フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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ジン・ハーク航空撃滅戦

 ギム。

 ロウリア軍が本陣として使っていた土地を、エクスプレッセスティ軍の施設隊員の、上着を(はだ)け男性モノのようなランニング姿の女性が、モーターグレーダーで均していく。

「滑走路を造っているのか?」

 鎧兜姿のクワ・トイネ兵が、それを見て、呟くようにそう言った。

「いや、滑走路じゃなくてヘリポートってやつだけらしい。戦闘機や攻撃機ってやつはエジェイからでもジン・ハークまで届くが、ヘリコプターっていうのはその半分くらいしか飛べないらしいな」

 別のクワ・トイネ兵が、そう答えた。

「って事は……ロウリア領内に攻め込むってことだな……」

「ロウリアが国として降伏しない以上、それしかないんだろう」

 2人がそんな会話をしていると、

「オーラーイ! オーラーイ! オーラーイ!」

 施設隊員の、若い女性の声が聞こえてくる。トレーラーが運んできた31ftタンクコンテナを、トップリフターが下ろし、並べている。

 エジェイでは何度も見た光景のはずだったが……

「……(にお)いが強いな」

 クワ・トイネ兵の片方が、少し怪訝そうにそう言った。

 確かに石油系燃料にありがちな、ベンゼン臭が漂っていたのだが────

「そうか? エジェイで嗅ぎ慣れた臭いだと思ってたけど……」

「いや、なんか少し違うみたいだぞ。警告の表示が少し強めだ」

 “火気厳禁”と、漢字と、この世界の世界共通文字で書かれていたが、確かにそれはエジェイの野戦飛行場のタンクコンテナにも見られたが、より強調して書かれていた。そして、カタカナでしか書かれていない文字があり、クワ・トイネ兵はそれを読めなかった。

 それは“ガソリン”と書かれていた。

「ところで、お前、それ気に入ったの?」

 2人のクワ・トイネ兵の片割れが、350mlスクリューキャップ・グラスボトル────エクスプレッセスティでは飲料の販売には使い切りのペットボトルが認められていない────それの栓を外して口につけようとした時、もう一方の兵が訊ねた。

「ああ、結構旨いじゃないか」

「そうかぁ……? 俺はどうも……」

「変わったやつだ」

 そう言いながら、彼は、『ドクターペッパー』の瓶に口をつけて、煽った。

 

 

 北ジン・ハーク港。海軍埠頭。

「目標設定、敵船団────小さい割に多数集まっていて、完全には定められません」

「じゃあ、マニュアルでいいでしょ」

 空母『ヴァルキュリア』攻撃飛行隊のMiG-29Hi/USが、爆撃進路を取る。

 ヘッドアップディスプレイと酸素マスクで隠れて解らないが、タンデム複座の後部座席のナオミ・アダム・ゲイダーマン少尉は、前席に座る機長のイリーナ・ルデレンコ中尉の言葉に辟易した表情になった。

 ──なぜそうなる。そもそも無誘導の爆弾なんだし、対象が対象なんだから、ピンポイントを狙うわけでもないのに……

 ナオミがうんざりしている間にも、イリーナは操縦桿を握りながら、片手を対地・対艦兵装用のタッチパッドに当てる。これは複座のMiG-29Hi/USとSu-22UGEにしか装備されていない。本来は操縦を担当していない側が操作するのだが────

「あーっはっはっは! ごきげんよう、ロウリア海軍の諸君! そしてさようなら!!」

 その瞬間、12発の250kg爆弾が切り離される。それは港湾内にあったロウリア海軍の艦船に命中する。対艦用ではなく、対地攻撃用の爆弾を浴び、何隻もの艦船が破砕され、また、燃え上がった。

 カン! カン! カン! カン!!

 イリーナ機の攻撃を受けてから、警鐘が鳴らされる。

「敵襲! 敵襲!!」

(フネ)から離れろ、艦を狙ってるぞ!!」

 ドッグワ、ゴワァァン……!!

 イリーナ機に続く3機、そしてBr-1050A/S攻撃機4機が爆弾を投下し、ロウリア海軍の艦船を次々に破壊し、燃やしていく。

「これは……エクスプレッセスティだ!」

「エクスプレッセスティが攻めてきたぞ!!」

 ロウリア海軍兵は、そう言いながら、惑いつつ艦船への攻撃に巻き込まれないよう、逃げることしかできなかった。

「王都騎士団本部に魔信を繋げ!」

 ロウリア海軍総指揮官のホエイル海将が言う。

 シャークンはロデニウス北東海戦での敗北の後、解任されてジン・ハーク城下町の自宅で謹慎を申し付けられていた。敗北そのものよりも、再編後の再出撃の命令に対し、「エクスプレッセスティ海軍には8,000隻の艦船と500騎の竜騎隊があっても勝てはしない」と言って抗命した事が更迭の理由だった。

 だが、今、北ジン・ハーク港にいないことは、シャークンにとって幸運と言えたかもしれないし、確実にその分ホエイルは不幸だった。

「海軍艦船が攻撃を受けている! 空からの攻撃に対応できない! 竜騎士団の支援を求む!」

 

 ジン・ハーク竜騎隊飛行場。

 官舎から出てきた竜騎兵が走り、厩務員と共にワイバーンの出撃準備に取り掛かる。

「新人! 出動命令だ! 急いで準備しろ、第2竜騎士隊は王都上空の防空にあたる!」

「了解!」

 この戦争が初陣となるジン・ハーク王都騎士団竜騎士、ターナケインは、その初陣の緊張と高揚感を持ちながら、隊舎から飛び出し、竜舎の自身の愛竜の元に向かう。

 ちょうど、その横で、海軍の要請で北ジン・ハーク港に向かう竜騎士隊が離陸していた。

「来たか新人」

 ターナケインのワイバーンに出撃の為の準備をさせていた厩務員長が、ターナケインに笑顔を向けた。

「あんたの竜は良く懐いとる、自信を持って飛べ!」

「ハイッ、ありがとうございます、厩務員長!」

 そして、装備を整えたターナケインは、愛竜に駆け寄る。

「行くぞ相棒! 俺達の初陣だ!!」

 ターナケインは鞍にまたがり、そこで魔信用のインカムが仕込まれた兜を被る。

『続いて第2竜騎士隊、離陸許可を許可する』

『了解。第2竜騎士隊ターナケイン、 ────行きます!!』

 

 

 北ジン・ハーク港上空、高度23,000ft(約7,000m)。

 “三美神(Three Graces)が戦乙女のような姿で雷光の剣(Sword of Thunderbolt)を構えている勇ましい姿”というジャパニーズアニメライクなノーズアートを入れた、Br-1050AEW空中早期警戒機のレーダースコープに、無数のフリ()ップ()が表示された。

「こちらグレイス1、ジン・ハーク方面よりUnknown多数!」

 オペレーターが、声でそう伝えつつ、クワ・トイネ派遣第2任務艦隊旗艦、駆逐艦『フェネシー』とのデータリンクシステムを操作する。

『了解。現時点でのUnknownをすべてEnemyに設定』

「了解」

 

 

「敵はおそらく、ジン・ハークまでの街道上に存在する、工業都市ビーズルを防衛線とすると思われる」

 ギム西側、ジン・ハーク攻略部隊集結地。

 エクスプレッセスティ陸軍ジン・ハーク攻略作戦部隊指揮官、ルイーゼ・ホフマン中将が、作戦訓示を行う。

「しかし、敵には我々と異なり、陸上機動装備はないと考えられる。また、ビーズルは内陸に位置するが、この北側は平原で、海岸線まで兵力の移動を阻害するような地形は存在しない。防衛側には不向きな地形で、ここには戦力が配置されていないか、あったとしても限定的と思われる。そこで、我々は無用の戦闘による非戦闘員への被害を抑えるため、ビーズルを避けて海岸側を進行する」

 ルイーゼがそこまで説明した時、インカムに通信が入ってきた。

『クワ・トイネ方面展開中の全部隊へ。こちら作戦統括本部。北ジン・ハーク港攻撃は成功。各部隊は次の行程に入られたし』

「陸ギム西了解」

 ルイーゼは胸元のPTTスイッチを押しながらインカムのマイクへと返答を告げた後、

「陸上本隊はジン・ハーク東の平原に進出し、そこでロウリア王都騎士団を待ち受ける! 第1旅団はすでにロウリア軍と戦闘を経験していると思うが、徴兵中心のクワ・トイネ侵攻部隊とは異なり、装備は中世程度とは言え士気の高い部隊になる。心してかかれ! 以上、行動開始!!」

 第5空中(V)機動(D)旅団(V)々長 イクル・アンジェリカ・ナカムラ准将、そして第1旅団々長 ジュリア・フェラーロ准将が、各々の部隊に駆けていく。

「第5空中機動旅団、前進!」

「第1旅団、前進!」

 第5空中機動旅団は、以前説明した、旧ソ連型VDVの概念を取り入れた“精鋭部隊”だ。主力戦車はT-64-120が配備されている。

 T-64-120は、これもやはり旧ソ連構成国から譲り受けたT-64にT-54-120とほぼ同じ内容のアップデートパッケージを適用したもの。ベース車で言えば完全に骨董品であるT-54に比べるとまだ現用戦車と戦えないこともない性能ではあるが……

 乗員にもっとも重要視されるのはT-54・T-55で問題になったトランスミッション固渋問題だが、T-64の場合は横置き対向ピストン型2ストロークエンジンから、T-64-120ではV6型4ストロークエンジンに載せ替えるために、トランスミッション自体を交換している(と、言ってもシフトリンケージに空気倍力装置が付いているT-62の発生品なのだが)ため、“操縦助手”は必要としなくなった。

 ただし、“操縦助手席”自体は残されていると言うか、追加された。これは、上位の指揮官やゲストが乗車する時、T-54-120のチームが緊急時にT-64-120に乗車する時、これらの考慮。それと、イスラエルが『メルカバ』戦車(Main Battle Tank)開発の際に、戦車の生存率を考えた際に4名乗車が望ましい、とした事などが理由としてある。スペースについては原型のT-64が悪名高い砲塔外周弾倉を採用していたのに対し、改修後のT-64-120はT-54-120と同じ砲塔を載せているため、自動装填装置が外に出た分のスペースを活用した形である。なので、男性の兵士が乗るとかなり狭い。

 ここでついでに説明してしまうと、エクスプレッセスティ国防軍にとっては非合法武装集団が差し迫った脅威であるため、装甲車両は迅速な展開が可能な装輪車両が優先され、戦車は後回しにされがちではある。

 とは言え、いくらアップデートされているとは言え流石にT-64とT-54では能力不足が目立つため、2020年頃からウクライナ製の新鋭戦車T-84BMのNATO弾仕様型、T-84-120『ヤハターン』の導入に向けて交渉が続けられていたが、合意、納入となった時点で2022ウクライナ・ロシア戦争が勃発。出荷寸前のエクスプレッセスティ向けT-84-120はその全数がウクライナへの供与扱いとなった。

 

 ────閑話休題。

 警戒の為、BTR-4SEや、その車台に照準用レーダー受信機一体のT75 20mmリボルバーカノン2門、『ミストラル』近SAM(近距離対空ミサイル)発射機連装2基のガン・コンプレックス砲塔と、車体後部にレーダー波送信・警戒レーダー受信用バランスバーアンテナ、車内にレーダー用補助電源としてSUBARU ロビンのライセンス品である空冷ケロシンエンジン2基を搭載する2K015自走対空砲を伴走させながら、この段階では車両で移動する機械化歩兵を先行させ、戦車はトレーラーに乗せられた状態で西進する。

 このトレーラーも、トレーラーそのものは共通だが、牽引するトラクターヘッドは第1旅団が国内で迅速に展開するためにややオンロード向け(と言っても、ロウリア東部の平原を走行する分には問題はないが)のディオナトラAWD、第5空中機動旅団のそれはガッツリオフロードを意識したウクライナ製KrAZ-6446 (ただし、KrAZの純正設定にはない三菱8DC2Sスーパーチャージドディーゼルエンジン仕様)となっている。

 

 

 ジン・ハーク上空。

 第2竜騎士隊の竜騎隊が、警戒しつつも、どこかゆったりと旋回している。

「なんて壮観な眺めなんだ……」

 ターナケインは兜のケインを開けて、その眺望を堪能していた。

「お前も滾るだろ、相棒!」

「クゥン」

 すると、第2竜騎士隊々長が、ターナケインを気遣ってか、彼に近寄ってきた。

『新人! 王都防衛は竜騎士隊の花形だ。無様は晒せんぞ』

『ハイッ! どのような敵が来ようとも退けてみせます!!』

 魔信で2人はそうやりとりし、ターナケインは意気を上げていた。

 

 ────だが。

 

 その頃、ターナケイン達の視界に捉えられない位置から、旧ソ連型戦闘機として、人によっては第4世代ジェット戦闘機としてもっとも美しいとも言われるMiG-29GEの翼から、『ミーティア』中射程AAMを発射していた────

 

 ────ボンッ

「!?」

 それは、ターナケインにとっては、突然起きた事象のように見えた。最初は味方同士の空中衝突かとすら思った。

 光を放ちながら迫るそれが、次々に竜騎隊を“破壊”していく。

 その爆発音が、同時に、無数に起きた時────

 ギュンッ!

「うわぁっ!!」

 ターナケインの愛竜は、その爆発する何かが迫る方から逃げ出すように、急降下した。

「おい、勝手に動くな! 相棒! 王都上空に戻れ!!」

 ターナケインの手綱捌きにまったく反応せず、ロウリア竜騎隊の急降下速度制限を超えて降下した。

「うわぁあぁぁぁぁっ!!」

 視界の中、正面で急速に迫る大地に、ターナケインが一瞬、最悪の事態を覚悟しかけた時、彼の愛竜は翼を動かして、降下速度を殺した。

 ズサァッ!!

 減速した竜は胴体着陸し、その衝撃でターナケインは地面に放り出され、転がった。

 

 その時、エジェイ野戦飛行場から飛来したMiG-29GE 4機とMiG-23GEN 2機は、ASRAAMと20mmリボルバーカノンでの(ドッ)(グファ)(イト)を挑もうとしているところだった。

「魔力反応もなしに……到底見えぬ位置から攻撃してくるというのか!? 小さく動くワイバーンに対して!?」

 ヤミレイは、自軍の竜騎隊が次々撃墜されていくという信じ難い光景に、そう言って唸る。

 だが、そうしてばかりもいられない。

『こちら第9監視塔、西北西2時方向より敵騎侵入!』

「来たかッ!」

 魔信での通達に、ヤミレイの表情が精悍なものになる。

「相手は古代魔法帝国ではない……否、仮にそうだとしても王宮魔導師団として竜騎隊ばかりに犠牲は強いて居られん!」

 ヤミレイは言い、杖を構える。

「構えッ!」

 ヤミレイに倣い、城壁上に並んだ王宮魔導師団が魔法発動体である杖を構える。

「詠唱ッ!」

 ヒィイィィィィンッ……ドゴォオォォォン!!

 MiG-29GEが、ヤミレイ達の頭上を通過していく。

 『ミーティア』での初撃をかいくぐり、導力火炎弾を放とうとした竜騎隊の追尾を振り切るため、安全高度ギリギリでアフターバーナーに点火した。轟音が風を切り裂く。

 ──駄目だ、詠唱が間に合わない!

 ──なんだ、この衝撃はッ!!

 内心で取り乱す魔導師も現れ始めたが、

 ──心を乱すな、続けよッ!

 ヤミレイが精神に呼びかけ、詠唱を続けさせる。

『同方向、続いて2騎ッ!』

 ──来たかッ!!

 カッ、とヤミレイが目を見開く。

 ──喰らえ!

「ファイアーボール!!」

 だが、その時迫ってきていたMiG-23GENは、軽く身を翻し、そのヤミレイ達の放った火線から逃れる。

 ゴォワァァッ

 2機のMiG-23GENは機首を上げながらアフターバーナーに点火、エンジン出力による力技の急上昇を行う。

 ──駄目だ、速すぎるッ

 ──これは!? まずいッ

 ヤミレイの胸中で驚愕の声を上げる。しかし、同時にエクスプレッセスティ側も衝撃を受けていた。

『敵は“ファイアーボール”を使う! 陸上部隊は輸送隊への襲撃の警戒を!!』

 やや高い高度からジン・ハーク上空に侵入したMiG-29GEの搭乗員は、ヤミレイ達の放ったファイアーボールを見て、すぐに移動管制塔に一報を入れた。

 ──冗談じゃないわ!杖1本だけであんなものを放たれて────燃料ローリーや弾薬車に撃ち込まれたら大惨事よッ!!

 

 ドゴォッ!!

 MiG-23GENがアフターバーナーに点火した時の衝撃は、大王の浴場まで響いてきていた。

「なにが起きているというのだ……」

 まだ、自身はエクスプレッセスティ軍がもたらしている物をざっくりとしか掴んでいないハーク34世は、外のけたたましさに、古代ヨーロッパ風の様式の浴場から、その様子を伺おうとする。

 その時、視界に1騎の竜騎隊が飛び込んできた────次の瞬間。

「!?」

 ハーク34世の顔が凍りつき、一瞬、身体全体が硬直する。

 ワイバーンの身体が何度も弾けるように空中でのたうったかと思うと、騎乗する兵士もろとも血と肉の塊となって落ちていく。

 そしてその直後、ハーク34世の視界を、MiG-23GENが亜音速で横切った。

 

「くそっ……」

 ターナケインは、僅かな間の意識の混濁から回復すると、一度兜を外し、軋む身体を起き上がらせる。

「一体何が……どうなってるんだ……!」

 ターナケインが空を見上げると、自分達が守るべきその場所で、竜騎士達がわずか6騎の敵に追い回され、爆ぜ、落ちていくのが、嫌でも視界に捉えられた。

 




『ヴァルキュリア』搭載のBr-1050AEWに描かれているノーズアートのイメージ(あくまでね)がこちら。
(公開休止中)
実はエクスプレッセスティ共和国の旧い設定では空中早期警戒機が「E-2Cの3発型」という愉快設定になっていたのが、ヴァルキュリアの大きさからしてこりゃ無理だとなって変更された時の名残です。

評価や感想など、具体的な反応があれば、続きを書くことがはかどります。TwitterでもOK。

https://twitter.com/kaonohito2
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