フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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神話との初接触

 ザリッ……

 馬の蹄が、未整地の地面を踏みしめる。

「おい見ろ、エルフの集団だ」

 ロウリア王国、クワ・トイネ侵攻軍騎馬斥候隊。

 隊長らしいが、あまり品のなさそうな様子の男が、下卑た笑みを浮かべながら言う。

「偵察だの地形調査だの退屈で仕方ねぇーが、こりゃ格別の役得だなぁ」

「ギムじゃ散々な目にあったし、せめて憂さ晴らしさせてくれよォ隊長~」

 部下の1人が、隊長の傍に寄って、そう言った。

「仕方ねぇなぁ────ヤルかぁ」

 一方、その疎開民の隊列。

「お兄ちゃん、疲れたよぉ、休もうよう……」

「頑張れ、エジェイに入城するまで歩き続けるんだ」

 年格好は11、12歳の少年パルンが、愚図る妹アーシャに向かって、励ましつつ徒歩行進を続けるよう促した。

 ──幼い子供ぐらいは、BRDM-2DE(この鉄の車)に乗せてあげられればいいが、1人例外を認めると、際限がなくなる────アサギさんの言葉は正しい……

 イーネはRPC Fort-206/243バトルライフルを手にしてその後ろを歩きながら、胸中で呟く。

「ほら! 見えてきたよ」

 パルンはそう言って、東北東に見え始めたエジェイの城塞を指で差す。

「あそこまで行くんだ、もう少しだよ」

「ほんとだー! 見えた!! がんばる」

 アーシャは、元気を取り戻してそう言った。

 だが、隊列が僅かに進んだところで────

「ロウリアの騎馬兵だッ!!」

 護衛のクワ・トイネ兵が叫ぶ。

「走れ! 逃げるんだ!!」

 突進してくるロウリアの騎馬兵に、半ばパニックになりながら、疎開民はエジェイの方角に向かって逃走しようとする。

 だが、それより早く、ロウリア騎馬兵は突進してくる。

「くっ、BRDMを最後尾に、相手に対して横向きにして!!」

 アサギが指示を下す。オートバイから飛び降り、オートバイは転倒したが、それに構わず、ストラップで()げていたUKAB-1/243『Malyuk(マリューク)』ブルパップ・バトルライフルを構える。

 エクスプレッセスティの小口径ライフル弾は、これだけはNATOとは異なり、 .243 Winchester Super Short Magnum を採用している。メートル法に基づいたエクスプレッセスティ国防軍公称は6.2mm弾。

 これはNATOではアサルトライフルに使われる5.56✕45mm弾と、バトルライフルや車載機銃に使われる7.62✕51mm弾とに分かれるのを避けて、兵站の単純化を図るものである────という建前になっているのだが、実際には当時の採用担当者が

「マグナムって響きがいいから採用した」

 という話がまことしやかに囁かれている。状況証拠として設計・試作を依頼されたウクライナのFort社は、原型銃のFort-206が使用する旧ワルシャワ条約機構標準の7.62✕39mm弾よりも強力な発射装薬の為に試作品の破損が相次ぎ、第1ロットは逆ザヤだったという。

 ついでにいうと他にも状況証拠はあるが、それはまた後ほど。

 ──意外に数が多い、追いつかれるまでに対処できるか?

 アサギがマリュークを構えながら、焦りの表情を見せる。

「荷は捨てろ! 走れ!!」

 クワ・トイネの護衛兵が叫ぶ。

「はっ、はっ、はっ、はっ」

「あッ」

 パルンと共に駆けていたアーシャだが、疲労でふらついた後がもつれ、蹴躓いて倒れてしまう。

「ごめんなさい、お兄ちゃん、もう走れないよぉ」

 アーシャは、恐怖と兄に対する申し訳無さから、涙を流しながら、そう言った。

 すると、パルンがアーシャに向ける表情が引き締まる。彼は、ロウリアの騎馬兵に立ちはだかる様にように、アーシャを庇った。

 ──助けて

 アーシャは祈る。

 ロウリア騎馬兵の一部は、BRDMを回り込むようにして、パルン達の方へ突進してくる。

 ──助けて、神様ッ────

 

 ……………………

 …………

 ……

「ねー、お母さん、緑の神様のお話して!」

 平和な村落のある一家。パルンとアーシャの兄妹が、母親にそれをせがむ。

「神森のお話と、魔王のお話、どっちにする?」

「まおうのおはなし!」

「魔王のお話!」

 母親の問いかけに、アーシャとパルンは、口を揃えてそう言った。

 すると、母親はゆっくり話し始める。

「昔々の事です────

 

 北の大陸に現れた魔王は、海を越え、ついにロデニウス大陸にもやってきました。

 魔王軍との戦いはとても厳しく、“緑の神”の住まう森まで追い詰められたのです。

 ことを憂う緑の神が“太陽神”に相談すると、太陽神はロデニウスの民のもとに使者を遣わしました。

 “太陽神の使者”は、空を飛ぶ神の船と大地を焼く強大な魔導を使い、

 エルフ・ドワーフ・人間・獣人の“四勇者”と協力して魔王を封印したのです。

 

 ────こうして、世界は救われました」

 母親が話し終わると、パルンが身を乗り出して問いかける。

「“封印”って何? 魔王はどうなったの?」

 すると、母親は少し戯けたように、角を示すように指を立てた両手を、おでこの左右に当てて、言う。

「魔王は眠っていて、いつの日か目覚めるのよ。どうする?」

「そうしたら、僕は勇者になって、倒しに行くよ!」

「じゃあほたしは、神様においのりする!」

 パルンとアーシャは、笑顔でそう言った────────

 

 そして()()────

 アーシャは、そう言った時の思いで、祈っていた。

 2人めがけて、1人のロウリア兵が向かおうとした時────

 ドガァンッ!!

「!?」

 ゴッ

 2機の複座型 MiG-29Hi/US 艦上戦闘攻撃機が、上空を通過する。

 その下で、対地ミサイルBAGM-1『ブリムストーンEM』の炸裂に見舞われたロウリア軍騎馬兵が、死屍累々を晒していた。

 BAGM-1はイギリス製『ブリムストーン』対地ミサイルを対装甲用のタンデムH()E()A()T()弾頭を、高威力榴弾に変更したもので、形式号先頭に原設計国を示す“British”が付いてはいるが、国内のブリュンヒルデ ファイアーアームズが生産している。

「なんだッ、これは!?」

 アデムからギムでの戦いについて説明されていない、というより、具体的な魔導兵器の知識に乏しい彼らのような下位兵には説明しようがないため、彼らはギムで大損害を出した理由について、認識していなかった。

 MiG-29に続いて、Br-1050A/S艦上攻撃機がロウリア騎兵隊に襲いかかる。両翼にぶら下げた合計4基の5連装ディスペンサーから、アリゼ1機あたり20発のCRV7ロケット弾が発射される。

 2機のアリゼがロケット弾攻撃を終えた後、ロウリア兵に、マトモに立っているものはほとんどいなかった。

 ──なんだ、これは……

 落馬して転げ、座り込んだ状態の隊長の視界の中で、旋回してきたアリゼが真正面から向かってくる。

 ──なんなんだッ────

 その答えを得る前に、主脚格納バルジの前部に装備されたM621 20mm機銃の掃射が、彼の意識を刈り取った。

「アサギ大尉、これは……」

 イーネ、ではなく、鉄兜に軽装鎧のクワ・トイネ兵が、アサギに問いかけた。

「はい。私達の軍の支援です」

 

 第1旅団からの報告で、車両部隊が間に合わないと判断した作戦統括本部は、空母ヴァルキュリアの部隊に対し、航空機による支援を命じた。

 ヴァルキュリアの常設搭載部隊は、MiG-29Hi/Sを装備する戦闘飛行隊と、複座の戦闘攻撃機型MiG-29Hi/USを装備する攻撃飛行隊、それにMi-17An(Bo)/D-Sヘリを装備する哨戒飛行隊、Ka-26An/Dヘリを装備する多用途ヘリ飛行隊から成るが、この他に対地攻撃・弱武装の対洋上目標攻撃の為、普段は陸上基地に常駐し任務に応じて空母上に展開するBr-1050A/Sの攻撃飛行隊がある。

 今回の作戦では、ロウリア海軍相手には超音速ジェット戦闘機は過剰だし、陸上支援を考えても小回りの効くターボプロップ機の方が適していると考えて、Br-1050A/Sの部隊を乗せてきていた。

 そして、ギムから東進しようとするロウリア軍を監視するため、対地警戒ポッドを搭載したBr-1050A/Sを、ギム東方に交代で張り付かせたのである。

 

「助かったが……この力はなんだ……」

 エルフ疎開民は、僅かな時間でロウリア軍騎馬隊を、文字通り()()させたMiG-29Hi/USとBr-1050A/Sのあまりの攻撃能力に、呆然と立ち尽くしていた。

 ヒィィィィン……

 その上空を、海岸側に向かってMiG-29Hi/USとBr-1050A/Sがフライパスする。MiG-29はそのまま帰還していき、Br-1050A/Sは周囲を警戒するように旋回した。

「空を飛ぶ神の船……」

 パルンは、アフターバーナーを切った状態で低空をフライパスするMiG-29の姿を見て、そう呟いた。

「もしかして、エクスプレッセスティ共和国は、太陽神の使者!?」

 パルンが言うと、その声を聞いた他の疎開民達が、ざわつき始める。

「言われてみれば……」

「空を飛ぶ船……大地を焼く強大な魔導……」

「間違いない、この力は太陽神の使者のそれだ……!」

「緑の神と太陽神の言い伝えは真実だった────」

「え? は?」

 気がつくと、アサギ達、臨時特別任務部隊に対して、疎開民達が、神に対して祈りを捧げるかのように、手を合わせて拝んでいた。

「いや、ちょっと……困るんだけどな……」

「いいじゃないですか、今はとりあえずそう言うことにしておけば」

 アサギが周囲を見渡しながら戸惑ったように言うと、イーネは苦笑しながら返した。

 

 

 ギム。

 まだ破壊の跡が残るそこに、ロウリア軍は大きめの屋敷を占拠して、司令部施設に使っていた。

 動員された諸侯軍の指揮官が、緊急の軍議を行っている。

「偵察に出た騎馬隊が帰還しない──何かが起きている」

 部隊指揮官の1人が、そう言った。

「魔力監視哨でも魔力反応は検知していません。飛竜や高威力魔法の使用はないと思われます」

 魔導師部隊の若い指揮官が、困惑した表情で言う。

「では、亜人共にやられたとでも言うのか? エルフには在野の魔導師がいるかもしれんが、我が軍の部隊を尽く攻撃できる程の?」

 先程とは別の指揮官が言う。

「それについてですが……その……」

 魔導師部隊の指揮官が、困惑を伴いつつ、言いにくそうにしている。

「ワッシューナよ、勿体つけるではない」

 先遣隊の最高指揮官であるジューンフィルア伯爵は、ワッシューナと読んだ魔導師隊々長に対し、発言を促す。

「忌憚なく述べよ」

「では……最近魔導師のあいだで話題になっているのですが……────」

 語り始めたワッシューナの表情は浮かない。

「ギム占領後に参戦してきたエクスプレッセスティの(フネ)が“魔導兵器”を使い、我が軍の艦を轟音とともに一撃で沈め、ワイバーンを粉微塵にした……この威力が本当であれば、魔力投射量は、上級魔導師1,000人分のそれをなお上回る────」

 ワッシューナの言葉に、軍議に参加している指揮官達はゴクリ、と喉を鳴らし、顔を険しくする。

「重要なのはこの先で、それほどの威力を持つにも関わらず、()()()()()()()()()()()()────という話なのです」

 ワッシューナの言葉に、指揮官達が僅かにどよめいた。

「実は……私も()()に関する噂を……」

 別の指揮官が言う。

「マイハークへの攻撃に向かった我が艦隊は、その4割以上とワイバーン200騎を失い、マイハーク包囲・制圧作戦は失敗に終わったと……」

「ま……まてまて、あり得んぞ!! 海からだけでもクワ・トイネを征服できるほどの兵力だぞ、それが負けるなど!!」

「だから、“噂”と言っておるだろう」

 別の指揮官から、驚いたような声を出されると、その指揮官は困惑した表情でそう言った。

「しかし……それなら最近の本国の動向と辻褄が合うな」

 また別の指揮官が、顎に手を当てて、言う。

「ワイバーン50騎を急ぎ本国に戻したのも、防衛用に再配置の為、我々諸侯団への戦果要求が過大になったのも海での敗戦があった────というわけか……」

 その言葉に、ジューンフィルアが続く

「それに、あのアデムの我々に対する訓示……」

 

『よろしいですか、あなた方に与えられた使命は、万難を排して成功させなければなりません。ですが、将たる貴方がたを失っては元も子もありません』

 アデムは、ジューンフィルア達に作戦内容を伝える時、そう言った。

 ──エクスプレッセスティの思惑がまだ解らない……それに、パーパルディアと内通している可能性も()()()()否定できない……(いたずら)に諸侯の主や軍の指揮官を失って、内政や軍事力に空白を生じさせれば、それは相手の思うツボ……

『兵の損害は許容の範囲内ですが、その塁が貴方がた自身に及ぶようでしたら、そのときは戦域から脱出するのです』

 

()()アデムがそう言ったのだ……何かが起きているのは間違いない……」

「しかし、だからと言って……」

 隷下の指揮官の言葉に、ジューンフィルアは頷く。

「我々が行かないという選択肢はない、それでは本国からの命令を違えることになる」

 諸侯であるジューンフィルアは、人質として息子を王都ジン・ハークに住まわされ、それはハーク34世の監視下に置かれていた。

「それに────噂の何かを確かめる事は、どうしても必要だ……」

 

 翌日、ロウリア軍 クワ・トイネ侵攻部隊先遣隊は、総兵力2万は、エジェイに向かって進軍を始めた────

 




一応補足しておきますと、Br-1050は中古機ではありません。ウクライナ製エンジンを搭載して、ブレゲーの事業継承法人であるダッソーで新たに生産されたものです。
それと、原型機の形式は「Br.1050」ですが、エクスプレッセスティでは旧ソ連機に合わせて「Br-1050」が制式名となっています。
攻撃機型とか、A-10ほどではないけどCOIN機よりは重武装ってことで、他の国にもセールスされてそう……

あ、あと『SIGMA20』の仕様を一部変更しました。


評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

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