戦後、ミズリューム級潜水艦の存在を喧伝している。
ところが、多くの場合、外国の軍事視察団がエクスプレッセスティに赴いても、超音速機や装甲師団の装備品は、軍事のそれとは思えないようなショーを伴って見せてくれる ──── 信じ難いことに、エクスプレッセスティの転移前世界では、性的表現の絡めが過剰であることを除けば、方向性としては世界的なトレンドからさほど外れてもいなかったという ──── のに対して、潜水艦はほぼ既存の映像でしか見せてもらえなかった。
潜水艦の作戦の要は、その隠匿性だ。「どこにいるかも解らない」、それが最大の武器だ。その事は、ミリシアルでも軍事に関わる者であれば理解は可能だった。
ミズリューム級は
どこに潜んでいるかわからない不可視の敵、それがどれだけ脅威であるか、理解できない人間は想像力が欠けているとしか言いようがない。
だからこそ、エクスプレッセスティは潜水艦の運用情報は、他の海軍艦・軍部隊よりも遥かに重要度の高い軍事機密としている。イルネティア派遣の際も、何隻の潜水艦がきているのか、イルネティア側の人間にも知らされていなかったと言う。
それに対して────
「グラ・
メテオスは声に出して呟いていた。
エクスプレッセスティに言わせると、戦略兵器である自国の潜水艦と比べて、グラ・バルカスの技術レベルだと、連続潜航時間も短く、戦術兵器の枠を出ないと言う。
実際、多数の潜水艦をこの海域に寄越しているのは、そう感じさせる。
ただ、そうと言っても、洋上の艦隊の感覚で密集運動させるのは、芋蔓式に殲滅してください、と言っているようなものだ。 ──── メテオスの感想がそれだった。
「それとも、我が国を舐めているのか?」
メテオスは、眉間を険しくしながらそう呟く。
「それだったら、それが間違いだと、教育してやる必要がありますな」
部下であるオペレーターの1人が、そう言った。
「ンッフッフ、教育、か。確かにその通りだね」
メテオスは部下の発言を聞いて、逆に満足そうにそう言った。メテオスは、旧文明圏の価値観で人を蔑む事はしない主義だ。だが逆に、どれだけ文明的に進んでいようとも、野蛮人は野蛮人であり、愚者は愚者、そう判断する人間でもある。
「磁気方位1時方向! 磁力波探知装置に海中の反応あります!」
「よろしい、攻撃態勢に入り給え!」
顔を見ることもない、ただ海中の哀れな獲物に対し、彼らは攻撃の手順の実行に取り掛かる。
「ちぃっ! 第零式艦隊を素通りするとは!」
神聖ミリシアル帝国海軍、第零式艦隊。
戦艦『デュランダル』戦闘艦橋。
マグドラ沖海戦時、兵装のテストベッド艦だったゴールド級戦艦『カンショ・バクーア』の艦長を務めていた女性、ロリアナ大佐は、構造物を拳で叩きながら、悔しそうに歯を見せる。
神聖ミリシアル帝国陸海軍では、女性軍人の地位はそれほど高くなかったが、ロリアナはマグドラ沖海戦で、初の近代艦同士の艦隊決戦を制した艦長ということで重要視された。ついでに、女性だとエクスプレッセスティに入出国しやすいという面もあった。
エクスプレッセスティの入出国管理は外国籍男性を差別してはいないが、国内が基本的に男性が圧倒的マイノリティである事を前提に整備されているため、制度外の障壁になる。それが軍となると、原則として常備部隊は自国籍保有者に限る為、女性しかいない事が当然の前提となってしまう。
特に海軍の場合、ミズリューム級潜水艦は建造時、女性用サニタリーがある事もエポックメーカーとされたが、逆に言うと男性用が無い。水上艦でも新造のヴェネレイト級やデカい元ソ連艦などは男性ゲストを想定しているが、旧い元イギリス艦(空母のヴァルキュリアは除く)や、バステット級コルベットなんかでは割り切られてしまっていたりする。
──── そう言う理由で、ロリアナは、マグドラ沖海戦後は一旦事務方に回り、その最中にエクスプレッセスティに何度か派遣された後、去年の11月頃、『デュランダル』の艦長に補された。
「対空魔光砲、届きません! 射高より上を通過していきます!」
「くっ……」
悔しそうに表情を歪めていたロリアナだが、僅かに経つと、唇の端を吊り上げた。
「だが、そう言うことなら、こちらも思うようにやらせてもらうだけね」
ロリアナの言葉は、悔し紛れではなかった。
「まぁ、素通りされるのは気分が良くないけれど」
言いながら、艦橋の窓から、自艦の上空を悠々と通過するシリウス爆撃機の編隊を見上げる。
「!」
その光景を見て、ロリアナは目を見張る。
ミリシアル艦隊の対空魔光砲の射高より上を飛んでいるはずのシリウス爆撃機が、次々と爆発し始めた。
ハッとして視線を下げると、デュランダルと古巣のカンショ・バクーアの間を、小柄な『ハーク大王』が追い抜きながら、その砲塔から閃光を伴って57mm対空砲弾が撃ち出されている。
「即応弾、
『マーサ・ルセリア』CIC。
オペレーターが、艦長席のオルクーニュを振り返りながら言う。
「敵はどうした!?」
オルクーニュが聞き返す。
「第零式艦隊、第1艦隊の上空を通過されました! 間もなく第3艦隊に接触されます!」
「数は!」
「第3艦隊に向かっているのは、26です!」
「思ったより多いな」
オルクーニュはそう言ったが、攻撃機の過半数は撃ち落としている。
ただ、第3艦隊が、ミリシアルの対空兵器だけで払い除けられるかが問題だった。
「こちらに向かっているのはいるか!?」
オルクーニュは続けて問う。
「いません! 付近に44の目標がいますが、味方のマークと交錯しています」
「制空任務の戦闘機だな、それは」
そう言ってから、オルクーニュは、右手の親指を咥えて僅かに考える。
「──── お前ら、度胸は充分か!?」
「え!?」
唐突なオルクーニュの問いかけに、CICにいた乗員が驚いたような声を出して、オルクーニュを凝視する。
「荒くれ船乗りの魂は残っているかと聞いているんだ!」
「そ、そりゃもちろん……」
「乗るフネが変わっても、魂の本質までは削れやしませんぜ!」
「よし!」
部下たちの言葉を聞いて、オルクーニュは最終的な決断をした。
「再装填作業、やるぞ!」
「エッ!?」
オルクーニュの言葉を聞いて、乗員達は再度、驚きの声を出す。
「敵の空母は少なくとも6隻来ているという見積もりだ。だとすると、攻撃隊を2波に分けている可能性が高い!」
つまり、想定される空母の数に対して、この攻撃隊はその搭載数の半分程度の数である、と計算した。
グラ・バルカスが標準的な空母として建造し、イルネティア南岸沖海戦、マグドラ沖海戦に参加したペガスス級は、かつて日本国が保有していた翔鶴型空母に似ており、その能力も近いものだと推定されていた。
オルクーニュは、胸元のインカムのPTTスイッチに手を伸ばし、押す。
「艦長だ。敵の攻撃機はこちらに向かっていないが、敵は後続の第2波攻撃を送り出している可能性が高い! よって、これよりSAMと主砲の再装填を行う! かかれっ!」
甲板上での作業中に、それに気付かれて、敵戦闘機が機銃掃射をかけてきたら、大惨事になり得る。それを敢えてやるというわけだ。
「了解!」
「再装填準備!」
「ミサイル次発装填、SAM!」
かつてあまりの戦闘力の差に蛮勇とされたロウリア海軍の水兵達は、賭けに近いこの作業へと、熱意を滾らせながら行動に移した。
「旗艦より報、『第3艦隊に敵機向かう』!」
「来おったな!」
第3艦隊、戦艦『ベガルタ』戦闘艦橋。
敵機接近の報に、レルジェン艦長が色めき立つ。
「
レルジェンは、雷撃機が迫っていることを念頭に、その指示を出す。
「敵編隊、見えました!」
自艦の見張員が叫ぶ。
「編隊の高度はどうか!?」
「先行する編隊が3,000m付近の模様、後続に1,000m以下で飛ぶ編隊がいます!」
「低高度の編隊に主砲を照準!」
レルジェンの下令に
「正確な照準など狙う必要はないぞ、ノコノコ近づいてきたところをお見舞いしてやれ!」
「なんだ、この陣形は」
僚機の犠牲を乗り越え、目標のミリシアル空母部隊を捕捉したスバウルだったが、それを見て、思わず声を出してしまった。
彼が見たミリシアル空母部隊は、所謂輪形陣らしいものを組んでいたが、それが、彼らにとっての“常識”とは、かけ離れたものだったからだ。
その中心部に防護すべき空母が配置されているのは解る。だが、通常は対空弾幕を張り、雷撃を阻止するために駆逐艦を外周に配置する。
しかし、眼の前のミリシアルの空母部隊は、戦艦、重巡洋艦といった大型艦を、その外周部に配置していた。
── いや、我々の常識で考えるのは危険だ。
スバウルはそう判断する。身体が緊張するのを自覚した。
ここまで来ると、ミリシアルが独自の兵装や戦術を開発している可能性もあれば、エクスプレッセスティの軍事技術が彼らの常識を覆すほどの物を持ち、それを技術供与している可能性も否定しきれない。
「各機、小隊ごとに突入、攻撃開始! いいか、我々の先入観で油断するな!」
スバウルは無線で下令する。
スバウルの小隊は、実際には高度3,500m付近で、ミリシアルの対空火器のギリギリ射程外から、チグハグに見える輪形陣の中に侵入した。
「第1小隊、目の前の大型空母をやる、突撃!」
スバウルが、自身の視界の中でもっとも手前にいた、改ロデオス級空母に向かって急降下爆撃を敢行する ────
「なんだ ────」
スバウルは、そこまでだった。
もはや編隊らしい編隊すら組むこともできていなかったグラ・バルカスの艦爆隊は、空母『シェキナー』に搭載されていた近接防御兵器『アトラテタス砲』の掃射により、1機残らず粉砕された。
超高発射速度で射撃可能な魔光砲と、魔導電磁レーダー、それに魔導式の処理装置を搭載し、人力操作を介する事なく接近する目標を薙ぎ払う。
端的に言ってしまえば、地球の
──────── ただし、当然ながらミリシアルに、これを製造する能力はない。
これの出処はどこなのかと言うと、ミリシアルが発掘した魔法帝国時代の遺物のうち、ミリシアルで可能な整備で動く物、実際にはより完成された機動兵器に装備されていた物のうち、いくつかを、今、第3艦隊に配置されている大型空母に移植したものだ。
発射速度は約3,000rpmで、これは地球でよく知られた、レイセオン社製『ファランクス』の初期型とほぼ同じ性能だ。ただ、再装填速度が速い。
エクスプレッセスティの三菱/BFA『ガーディアンスフィア』をわざわざ開発依頼したのは、一度の装填作業の後の継戦時間をより重視したものだ。『ファランクス』のM61『バルカン』よりも敢えて発射速度の遅いT75リボルバーカノンを採用する事と、装弾数を増やすこととで、継戦時間を2.67倍に延長している。
しかし、『アトラテタス』は、科学文明国の考える弾丸とはまた違った形態であることもあって、極めて短い時間で再装填できる。まだ、エクスプレッセスティの軍関係者、政府関係者はこれを見たことがなかったが、もし知ったならば驚愕の代物だった ──── ────
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