「私は、如何なる略奪も咎めはしないのですよ」
アデムは、いつもの彼のような、瞳の奥に狂気の光を宿した笑みで、言う。
ギムに入城したロウリア軍は、各戸を回って金品から生活必需品に至るまでを奪い尽くし、自軍の荷車に乗せていく。
「美しい金品は働きに報いる報酬となり────」
またある家では、武器を持って押し入ったロウリア兵が、エルフの女性を凌辱している。。
「女の肉体は兵の士気を維持するのに、おあつらえ向きですしね」
まるでこれが正常な状況だとでも言うように、アデムは歪に
しかし────
────しかし、アデムを庇うまではいかなくとも、彼のような病的な
モイジに率いられた、クワ・トイネ西部騎士団・ギム防衛隊が最後に斬り込みを行った時、まだDPM機関銃は残弾があった。
モイジらに対して構えたロウリア軍歩兵部隊を、土塁の上に上ったクワ・トイネ兵が、容赦なく7.62mm弾でハチの巣に変えていく。
それに動じた瞬間、モイジらが懐深く食い込み、ロウリア兵を斬った。
斬って、斬って、斬って、斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬っ────────
モイジが絶命に至らず、極度の緊張、限度を超えた疲労から、意識を手放した時、彼は何人斬ったのか、覚えていなかった。
斬り込み隊の襲撃を凌いだロウリア軍だったが、正体不明の攻撃に怯えるあまり、防陣へと近付けず、最終的に、竜騎隊がパリセードを丹念に破壊した後、おっかなびっくりで前進────
パタタタタタタタ……!!
「ひぃぃっーっ!!」
アデムだけではない。鍛え上げられている重装歩兵部隊ですら、その音を聞いただけで恐慌状態になり、竦み上がった。
DPMを持っていたクワ・トイネ────栄誉ある初の機関銃兵は、乱戦の中で、ロウリアの弓兵によって射返され、絶命していた。
しかし、竜騎兵がパリセードを破壊しようとした時、その櫓から飛び降りたクワ・トイネの弓兵が、防陣の中を注視しながらおっかなびっくり前進するロウリア軍部隊の脇を、匍匐でやり過ごして、DPMの為に作られた土塁の反対側に身を隠すと、DPMを引き寄せて、見様見真似でロウリア軍部隊に向かって乱射した。
この乱射で、たちまち十数人が斃れた。
10倍の兵力で、一方的にクワ・トイネ軍を蹂躙し、勝鬨をあげながらギムになだれ込む事を想定していたロウリア兵は、想像し得なかった恐怖に士気を折られ、勝者の軍とは思えないほど惨めな進軍となった。
戦闘終了。
クワ・トイネ公国軍部隊 約3000名 全滅(後に俘虜1名)。
ロウリア王国軍部隊 約3万名 戦死6200名、戦傷(再起不能)1000名。
ロウリア軍はクワ・トイネの10倍の戦力を投入して、敵全滅の代償に2.5倍の損害を受けた。この内、陸戦兵力では、先鋒となって突撃した、専門性の高い重装歩兵と騎兵隊に被害が集中していた。また、竜騎兵は投入150に対して、被撃墜、騎乗者の再起不能、ワイバーンの再起不能、合わせて52と、現代戦であれば壊滅判定の大損害だった。
ここにもし、エクスプレッセスティ軍の士官がいたら、こう言っていただろう────
「空からの攻撃だけで敵を屈服させた戦場は存在しない」
「相手が寡兵だと思って殲滅戦を企図するな。たとえ10倍の兵力でも相手と同じかそれ以上の損害が出る」
「全てを棄てた人間ほど恐ろしい獣はいない」
「アデム殿! 防陣の中に何か!」
「……っ、一体、何があったと言うんです?」
何処か困惑した様子の兵に呼ばれ、アデムはいつもの彼の様子を取り戻した様子を見せつつも、何が発見されたのか、という僅かな好奇心の混じった恐怖心で、そこに向かう。
「こ、これは!?」
流石のアデムも、このときばかりは、
──牽引式魔導砲!!
そこに残されていたのは、複数のM-30 122mm榴弾砲と、ZPU-4 14.5mm対空機銃だった。
──なぜ……ロデニウス大陸には、どの国も与えていないはずの武器が……
一部は竜騎隊の攻撃により、破壊されているが、数える限り大砲が5門
「!!」
アデムは、それを見てさらに驚愕し、目を見開いた。
──魔杖を束ねた対竜兵器!? こ、こんなモノはまだパーパルディアにも存在していない! こんな物を造れるのはムーかミリシア……────
声に出さずに、胸中でそう呟くように言いながら、はっと考えがそこに行き着いた。
「エクスプレッセスティか…………」
「はっ!?」
無意識に、実際に声に出してしまっていたアデムのつぶやきを聞きつけ、そばにいた兵が反射的に聞き返していた。
アデムはとっさに、口元を抑える。
「な……なんでもありません! それより、先遣隊の全将兵に伝えなさい! ここで見たことは絶対に他で喋るなと! 喋ったら、その者も一族郎党、クワ・トイネの亜人と一緒に殺しますよ! いいですね!!」
アデムはそう言い、憤りの様子を見せ、握る拳を震わせながらそう言った。
──でも……だとしたら、なぜギム如きのために、いくら姦計を弄しても多くは手に入らないだろう貴重な魔導砲を6門
アデムは訝しむ。
──自国だって、位置的にパーパルディアからの脅威に晒されるだろうに……
「ん!?」
アデムは、自分の声に出さない呟きに、ある懸念を持つ。
──まさか! パーパルディアにもすでに懐深く姦計を弄して入り込んでいるというのか!?
一瞬、アデムはその考えに、背筋を凍らせた。
──それなら説明がつく……つまり、パーパルディアとエクスプレッセスティは、ロデニウスでの戦いは「
比較的国力のあるこの2ヶ国が潰れれば、クイラはだだっ広いだけで、パーパルディアと戦うような国力は持っていない。
「どうしたんだ? アデム殿。今日は珍しく、
「さぁ……さっきの戦闘で、頭でも打ったんじゃないのか」
その自身の推測に、身の毛のよだつような思いをしたアデムだったが、少し考えて、それはありえないことに気がつく。
──そうだ……たしかに、あのマヌケなイノスなら、女に加えて壺ひとつでも送ってやれば言うことを聞くかも知れないが、皇帝ルディアスの周囲はあの狂犬女レミールの縄張りだ。
レミールは、イノスや、最近、本来の外交窓口である第3外務局々長に就任したカイオスに比べて明らかにアホだったが、女に女が姦計を仕掛けることはできない。
まぁ、それはただ性の多様性というものが認識されず、マイノリティ側が排除されるこの世界においての認識で、実際には男性機能を持つテクニシャンが多数いるのがエクスプレッセスティだが。
しかも、実はすでにクワ・トイネに毒牙にかかった者がいる。 ……ただし、
ただし、この場で一応補足しておくと、なんのかんの言ってもエクスプレッセスティの人口の最大多数は、女性機能のみを持つ者である。
また、先天的真性半陰陽、所謂
ぶっちゃけ、
しかも一度こだわると
ちなみに、このフェチ族由来のフタナリ、基本的には腹腔内の鼠径部の近くに精巣が生成され、
……ただ、オタク諸氏なら解るだろう、こうして作り上げられたオタク・コロニーが外部からつつかれた時、どういう反応をするのか…………
────────そして、物語は冒頭に戻る。
「────ではアデム殿、捉えた亜人はどうしますか?」
「そうですねぇ……奴隷として王都に送ってしまいましょう……」
捉えられた、エルフの女性達が、先程からの暴行のせいか、ぐったりとした様子でロウリア兵に担ぎ上げられ、檻のついた護送馬車に乗せられようとしている。
「……おかしいですね」
「おかしいのは今日のお前じゃ( ゚Д゚)ヴォケ」
「何か言いましたか?」
「いえ! おかしいとは?」
問い返されたアデムだが、そのロウリア兵からは視線を離し、自身の神経を掻きむしるような不快感に絶えながら、亜人移送用の護送馬車を一瞥した。
「…………本来、ギムには人間、獣人、エルフ、いずれも混ざり合っていて……特に、我が国から逃げ出した獣人が多かったはずですが、何故か今いるのは、年寄りかエルフばかり……」
アデムは訝しそうに、手で顎を抱える。
「アデム殿!」
少し離れた場所から、自身を呼ぶ声に、アデムは反射的にそちらを振り返った。
「クワ・トイネ西部方面騎士団々長モイジ、捉えました」
そこには、首枷を嵌められたモイジが、ロウリア軍の歩兵に蹴り飛ばされながら引き立てられてきた。
「呑気なもんです。こいつ、防陣の近くの茂みで寝てやがってたんですよ」
ロウリア兵が、悪態をつく。
「これはこれは……お待ちしておりましたよ、『闘将モイジ』」
「くっ……死に損なったか……」
アデムの声に答えず、モイジは吐き捨てるように言った。
すると、アデムは1台の護送馬車を、モイジに示した。
「お父さん!」
うなだれるようにしていたモイジだったが、その声に顔を上げる。
アデムの示す護送馬車に載せられていたのは、モイジの人間の妻と、その間に生まれた半獣人の娘・ハタリアだった。
「さて、どうしてくれましょうか────」
妙に楽しそうに、アデムはそう言った。
だが。
「ククク……ハハッハハハッ、ハハハハハハハハ!!」
モイジは突然、哄笑を上げた。対峙しているアデムでなくとも、彼が発狂したのかと思うような爆笑だった。
「お前たちも笑え、ハッハッハ、アハッ、ハーッハッハッハ!!」
「クククッ、クスクスクス……」
「あはははははっ、あははっ」
モイジが呼びかけると、妻やハタリアも笑い声を上げ始めた。
「ど、どうしたと言うのです……まだこれからという時に狂ったのですか? 娘さんから最初に殺しますよ?」
「ああ、そうだな、殺したければ殺せ! 犯したければ犯せ!! この地で死んでいった者の魂まで奪うことはできん!!」
アデムが不快感に少しの憔悴感が混ざった様子で、モイジに問いただすように言う。
「文字通りの負け犬の遠吠えですか……やはり娘さんから、できるだけ惨たらしく殺して差し上げましょうか。私は
「いや、負け犬さ、俺たちは。だから好きにすればいい。その覚悟は最初からしていた」
「なに……どういう……?」
アデムがさらに不快そうに口元を歪ませると、モイジは愉快そうに種明かしを始めた。
「あれだけ念入りに町の家々から金目のものを奪っておいて────」
モイジは、視線で、略奪品の載った荷馬車を示し、言った。
「──気が付かなかったのか? 今この街に、騎士団員とその家族以外、若者がいない事に!」
「な!?」
アデムは再度、広場からあたりを見回した。
「いない……たしかにいないっ!」
エルフの女はいる。だが、エルフは人間より遥かに長命だ。その見た目の年齢は当てにならない。
「いいか、良く聞け。我々は、我がクワ・トイネ西部方面騎士団とギムは────」
「
「────クワ・トイネを守り、そしてきさまらのような腐った魂の持ち主を破滅させるためのな……だから若い者、まだ生き足りないという者は逃した……エクスプレッセスティの
そう。エクスプレッセスティ軍は、榴弾砲や対空機銃、その弾薬、それに塗料を運んできていた。
その復路に、乗せられるだけの市民を乗せて行くことなど、造作もなかった。
「な……な……」
「これでも一軍の長だった俺だ、ロウリアの兵が何処か浮足立っているのは解っている。当然だな? 10倍の戦力差でこの大損害だ……それも、エクスプレッセスティの旧式榴弾砲
──旧式……たった……!?
アデムの頭の中で、モイジの言葉がグルグルと渦巻く。
「わ……訳のわからないことを言っていると────」
「────殺しますよ、か。ばかばかしい……これから死ぬ者がこんな大仰な嘘をつくものか」
モイジは、囚われの身とは思えないほど不敵に笑う。
「秘密協定でな……あちら側の事情で、どうしても必要だったんだそうだ……『ロウリアから手を出すこと』と、『ギムで“ヒジンドウテキ”行為を働くこと』がな……」
「…………っ」
「ハハッ、お前らが怯えるほどの大損害を出したあの力は、エクスプレッセスティにとっては、その力の、チリほどの一欠片に過ぎない。クククッ……ハハハッ……」
モイジの、妙に肚の据わった話しぶりに、アデムだけではなく、その場にいたロウリア兵に、曖昧な不安感が広がる。
実際、はっきりとした脅威より、その脅威の正体がなんなのか、あるいはどう発動するのか、何がきっかけで発動するのか、その事がわからない漠然とした不安が、人間は一番堪えるのである。
「ここは、クワ・トイネだ!! 未来永劫、ギムがクワ・トイネを離れることはない! クワ・トイネとして、クワ・トイネの為に、ギムは死ぬ!!」
モイジは、不安感がロウリア兵に広がっているのを見て取ると、吠えるかのようにそう声を上げた。
「お前らが地獄に送られてくるのを、先に行って待ってるさ。ハハハハハ……今頃、あの童顔の総統が演説
『「力による現状変更は断じて認めない!!」』
「オーラーイ、オーラーイ、オーラーイ……」
集まってくるトラックを、エクスプレッセスティ陸軍兵が整列させていく。
ガォンッ
ギュラララララララッ
三菱重工製スーパーチャージドディーゼルエンジンが咆哮を上げ、無限軌道が軋みを上げる。
エナジポリス軍港。
埠頭に艦尾を向ける形で、艦尾ランプゲート、ウェルドックゲートを開放した、強襲揚陸艦『クリミテーサ』と『アムビリーナ』、揚陸母艦『セリーヌナ』。3隻の艦に、T-54-120主力戦車、BTR-4SE装輪歩兵戦闘車、2S016装輪式155mm自走榴弾砲が飲み込まれていく。
『皆さん、これが、本日早朝にロウリアに占領されたギムの画像です!!』
エミリアの言葉とともに、スクリーンに、ありとあらゆる暴力の痕跡の残るギムの画像が映し出されていた。それは、エクスプレッセスティがクワ・トイネに貸与したUAVで撮影されたものが主だが、何枚か地上で撮影されたものが入っている。ただ、地上で撮影されたものは、解像度が粗かった。
『私達はあらゆる差別、あらゆる無理解、あらゆる独占、それらを暴力で解決してきた、長い長い歴史を持ち、その果てに、その抑止こそが平和を保つと理解した世界からやってきた!! 地球が完璧だった、などと言うつもりは毛頭ない! だが、この世界で、今、暴力の前に屈服を迫られている国、民を、安全圏から見ていることはできない!!』
ブォォオォォォォォン!!
「先に行ってるからねーっ!!」
離岸前の他艦に挨拶の霧笛を鳴らしながら、駆逐艦『ヴェネレイト』(“Venereit”)が出港していく。譲渡艦・中古艦の改造ではなく、日本で設計され、三菱重工と台湾国際造船で最初から新造された基準7,000トン級駆逐艦、ヴェネレイト級のネーム・シップだ。イージス艦に満たないミサイル運用艦、ミニ・イージス艦、あるいはやや口悪く“貧者のイージス艦”と呼ばれるものだ。
ヴェネレイトの上甲板から、乗組員の誰かが叫んだ声は、届くようには思えなかったが、その瞬間に、セリーヌナの上甲板に横列敬礼している手すき員が、一斉に帽子を振る。
『助けましょう、新たなる佳き隣人を!!』
フィイィィィィィィッ……
情報収集のためにマイハークに向かう、PS-2飛行艇が、エナジポリス港から離水する。
『戦いましょう、力で我を通す暴虐の徒と!!』
ガガガガガガッ……
バチッバチッ……
ブリュンヒルデ ファイアーアームズの弾薬工場。
155mm榴弾砲弾、120mm滑腔砲弾が、ラインに並ぶ。
『そして、今度こそ──守りましょう、我々と隣人たちの安寧を────』
「ハハハハハハッ!! ハーッハッハ……────────」
ズバッ!!
「アデム殿、アデム殿っ!!」
「────はっ…………!!」
兵の声で我に返った時、アデムは、すでにモイジを自らの手で斬殺してしまっていた。
「これでは……これでは、エクスプレッセスティの情報が……」
重装歩兵の副兵士長が、狼狽えている。本来の兵士長は、122mm榴弾の直撃を受けて、マトモに遺体すら残っていない。
「ええい、狼狽えるんじゃないっ!!」
アデムは一括した。
「いいですか、みなさん。こう考えればいいのです。『女があっちからやってきてくれる』とね」
「お、おお……」
「そりゃあ……そうだなぁ……」
アデムの説明に、兵士達はそれを自己暗示に使うかたちで、女性兵士だけで構成される軍隊がやってきてくれる、と、見かけの安息を取り戻そうとしていた。
「さて……お二方ですが……」
歪な笑みを浮かべ、その瞳に宿る狂気を一層強くし、アデムはモイジの妻とハタリアを見る。
「そうですねぇ────」
夫、父を目の前で殺され、流石に笑ってはいられなかったが、モイジの妻は覚悟を決めた顔で、アデムを睨み返す。
「そうだ、お嬢ちゃん────」
アデムが、妙案を思いついた、というように、ハタリアに声をかけた。
その母は、はっと、アデムの悪意に気づき、顔面を蒼白にさせる。
「────
はい、なんか大げさな話になってしまいました。
エミリア総統の今回の演説、実は、別の、実在の国が召喚されるという設定の『日本国召喚』二次創作で、その国の大統領の演説のものとして構想していたものの焼き直しです。
何処の国かは当てられる方もおられるかと思いますが、残念ですがこちらはお蔵入り予定です。
ちなみに「戦傷(再起不能)」とは、これは普通の負傷、ケガではありません。
昔、旧陸海軍が外征軍だった頃、国鉄には『病客車』という、この状態になった将兵を一般国民から隔離して運ぶための客車がありました。自衛隊は外征しないですし、仮にその必要が生じても、自動車搬送が前提なので、戦後の混乱期の1949年に国鉄から廃形式となり、現在のJRには発足以来存在していませんが。
あ、あと見てくださった方はおられるかも知れませんが、実はエミリア総統、イメージ画あります。
https://twitter.com/kaonohito2/status/1759217745537999270
評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。
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p.s.ぴょんすけうさぎさん、今回のGNT成分はご満足いただけましたでしょうか?