フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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ロデニウス北東沖海戦 Part.II

「空中目標、多数接近中!」

 オペレーターが言う。

 アフロディーテの戦術情報処理システムS-OYQ-9II(2)の対空戦ディスプレイに、無数の(フリ)(ップ)が接近してくる状況が映し出される。

 S-OYQ-9IIは、現行のエクスプレッセスティ海軍のフリゲート以上のほとんどに搭載されているもので、日本の最新より1世代前のOYQ-9Eを若干改良した程度の能力を持つ。特徴は専用ハードではなくx86-64系汎用ハードにソフトウェア実装されていること(つまり先頭の “S-” は “Software” を意味する)で、OYQ-9Eが開発された時より汎用ハードの性能が向上した事により実現したもの。メリットとして汎用ハードなのでソフト側もハード側もアップデートしやすい。ガラッと別のシステムに入れ替えることもできる。

「いずれも敵味(I)(F)信号(F)発信なし。数からロウリア軍ワイバーンと思われます。数200」

「200か……まるで第二次世界大戦ね……」

 ノラ艦長は艦長席で呟くように言ってから、

「現時点のUnknownをすべてEnemyに設定。対空戦闘準備。全兵装射撃許可」

 と、静かに下令した。

「了解、対空戦闘準備」

 オペレーターが復唱しながら、コンソールに入力していく。

「中SAM、16セル発射」

 艦橋後部のシルヴァー VLSの24セルの内、16セルのハッチが開き、アスター30Block1NTミサイルが点火の時間差を起きながら発射される。

「はぁ、なんかミサイルもったいない感じ」

「言わない言わない」

 対空戦闘に関わらないオペレーターが、ぼやくような言葉に、苦笑交じりの返しを入れる。

 一方。

「巨大船、突如として炎上!」

「爆発しています!」

 ロウリア艦隊の旗艦の上で、甲板員が声を上げる。

「いや違う……」

 爆発に見えたその中から、不自然に煙が伸びていくのを見て、シャークンは言う。

「『矢じり』のような何かを飛ばしたのだ!」

 シャークンが言う通り、何らかの飛翔体が、弧を描いて水平に近い角度になりながら、自艦隊の来た方角、つまりロウリアの方へ向かっていく。

「おのれ! 何をするつもりだ!?」

 シャークンは、その弧を描いて飛ぶ何かを目視で追うために、振り返る。

 ──まさか!?

 そのまさかだった。16発のアスター30ミサイルは、まだ芥子粒ほどにも見えていないロウリア軍竜騎隊目指して飛んでいった。

「そろそろ交戦中の味方艦隊と交戦中の敵船が見えるはず────」

 海面上を警戒しながら、ロウリア軍竜騎隊は東に向かって飛ぶ。

 その真正面に、無数の、チラチラと光を伴った何かが迫ってくる。

 ドッ────────

 先頭の何騎かが接近したところで、それが突然爆発したかと思うと、炸裂した破片が、爆発に包まれたワイバーンを、騎手もろともズタズタに引き裂いた。

「回避、回避!!」

 後続は、言うなれば自動可変翼機であるワイバーンの急機動で、それを躱そうとするが────

「ダメだ!」

「光が、光が追ってくる!!」

 騎手の着る鎧と、ワイバーンのヘッドガードがさらに回避をやりにくくした。アスターミサイルの終端誘導はアクティブレーダーホーミングだ。金属部からの反射波を検知して、回避した竜騎隊を追って、向きを変える。

 少なくとも80騎以上の竜騎隊が、アスターミサイルで消滅した。

「残数123!」

「短SAM、全弾発射!」

 本来野戦用短距離地対(S)(A)イル(M)システムだった2K12『クーブ』は、2014年の防衛力増強以前にやはり旧ソ連構成国・旧ワルシャワ条約機構加盟国から譲り受けたものだが、この古臭いミサイルシステムに絶大な信頼性を抱いており、追加取得を続けていて、陸上のみならず艦載化までやっている。

「なにかが──こっちを向いたぞ!?」

 3連装2基の2K12発射機が旋回し、ロウリア艦隊の方を向いた。

 ──これもか、間違いない!!

 サステナーに点火された6発の3M9ミサイルが、発射母艦の発する誘導波の反射を追って、ロウリア竜騎隊に向かって飛んでいく。

 発射後の発射機は一度装填位置に移動し、再装填リフトのレールに沿って上がってきた弾体が発射機に添えられる。残念ながら元が陸上用なこともあって完全自動装填化されておらず、発射機に緊締する瞬間だけは手動の操作が必要になる。

 一方、発射された3M9ミサイルは、旧ソ連型らしい激しい音をたてながら、斜めに一直線に竜騎隊に向かっていく。

 今度は、大気汚染がほとんどないこの世界では、遠目に見通せる位置で、6発のミサイルが炸裂した閃光が放たれ、竜騎士だったであろう何かがぽろぽろと落ちていくのが見えた。

「残数105、なおも接近中!」

「両用砲、高角射撃」

 100mm砲、57mm砲が仰角を上げる。

 ドン、ドンッ、ドンッ、ドンッ……

 ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・ガ……

「馬鹿な! これほどの威力で連続発射だと!?」

 シャークンが驚愕の声を上げる間にも、対空射撃によって、すでに目視の範囲にいる竜騎隊が次々と落とされていく。

 ──あり得ん……ワイバーンが必中で落とされている……

「ちっ、ちくしょぉ────こ、こんな馬鹿な事があるかぁっ」

 その叫び声は、竜騎兵のものだった。

「せめて一太刀────ッ」

「残数37、直上!」

「CIWS、RWS起動!」

 シュィン……

 ボール型レドームに、T75 20mmリボルバーカノンを持つ『ガーディアンスフフィア』CIWS (Close In Weapon System)が起動する。エクスプレッセスティ独自の対空用CIWSである。 ……と、言っても設計は三菱電機・三菱重工なのだが。

 ちなみに、おなじみのレイセオン社製『ファランクス』1つとこれ2つを故意に並べて置くと重営倉と言われている。主にレドーム形状的に。

 同時に起動したRWS (Remote Weapon Station)『SIGMA20』は、MSI Defence Systemsの『SIGMA』のユーザーカスタマイズバージョンで、ノーマルが30mm機関砲のところ、GSh-23L機銃をエクスプレッセスティ標準の20✕102mm弾仕様としたGSh-23/20L 2銃身20mm機銃とし、いくらかの軽量化が行われている。標準装備の近SAM『ミストラル』4連装発射機と一体になっている遠隔ガン・ミサイルコンプレックス砲塔で、起動すれば停止指示するか弾切れまで単体で照準・射撃するCIWSと異なり、砲塔だけでは完結はしていないが、この場合艦側のシステムが自動近接防御操作を行う為、CIWSの様に振る舞う。

 近接防御範囲内にワイバーンが差し掛かると、まず2基の『SIGMA20』から合計8発の『ミストラル』が発射される。

 続いて、合計4門の20mm銃が残った僅かな竜騎隊を、文字通り空中で“薙ぎ払う”。

 どうにかアフロディーテに肉薄した十数騎のワイバーンが、空中で20mm弾を無数に浴びてのたうつかのようにしながら、肉の襤褸切れとなって海面に落下していった。

「対空目標クリア、CIWS停止、RWS基準位置に」

 スクリーン上からすべての空中目標が消えたのを見て、オペレーターが言う。

9()K(S)1(A)2(M)、RWS、ミサイル再装填急いでッ」

『了解ッ!』

 ノラがインカム越しに指示すると、ヘッドホンに甲板要員の応答が返ってくる。

 ──200騎が……────

 ロウリア艦隊旗艦の甲板上では、シャークンが慄いた様子で、一瞬凍りついたようになっていた。

 ──200騎が、たった1隻に全滅…………

 如何な技術力の差があるとしても、目の前の出来事は、シャークンが軍人だからこそ(にわか)には信じられず、だが、軍人だからこそ受け入れなければならなかった。

 ──エクスプレッセスティが主張する“力による現状変更”────侵略を我々は始めてしまった。このまま引き換えしても命がある保証はない……ならば!!

「ガレーにオールを構えさせよ! 全艦突撃、移乗攻撃をしかける!」

「ハッ!」

 ──移乗できてさえしまえば、接近戦では女よりこちらの方が有利。

 シャークンはそう見立てた。

「ウォォォォッ!!」

 声が上がる。何処か自暴自棄なものも混ざっているが、まだ完全には戦意を喪失していなかった。

「敵艦隊、本艦に向けて進行を開始!」

「……やる気なら仕方ないわね…………」

 オペレーターの言葉に、ノラは、やれやれと言った様子でため息まじりに言ってから、表情を一気に険しくする。

「射撃用意」

 100mm砲と57mm砲が、対空射撃時の位置から、俯角をとってロウリア艦隊を向く。

「進め! どれほど巨大だろうと1隻に乗せられる兵士の数など限られている! 数で圧倒するのだ!」

 シャークンは、まだ意識に高揚した熱いものを持っていた。

 ────だが……

「提督!」

 見張員が声を張り上げる。

「本船より11時方向!! 敵増援です!!」

「な────」

 シャークンがそちらへ視線を向けると、目の前の艦と同型が1隻、より威圧的な艦が1隻、やや小柄な艦が1隻、こちらとあまりサイズは変わらないが、大型艦と同じ装備を装着している艦が1隻、合計4隻が、舳先を向けてロウリア艦隊に向かってくる。

 100mm砲、57mm砲が火を吹き、先程の竜騎隊と同じ運命を辿るかのように、ガレーが、武装帆船が、砕かれていく。

 原型艦の設計(元ソ連1124型計画艦)の構造に由来して、主砲が後ろに載っているコルベットのユクラニティも、それを補うために舳先に配置されたRK-3対戦車ミサイルを発射した後、前部に向けられる『SIGMA20』で近寄るガレーをミシンがけするように穴だらけにしていく。

 ──駄目だ……どうあっても敵う相手ではない……

 次々と破壊され、成す術なく沈没していく味方艦の姿に、ようやくシャークンはそう思い至った。

 ──国に帰れば敗戦の責任を負い……────

 先程ユクラニティが放ったRK-3ミサイルを受けて、木っ端微塵になった武装帆船の墓標の如き水柱の、その飛沫(しぶき)がシャークンにかかる。

 ──無能の提督として戦史に名を残すことになるのだろう……

 57mm弾2発で前後泣き別れになったガレーが、帆を燃やしながら兵士とともに沈みかけている。

 ──だが……これ以上兵を犬死にさせる訳にはいかない。

「通信士、全艦回頭、退却だ」

「はッ」

 シャークンの決断に、通信士は、その胸中を慮ってか、それともただ任務に忠実にか、黙々とシャークンの指示を実行に移していった。

「敵艦隊回頭!」

 ──ヴェネレイト CIC。

 オペレーターが、スクリーンを見ながら報告する。

「全艦攻撃中止。深追い無用」

 クワ・トイネ派遣第1任務艦隊指揮官、アイサル・ソーニャ・バイタナ少将がそう告げた。

「クイアストームは敵艦隊の作戦海域離脱まで追跡、警戒。残りの艦は生存者の救助を急いで」

「了解!」

 ──ヴィールニィ 艦橋。

「え、もう終わったのですか?」

 戦闘終了を告げられ、ブルーアイは一瞬、間の抜けた表情になってそう言った。

「はい、敵艦隊は退却、現状の作戦海域より西に撤退しました」

 タホー艦長は、ブルーアイにそう説明する。

「生存者救助とのことですが、エクスプレッセスティ海軍の損害は……」

「ありません」

 タホーが即答すると、ブルーアイは軽く驚いた。

「え、ではなんの救助を……────」

 そう訊ねる艦橋の窓の外で、ヴィールニィとクイアストーム搭載のKa-26An/Dが見守る中、各艦は船外機付ボートを下ろして、漂流しているロウリア兵をすくい上げている。

「私達の世界では、戦う能力とその意志がない者は攻撃の対象ではありません。そして生命の危機がある場合は救命することと教えられています。その為の救助を行っています」

 




コルベット『ユクラニティ』
アンドロジー級コルベット1番艦 元ソビエト連邦1124型計画艦
主要武装:
 Mk110 57mm砲 ×1 (ただし原型通り後部搭載)
 艦首部にRK-3対戦車ミサイル(RK-2『Stugna-P』の小型版)発射機×2
  (前部に砲塔を積めないので海賊船を攻撃するための火力)
 アスター30Block1NT SAM・R-360K『ネプチューン』 SSM兼用連装キャニスター×2
 RBU-1200 5連装対潜迫撃砲×2
 ガン・ミサイルコンプレックス砲塔『SIGMA20』 ×2
 RPK-2対潜ミサイル単装発射管 ×2
機関:スチームターボエレクトリック・ガスタービン併用COSLAG方式
 (COmbined Steam-turbo eLectric And Gas-turbine)
 全開時出力40,000hp 設計:三菱重工
特記事項:エクスプレッセスティ海軍栄光の1番艦。ウクライナから譲受け。エクスプレッセスティ海軍が求めるパトロール用コルベットの性格と異なった為、一時期は訓練艦になっていたが大改装の対象になり現在の姿になった(だってどこも1241型(ブリジット他5艦)放出してくれないんだもん!)。創設以来『アンドロジー』(“Androgyne”)を名乗っていたが2022年のロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシアへの抗議とウクライナへの感謝・連帯の意を表して2022年4月1日に現艦名に変更された。


今回ちょっとだけ短め……まぁあまりエクスプレッセスティの台所事情がなかったからかな?


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

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