フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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古代兵器、空の戦い

「一体どんなモノが飛んでるっていうんだか、巨大飛行物体って……」

 シリウス艦爆の偵察員、クルオズ一等飛行兵曹が、自機の操縦手でもあり小隊長でもあるノルジオ少尉に問いかける。

「解らん。どうやら飛行船というわけではないらしい」

 ノルジオはそう答える。

 2人の口調は、張り詰めたような雰囲気が漂っていた。

 当初、エクスプレッセスティ軍が出てこない、という事で、艦体全体に楽観が漂っていたが、攻撃隊が大損害を被った時点で、少なくとも艦載機搭乗員からはその認識は吹っ飛んだ。

 ノルジオ達は、幸運でもあったし、判断も懸命だった。

 彼の小隊に先行する編隊が、突然次々と爆発し始めたのを見て、ノルジオは、すぐに自身の小隊を敵の先鋒艦隊(第零式艦隊)の上空から離脱させた。

 敵先鋒艦隊を迂回して敵空母部隊に向かったため、ミリシアル第零式艦隊と同第1艦隊の上空を飛び越えた時点で大損害を出した別の梯団よりも遅れ、リゲル艦攻の雷撃隊とほぼ同時にミリシアル第3艦隊上空に進入した。

 その時、先行した艦爆隊の悲鳴が無線に飛び込んできているのを聞いた彼は、空母上空には接近できないと判断し、その時点で目前にいた軽巡洋艦を攻撃した。彼の小隊4機は何発かの爆弾を巡洋艦に命中させ、見事轟沈させた。

「誰だ! ロウリアはこの世界でも最後進の国で、エクスプレッセスティ製の艦を使いこなせないとかヌかした阿呆は!」

 ノルジオは母艦に帰投後、最初にこう怒鳴った。彼自身も出撃前はそう考えていたのに何を言っとるんだとは言われてもしょうがないが、そう決めつけて対策もせずに送り出した上層部に腹を立てるのも無理はない。

「どちらにせよ油断は禁物だ。ミリシアルは見下せるような相手じゃない事はハッキリした」

「そうだな……」

 険しい口調で言うノルジオに、クルオズはどこか弱気に声を出した。

 そうは言うものの、今向かっている目標については、どういう感情を抱いたらいいのかすら解らない、と言うのが2人の本音だった。

 大型硬式飛行船ならあり得る、とは思う。しかし、飛行船とは根本的に異なる構造をしているらしい。しかしそれ以上は、言葉で説明されてもイマイチ想像しかねるシロモノだった。

「案外、ハリボテに水素かヘリウム詰め込んで、浮かばせているだけかも知れないなぁ……」

「それなら、話が簡単なんだが」

 クルオズの軽口は、しかし楽観を示していない。不可解な代物に対する不安と、ここまでの戦況からに対する緊張とからの、緊張を少しでも和らげるためのものだった。ノルジオもそれは理解できていた。

「見えたぞ……」

 ノルジオの言葉に、クルオズはゴクリ、と喉を鳴らした。

「なんだ……これは……」

 ノルジオが、息を呑んだような声を出した。

 確かに、その姿を見てみれば、出撃前に聞かされた通りのものが空中に浮かんでいる。だが、直接目にせずに、本当にこんなモノが飛んでいると考えられる人間は少数派だろう。

「────」

 ノルジオが、麾下の機体に指示を出そうと、無線のPTTスイッチに指をかけようとした時、護衛戦闘機隊が自分達艦爆隊を追い抜いていった。

 周囲に敵戦闘機の姿は見えない。邀撃機の心配がない場合は、戦闘機隊も飛行物体に対する攻撃に参加せよ、と命令されている。

 そのアンタレス艦戦の搭乗員の1人、ハイニーダ飛行兵曹長は、その信じられないような飛行物体へと向かっていく。

 アンタレス乗りにはいくらかの焦りがあった。アンタレス艦戦はユグドにおいて最強の名を(ほしいまま)にし、世界転移後もそうだった。ワイバーンの類は言うに及ばず、想定敵でもっとも強いムー国ですら、転移当初はアンタレスより2世代は旧型の複葉機を使っていた。

 だが、エクスプレッセスティ共和国が出てくるようになってから、アンタレスは途端にいいところなしになった。“青灰色の悪魔(MiG-29)”に勝てないのはまだしょうがない。だが、ムーが登場させた新型戦闘機にも明らかに遅れを取っており、そして今回はミリシアルの戦闘機にも、戦術の選択権が敵側にある場合は不利を強いられる事が明らかになった。

 これらはムーに対する安全保障を脅かし、イルネティア侵攻で一線越えたとエクスプレッセスティが判断したことで、軍事技術援助を惜しまなくなった事が最大の要因なのだが、グラ・バルカス帝国の上層部はそれを認識しているが、高級士官でもないハイニーダはそこまでの情報は持っていない。

 ただ、攻撃機の搭乗員がアンタレス艦戦に信頼を置かなくなった。これは重要な点だった。

 エクスプレッセスティ軍はグラ・バルカスの航空戦力が無力だとは認識していない。その証拠に、バルクルス基地を強襲して、航空戦力を地上で破壊しに来た。 ──── 実際には捕虜奪還が主目的だったが、その意識がなかったら155mm榴弾を192発もブチ込んだ上に主力戦車8両がかりで丁寧にとどめを刺すような真似はしていない。

 その結果、かつて花形と言われた戦闘機乗りの立場は、一気に低下してしまった。

 ── また敵を追い回せる戦闘機が欲しい。そのうち作ってくれればいいが。

 ハイニーダはそう思いつつも、今は目前の敵に向かってその沸き立つ闘志を向ける。

 ── ふざけたものを!

 こんなモノがマトモなシロモノであるはずがない。他のこの場のグラ・バルカス軍人同様、ハイニーダもそうとしか考えられなかった。彼らから見て()()()()()()()()()は、それでも航空力学で飛んでいるのだ。このようなものに合理性が感じられない。

 ── 距離感が狂う、間合いをよく見極めなければ……

 あまりに巨大なので、航空機だと考えると射撃をするには遠すぎるか、誤って激突してしまいそうだと感じた。戦艦に機銃掃射をかけるつもりで、己のスケール感を調整し、射撃位置を占める。

「終わりだ!」

 当たる、と確信して、ハイニーダは発射釦を押し込んだ。

 だが ────

 バチバチバチバチッ

 着弾点で、青い光の波紋が広がったかと思うと、弾丸が命中したはずのその部分にも、何のダメージも負ってないかのように、平然と飛行を続けている。

「クソッ!」

 ハイニーダは思わず毒吐いていた。

 いくつかあるアンタレス艦戦の問題の1つに、搭載銃の威力の相対的な低下があった。採用時は絶大な威力を誇ったアンタレスの20mmAPIブローバック機銃だが、最近は同じ20mmでも、エクスプレッセスティやそこからの導入で使い始めたムーの20mm銃に負けている。

 これは簡単なものだった。APIブローバック銃はその構造上、ストレート弾しか使えない。一方、T75、M621で使用している20×102mm弾はボトルネック弾で、弾頭に対して薬莢は大口径になっている。つまり、単純に発射装薬の量で負けているわけだ。

 ついでにAPIブローバック銃自体、その口径に比してコンパクトに収められる反面、駆動部分が大掛かりになるため発射速度が遅い。銃そのものの設計はコンベンショナルなガス圧式ブローバック銃のM621ですら、アンタレスのそれの2倍近い発射速度を持っている。

 もっとも、この時はT75リボルバーカノンでも結果に大差はなかったのだが、ハイニーダは銃の無力が自身の無力さのように感じられていた。

 

 

「艦の機能に異常なし」

 パル・グリフィスの艦橋では、オペレーターがメテオスにそう報告していた。

 複数のアンタレス艦戦が機銃掃射をしかけてきた。艦橋付近への着弾はパチッパチッという音を立てたものの、過ぎてしまえば何事もなかったかのように感じられた。

 あまりにあっさりしたものだったために、

「塗装が剥がれてしまったのではないかね?」

 と、メテオスが冗談めかして言う程だった。

「あり得ないことは、艦長が一番御存知でしょう」

 それに乗っかるかのように、管理職級のオペレーターがそう返した。

 それは、常に淡々と作業をこなす彼らにとっては意外な事だったので、メテオスはおやっ、という表情をした。

「エクスプレッセスティの戦車というものの資料を見ましたが、確かに大したものだが、所詮は鋼鉄の鎧で弾き返そうというのと、本艦とでは、根本的に違う」

「確かに!」

 言われて、メテオスは顔を覆うようにしながら、愉快そうに笑った。

 メテオス程のアクのある人間はそういないとは言え、部下らも古代魔法帝国研究のスペシャリストである。プライドは高く、本心ではミリシアルの魔法技術研究者として、エクスプレッセスティやムーの科学技術国にばかりいい顔をされたくはないという気持ちは誰しもあった。

「直上に敵編隊、急降下爆撃を企図しているようです」

 探査装置のオペレーターが告げる。

「ンフフ、いくら航空機よりは遅いと言っても、200km/hで動く物体に、誘導装置もない爆弾が当たるものかね。増速、回避運動を取りつつ、敵爆撃機をアトラテタス砲で落としたまえ!」

 

 

「だいぶ速いぞ……当てられるのか?」

 戦闘機の機銃では有効打を与えられないと、想定通り急降下爆撃に移る。先行する小隊がダイブに入ったのを見つつ、ノルジオはそう呟いていた。

 洋上の船舶は、どれだけ速いと言ってもせいぜいが40ノット(約75km/h)だ。陸上目標も、オンロードのスポーツカーを追いかける事など想定していないから、軍用車両だと多少速くても100km/h。

 眼下の巨大飛行物体は、その大きさでスケール感が狂わされて一見、ゆっくり動いているようにも見えるが、彼我の相対速度を観察すると、200km/h近い速度で飛翔している事は解る。

 そんな事を考えていた、その次の瞬間 ────

「な、なにぃっ!?」

「なんだ、どうしたっ!?」

 ノルジオが声を上げる。クルオズはそれに驚き、思わず後部席から前方を覗き込んでいた。

 無数の光弾が、猛吹雪の如く撒き散らされたかと思うと、真っ先に突入していった小隊が、爆煙となって、消滅した。

「そ、そうか!」

 クルオズが気がつく。

「ミリシアルの機動部隊が装備していたのはこれだったんだ! 本来、こいつの装備だったものを、どうにかして空母に移植したんだ!」

 空母に接近して薙ぎ払われた艦爆隊が、どうしてそうなったのか ──── エクスプレッセスティ艦が装備しているCIWSに近いものが、なぜ技術形態の違うミリシアル艦に乗っているのか、その疑問が氷解した。

「小隊散開! 進入コースから離脱しろ!!」

 ノルジオが無線に向かって怒鳴っていた。彼らの小隊は翼を翻し、巨大飛行物体 ──── パル・グリフィスからわずかずつ離れるコースを取る。

『敵の弾幕を分散させろ! 第2梯団は前方へ、第3梯団はその右側、第5梯団はその反対、第6梯団は後方、第7梯団は真上から水平爆撃をするんだ!』

 無線から、攻撃隊の指揮官から、そう指示が飛んでくる。

 ノルジオは、慌てて無線のPTTスイッチに手を伸ばす。

「無謀です! こいつは、エクスプレッセスティ軍のCIWSと同様か、それ以上の能力をもつ自動対空砲です! 俺達は見ました! 敵空母にこれが装備されていたんです! 艦爆隊の大損害はそれのせいでもあるんですよ!」

 実際には、そこまではっきりと目にしたわけではなかったが、つい勢いで、そう言っていた。

『ミリシアルにそんな物が作れるものか! それに、そうだとしても、こいつの跋扈を許すわけには行かない! 全機突入!』

「バカ野郎が!!」

 ノルジオは毒()く。そもそもこういう手合は、イルネティア南岸沖海戦・マグドラ沖海戦を経た上で、資料を読んでなお、自身の目で見たわけではないと、エクスプレッセスティの未来兵器の能力さえ与太だと思っている。そう言うタイプだ。

「構うな、第4小隊、爆弾を投棄して撤退する!」

 ノルジオがそう指示し、彼ら4機は、爆弾を投棄して母艦へと翼を翻した。

『貴様ら、命令不服従、敵前逃亡で軍ぽピギ━━━━ッ!!』

 攻撃隊指揮官の声は、途中で甲高いノイズに変わり、そのまま途絶した。

 

 

「敵爆撃機本隊、消滅しました。残りは引き上げていくようです」

 オペレーターが、メテオスに告げる。

 その時、メテオスは艦長席にいなかった。

 通信士席のところまで移動していて、予備のレシーバーを耳に当てていたのである。

「ンッフッフッ、名前までは聞けなかったが、引き返した小隊の諸君、君等の判断は賢明だよ……この威力を間近に見て、まだなお飛び込んでくるなど、犬死ににすらなっていないからね……」

 パル・キマイラ級には、科学技術国が使う電波無線通信の設備も搭載されていた。彼はノルジオ達の通信を傍受していた。

 問題は周波数帯だが、マグドラ沖海戦の際にエクスプレッセスティ軍に割り出されている。その後も大きく使用周波数帯を変えていないようだ。

 遠距離通信については、イルネティアのキルクルスとムーのマイカルにエクスプレッセスティ軍が傍受局を設置している事には、グラ・バルカス側も気付いているようで、時折撹乱用の送信を行っているとの事なのだが、短・中距離通信については、エクスプレッセスティは世界の反対側、ムーの事は未だに格下と舐めているのか、無頓着らしい。

「……帰投後、君達の上官が君達をなじるかも知れないが、君達が気にする必要はないよ。もっとも ────」

 メテオスは、口元でサディスティックな笑みを浮かべた。

「君等の今の上官が、君等を査定するのは、あとほんの少しの間だろうけどね」

 

 





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