フェミニン国家召喚   作:神谷萌

146 / 152
バルチスタの海が沸く Part.III

「クソッ、戦艦が邪魔で空母への射線につけん!」

 グラ・バルカス海軍の雷撃隊小隊長、レイスは、そう毒()いた。

 戦闘機隊と降爆隊の夥しい犠牲の結果、『リゲル』艦上攻撃機2個小隊8機が、ミリシアル第3艦隊に対する雷撃位置に入ろうとしていた。

 最優先目標は空母だったが、高度50m以下にまで舞い降りた雷撃隊の進路を、戦艦 ──── ベガルタが、立ち塞がっていた。

 レイスは、一瞬視線を上空に上げる。

 ── 雷撃進入をやり直したら、敵戦闘機の餌食になる!

「やむを得ない! 眼の前の戦艦に攻撃する!」

 レイスは、自らの小隊にそう指示した。

 グラ・バルカス帝国海軍の最重要目標は空母だが、戦艦も高価値目標である事に変わりはない。

 レイスの小隊は、ベガルタの左舷に向かって雷撃進路を維持しながら、高度を更に落としていく。

 僅かに後ろにずれつつ、同様に雁行編隊を組んでベガルタに迫っていたもう1個の小隊も、レイスの小隊に続行する事を選択したようだった。

 高度15mを更に下回り、海面を這うように進み、ベガルタに迫る。

 ──── ドッゴォオォォォッ

 ベガルタが、接近してくる雷撃隊に対して、主砲を発射した。

「な……な!?」

 主砲弾が炸裂して巨大な火球を作り出し、それに巻き込まれた3機のリゲル艦攻機が炎に包まれながら、海面に突っ込んだ。

「対空榴散弾だと……しかも、こんな威力だと!?」

 同様の兵器はグラ・バルカスでも開発していた。だが、焼夷弾子が充分な貫通力を持っておらず、艦上機ならまだしも、双発以上の陸上機も含めると、充分な威力がないとされ、改良そのものは継続されていたが、有望視されていなかった。

 これはミリシアルの魔導素材による砲弾の優位性が生かされた結果だった。弾帯の外殻部に土属性を持たせて固め、その内側は炸裂させるための火属性と雷属性に、僅かに水属性を混ぜることで、炸裂時にまず内部で大圧力を発生させて、外殻部を燃える破片として撒き散らすという原理をとったものだ。

 破片そのものが燃えながらも一定の質量を持って機体に当たるため、化学式よりも理想的な対空榴散弾になった。

 これはグラ・バルカスだけを意図して開発されたものではなかった。むしろ、グラ・バルカスの方が余録だったと言ってもいい。ミリシアル海軍が水上艦に対して航空攻撃が極めて有効だということを思い知ったのは、エクスプレッセスティ軍がグラ・バルカス艦隊に実行したミサイル攻撃なのだから。

 ミリシアルにとって幸いなことに、エクスプレッセスティの対艦ミサイルは亜音速巡航ミサイルしかなかった。なので、接近するミサイルに対して弾幕を張ってブチ落とすという発想になったわけである。

 無論、グラ・バルカスの攻撃、特に同じように低空から侵入してくる雷撃機に効果があるだろうというのは想定の範囲だ。

 これに機銃である対空魔光砲と、空中目標探査装置が組み合わさることで、鉄壁の防空網を形成する予定だが、今までにも述べた通りその探査装置の実用化に手間取っていた。

 とは言え、レルジェン達ミリシアル戦艦の艦長は、グラ・バルカスの雷撃機が接近してきた時は、これをブッ放す気つもりでいた。

 残り5機となってしまった雷撃隊は、しかし、レイス達は驚愕しつつも、身体は眼の前の戦艦に魚雷を投射すべく、訓練された通りの動作を続けていた。

「ドンピシャだ! ここからなら外れっこない!」

 そう確信して、レイスはベガルタに向かって魚雷を投射する。僚機もそれに倣った。

 複数の雷跡が、幾分かの間隔で並走しながらベガルタに向かう。レイス達の操縦する雷撃機は、それを追い越す。

 レイスは操縦桿を繊細に扱いながら、単発のレシプロ機には重量物の魚雷を投射したことで浮かび上がろうとする機体を抑え、ベガルタの甲板スレスレを航過する。

 

「魔光式防雷網作動!!」

 

 ドゥッ、ドゥッ……ドゥッ……!!

 飛び越えたベガルタの、現在のレイス達から見て反対側に、立て続けに水柱が上がった。

「命中、魚雷命中です!!」

 レイス機の偵察員が、興奮した声を上げる。

「何本だ、何本当たった!?」

 レイスも、自身も興奮を抑えきれない様子で、そう問いかける。

「3本です、少なくとも3本は当たりました!!」

「そうか!」

 レイスは、唇の端が吊り上がるのを抑えきれなかった。グレートアトラスターならともかく、普通の戦艦なら、3本も魚雷が当たれば、少なくとも軽傷以下という事はないはずだ。

 この時、アトラテタス砲はまだ五月雨式にやってくるシリウス艦爆の対処をしており、レイスの小隊は従来型の対空魔光砲で1機が撃墜されたものの、輪形陣の中から離脱に成功した。

 しかしその一方で、彼らはベガルタの姿を、再度確認する余裕がなく、司令部に「敵戦艦に魚雷少なくとも3本命中、撃破確実」と送ってしまっていた。

 

 ──── しかし、当のベガルタは、雷撃などなかったかのように航走しながら、散発的にやってくるグラ・バルカス軍の雷撃機に向かって、主砲と対空魔光砲を撃ち続けていた。

「流石に肝が冷えたが……」

 苦笑を浮かべつつ、レルジェンは声に出して言う。

「エクスプレッセスティ軍ですら唸らせた我が帝国海軍の魚雷防御術、グラ・バルカスごときに破れるはずがないわ!」

 元々、魔光式防雷網は、イルネティア南岸沖海戦の後、エクスプレッセスティが魚雷の存在をミリシアルとムーに伝えた際、半ば応急措置として開発されたものだった。

 魔力波のスクリーンを艦体の外側に張り巡らせる。だが、実際問題として、魚雷の炸裂力をすべて相殺できるような魔力波スクリーンを発生させるなど、軍艦の大出力魔導機関をもってしても不可能に近かった。

 結局、根本的な解決法は、物理装甲を増す以外になかったのだが ────

「ちょ、ちょっとちょっと……これ、…………ええ? こんなのあり……?」

 魚雷についての技術供与の為にミリシアルに訪れたエクスプレッセスティ海軍の技術士官が、バルジアーマー取付後、魔光式防雷網も設置したままになっていた『カンショ・バクーア』を見て、そんな驚愕の声を上げた。

 魔光式防雷網に触れた魚雷が信管を作動させて炸裂する。その時、その先の艦体が充分硬いと、炸薬の炸裂した力が魔光式防雷網と艦体の間で海面に向かって逃げてしまい、艦体に与えるダメージを急減させてしまう、という、実質的なスペ()ース()アー()マー()と化していたのだ。

 誘導装置の一部としてプログラマブルな信管を使うエクスプレッセスティですら、慌ててミリシアル艦に対する自軍魚雷の対策に取り掛かったぐらいだから、ましてや単純な撃発信管が標準のグラ・バルカスの魚雷には、効果てきめんこの上ない。

 ベガルタがレイス達の攻撃を耐えていた頃、空母を挟んで反対側の戦艦『モラルタ』の右舷側から、12機の雷撃機が迫りつつあった。

 ドゴゴゴゴゴォ……ォオォォォウ

 モラルタもまた、対空榴散弾設定の主砲弾を、雷撃隊に向かって射撃する。

 モラルタの砲術手が上手(うわて)だったのか、それとも運か、モラルタの主砲射撃は9機のリゲル艦攻機を吹き飛ばした。だが ────

「低空側の敵攻撃機3機、モラルタの艦尾側を抜けてきます!」

「なんだと!」

 重巡洋艦『オリンディクス』の見張員が声を上げると、艦長のリクタール大佐が声を上げる。

「魔光式防雷網を展開しつつ、増速! 敵攻撃隊の射線上に本艦を入れろ!」

 リクタールは即座にそう指示した。

「そ、それは……!」

「オンボロ巡洋艦1隻で空母が護れるなら、安いものだ!」

 リクタールの言う通り、オリンディクスは現状のミリシアルの重巡洋艦としては、最古の部類に入った。

「! ……了解!」

 オリンディクスは全速に近い31ノットまで増速すると、大型空母に続航していた軽空母『アルビオン』の右側に進入した。

 その時、すでに3機の雷撃機は、アルビオンに向かって魚雷を投射したところだった。だが、雷撃機自身はすでにアルビオンと、もう1隻の軽空母を飛び越えていたが、魚雷はまだアルビオンの艦体に到達するまでにいくらかの距離があった。

 その間に、オリンディクスが割り込んでくる。

「衝撃に備えろ!!」

 リクタールの指示から数秒後、3本の水柱がオリンディクスの右舷側に立ち上った。

 

 

 グラ・バルカス帝国海軍、東方艦隊。

 旗艦 戦艦『ラス・セレナール』。

「第一次攻撃隊は、かなりの損害が発生しているようです……」

 指揮官のカイゼルの下に、憔悴に若干の落胆が入った口調で報告が上がってくる。

「戦果の報告はないのか!?」

 若干の苛立った様子を見せながら、カイゼルが問い返す。

「ハッ! 攻撃隊からの報告を纏めましたところ、空母1隻に魚雷複数命中、空母直掩の戦艦1撃沈確実、同じく戦艦1撃破。巡洋艦少なくとも3、駆逐艦6が撃沈確実です!」

 ハキハキとした口調で、作戦参謀が答えた。

「そうか」

 ── せめて空母の被雷か、戦艦の撃沈が確実であればいいが。

 カイゼルは、短く言った後、言外にそう付け加えた。

 特に航空戦において、混戦の状況での戦果報告は、実際にはその6~8割しかない、という事は、カイゼルは理解していた。

 単一の目標に対して複数の攻撃成功の報告が上がっていたり、目標を過大に、つまり、駆逐艦が巡洋艦に見えたり、巡洋艦が戦艦に見えてしまったり、といった事が往々にしてある。こればかりは、時代が下った現代地球でも大して改善されない。

 そして、カイゼルの憂慮は現実のものだった。

 空母1隻への攻撃は、アルビオンへの雷撃だったが、これはオリンディクスの行動で阻止されている。

 オリンディクスなど、旧式巡洋艦は装甲改善後もそれが充分とは言えなかったため、魔光式防雷網によるスペースドアーマー効果があっても艦体が耐えられるかは微妙だと思われていた。

 実際、オリンディクスは右舷バルジアーマー内に浸水を生じさせていた。それに伴い、速度も一時的に24ノットまで落ちた。 ──── が、それ以上ではなかった。隔壁閉鎖と左舷側注水で姿勢を直しつつ、陣形に戻る努力がなされているところだった。

 オリンディクスと同型の重巡洋艦がやはり雷撃を受けていたが、こちらは当たりどころが悪く、スクリューシャフトに損傷を受けて速度が14ノットまで落ちていた。だが、こちらも沈没に至る程の損傷ではなかった。

 この時点では、ベガルタは急降下爆撃も受けていたが、爆弾はすべて複位相結晶装甲によって難なく弾き返されていた。

 空母、戦艦といった高価値目標への攻撃機会を逸した攻撃機が、巡洋艦、駆逐艦に攻撃を試みた。この結果、旧式軽巡洋艦1隻が爆弾3を受けて爆沈、このほか駆逐艦3が沈没していた。

 だが、カイゼルの感じた通り、ミリシアル艦隊に与えた損害は、極めて限定的だった。

「間もなく第2次攻撃隊、敵艦隊上空に差し掛かります!」

 

 

 神聖ミリシアル帝国海軍、征西艦隊。

 マーサ・ルセリア CIC。

「敵マーカー、接近してきます!」

「CIWS起動! 追っ払え!!」

 まだ再装填作業は終わっていない。オペレーターの声に、オルクーニュは心臓が縮む思いがした。自身の死が怖くないと言えば嘘になるが、部下、それに現王の名前を戴く艦を失うのではないか、という緊張も同時に、強烈に走る。巨と言うほどでもないが、充分に自己主張している胸元に、ぎゅっと握った拳を当てる。身体が一瞬、硬直したのを感じた。

 同じアンドロジー級、元ソ連1124計画型でも、前部砲がない為のカバーとしてRWSを2基搭載している、ユクラニティ、ダニーポワーに対して、前部砲のあるビフォーリア、そしてそれをベースにした1124PEC計画型は、前部の搭載分をCIWSに変更している。

 『ガーディアンスフィア』CIWSが起動、ボール型レドームごと旋回する。

「せめて……せめてお前を攻撃機の連中の道連れにしてやる!」

 この時、推進機と魔光銃の魔素再充填のため、ミリシアルの戦闘機は一旦空母に帰投する機体がだいぶ出ていた。ミリシアル戦闘機が離脱した隙をついて、アンタレス戦闘機の1機が第零式艦隊に機銃掃射を試みた。と言っても、戦艦に戦闘機の機銃では大したダメージは入れられない事はわかりきっている。その為、視界に入った小型艦 ──── マーサ・ルセリアに向かって、彼は降下を開始した。

 だが、彼が自機のトリガーに力を入れようとしたその直前、球形の構造物をもつ銃塔が彼の方を向く。

 M61『バルカン』と比べるとおよそ半分とは言え、それでも第二次世界大戦の水準とは隔世の1,500rpmを誇るT75リボルバーカノンが火を吹いた。

 数発の20x102mm弾を浴びたアンタレス戦闘機は、バラバラに分解して、胴体はマーサ・ルセリアの左舷側至近の海面に突っ込んだ。

「敵マーカー消失! 撃墜しました!!」

「ふぅ……」

 CICでは、オペレーターの報告を聞いて、オルクーニュは、握っていた拳を(ほど)いて胸を撫で下ろしながら、安堵のため息を出してしまっていた。出してしまってから、決まり悪そうに周囲をキョロキョロと見渡す。

「中佐、今のは無理ありやせんぜ。俺も命が縮んだ思いでさぁ」

 魔導通信担当の通信使が、オルクーニュの様子に気づいて、そうフォローする。

「すまん、叔父貴(シャークン准将)ほど実戦経験がなくてな」

 オルクーニュは、決まり悪そうなまま、苦笑してそう言った。

「いやぁ、新鋭艦での戦闘ってことなら、俺達だって初陣も当然でさぁ、軽口はなんとか出やすが、結構ガチガチに緊張してますぜ。なぁ?」

 通信士はそう言い、C4Iシステムオペレーターに同意を求める。

「そうそう」

「気張っちまうのは中佐だけじゃないってことです」

 2人のオペレーターも、()()()()()()()()そう言った。

『SAM再装填完了!』

『自動砲再装填完了! 甲板員退避しました!!』

 インカム越しに、オルクーニュやC4Iオペレーターに報告が上がってくる。

「了解、みんな、よくやった! もう少し暴れるぞ!」

 オルクーニュがインカムのマイクに向かって、そう返した。

「さっそくお出ましですぜ中佐! 北北西からUnknown接近!」

「タイミング的にもギリギリだったな……数は!?」

「もう少し……108、108です!」

「対空射撃スタンバイ! それと、旗艦に通告!」

「了解!」

 

「新手がおいでなすったようだな」

 ウージは、ミリシアルの先鋒である第零式艦隊の上空で、舌なめずりをしながらそう言った。

 エモール風竜騎士団は、ミリシアル機との演習の効果もあったとは言え、前評判に(たが)わぬ奮迅を見せていた。ウージ自身、3機のアンタレス戦闘機、それに、おそらくはリゲル艦攻機と思しき機体を1機、すでに撃墜していた。

 一方のエモール側は、完全な喪失はなし。飛行継続不可能が3騎出ているが、いずれも母艦まで帰投している。

 以前も書いたが、風竜は自身が知的生命体である。また、不可視光線 ──── つまり電波や赤外線・紫外線なのだが、それらを使って周辺を探査することが可能だ。ウージの愛竜は、ウージに接近する新たな未確認、おそらくは敵の梯団の接近を知らせてきていた。

「ここまでよりはきつい戦いになるかもしれないが ──── ────」

 ミリシアル機が、補給の為にローテーションを組んで母艦に着艦している。この時には、補給を終えて空に戻って来るグループもあったが、空中戦での喪失もあって、288機で待ち構えた時と比べると寡兵になるのは否めない。

 だが、ウージは、臆するどころか不敵に笑う。

「──── それこそ我らエモール風竜騎士団の実力、存在の偉大さを見せる事になる! 行くぞ!」

 ウージは、不敵に笑って部下の騎士達に伝える。 ──── が、すぐに、

「いや、一旦待て!」

 と、制した。

 彼の愛竜が、エクスプレッセスティ艦が射撃する時に出す不可視の光を捉えていた。もちろん、この場でそれを出すのは、ロウリア艦しかいない。

「中射程ミサイルの発射を待って、一緒に突っ込むぞ!」

 眼下の1124PEC計画型コルベット、マーサ・ルセリアのミサイルキャニスターでブースター点火の光が放たれたかと思うと、発射されたアスター30ミサイルが、弧を描きながら敵梯団に向かって飛行していく。

 それを追いかけるかたちで、風竜騎士団は敵に向かって飛び込んでいった。

 





具体的な感想をいただけると、続きを描くことが捗ります。
Twitter https://twitter.com/kaonohito2
Discord https://discord.gg/WN23qmRnkQ
Discordは「一時メンバー」となりますので、私のオフライン時に来られた方は、「エントランス」及び「⁠一時メンバーの連絡用チャンネル」のアナウンスに従って必要事項を書き残してください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。