T-54-120主力戦車。
2014年の防衛力本格整備以前から、旧ソ連構成国や旧ワルシャワ条約機構加盟国から取得したT-54戦車のアップデート適用型である。
ウクライナのウクロボロンプロムがT-54・T-55・T-62運用国に提案したT-55AGMがベースになっているが、いくつかの変更や追加要素がある。
エンジンに三菱重工製を使うこと、C4Iシステムに対応させること、使用弾薬をエクスプレッセスティ標準として設定されているものとすること、M621 20mm機銃とRK-3対戦車ミサイルを装備したRWS『Sarmat20』を装備すること。
車体の旧さは隠せないが、NATO互換のKBM2 120mm滑腔砲、KT-243 6.2mm(.243 WSSM)同軸機銃、
ただ一方で、T-54の泣きどころであるトランスミッションがそのままになっており、その為自動装填装置があるにも関わらず、操縦助手(トランスミッションが愚図ったときにハンマーでぶっ叩いてギアを抜く係)を含めた乗員4名となる。
とは言え、120mm滑腔砲の威力と言えば、
ドゴォンッ!!
目標として用意された、大きな岩を1発で木っ端微塵にした。
数時間前────ギム周辺疎開民がロウリア騎兵隊に襲撃され、エクスプレッセスティ海軍の航空攻撃で返り討ちにされている頃。
「これはこれは、よくおいでくださった。エクスプレッセスティの……えーと、なんであったか?」
慇懃無礼極まれりと言った感じで、ノウ将軍は言う。
「エクスプレッセスティ共和国陸軍第1旅団長、ジュリア・フェラーロ准将です」
直立して敬礼しつつも、僅かに苛立った様子を見せながら、ジュリアはそう申告した。
「見ろ、なんだあのまだら模様のみすぼらしい服は……女と言うだけではなく、軍人としてあるべき格好とは思えんな……」
「お止めください将軍。聞こえてしまいます」
声を潜めつつ呟くノウに対し、ウィータン副将は潜めた声で自重を求める。
「クワ・トイネ政府とは、我が部隊のエジェイ西方への展開について同意が得られているはずですが、通過を認めないということはどういうことなのか、ご説明いただきたい」
ジュリアはノウの声が聞こえていたが、敢えてそれには触れずに、キツめの口調で問いただすように言った。
「貴公も女とは言え武人だというのであれば、お解りかと思うが、ここエジェイは鉄壁の城塞都市。我らの誇りにかけてロウリア軍を退けてみせる。貴公らの助力は必要としておらぬ」
ノウははっきりと、拒絶の意思を露わにした。
「ああ……言ってしまった……」
「まずいぞ……今エクスプレッセスティの軍事支援がなくなればクワ・トイネは終わりだ……」
別の側近が頭を抱えたい衝動を持ちながら小声でそう言うと、ウィータンがそれに同意しつつ、やはり深刻そうに小声で口に出した。
「では私も正直に言わせていただきますね。今のエジェイなど、今ここに連れてきている兵力だけで、そうですねかかって3時間もあれば完全に無力化できます」
険のある口調で、ジュリアはそう言った。
「正気か? 今、エジェイには騎兵3,000、弓兵7,000、歩兵30,000、飛竜兵50騎からの戦力があるのだぞ? 貴公らの部隊はどう見ても5,000程にしか見えぬが……」
「こちらは兵員数6,390名。内訳は2個機械化歩兵連隊2,220名、2個砲兵連隊1,620名、1個ロケット砲連隊810名、3個輸送大隊1,500名、旅団司令部要員120名、施設隊120名となります」
ノウが不機嫌を隠さずに言うと、ジュリアもどこか淡々とそう答えた。
「話にならぬな……その兵力差でどうやってエジェイを落とすというのだ」
「そうですね、百聞は一見に如かず、見ていただいた方が早いでしょう」
────そして、話は冒頭に戻る。
歩兵連隊に属する直掩戦車中隊のT-54-120が、主砲の一撃で巨大な岩を木っ端微塵にしたのを見て、ノウはあんぐりと口を開けて、暫くの間呆然としてしまっていた。
「確かにエジェイを占領するには寡兵ですが、その防衛拠点としての能力を完全に喪失させる事は、私達にとって容易いことです」
──たっ……戦い方が根本的に違う! これでは……城塞など意味がない! もし、この者らが敵に回った場合、阻止するために必要な兵力は10倍どころの話ではない……
ノウは、戦車輸送トレーラーに乗せられた何台ものT-54-120の姿を見て、戦慄しながら、声には出さずにそう言った。
確かに現代兵器の進化で城塞の戦術的・戦略的価値は下がっているが、城塞がある上で防御側に対戦車兵器と長射程兵器、それに対空兵器が存在すれば、俄然、防御側に有利になる。 ……が当然クワ・トイネにそんなものはない。
「そもそも、貴方に我々の作戦の妨害をする権利があるのか!」
ノウが唖然として言葉を出せずにいると、ジュリアは、明らかにノウを睨みつけて糾弾する。
「何……」
ノウが表情を険しくするが、ジュリアは止まらない。
「ここにいる4万もの兵員の2/3でもギムにまわしていれば、そもそもロウリア軍の侵入自体防ぐことも可能だったはずだ! それを己のプライドと権勢欲の為にむざむざ……貴方はギムでの被害について、ロウリア軍と同罪と知れ!!」
「きさま、女だと思って甘く見ていれば、言うに事欠いて!」
激昂したノウが、思わずジュリアの胸倉を掴んだ。
次の瞬間────
「なっ……はっ、うぐぐぐぐぐぐ……っ!」
ノウが自分の胸倉を掴んだ手首を掴むと、ジュリアはそのまま、合気道の技でノウを締め上げていた。
「失礼。反射的に身体が動いてしまいました」
そう言って、ジュリアはノウを離した。
念の為に補足しておくと、ジュリアは単一性の女性だ。男性機能は持っていない。
「私達を女だと侮るのは勝手だが、単純な力だけで必ずしも男性に劣っているとは見ない方がいい。私達は軍務従事者として、女性という理由で不利にならないよう、貴方がたより遥かに進んだ医学に基づく鍛錬をつんでいる。それに、将校・士官に限らず一兵卒に至るまで、この程度の格闘術は身につけている」
身体を起こせずにいるノウに対し、ジュリアは軽蔑しきった……敢えて表現を選ばずに言うなら、ゴミを見るような目で見下しながら言う。
「いくら国の防衛に関して助力を受けていると言っても……」
「将軍、ノウ将軍! 公都より飛竜にて書簡が送られてきています!」
ノウが立ち上がりながら反論しようとした途端、1人の伝令兵がそう言いながら、書簡を握り、走ってくる。
「飛竜で書簡……?」
ノウは顔をしかめた。緊急の連絡だとしても、魔信を使えば良い。この火急の事態で、わざわざ飛竜兵を書簡の伝達の為に割くというのはどういうことか……
怪訝に思いながら、ノウは伝令兵から所管を受け取ると、その封を切って開き、目を通した。
そして────
「な……────」
ノウは顔色を失い、絶句した。
『宛、ノウ殿
貴殿のエクスプレッセスティ共和国軍に対する妨害行為により、ギム周辺地帯からの疎開民の救援に支障を来し、疎開民は襲撃を受ける結果になった。
これはエクスプレッセスティ共和国への非礼のみならず、クワ・トイネ公国軍指揮官として甚だ責任感を欠いたものであると判断せざるを得ない。
加えて、エジェイ市に大量の兵力と物資を抱え込んだ。これは中部方面騎士団としての責務として一定の理解はできるものの、結果として西部方面騎士団の兵力増強を支障した事は否定できない。
よって、クワ・トイネ公国政治部会は、貴殿の中部方面騎士団々長将軍としての全職責・職務とそれに係る権限を無期限に停止することを全会一致で議決した。
中部方面騎士団々長としての職務は暫定的にウィータン副将に引き継ぎ、貴殿には別命あるまで謹慎を命じる。
クワ・トイネ公国政治部会々長 カナタ』
「ほ……本当にこれは、政治部会からの書簡なのか……?」
「ノウ将軍であれば、その首相のサインが本物かどうか、わからないことはないと思いますが……」
ノウとともに、T-54-120の実弾射撃実演を見学していたウィータンが、手振りを加えつつ、言う。
言われたノウは、ガックリと肩を落とした。
ウィータンはそんなノウを尻目に、ジュリアに向かって敬礼する。
「軍務局司令部より、ジュリア将軍の指示に従い、エクスプレッセスティ共和国軍の作戦に協力せよと命令が下っております」
それに対し、ジュリアが返礼する。
「有難うございます。私達が反攻の尖兵となります。クワ・トイネ中部騎士団には後方で制圧が必要となった際に御協力を賜ることになるかと思います……と」
ジュリアはウィータンと共に敬礼を解いた後、そこまで言って、思い出したように言う。
「施設隊が野戦滑走路の整備を行いますので、その現場の歩哨の協力を頂いてよろしいでしょうか?」
「了解です」
ジュリアとウィータンが話し合っている最中、2人に気づかれないうちに、ノウは脱力したままその場から去っていた。
「凄いな」
「ああ……」
歩哨に立っているクワ・トイネ兵が、その光景を見て、何度目になるかわからないそのやり取りをした。
ホイールドーザーがざっと障害物を排除した後、モーターグレーダーによって整地されていく。
「しかし……これは一体何のためにやっているんだ?」
「どうやら、エクスプレッセスティの機械竜がここに進出してくるらしい」
「本当か!」
「いや解らん」
「なんだよ……」
「噂止まりなんだからしょうがないだろう」
「そう言う事なら、エクスプレッセスティの軍人に聞いてみればはっきりするだろう」
「え? いやそんな……」
「あっ、ちょうど来たぞ」
「おいやめろって」
「おーい、ちょっとお訊ねしたいんですが!!」
ちょうどそこへ通りがかった、作業服を着崩したエクスプレッセスティの施設隊員に、クワ・トイネ兵の1人が訊ねる。
「あのぅ……どうしてこれをやっているのかって、教えてもらえますか?」
「あ……ええ、野戦滑走路を敷設しているんですよ」
問いかけられたエクスプレッセスティの施設隊員は、あっさりとそう答えた。
「そのエクスプレッセスティ軍の野戦滑走路ということは、機械竜が進出してくるということですか?」
「機械竜……────」
クワ・トイネ兵の言い回しに、施設隊員は少し考え込んでしまったが、
「ああ、戦闘機のことですね。そうですよ。空軍の部隊の作戦展開の為に造っています」
「ほら見ろ、やっぱりそうだった」
「お前の行動力には感心するよ……」
エクスプレッセスティの人間にそう言われ、2人のクワ・トイネ兵はそんな、掛け合いみたいな遣り取りをする。
「そうするとあれは、機械竜の
クワ・トイネ兵が指した先には、トレーラーで運ばれてくる日本国鉄/JR型互換の31ftタンクコンテナが、トップリフターで下ろされ、積み上げられていく。
その質問をしたクワ・トイネ兵に、施設隊員は、目を
「え、どうかしましたか? 俺、何か変なこと言いました?」
「いえ……一発で正解を言われたので、逆にびっくりしてしまいました」
「え、そうなんですか?」
それまでツッコミ側だったクワ・トイネ兵が、今度はその事に驚く。質問をしてきた方の兵士が、ニヤッと笑って彼を見る。
「はい。厳密に言うとジェット燃料と言って、液体状のものですが、ジェットエンジンでこれを燃やすことによって推進力を得ます」
理解できているのかいないのか、施設隊員の説明を聞きながら、クワ・トイネ兵は並べられていくジェット燃料用タンクコンテナに視線を向けて、「ほーん」「ふーん」と声を声を出していた。
「あの、自分達にも何か手伝えることはありませんか?」
ツッコミ役だった方のクワ・トイネ兵が、施設隊員にそう言った。
「早くロウリア軍を追い出して、ギムの弔いをしたいんです!」
「あ、俺も俺も!」
クワ・トイネ兵の言葉に、施設隊員は困惑の表情を浮かべる。
「あー……それは、現場の一兵卒が決められることではないので……」
「────と、言うわけで、我々の兵から是非、エクスプレッセスティ軍の手伝いをしたいと申し出るものがいまして……」
ウィータンが言うと、ジュリアは苦笑を浮かべた。
「それは有り難いのですが、作業機器は有資格者でないと危険ですし……」
「そうですか……」
ウィータンは、一旦は落胆したかのような様子を見せた。
「ですが、これから移動管制車の受け入れもあって、単純作業でしたらいくらでも人手が必要なのですが、そちらをお手伝いいただくことは可能ですか?」
ジュリアの提案に、ウィータンが顔を上げる。
「はい、是非お願いします」
一方、そんなことを知ってか知らずか、ロウリア軍はエジェイ西方6kmの地点に、前進陣地を展開し始めた────────