フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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空母とチョコレート

「エジェイ付近まで東進してきた、兵力約2万のロウリア軍部隊────おそらく威力偵察を兼ねた先遣部隊ですが、エクスプレッセスティ軍の攻撃により完全に無力化されたとのことです」

 ────クワ・トイネ公都。政治部会議場『蓮の庭園』

「2万の兵力を完全に無力化となると、流石にエクスプレッセスティ軍にもそれなりの損害が出たのではないのかね?」

 ライスリー軍務卿の報告に対し、他の閣僚からの指摘が入る。

「いえ、それがロケット発射管2門の固渋のみだと……」

 ライスリー自身、自分が何を言っているんだかわからないような様子で言った。

「なんだ、それは……」

「ウィータン()()()()の報告では、エクスプレッセスティ陸軍第1旅団は、敵に接触することなく、遠隔の攻撃でロウリア軍を無力化したとのことです」

 唖然とした様子の声に、ライスリーがそう答える。

「そんなバカな……」

 思わず、と言った様子で、閣僚から声が漏れる。

「ふむ……ヤゴウ外務官、ブルーアイ海軍士官、この点について説明はできますか?」

 招聘されていた2人に対し、カナタが視線を向け、問いかける

「では、私が」

 手を上げながら、ブルーアイが発言する。

「先日の『ロデニウス北東沖海戦』において、エクスプレッセスティ海軍艦は“両用砲”と“対装甲ミサイル”を使用しました。これらは、我が海軍では大型に分類される(フネ)でもただの1発でバラバラにしてしまう威力があります。同様の兵器を集中運用したのであれば、決して荒唐無稽な情報ではないと思われます」

「そのことについて、私からもよろしいでしょうか」

 ブルーアイの報告に続いて、ヤゴウも発言の許可を求めた。

「お願いします」

 カナタが、ヤゴウに促す。

「エクスプレッセスティ国防軍は、転移前は大陸の一部だったので、主に陸軍が充実し、コストの問題で、海軍の拡充は緩めのペースで行われていたと聞きます」

「なるほど、その海軍にあれだけの戦果が上げられるのであれば、今回の陸戦での戦果も不思議ではない、という事じゃな」

 ヤゴウの発言に、ライスリー軍務卿の補佐として詰めているハンキが、そう続けた。

「しかし、あの“鉄竜の箱舟”などは、かなり高額なのではないかね?」

「ああ……そのことなんですが……」

 リンスイの問いに対し、ヤゴウの顔がひきつる。

「なんでも、ちょうど“インド”という転移前の世界の友好国が手放そうとしていたので、()()()()()()()()()、のだそうです……」

 一瞬、沈黙とともになんとも言えない空気が流れた。

「しかし、その御蔭でギム周辺の疎開民に被害を出さずにすみましたからね……我々がどうこう言える立場ではないかと」

「そうだな」

 気を取り直したようにヤゴウが言うと、腕組みをしたライスリーがそう言った。

「その点についても、感謝の念をお伝えしておかなければなりませんね」

 カナタも同意し、そう言った。

「しかし……その事実を突きつけられても、まだ完全には理解し難いな……噂に聞く魔導兵器、その威力ですら凌いでいるとしか思えん」

 リンスイが、複雑そうな表情と口調でそう言った。

「今、ロウリアに対して向いている敵意が、将来的に我が国に向かないとも言い切れないのでは?」

 ある閣僚から、少し当惑したような発言があった。

「その点については、おそらく大丈夫だろうと思う」

 リンスイが答えた。

「それは、なぜ?」

「担当官、説明してもらえるか?」

「はい」

 その閣僚が問い返してくると、リンスイはヤゴウに()()()

「エクスプレッセスティは、転移前、現在我が国内に普及を急いでいるプロパンガス設備、あれの原料が採れるエタンガス田の採掘と、その輸出で潤っていました。しかし、移転によってそれが叶わなくなってしまったのです。幸い、ガス田そのものは国土と一緒に転移してきているのですが……つまり、エクスプレッセスティとしては、当面の農作物輸入先というだけではなく、中長期的には我が国を自国産燃料の()()()にしたいわけです」

「なるほど、この短期間の技術支援も、我が国を自国産品の需要家にするためのものというわけですね」

 ヤゴウの言葉を受けて、カナタがそう付け加えた。

「はい、もちろん善意の部分もありますが。あと……試験栽培中のカカオ豆ですね、あれだけは早く実現したいと。今は備蓄で凌いでいますが、『チョコレートのない生活は考えられない』と」

 ヤゴウは言いつつ、途中から苦笑気味になってそう言った。

「チョコレート? それはなんだ?」

「エクスプレッセスティの転移前の世界では定番のお菓子のひとつで────すみません、視察団として派遣された時、我々も試食させていただきました。確かに、そこまで言うのも解るな、と」

 閣僚の1人に問い返されて、ヤゴウは決まり悪そうに苦笑した。

「と、言うことは、我が国に、より直接的な野心を抱くことはないようだな……」

「はい、もちろんこちらから弓引けば話は別ですが」

「自分も同意見です」

 つぶやくようなライスリーの言葉に、ヤゴウとブルーアイが同意した。

「しかし……原理は装備品供与協定の際に説明してもらったが、それでもここまでの戦果は信じ難いな……」

「我々に供与が予定されていた榴弾砲や機関銃は、エクスプレッセスティにとっては80年前の品物だからな……その間の技術革新の結果なんだろう。もっとも122mm榴弾砲は、あのヘリコプターで運べる空挺砲として現用だそうだが」

 ある閣僚の言葉を聞いて、ライスリーがそう言った。

「いずれにせよ、エクスプレッセスティとは、引き続き友好的な交流を続けていくことが、今後の両者の利益であると結論づけたいと思います」

 カナタがそう言った。他の閣僚からも異論は出ない。

「次の議題ですが、軍務卿、お願いします」

「はい」

 カナタが促すと、ライスリーが発言を始めた。

「エクスプレッセスティから我が政府に対し、本格的なギム奪還作戦の提案があります。現在、ギムはロウリア軍の占領下で軍事拠点化されつつあります。ギム以東に関しては、一時的な空白地帯となっていますが、このままだとギムを起点に、再侵攻するのは時間の問題かと。これは、我々クワ・トイネ軍務局としても同じ意見です」

 すると、閣僚が口々に言い始める。

「良いのではないか?」

「まぁ、エクスプレッセスティがやると言うなら……」

「我々に損はない?」

 と、肯定的(?)な意見が出る一方で、

「いやいや待て待て、そこでエクスプレッセスティに完全に頼り切ってしまうのはどうなんだ……」

「それはクワ・トイネの国としての義務と権利をすべてエクスプレッセスティにわたすことと同義じゃないのか」

 と、そう言った慎重的な意見も出た。

「あー……そのことなんですが……」

 慎重論の言葉を聞いて、ライスリーが切り出す。

「中部方面騎士団より、ギム奪還については参加したいと、一部の部隊から上申があるとのことです」

「エクスプレッセスティからの意見は?」

 カナタが問う。

「戦闘の現場に直接参加されると足手まといになるが、戦闘後の周辺地域の掃討と制圧の為の人員は、自国民の兵士が必要だとのことです」

「つまり雑用係か……」

 ライスリーの答えに、閣僚の1人がため息混じりに呟いた。

「とは言え、全て寄りかかってしまうのは国として問題だろう。エクスプレッセスティ軍の求める範囲で兵員の投入をすべきかと思う」

 リンスイが、腕組みしながらそう言った。

「それでは、その方向で回答したいかと思いますが、異論のある方はいますか?」

 カナタがそう言った。異論を唱える閣僚はいなかった。

「それと、ノウ将軍についてですが、今回の戦いを見ていたく反省しているとのことで、エクスプレッセスティのジュリア将軍からも寛大な処分を求めるとのことです」

 ライスリーが言った。

「まぁ、確かにそれだけの実力があるとは、我々も想定していなかったからな……」

「とは言え、その結果疎開民を危険に晒したのは事実、全くの無処分というわけには行きませんな」

 閣僚が口々に言う。

「ひとまず謹慎については解きましょう。最終的な処分は後ほど決めるということで」

 

 

 ギム。ロウリア王国クワ・トイネ侵攻軍司令部。

「先遣隊とはまだ連絡がつかないのですか?」

「ハッ、魔信で呼び出し続けてはいるのですが、応答がありません」

 己の問いかけに対し、司令部付の兵がそう答えるとアデムは、ち、と小さく舌打ちをした。

 ──なぜ無理をしないで引き返せと言ったと思っている。今は情報を何より欲しているというのに!

「まったくいらいらしますねぇ……」

 アデムはそう言う。苛立ちから口元が更に歪んだ。

「エジェイへ飛ばした竜騎隊はどうなっています?」

 アデムは、呼びかけに答えない先遣隊の様子を探るため、少数の竜騎隊を飛ばさせていた。

「ハッ、まもなく到着するかと────」

 

 

 ギム・エジェイ中間部の平原。

『4番騎、もっと低く飛べ。敵に悟られるぞ』

 敵はワイバーンを撃墜できる何かを持っている。下手に高度を上げると待ち伏せされる可能性がある為、目標近くに接近するまで低空を飛行するように指示されていた。

 確かに、ごく低空の飛翔体はレーダーに捉えられにくい。実際、エクスプレッセスティの野戦レーダーセットは、国防軍の差し迫った脅威が非合法武装集団だったり、周辺の国も南アフリカ共和国ぐらいしか高度な電子戦装備を持っていなかった事もあったりして、特に対空用は制式号が“79式”と型落ちもいいところの JTPS-P9 のライセンスコピーであるため、この時もこの竜騎隊を捉えきれていなかった。

 ただし、それはあくまで地上用の野戦レーダーの話だった。

 ヴィイィィィン……

 ロウリア竜騎隊に被さってくるように、それは姿を表した。

『ロウリア軍飛竜隊に告ぐ』

 魔信のインカムに、ロウリア軍のそれとは別の通信が割り込んで来た。

「な、なんだ!?」

 割り込んできた魔信に驚きつつ、何人かがその音の方を見上げた。

『現在、貴隊はクワ・トイネ領空を侵犯している。直ちに反転し、領空内より退避せよ』

「なんだ……こいつは……!!」

 それは、この空域を警戒するために飛行していた、エクスプレッセスティ軍のBr-1050AEW『アリゼ』空中早期警戒機だった。

『繰り返す、ロウリア軍飛竜隊は直ちにクワ・トイネ領空内から退避せよ。然らずんば撃墜する』

 魔信装備はクワ・トイネ軍から借りたポータブル機で、後部オペレーター席にオペレーターともども押し込まれ、複数の周波数帯で呼びかけていた。

『た、隊長! 下です、下!』

「なッ!?」

 部下の発信に、竜騎隊長が前方を見下ろすと、焼け焦げた人間が無数に転がっている場所が見えた。

 それは、何万もの兵が陣形を組めるだろう広範囲に広がっているた。

「まさか……魔信に応答がないのは、このせいだとでも言うのか!?」

 その低空スレスレを飛びながら、隊長は言葉に出す。

『隊長! そこの高台の崖の上を見てください!!』

 言われるままに、その高台を見る。

「なっ!?」

 そこには数体の()()()()()とともに、ロウリア軍の戦旗が焦げかけつつも残っていた。

「まさか……全滅してしまったとでも言うのか!?」

 より広範囲を観察するために、竜騎隊長が上昇したときだった。

 ドッ

 エジェイの方角から、それは姿を表した。

「な……何だ、あれは!?」

 ゴォォォォッ

 可変翼を最大角で展開した状態のMiG-23GENが、ロウリア竜騎隊に迫ってくる。

 ドヒュッ

 2機のMiG-23GENの主翼から、1機あたり6発、合計12発のASRAAMが発射された。

 

 

「大変です! アデム副将!」

 軍議が行われていたギムの司令部公室へ、通信士が飛び込んできた。

「偵察の竜騎隊と通信が途絶えました!!」

「……直前の状況は?」

 アデムは、緊張感を伴いつつも、低い声でゆっくりと問い返した。

「そ、それが……『先遣隊が全滅している』『導力火炎弾が追ってくる』という悲鳴が最後の通信でして……」

「…………」

 アデムは、その報告を聞いて、冷や汗が湧くのを感じた。

 通信士は、混乱はしているものの、自分程深刻な状況だとは理解していないようだった。

「アデム君、何があったというのかね」

 クワ・トイネ侵攻総司令官将軍、パンドール侯爵が、アデムに問いかけた。

「たった今、エジェイ方面に偵察に向かわせた竜騎隊6騎が消息を絶ちました。ジューンフィルア将軍の先遣隊とも前日から連絡が取れません」

「まさか」

 アデムは、彼にしては珍しく不利な状況を包み隠さず説明したものの、パンドールはあまり深刻そうでもなさそうな様子で言う。

「全滅したとでも言うのかね?」

「その可能性は否定できません」

 パンドールの問いに、アデムは、苦虫を潰したような顔になってしまいつつ、答える。

「何をバカな」

 だが、それに対するパンドールの態度は、些か緊張感を欠いたものだった。

「エクスプレッセスティは女性しかいない国だと聞いている。海軍が重大な損害を受けたとは聞いているが、体力・膂力が物を言う陸戦において、2万の大群を全滅させることができるとは到底思えん」

 パンドールはそう言ったものの、

「いえ! アデム副将の危惧は的外れとも言えません!」

 と、そのパンドールの参謀が、声を上げた。

「先遣隊ですが、我が方は作戦投入の竜騎隊の大部分を失い────先遣隊には竜騎隊の上空支援を付けていませんでした。この為、エクスプレッセスティ軍の魔導兵器で先制攻撃を受けた後、クワ・トイネ軍の本国飛竜隊の襲撃を受けたとすれば、壊滅的被害を受けたとしてもなんら不思議ではありません」

 参謀は、軍議のために机の上に広げられた地図の、エジェイ西側の平野を指し示しながら、そう言った。

「その為、現在ギムへの反攻を警戒し、残る竜騎隊44騎を交代で上空警戒に当たらせています」

「パンドール将軍。現状での性急なエジェイ進軍は危険かと思います」

 参謀に続いて、アデムが言う。

「まずギムに戦力を進出させ、一気呵成に攻撃を実施する必要があります。そのためには、ギムの防衛に当たる兵力も考えると、現状では些か心許ない。ですので、私が一度ジン()・ハーク()に出向き、兵力の増援を要請してまいります。私であれば本国を()()できるでしょう」

「ふむ…………」

 パンドールは、そんなアデムと参謀の様子を交互に見た後、アデムに視線を向けた状態で言う。

「確かにそう言うことであれば、ただの伝令では意図が伝わらぬかも知れないな……よし、アデム君、頼んだぞ」

「必ずや期待に答えてみせます」

 アデムは、パンドールの前では自信に満ちた様子を装い、その許可を得ると、馬を駆って一目散に、ジン・ハークへと向かっていた────────





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