フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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エジェイ砲撃戦

「我々の斥候部隊より、現在、このエジェイより西方6kmの地点にロウリア軍が前進陣地を築いているとのことです」

 エジェイ。中部方面騎士団・司令部公室。

 近辺の地図をテーブルの上に広げて、ジュリア准将とウィータン副将が状況の検討を行っていた。

「兵力はおよそ2万の諸兵科連合────我々の把握している総兵力に対してかなりの小規模で、陣地を形成し、アバ()()ィス()を設置していることから、この部隊は本隊ではなく、威力偵察を兼ねた先遣部隊と見ますが、ウィータン副将のご意見はどうですか?」

「小官も同感です」

 ジュリアの問いかけに、ウィータンが答える。

「ロウリア軍は、まだエクスプレッセスティ砲兵隊の能力を完全に把握していないと考えられます。エジェイからのこの距離は、西部方面騎士団に供与された122mm砲をもとにしたものでしょう」

「ロウリア軍がこの後、どのように行動するか、想定できますか?」

 ウィータンの答えに、ジュリアは重ねて質問する。

「小官であればという前提ですが……挑発を兼ねた斥候部隊を出すと考えられます。よしんば122mm砲があったとしても、少数部隊に対し砲弾を消耗させ、後方の先遣部隊、その背後の本隊の被害を少なくすることができます」

「的確かつ妥当な判断と考えます」

 ウィータンの説明に対し、ジュリアは掛け値なしにそう評価した。

「本来の作戦計画では、疎開民をこのあたりの地点まで避難させた後、電撃戦を展開してギムの東方手前まで迫る予定でしたが────」

 ウィータンは当然、“電撃戦”なるものがどういうものかは詳しくは知らないが、言葉の響きからして、(Battle)(Tank)の攻撃力を使った強襲戦法であることは、なんとなくだが想像ついた。

「──すでにギムからエジェイに至る街道沿いの集落の疎開が終わっている現状、彼我の損害を減らし、作戦を確実なものにするため、野戦ヘリポートが使えるようになるまで、敢えて籠城を行おうと考えます」

 ジュリアの説明は、ウィータンにはだいたい理解できたが、ある一言が引っかかった。

「『()()()』、ですか? ロウリア軍の損耗も減らすと?」

「はい。より厳密に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()

「それは、なぜ?」

 ジュリアの説明に、今度はウィータンが重ねて質問した。

「残念ながら、我々のいた世界でも、ロウリアのように振る舞う国は依然として存在していました────」

 ジュリアは少々表情を歪ませながら、そう言った。

「──しかし、そのような国家の場合、前線で大損害を出した兵が帰国すると、自国の戦争指導の拙さが国民に伝播して、国民の不安に繋がり、国内が不安定になります」

 直近で言えば2022ウクライナ・ロシア戦争だが、それ以前にも例がある。1917ロシア革命もそうだと言われるが、似たような例はアメリカにもある。ベトナム戦争がそうだ。テト攻勢時の混乱した状況と、その際のサイゴン政権軍の非人道的行為がテレビで伝播した結果、国内で反戦運動が高まり、撤退に追い込まれた。

「つまり、ロウリアで叛乱を起こさせると?」

「そこまで行く可能性もありますが、そこまで行かずとも、戦争指導は難しくなるでしょう」

「なるほど……」

 ジュリアの説明に、ウィータンは、顎を支えるように口元に手を当てて、納得の声を出した。

 

 

 夜。

 夜間であれば反撃はないと思っているのか、ロウリア軍の威力偵察部隊がやってきては、挑発するように鬨の声を上げ、ガンガンと武器で音を立てた。

「ハッ、連中勝った気でいやがる」

 城塞の上のクワ・トイネ兵が、明らかにロウリア兵を小馬鹿にしたような笑いで言う。

 彼らの中にも、T-54-120戦車の実弾射撃実演を見ている者がいる。目視できる距離で、彼らにとっては無謀とも言える行為をしているロウリア兵に憐れみすら感じていた。

突撃(F)(P)砕線(L)の中に入ってこないのがいやらしいわね……」

 クワ・トイネ兵に混じって、KM-234機関銃を城塞の壁の上に置いたエクスプレッセスティの下士官が、苦い顔をしてそう言った。

「ロデニウス北東沖海戦の情報が伝わっているんだろう。実際にはやつらの方が余裕がない証拠だ」

 ロウリア兵を嘲笑う様子で、クワ・トイネ兵はエクスプレッセスティ下士官にそう言った。

「それなら、攻撃なんて仕掛けてこないでとっとと引き上げたらいいのに」

 エクスプレッセスティ下士官は、そう言って軽くため息をついた。

 

 

 バラバラバラバラバラバラ……

 二重反転ローターの音を響かせ、Ka-26An/Dヘリが飛来し、野戦滑走路に隣接して設けられた野戦ヘリポートに着陸する。

「来ましたね!」

「ええ、作戦が動き出すわ」

 野戦滑走路の設置に協力していたクワ・トイネ兵が弾んだ声で言うと、エクスプレッセスティ施設隊員も、笑みを浮かべながら頷いた。

 そのKa-26An/Dヘリコプターは、ガンシップ・モジュールを装着していた。AH-21BやMi-17An(Bo)D-Aの補完役としてKa-26に対地攻撃能力を与えるものだ。M621 20mm機銃の旋回銃塔と対地攻撃兵装用のウェポン・ベイを持つ。ただ欠点として、その構造上、20mm機銃を俯角40°以下で前方に向けることができない。

 だが、この時Ka-26An/Dのウェポン・ベイに搭載されていたのは、爆弾やミサイルといった類のものではなかった。

 Ka-26An/Dのパイロットとウェポンオペレーターは、一旦機体から降りて、施設隊から受け取ったアイソトニック飲料『アクエリアス』で喉を潤し、小休憩する。その間、Ka-26An/Dに、燃料が補給される。

 現代の航空用ディーゼルエンジンは、軽油や灯油に性質の近いジェット燃料を使う。これによって、ジェット燃料とは別にレシプロ機用にガソリンを供給する必要がなくなり、安全性を高められる(軽油・灯油や、広く一般的に使われるJet-Aジェット燃料は、ガソリンに比べて揮発度がはるかに低く、引火の危険性が低い)し、供給の負担も減る。

「お気をつけて!」

「ご武運をお祈りします!」

 給油を終え、エンジンを再始動したKa-26An/Dに搭乗しようとする航空隊員に、エクスプレッセスティ施設隊に加え、クワ・トイネ兵もそう伝えた。すると、ヘリ搭乗員は、一時振り返って、笑顔を見せながらサムズ・アップしてから、機内に収まった。

 Ka-26An/Dは、エジェイの城壁を越えて、ロウリア軍の前進陣地に向かう────

 

『第1旅団、戦闘状況開始』

『了解』

 

 ────ロウリア軍、エジェイ先遣隊野営陣地。

 バラバラバラバラ……

 その、激しく空気を(はた)くような奇怪な音が響き、ロウリア軍兵士が何事かと見上げる。

「なんだ!? あれは……」

 その見上げているロウリア兵の視線の先で、Ka-26An/Dが吊り下げていた、4つのコンテナのハッチが開いた。コンテナからは大量の何かが撒き散らされ、ヒラヒラと舞いながらゆっくり降りてくる。

「何か落としているぞ……」

「敵の攻撃かもしれん!」

 下級指揮官が、兵に向かって警戒を促すように声を上げる。

「戦闘備え!! 弓兵隊は構え!!」

 だが、彼の予想とは裏腹に、ロウリア軍の陣地に撒かれたそれは、B5サイズの紙切れだった。

「これは……」

 小隊指揮官の1人が、地面に落ちたそれをつまみ上げた。

「なんて上質な紙切れなんだ……なにか書いてあるぞ」

 それを一瞥しながら、彼は小声で音読する。

「4時間以内に陣地を撤収し、ギム以西に撤退せよ。さもなくば攻撃を開始する────」

 ジューンフィルアもまた、それを読んだ。

「────エクスプレッセスティ共和国国防軍准将、陸軍第1旅団々長 ジュリア・フェラーロ」

「先程飛来した“竜”が、我が陣地に散布していったものです」

 ワッシューナが、天幕の中でジューンフィルアにそう説明した。

「兵たちの様子はどうだ?」

 別の、ジューンフィルアの直下の指揮官が、ワッシューナに訊ねた。

「はい……今は若干落ち着きを取り戻し、字を読める者は挑発されたと受け取り、士気は高まっています……」

 しかし、そう説明したワッシューナの顔色は浮かない。

 敵がどのような戦力を保有しているのかわからない上で、過剰な士気の高まりは、指揮から外れての敵への攻撃行動を誘発させかねない。

「エクスプレッセスティ軍がどれほどの兵力を持っているか解らないが、こちらとて2万の軍勢、そう簡単に崩せるものではないだろう」

 先程とはまた別の指揮官が、そう主張した。

「よし!」

 ジューンフィルアは決断する。

「ここでエクスプレッセスティ軍を迎え撃つ。攻撃してくるというのは、敵の戦力を見るいい機会だ。兵に隊列を組ませよ!」

 ──エクスプレッセスティに魔導兵器があろうとも、所詮女だけの軍隊。懐に飛び込ませてしまえば、大陸一の練度を誇る我らの軍勢が負ける筈がない!!

 

 

『ロウリア軍、撤退の様子なし。野営地から出て戦闘陣形を組んでいます』

「了解。射撃に巻き込まれない位置まで離脱せよ」

 ジュリアは、無線越しに偵察中のヘリから報告を受けて、インカムのマイクにそう返答した。

「タイムリミットは過ぎました」

 腕に嵌めた、エクスプレッセスティ国防省認定品であるCASIO Baby-G MSG-W610G-1AJFの盤面を見て、ジュリアは言う。

「これより制圧射撃をかけますが、味方の兵は城塞の西側には出ていませんね?」

 ジュリアがウィータンに確認する。

「はい。要請のとおり、地上からの斥候も出していません」

「解りました」

 ウィータンの返答を得ると、ジュリアは胸元のPTTスイッチを押し、インカムのマイクにはっきりと伝える。

「砲兵大隊、ロケット砲大隊、全力射撃!」

 

「射撃準備!」

 ロケット砲大隊付属の、小型トラック『ルーシア』4WDに載せられた野戦対地レーダーJTPS-12E(日本のJTPS-12のライセンス生産品)に感のある方向に、ダブルキャブのディオナトラ・AWD載せられた、BM-21『グラート』多連装ロケット砲がその砲口を向ける。

 “精鋭部隊”を中心により先進的な台湾製 Thunderbolt-2000/Mk45 『雷霆』多連(M)ロケ(L)トシ(R)テム(S)が配備されているが、“一般部隊”ではまだ現役のものも多い。

「撃てーッ!!」

 大隊指揮官の号令で、1台あたり40発、それが24両、960発の9M521ロケット弾が発射される。

 同時に、砲兵隊の自走155mm榴弾砲も射撃を開始した。

 2S016装輪自走榴弾砲は、ウクライナの装輪式歩兵戦闘車BTR-4のエクスプレッセスティ向けローカライズ版であるBTR-4SEのシャシーを使いつつ、第2-第3軸間をストレッチして、兵員室のある部分に限定旋回砲塔を搭載したもの。他のBTR系列と異なり、水陸両用機能はオミットされている。

 シャシーのBTR-4SEは、BTR-60を使っていたエクスプレッセスティ陸軍が「日本製エンジン2基搭載にして欲しい」という要望から、三菱4M51型エンジンをベースとした過給付ディーゼル・ターボコンパウンドエンジン(レシプロエンジンの排気からタービンで追加の回転動力を得る形式) 2基を搭載しているものだ。エンジンごとに駆動軸が別れていたBTR-60・BTR-70と異なり、レシプロ・タービン計4つの出力軸は流体カップリングで一旦合流して伝達系につながる。

 片方のエンジンが停止してもクラッチで切り離して、もう一方のエンジンだけで低速だが走行し続けられる。それをベースとした2S016の場合、片方のエンジンだけかかっていれば射撃体勢に入れる。

 NATO仕様の39口径155mm砲が、次々に砲弾を撃ち出す。2K25E『クラスノポール』レーザー誘導砲弾もあるが、今回はピンポイントで直撃させる必要はないので、ロケットアシストもないコンベンショナルな砲弾だ。

 ビューッ、ヒューッ!!

 ロケット弾が風を切る、不気味にも聞こえる音は、クワ・トイネ兵にも驚愕をもたらした。

「この距離で、当たるっていうのかよ!!」

 

 ──…………なんだ、これは……

 その時、ジューンフィルアは、自身の中で何かが報せるのを感じた。

 ──予感…………絶対的死の予感……!!

 その、次の瞬間。

 ドパッ、ドパ、ドパパパッ!!

 部隊を見下ろせる高台にいたジューンフィルア達の目の前で、BM-21のロケット弾が次々に着弾する。

 9M521の高威力榴弾々頭が炸裂し、ロウリア兵を薙ぎ払っていく。

 ──私の兵が死んでいく……

 その光景に、ジューンフィルアは自失状態になってしまい、軽くよろけた。

 ──古(つわもの)

 9M521の炸裂で、千切れたロウリア軍旗が宙に舞う。

 ──戦友

 ジューンフィルアと付き合いの長い、直下の指揮官達が、成す術なく吹き飛ばされていく。

 ──ただ逃げ惑い、爆炎の中に消えていく……────

 ロケット弾の着弾の後に、ダメ押しとばかりに155mm榴弾が降り注ぎ、残った兵を薙ぎ払っていく。

「“噂”などではなかった……!」

 ジューンフィルアの傍らで、ワッシューナが、怯え竦んだ様子で震え上がりつつ、言う。

「魔力を感知しない大爆発、どんな上位の大魔導士でも成し得ない威力!!」

 ロケット弾の初撃から逃れた兵も、155mm榴弾が容赦なくその生命(いのち)を刈り取っていく。

「これはただの魔導兵器にはありえない! これではまるで、神竜のブレス!!」

「これでは、これでは……────」

 ジューンフィルアが、困惑と絶望の表情で言う。

「逃げる余地すら────────」

 その瞬間、155mm榴弾がジューンフィルアとワッシューナの至近で着弾し、その炸裂が、2人の意識を永遠にかき消した。

 

「これは……敵陣が爆発している……」

 謹慎中のノウは、単眼望遠鏡で、ロウリア軍の陣地に爆煙が上がるのを見ていた。

 ──接近すらしていない、この位置から、敵陣を燃やし、吹き飛ばすほどの能力……────

 ノウの脳裏に、ジュリアの言葉が蘇る。

『今のエジェイなど、今ここに連れてきている兵力だけで、そうですねかかって3時間もあれば完全に無力化できます』

 ──あの言葉に偽りなどなかった────この威力がエジェイに向けられれば、エジェイの兵力など簡単に消し去ることができる……!!

 その事実を受け止め、ノウは少しよろめいた。

 その間にも、155mm砲の射撃音が轟いていた。

 

『ヘリより報告、ロウリア軍部隊、沈黙』

「了解。射撃中止、戦闘状況終了」

 報告を受けたジュリアは、インカムのマイクに向かって、そう言った。

「エクスプレッセスティ軍の勝利、と言って良いのでしょうか……」

「はい」

 複雑そうな表情で言うウィータンに対し、ジュリアは笑顔を向けた。

()()の勝利です!」

 





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