フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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ギム奪還

 ──クワ・トイネ侵略は失敗だッ!!

 ジン・ハークへ向かいながら、その馬上で、アデムは頭の中でその考えを何度も繰り返していた。

 パンドールにジン・ハーク行きを申し出る直前、アデム子飼いの間者が、アデムに耳打ちした。

 

「先遣隊2万は文字通り全滅。エクスプレッセスティ軍とは接敵もせず、大規模な火炎弾攻撃により一方的に破壊された」

 

 ──エクスプレッセスティの魔導兵器はパーパルディアのそれなんてもんじゃない!! ムーやミリシアルだってこれほどの物は持っているか……

 確かにアデムはジン・ハークを目指していたが、それはパタジンやハーク34世に報告することが主たる目的ではなかった。

 ──ロウリアはもう終わりだッ!! 私は、私はこの事を()()()に報告しなければ……────

 アデムは従者とともに、必死に馬を飛ばしていたが────

「!?」

 突然、街道を遮るように、巨大な車両が出現した。

 ドガァンッ!!

「グァッ!?」

 鉄でできたそれに、マトモにぶつかり、アデムは馬ごと跳ね上がって、地面に叩きつけられ、転がった。

 ────いくらBRDM-2DEの装甲が薄いと言っても、7トンの車体にアデム自身と合わせて1.5トンに満たない馬が体当りすれば、どちらが負けるか解り切っている。

「くっ、い、一体何が…………」

 チャキッ

 状況を把握しようとしながら身を起こしかけたアデムに、拳銃が向けられる。

「!!」

「お前らはこれの威力を知らないから、脅しにならないか? 試しに1発、食らっとくか?」

 エクスプレッセスティ共和国国防省・内務省制式、軍・警察用拳銃、ミネベアミツミ ニューナンブM57C『アジャスタブルハイパワー』。

 アデムの眼の前に立ったアサギが、その銃口を、倒れ込んだアデムの目前に突きつけていた。

 その傍らで、イーネがFort-206/243を手にしている。

 ここで無粋に解説を入れておくと、戦後の日本は武器・兵器の類を輸出していないと思われがちだが、実際には銃火器に関しては言うほど厳しくない。輸出目的を軍用以外とすれば、審査はあるものの輸出は可能であり、ミネベアミツミと豊和工業の銃火器製造事業の利益の過半は海外向けである。ウクライナ軍が狙撃銃として豊和M1500を運用していたことがある。

「きさま、アデムだな?」

「ちっ、ちが────」

 タンッ!

「がぁはっ、がっ、ぁっ!!」

 アデムの右肩に、焼けた鉄棒を射し込まれたような激痛が走った。

 アサギの問いかけに、アデムが否定しようとすると、アサギはアデムがそれを言い終える前に、躊躇なく発砲していた。

「至近から食らう.357マグナムの味はどうだ? 失敗したな、警察局からダムダム弾を拝借してくるべきだった」

 低く重苦しい感情を伴った、淡々とした口調で、アサギはそう言った。

「お前!」

 イーネが、馬ごと停まっているアデムの従者に、声をかける。

「死にたくなければ、この男を置いて去れ。ただし、ここで見た事を誰にも言うな!」

「ひっ、ひぃぃっ!!」

 言われた従者は、眼の前の出来事を完全に理解できてはいないものの、恐ろしい事が起こっていると強く感じ、イーネの言葉に対して、短く悲鳴を上げながら、その言葉に従って街道を引き返していった。

 従者が去っていったのを確認してから、アサギとイーネは改めてアデムを見る。

「いいか、これは貴様から情報を引き出すための()()()()()()()()()。嘘は何の意味もなく、ただ徒に()()寿()()()()()()()()()と思え」

 アサギは言い、アデムを睨んだ。

「もう一度訊くぞ、お前はアデムだな?」

「そっ……そうだ! なんでも正直に答える! だから、だから助けてくれ!!」

 アサギの問いに、アデムは必死の形相で言う。

「面白いことを言う」

 そう言って、アサギは唇の両端を釣り上げるが、その顔はとても笑顔には見えなかった。

「きさまはそうやって命乞いした相手の言葉を受け入れたことがあるか?」

「そ、それは……」

 アサギに言われ、アデムは言葉を失う。

「きさまらがクワ・トイネ国境を越えた時、私はギムにいた。これが何を意味するか解るな?」

「────!!」

 アサギの言葉に、アデムの表情がさらに強張る。

「私は任務のため、自分の身の安全を確保しながら、ギムでのきさまらの行為を記録する必要があった…………何度も湧き上がるきさまらを撃ち殺したい衝動を押さえつけてね……」

「そっ、それは! きさまらが仕組んだことじゃないか!!」

 恐怖に陥りながら、アデムは言い返す。

「エクスプレッセスティが参戦するための口実づくりだと────モイジから全て聞いているぞっ!!」

「何を勘違いしている……」

 しかし、アデムの叫びに対し、アサギもイーネも動じない。アサギは、下劣極まりない存在を見る目で見下ろしながら、重い口調でだが淡々と言う。

「きさまらがクワ・トイネに攻め込まなければ良かっただけだ……私達は何度も呼びかけたな?」

 

『理由の如何を問わず、力による現状変更はこれを断じて認めない』

 

「それを無視してクワ・トイネを侵略したのはきさまらだ……きさまが今こうなっているのも、全てきさまらの自業自得だ」

「ぐっ、 ────────」

 理解しきれない理論はいくらでもあるが、シンプルに「ロウリアが侵略しなければこんな事にはならなかった」というロジックだけは否定のしようがなかった。

「きさまの噂はクワ・トイネにも伝わってきている……反吐どころか内臓まるごと上げそうなそれをね……だから、エジェイへの攻撃を破砕した時点で、きさまは逃げると容易に予想できたし、こうして街道で待ち伏せしていたわけだ……もちろん、どの経路を通るかも察知できる状態でね……────」

 

 グォオォォン……

 上空を、XUAV-2無人機が飛行している。

 トルコのバイカル バイラクタル 『Akinci』。2022ウクライナ・ロシア戦争で名を馳せたかのバイラクタルTB2のバイカル社の次なる製品である。

 2021年頃から導入の交渉をしていたのだが、その2022ウクライナ・ロシア戦争が原因で、イーウチェンコ製エンジンの供給に不安が出た。

 そこで代替エンジンが探された。候補は2つ。

 ひとつ目は、エクスプレッセスティではKa-26An/Dで使い慣れているRED Aircraft製航空用ディーゼルエンジンのA03。ただし重量増の為、多少の性能低下には目をつぶる必要がある。

 もうひとつは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の、ヘリコプター用ターボシャフトエンジン、三菱重工TS1の固定翼機搭載。

 結果、両方のエンジンで2機ずつが試作され、バイカル社から納品された。XUAV-2はエクスプレッセスティ国防省での形式号だが、先頭に“X”がとれていない事で分かる通り、試用後の制式採用についてのバイカル社との交渉中に転移してしまった。

 ちなみに、クワ・トイネ軍に貸与したものは航続距離600km級、空冷水平対向グローエンジン双発の国産・ブリュンヒルデ ヴィーグルエンジニアリング UAV-1である。 ────エンジンの原設計日本だけど。

 ともあれ、たった4機しかない虎の子のXUAV-2で、ギムのロウリア軍を定期的に偵察し、監視していたのである。

 

「もちろん後悔はある。今でもあの、モイジ将軍の奥さんに、それも娘の見ている目前で行われたあのおぞましい光景が今でも夢に出る。そして、その度にこう思う。『あの時、きさまを撃ってしまうべきだった』────と」

「っ…………っ……!!」

 今までは自分がそうしてきた、残虐性に基づく相手の反応に対して、アデムは竦み上がった。嫌な汗が全身に滲む。

「やって」

 アサギがそう言うと、イーネと、BRDM-2DEから降車してきたもう1人の兵士が、アデムの両手を革手錠で拘束する。

「ぐぁあぁぁっ!! あっ、ああ゙っ!!!!」

 腕を捻り上げられ、撃たれた右肩に激痛が走り、アデムは絶叫を上げる。

 そんな事は意にも介さないかのように、イーネ達はアデムの腕の自由を奪うと、街道に対して横方向に横たわらせた。

「私達に与えられた任務は、ギムでの残虐行為の被疑者であるアデムを捕らえ、クワ・トイネ政府に引き渡すこと────」

 アサギがそう説明している最中、何故かBRDM-2が軽くエンジンを吹かし、位置を変えようとしている。

「────ただし、クワ・トイネ政府に引き渡す時に生きていれば良く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 アデムが苦痛を制して自身の様子を見ると、BRDM-2の前輪のタイヤが、自身の左の脚の直ぐ傍に来ている事に気がついた。

「やめろっ、止めてくれっ、何でもする、助けてくれ!!」

 アデムは必死に叫ぶが、アサギが軽くハンドサインを送ると、BRDM-2はゆっくりと前進を開始した。

 ────獣のような、しかしどの獣のものにも似つかないような、絶叫が辺りに響いた。

 

 

 ギム。

 上空を、ロウリア軍竜騎隊の22騎が上空警戒に当たっていた。

「これ程の空中警戒であれば、奇襲はできまい」

 パンドールは、その様子を見て、満足そうにそう言った。

「さて、アデム君が到着する前に、我々は本隊の方を、進撃に備えて編成を整えておこうか」

「ハッ!」

 パンドールの言葉に、参謀が返事をした。

 ────その時だった。

 ボ・ボ・ボ・ボ・ボン!!

 突如、空中でいくつもの爆発が起こった。それは花火ほど派手ではなかったが、花火より遥かに破壊力のあるものだった。

 その爆発が起きる度、ワイバーンが騎乗している兵ごと肉の襤褸切れとなり、落下してくる。

「な……な!?」

 パンドールの顔が、驚愕に染まった。

 ヒィィィィンッ!!

 光と煙を牽いて飛来するそれを、竜騎隊は回避しようとするが、それは向きを変えて竜騎隊の密集する部分へと向かってくる!

「ちくしょう! 光が、光が追いかけてくる!!」

 ロウリア軍竜騎隊の視界の外から飛んできたそれは、『ミーティア』中射程空対(A)(A)イル(M)だった。ヨーロッパ共同開発の割りと新しい世代のミサイルで、転移前に周辺国のSu-30採用に対抗して────という建前 (まるっきりデマカセというわけでもないのだが) でその実「ヤード・ポンド法は滅ぼさなければならない」という方針で採用されたミサイルである。エクスプレッセスティは管理のため、独自にEMAAM-1(Euro Middle-scale Air-to-Aircraft Missile)という形式番号を振っている。

 終端誘導はアクティブレーダーホーミングであり、どれだけロウリア軍竜騎隊が回避運動をとっても、甲冑やワイバーンのヘッドガードを追ってミサイルは向きを変え、最接近したところで炸裂する。

「ワイバーンが!? 粉微塵にッ……」

「なんだ!? どうしたッ!?」

 地上で、空中の阿鼻叫喚を目にして、ロウリア兵が驚き、ただ戸惑う。

 キィイィィィィィンッ……!!

 エジェイの野戦滑走路に展開した、MiG-29GE 1個小隊4機、MiG-23GEN 1個分隊2機、Su-22UGE 1個分隊2機が飛来していた。

 戸惑うロウリア兵の中、呆然としたような様子のパンドールが見上げる視界の中で、MiG-29GE、MiG-23GENが、残った竜騎隊を、短射程のASRAAMとT75 20mmリボルバーカノンで掃討する為に、飛来し、目前を飛び去っていく。

「バケモノだッ! ワイバーンなんてモノではない……バケモノ……」

 ロウリア兵には、ただその光景を見上げながら、呟くか、逃げ惑うしかできなかった。

「パンドール将軍! 本陣の防陣にお入りください!! 外は危険です!!」

 参謀はその方が安全だと判断した。だがそれは裏目に出る。

 上空では、竜騎隊が、MiG-29、MiG-23に撃墜され、その()()がパンドール達の頭上に振ってくる。

 その時、ギム市街の東の端の方から、連続した爆発音が轟いてくる。

「敵襲━━━━ッ!!」

 監視兵が叫び、その監視兵も爆発に飲まれていく。

 ──これは……────

「空からも、まだ来るぞーッ」

 パンドールの目は、それに惹きつけられた。

 ──これは人の所業ではない……

『目標設定、敵拠点陣地』

『Bombs Away!!』

 ──世界を統べる力だ……────

 Su-22UGEの両翼から、イギリス・MBDA社のBANGシリーズを原型とする250kg爆弾が1機あたり12発、ドロップタンクもろとも切り離された。

「将軍! パンドール侯!! 伏せて、伏せてください!!」

 その言葉は、パンドールには届いていなかった。

 ──この力は……古代(ラヴァ)魔法(ーナル)帝国の力……復活……────

 次の瞬間、至近距離で炸裂した250kg爆弾が、パンドールの意識を永遠にかき消した。

 

 だが、これでギムへの反攻は終わっていない。

 BM-21と155mm榴弾砲が前哨陣地を文字通り粉砕し、戦車を先頭に、ギムのメインストリートになだれ込んでくる。

「敵に反撃の余地を与えるな!」

 ジュリア旅団長が、司令部中隊の、旅団旗を掲げたなびかせるBTR-4SEの車内から、無線で指示を出す。

「1時方向、敵射撃兵器!」

「撃てッ!!」

 ロウリア兵が構えようとしたバリ()スタ()に対し、エクスプレッセスティ軍の戦車の120mm滑腔砲が火を吹く。

 バリスタは、()()()()()ロウリア兵もろともバラバラになった。

「建物から、2階から射掛けるんだ!」

 一部のロウリア兵は、弓を持って建物の2階に上り、その窓からT-54-120に火矢を射掛けようとする。

「!!」

 だが、そのロウリア兵が弓を引き絞ったのと同時に、とてつもない破壊をもたらす大きな筒に対して、その基部に宿り木するような小さな筒を持ったそれが、その筒の先端を彼の方に向けた。

 ドガガガガガッ

 『Sarmat20』RWSのM621 20mm機銃が火を吹き、窓枠もろとも彼を粉砕した。

 やや大型のRWS、BM-7/20『Desna20』を装備したBTR-4SEが、20mmリボルバーカノンと、KT-243 6.2mm(.243 WSSM)機銃、それにオプションスナップに搭載された20mm機銃でロウリア兵の僅かな抵抗を薙ぎ払いながら進行する。この重武装と、水上能力と引き換えに10トン近い追加アーマーを設定できることとから、エクスプレッセスティでは本車を歩兵(I)(F)闘車(V)に位置づけていた。

 そして、それに続いて、 ────

「ロウリア兵は算を乱している! 抵抗する余力はないぞ!」

「装甲車に続けーッ! ギムを取り戻すんだ!!」

「ウォォォォォッ!!」

 ────槍を構えたクワ・トイネ中部方面騎士団所属の歩兵隊が進軍する。

 エクスプレッセスティの部隊が市街地内を掃討しつつ、広場より東側からロウリア兵を追い出すと、戦車が広場の東側の入口を塞いだ。

 そこへ、指揮車となっているBTR-4SEが、破壊された広場中央の噴水のところまでやってきた。

 サイドハッチが開き、クワ・トイネ中部方面騎士団々長代行・ウィータン副将が、ハンドマイク式の大型()子拡声(ラメ)()を抱えながら降り立つと、ロウリア兵に呼びかけるように言う。

『ロウリア兵の諸君!! 勝敗は決した! 命が惜しいものはギムから立ち去り、故郷に帰るがいい!! 逃げるものの背中は撃たない、それはクワ・トイネ公国中部方面騎士団として約束しよう!』

 エクスプレッセスティの陸軍隊員に、怒れるクワ・トイネ兵が続き、広場に集まってくる。

 まだ、偶に散発的に裏路地から銃声が聞こえる。

 エクスプレッセスティ-クワ・トイネ連合部隊の制圧エリアで、まだ細部に隠れ潜もうとするロウリア兵を、ギムの地理に明るいクワ・トイネ兵と共に、エクスプレッセスティの歩兵が捜索・掃討していた。

『ここは、クワ・トイネだ!! 未来永劫、ギムがクワ・トイネを離れることはない! クワ・トイネとして、クワ・トイネの為に、死ぬことができる者のみ、ギムの地に住まうことが許される!!』

 

 

 ────エムブラセクス国立大学附属エナジポリス病院。

 国内有数の病院の高度(H)(C)療室(U)。先程、集中(I)(C)療室(U)から移されたばかりのハタリアを、1人の少女が見ていた。

「…………」

 少女は、涙を零しそうになっていたが、やがて、何かを決意したように、顔をあげる。HCUエリアから立ち去ろうとする。その後ろを、フォーマルなスーツを来た女性が、付き添って歩いていった。

 




BM-7/20『Desna20』:
BTR-4SEの主砲塔として搭載される、ウクロボロンプロム・グループ製 Remote Weapon Station 。同社のカタログラインアップのBM-7『Desna』のユーザーカスタマイズ版。
 固定装備:
  T75 20mmリボルバーカノン×1
  KT-243 6.2mm(.243WSSM)機銃×1
  RK-3 対戦車ミサイル連装発射機×1
  オプションスナップ×1 (M621 20mm機銃もしくはGLG-40 40mm自動グレネード銃)

またこの40mmグレネードが陸自の96式と互換の40✕56mm弾仕様で……

拙作では割ときれいなアデム君でしたが、当初のプロットに打ってあったこの部分は結局こうなってしまいました。まぁ、女性ばかりの国があんなもん見たら、ねぇ?(ねぇじゃねぇよ)


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