フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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第1打撃群の旗艦の名前を変更しました。
だってラス・アルゲティ、ミリシアルが返したとは思えないんだもの……
前々回も改訂してあります。


信じるべき物 【前書き必読】

「機動部隊から報告」

 グラ・バルカス帝国海軍 東方艦隊

 旗艦・戦艦『ラス・セレナール』、戦闘艦橋。

 通信オペレーターが、重々しい口調で言う。

「攻撃隊のうち、艦爆隊は1個小隊4機を除いて全滅」

「何ッ!?」

 参謀達から声が上がる。カイザルの表情も険しさが増した。

「敵飛行物体は強力な対空火器で武装。その威力はエクスプレッセスティの『CIWS』に匹敵するとの事」

「バカな!」

 オペレーターの言葉を聞いて、参謀の1人が反射的な声を上げる。

「ムーにならまだしも、ミリシアルにそんな物が作れるはずがない!」

 そう言われても、報告を取り次いだだけのオペレーターは困惑するしか出来ない。

 だが、カイザルは別の事に気がついていた。

「艦爆隊は全滅、とあったが、戦闘機隊には損害は出ていないのか?」

「ハッ!? えーと……」

 カイザルに訊ねられて、オペレーターは、自身も動揺しているのか、少し慌てて、通信内容の書き取りを再確認する。

「は、はい、戦闘機隊の損害は2機だけです」

「それは、戦闘機隊は艦爆隊の掩護に徹し、飛行物体に接近しなかったからか?」

 カイザルが、重ねて訊ねる。

「えぇと……いえ、戦闘機隊も攻撃を実施したが、機銃は敵飛行物体の装甲に通用せず、とあります……」

「と、言うことは……」

 答えを聞いて、カイザルは僅かの間、逡巡する。

「機動部隊に、戦闘機隊の緊急発進の準備をして待機するように通達」

「ハッ、了解です」

 カイザルが下命すると、オペレーターは空母部隊への通信を開こうとする一方、

「閣下? 機銃は効かない相手のようですが、何か策が?」

「残念だが、まだ飛行物体に対する策はない」

 カイザルは、まず渋い顔でそう言ったものの、さらに続ける。

「だが、おそらく本命は背後のミリシアル艦隊になるぞ」

「そ、それはどう言う?」

「確信があって言えるわけではないのだが、この飛行物体が有人機動兵器だとすると、指揮官は軍事に疎い者かもしれん」

「は?」

 カイザルの発言に、その参謀は一瞬、間の抜けた表情になってしまっていた。

「ならば、貴官がその指揮官だったとしたら、戦闘機をむざむざ帰すかね?」

「あッ!?」

 言われて、カイザルの発言の真意を理解し、声を上げた。

「逃がしません! 撃滅しろと命じます!!」

「そうだ。制空権の認識があれば、戦闘機は真っ先に排除すべき存在だ。80年後ですらそれは変わらないんだぞ」

 同じように必中の防空兵器を持っているエクスプレッセスティ軍は、戦場の空を制圧する為に戦闘機を使う。

 戦闘機を撃滅する格好の機会があったにも関わらず、それをしなかったというのは、軍事の常識に欠けている人物なのではないか、と、カイザルは判断した。

 ミリシアル艦隊の方は、敢えて先制攻撃を行わずに、多数の戦闘機を空中に上げることで自艦隊上空を徹底して制空権下に置く戦法に出ている。なので、ミリシアルの軍隊は制空権の重要性を認識しているはずだ。

 ── という事は、この飛行物体を指揮しているのは、正規のミリシアル軍人ではないのかもしれないな……

 そう考えつつ、

「巨大飛行物体と言っても、仮に戦艦並みの攻撃力があったところで、1機ではできることは限られている……実際の戦いは、これをやり過ごした後に、ミリシアル艦隊との間で決着をつけることになる!」

 と、そう命じたカイザルの認識は、それ自体はほとんど正しかった。

 だが ────────

 

 

 その頃、『パル・グリフィス』と、グラ・バルカス艦隊第1打撃群が接触しようとしていた。

 第1打撃群は、旗艦『マーシック』以下、へルクルス級戦艦2隻、オリオン級戦艦4隻、重巡洋艦8隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦24隻で構成されている。

「司令!」

 マーシックの通信士、シオニスは、その電波を受信して、その内容に驚きながら、カオニアに報告する声を上げる。

「敵飛行物体からの通信が入っています!」

「何?」

 カオニアは、事態を飲み込みきるのに一瞬を必要とし、反射的に聞き返す声を出してしまっていた。

「敵である我々に、わざわざか」

「はい……そのようです」

 カオニアは、怪訝そうに眉の間に皺を寄せる。

 ── と、言うことは、この飛行物体には電波式の通信機が載っているのか……

 カオニアは、そう考えてから、

「なんと言ってきている?」

 と、シオニスに訊ねる。

「今のところは、こちらに呼びかけてきているだけです」

「…………」

 カオニアは、最初、どう考えればいいのか解らなかったが、次の瞬間、通信の内容から相手の正体が解るかもしれないと思いついた。

「よし、スピーカーにしてくれ」

「了解です」

 カオニアの指示で、シオニスは通信音声をイヤーレシーバー(ヘッドホン)から、外部スピーカーに繋ぎ替えた。

『グラ・バルカス帝国の諸君、聞こえているかい?』

 その声はまさしくメテオスのものだったが、カオニア達はまだ彼の事を知らない。

「貴君は何者だ?」

 カオニアは、仕種でシオニスに合図をしてマイクを受け取ると、PTTスイッチを押しながら、そう呼びかける。

「所属と貴君の階級、姓名を述べよ」

『お、おお、やっと気付いてくれたか。魔導周波通信と電波通信がお互い使い慣れていないのはやりにくいな…………おっと失礼した。私はメテオス。神聖ミリシアル帝国対魔帝対策省、古代兵器分析戦術運用部運用課に所属し、パル・キマイラ級空中戦艦「パル・グリフィス」の艦長をさせてもらっている』

「空中戦艦ぅ?」

 それを聞いて、相手が敵だと言うのに、カオニアは、奇妙な声を出してしまっていた。

『おや、君達のレーダーはすでに我々を捉えているのだろう? エクスプレッセスティの資料では、水上艦搭載のレーダーは、解像度はともかく、探知範囲という点では君達の文明レベルから然程広がっていないとされていたが』

 早速エクスプレッセスティの名前を出され、言外に「お前らは80年遅れてるんだよ」と言われた気がしたカオニアは、腹の中で怒りが芽生えたが、それをぐっと押し殺し、平静を保った。

「失礼した。我々にはデクノボウが空を飛んでいるようにしか思えないのでね」

『なんだと』

 メテオスの反応を聞いたカオニアは、追撃を入れる。

「それこそ、全長200m程度のものを飛ばすだけなら我々にもできる。エクスプレッセスティにとっては造作もないことだろう。だが、我々も、エクスプレッセスティも兵器としてそのようなものを運用していない。つまり軍事的には価値がないということだ」

『何ということを……』

 くぐもった声に、怒気がはらんでいたメテオスだが、すぐに、

『ああ、なるほどな』

 と、納得したかのような声を出した。

『飛行船とかいう、軽質ガスを詰め込んだ気嚢で飛ぶあれのことか。あんなものと一緒にされては困るよ……ンッフッフッフ』

 メテオスは、癪に障ると言うか、もったいぶったような笑い声を出してから、

『ええと、ああ、誰だったかな』

 と、気障な口調はそのまま、言う。

「名乗るのが遅れて失礼した。私はグラ・バルカス帝国海軍中将のカオニアだ。現在はグラ・バルカス帝国海軍連合艦隊東方艦隊、この第1打撃群を預からせてもらっている」

 カオニアはまず、名乗りが遅れたことを真摯な口調で詫びてから、改めて自身の名前と地位を伝え、さらに続ける。

「メテオス殿。先程の所属を聞く限り、軍人ではないようだが、我々にどのような用件かね?」

 すでに自軍機を撃墜されているので、敵対的存在であることは確実なのだが、メテオスが正規の軍人ではない事を多少訝しんで、カオニアはそう訊ねた。

『何、君達に忠告をしようと思ってね』

「忠告……?」

『私はね、弱者を一方的に虐殺する悪い趣味は持ち合わせていないのだよ。我々には、貴艦隊を殲滅せよとの命令が出ているが、ここで降伏を選択するのであれば、()()()()()()()逃げ帰ることを許そうじゃないか』

 メテオスが何を言っているのか、カオニアにはすぐに理解できた。つまり、艦を捨てて降伏しろ、と言っているのだ。

『我々が受けている命令は、まったく私個人の趣旨に反するが、皇帝陛下からの命令とあっては従うしかない。せめて命だけは助けようじゃないかという慈悲だよ』

「ふざけたことを。大層なモノに乗っているようだが、そんなもので何ができるという」

 カオニアは、多少の怒気を意識して言葉に乗せ、言い返す。

『なるほど、理解できないと見える ──── 我々が乗っているこれは、古の魔法帝国……かつてこの世界を恐怖で支配した、ラヴァーナル帝国が造った兵器なのだよ。その能力の片鱗はもう見ただろう? 君達の航空機では、あれだけの数を投じても、このパル・グリフィスに髪の毛ほどの傷もつけられなかったのだよ?』

「なるほど」

 メテオスの言葉に、カオニアは、向こうには見えていないと思いつつ、皮肉な笑みを浮かべてしまっていた。

「貴様らは過去の遺物を盲信し、囚われ、その力で同じ未来を作り出そうとしているわけか。己の力で未来を切り拓こうとしない貴様らに、我々は負けはせん! この世界に帝国は2つと必要ない!!」

 こう言えばメテオスは怒るだろう、と、カオニアは、半ば意識してそう言ったのだが、メテオスの反応は、彼の予想を裏切るものだった。

『おお、痛いところを突いてくるねぇ……それは図星だよ。もっとも、2年前までの話だがね!』

「な、何?」

 芝居がかっていうメテオスに、逆にカオニアが呆気にとられてしまう。

『我々が ────』

 メテオスの声が、急に、低く重々しいモノに変わる。

『我々が2年前、何を見、何を知ったか、貴君らにも言う必要はないはずだ』

「…………」

 そんな事は、言われるまでもない。カオニアは、言葉に詰まってしまった。

『貴君らは今、この世界に帝国は2つと必要ない、と言ったな?』

 メテオスは、嘲りでも怒りでもない、ただ淡々と重い声で言う。

「それは…………」

『それが権威主義、覇権主義の頂点を示すのであれば、今、帝国と名乗るべき本当の国はどこか、私の口から言わせる気かね?』

「…………」

『彼ら ──── (もとい)、彼女らはそれを望んではいない。だが、東方の実態はもうそのように書き換わり、それは西へと波及し始めている。もっとも武器を振るうだけでそれを成した訳では無いが』

「…………」

『魔力を持たない者が作り上げた文明が、どれほどのものか、我々はもう知っている。我々はその事実を受け入れ、今、追いつこうと必死にあがいているというのが、偽らざる実態だ。ただ、きさまら如き野蛮人に対しては、()()()()()で充分だ。それだけのことなのだよ!』

「なんだと!」

 言い返す言葉が見つけられていなかったカオニアだが、その単語を出されて、反射的に声を荒げてしまった。

『この期に及んで、己の力、相手の力を測る事もできぬどうしようもない愚か者どもに告げる。これが最後の慈悲だ。武装解除を受け入れたまえ』

「ふざけるな!」

 

 

 ────『パル・グリフィス』艦橋。

『ふざけるな!』

 カオニアの絶叫が、スピーカー越しに轟いた。

「そうか、ならば仕方がない。無駄な命の浪費以外の何物でもないが、殲滅させてもらう」

 普段の伊達者気取りの口調を潜め、淡々とした口調で、メテオスは冷酷に宣言した。

「切断していい」

 メテオスは、通信オペレーターにそう告げてから、

「状況は?」

 と、艦長席に座り直しながら、問いかけた。

「接敵まで後10分程度です。我が方のミスリル級規模の戦艦が2隻、ゴールド級規模の戦艦が4隻。シルバー級規模の大型巡洋艦8隻、中型巡洋艦2隻、駆逐艦24隻」

 艦長席正面の大型ディスプレイに表示させながら、オペレーターが説明した。

「言ったとおりだ。殲滅する。総員、対水上戦配置」

 メテオスは、戦闘前の興奮と言った様子もなく、怜悧な声で、そう下令した。

「了解! 対水上戦準備、総員所定の位置に着け!」

「全システムオンライン! 各部セーフティ解除!」

「魔導エンジン、戦闘出力に移行!」

 オペレーターが、それぞれのコンソールの前で、慌ただしくコマンドを入力していく。

「主砲塔セーフティ解除、全主砲塔、魔力回路オン!」

「全システム異常なし! 戦闘モード起動!」

「魔力回路負荷正常、出力上昇!」

「愚かな……」

 些かの興奮を伴って、部下が命令を確実に実行していく中、メテオスは艦長席に深く腰掛け、呟いた。

 自分達が、この空中戦艦に対してプライドと自信を持っているのは事実だ。だが、盲目的に、というわけではない。

 グラ・バルカスとの最大の違い、誘導兵器、無人兵器群の存在と、その運用ノウハウの知識がある。それを駆使されれば、自分達も苦戦を強いられかねない。そう言う事だ。

 ── 覇権主義を捨てて較差が存在する事実を受け入れれば、自分達だってその恩恵に預かれるだろうに。

 はっきり言って、現状はミリシアルに僥倖ですらある。エクスプレッセスティはガスの売り先を欲している。グラ・バルカスがその野心を捨てれば、技術援助も資源輸出もいくらでもしてくれるだろうに、と。

 





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