「ったーく、せっかくなら
「それが作戦なんだからしょうがないじゃないですか」
空母ヴァルキュリア。
イリーナが再出撃の準備をしている。グローブを嵌めながらグチグチというイリーナを、ペアのナオミが嗜める。
「私達の作戦目標は、敵航空戦力の吸引・分散・撃滅。港湾攻撃はそのための初手で、初撃以降は敵艦と港湾施設の無力化は味方水上艦に引き継ぐ」
空母ヴァルキュリアの、クワ・トイネ訪問の際の定数はMiG-29Hi/S艦上戦闘機12、MiG-29Hi/US艦上戦闘攻撃機12、Mi-17An(Bo)/D-S哨戒ヘリコプター3機、Br-1050AEW艦上空中早期警戒機3機、Ka-26An/D多目的ヘリコプター2機。
しかし、現在は軽攻撃機のBr-1050A/S 2個小隊8機を搭載しているため、MiG-29Hi/Sの戦闘飛行隊2個小隊8機を降ろしており、1個小隊4機だけでは流石に手が足りない。
しかし主に攻撃機としての運用を想定している複座型のMiG-29Hi/USも空戦性能はあるし、搭乗員は空戦の訓練も一通り受けている。ワイバーン相手程度ならオーバーキルもいいところだった。
なので、イリーナ機の2度目の出撃は、AAMを搭載しての北ジン・ハーク港上空での制空任務となっていた。
「それは解ってるけどさー、っていうか、だったらナオミが前席やりなさいよー」
イリーナは、なおも不満そうに、ヤブニラミの目でナオミを見ながら言う。
イリーナは、 …………はっきり言って生粋の爆撃屋。しかもミサイルは簡単に当たるのでつまらん、という
先程の港湾攻撃でも、実際目的と、目標の脆弱さから考えればそんな必要もないのに、武装帆船に250kg爆弾を直撃させている。まぁ、流石に12発全弾直撃というわけではないのだが。
「第二次世界大戦時に男として生まれていたら確実に英雄になっていた」
そういう評価があるのは事実なのだが、一方で制空任務や
「いいですよ」
今もむくれっ面のイリーナに対し、ナオミはあっさりとそう言った。
そして、自身の胸元に付いていた、インカムのPTTスイッチを押す。
「あー、飛行団長をお願いします」
「あ、ちょ、ちょ、ちょ、やっぱ今のナシ!」
冷静に物事を進めようとするナオミに対して、イリーナは、慌てた様子でバタバタと手を振った。
「じゃあ、行きますね?」
「い、行きます行きます」
逆に、ナオミの方が、睨むような視線をイリーナに向けながら言うと、イリーナは、誤魔化すように笑いながらそう言った。
実際の所、イリーナにとっては撃てるなら
『ナオミ少尉、どうかした?』
艦内通信用の周波数から、空母飛行団長ユキナ・サム・ゴヤ中佐が問いかけてくる。
「いえ、解決しましたので」
ナオミが返答すると、
『ああ、
と、ユキナの呆れたような声が返ってきた。
「はい」
つまり、ナオミの先程の行為は“やったフリ”ではないのだ。爆撃のセンスが別の形で働くのか、
こんな感じで、ナオミは扱いにくいイリーナを上手く扱ってくれるから、セットにされている。
ちなみにイリーナはウクライナルーツ、ナオミはアメリカ日系人ルーツなのだが、姓を辿るとどちらもドイツにたどり着く系譜がある。
『こちらスクルド1、発艦許可願う』
『
蒸気カタパルトが作動し、イリーナ機を射出した。
「わざわざ貴重なミサイル使わなくても、あの2人の掛け合い録音してバラ撒けば、ロウリア軍もバカバカしくなって戦争やめるんじゃない?」
「否定しない……」
ヴァルキュリアCICで、艦長チャオ・エミリー・ヴー大佐の軽口に、ユキナが頭を抱えていた。
そんなやり取りがなされているなど、もちろんロウリア軍が知る由もなく。
「恨みはないけど、アンタ達が飛んでる間は爆撃ができないからね、Abschied」
すでに『ミーティア』を撃ち尽くし、ASRAAMの攻撃レンジまで迫っている。
イリーナは、そう呟きつつ、ヘッドアップディスプレイの中でロックオンの表示が踊った瞬間、哀れな竜騎士に向かってASRAAMを発射する。
イリーナがウェポンセレクタをリボルバーカノンに設定した時、すでに視界内にも、レーダー走査範囲内にも、“Enemy”のシンボルは残っていなかった。
『グレイス1、北ジン・ハーク港上空のEnemyはクリア、北ジン・ハーク港上空のEnemyはクリア』
「チッ、せめてガンは使わせてほしいわね。ミサイルはほーんとつまんない」
「機長」
イリーナがぼやいたところで、機内インカム越しにナオミが窘めた。
「解ってるって。マザー1、こちらスクルド1、
北ジン・ハーク港の上空を蹂躙し、100を超える数のワイバーンをすべて片付けたMiG-29艦上型が、引き上げにかかる。
「バッ……」
最初のイリーナ達の強襲の跡が残り、あるいはまだ火が燻り煙が上がっている中、ホエイルは悠々と引き上げていくMiG-29を見上げながら、呆然としてしまっていた。
「バカな……────」
MiG-29が芥子粒ほどにも見えなくなってから、ホエイルはようやく声を絞り出した。
「シャークンの言っていた事は本当だった……────」
『信じられないなら信じないでそれでいい!! だが、確実に言える! エクスプレッセスティを女だけの国だという思い込みを捨てろ!! やつらの武力はパーパルディアなんてもんじゃない! ましてや我がロウリアが8,000隻の船、500騎の竜騎隊を用意しても、到底勝てる相手ではない!! 儂は
「き、来たぁあぁぁぁっ!!」
単眼式望遠鏡で、MiG-29が引き上げていった方角を監視していた水兵が、声を上げた。
「エクスプレッセスティの鉄船だぁあぁぁぁっ!!」
「か、貸せっ!」
ホエイルは、恐慌状態になって立ち尽くした水兵から望遠鏡をひったくり、その方角を向けて覗いた。
「駄目だっ、この距離、もう遅い!!」
ホエイルに望遠鏡をひったくられた水兵が、声を上げる。
「逃げろーッ! みんな、逃げるんだっ!! こちらからできることはなにもない! 逃げろーッ!!」
その水兵は、ロデニウス北東沖海戦に参加していた者だった。
ドゴ━━━━ッ!!
100mm砲弾が、ホエイルの目と鼻の先に停泊していた武装艦を、ただの1発で粉砕した。
──これがっ、これが……ッ!!
「無傷な艦艇は見えません。港湾施設に目標を変更します」
駆逐艦ヴェネレイト CIC。
「了解」
ヴェネレイト艦長、サキ・イザベラ・フクダ中佐が告げると、指揮官席の
「ああ、灯台は当てないで。どうせ後始末エク
「了解」
サキ艦長と、オペレーターが同時に返答した。
100mm砲、57mm砲が、ロウリア海軍を文字通り灰燼に帰していく。
──どうする……どうすれば!? 考えろ……考えるんだっ!!
ホエイルは、何かしらの手が打てるのではないかと、思考をフル回転させた。
その時間は2分もなかったが、ホエイル自身にはその十倍以上に感じられた。なのに、何もかもがもどかしいようにゆっくりと動く感覚に陥っていた。
──どうすれば……そうだ……ッ────
ホエイルが何かを思いついたのか、それとも現実逃避しかけたのか、それを検証することは不可能だった。
その瞬間、複数の57mm砲弾が彼の足元に着弾した。
それから数分と経たずに、ロウリア海軍は事実上、全戦力を喪失した。
ジン・ハーク。陽が傾き始めた頃。
「動いてくれよ! もう敵はいないだろ!」
城壁の外でターナケインが、愛竜の手綱を引くが、彼の愛竜は動こうとしない。
「動け! 相棒!!」
しばらく、力任せに手綱を引いていたターナケインだったが、本当に動こうとしない愛竜を無理に動かすのは危険と考え、一段落して厩務員が探しに来てくれるのを待つか、あるいは魔信で救援を呼ぶか、と思い、自身も城壁にもたれかかるようにして一息ついた。
ターナケインは、自身が竜騎士を目指した経緯、そして、今日感じた信じられない出来事を思い出していた。
……………………
…………
……
まだ幼かったターナケインは、その日、家族とともに木苺摘みに、故郷の村落の近くの森を訪れていた。
彼は、木苺を摘むことに夢中になりすぎて、親からはぐれてしまった。
そして────
森の木蔭から、はぐれ魔獣が姿を表した。
走って、走って、どちらへ向かっているのかも解らないが、とにかく走って逃げた。
だが、脚がもつれて、蹴躓きかけた。
背後を振り返ると、その直ぐ傍に魔獣の姿。
──もう駄目だ、と思った。
その時。
ゴワッ!
ゴォッ!!
森の枝をかき分けて、はぐれ魔獣の警戒に当たっていた、王都竜騎士団の竜騎士が現れた。
火炎弾で、魔獣をいとも簡単に打倒し、力強く羽ばたいて、飛び去っていった。
──それが、最高にカッコよかった。
だから、親に申し訳ないとも思ったが、故郷を離れ、王都の騎士団の門を叩いた。
親も、親不孝だなんてとんでもない、立派な竜騎士になるのならば、と快く送り出してくれた。
それから、厳しい
最初に、訓練官とともに空に上がった時の興奮は、今でも忘れることができない。
そして、────
「そのお前が、怯えている……」
──空の王者たる
空を見上げた。
あれだけ激しく響いていた、空の戦いの音が、いつしか静かになっていた。
「あ…………」
敵のM
わずかな数で、王都の空を蹂躙し、次々と飛竜を屠っていった、敵の竜。
「美しい……な……」
ターナケインはしかし、憎むべきはずの敵の鉄竜に対し、そう呟いていた。
少年の頃、飛竜に求めた“格好良さ”とは、また異なる感想だった。
豪快に風を掴む
流れるように風を切り裂く、その流美な姿。
「女性しかいない国……か……」
今は敵だ。それを
だが、戦争が終わった時、自分が生きていたら、あの竜に会うことができるだろうか……
「おーい!」
声をかけられて、ターナケインは我に返った。
「おい無事か!? 所属は!?」
王都騎士団の軽装歩兵が近づいてくる。
ターナケインも、慌てて身を起こした。
「第2竜騎士隊ターナケインです。連絡遅れてすみません。ケガはないです」
ターナケインはそう答えた。
「飛竜も無事とは、幸運だったな」
2人組の歩兵は、ターナケインにもワイバーンにもケガらしいケガがないことを確認して、どこか安堵したように言った。
「いえ……自分の騎乗が未熟だったために戦域を離脱してしまって────」
申し訳無さと気まずさを表情に出しながら、ターナケインはそう言った。
「戻ったら始末書ですよ……」
「いや」
ターナケインの言葉に、中年男性の歩兵は、妙に緊張した表情で言う。
「多分、その心配はしなくていい」
「え?」
その言葉に、ターナケインは場違いにも、気の抜けた声を出してしまっていた。
「落ち着いて聞いてくれ……────」
その次の言葉を聞いた時、ターナケインは、一瞬、その言葉を理解できなかった。
頭が理解することを拒んだ。
「王都の竜騎士団は、君を除いてすべて撃墜されたよ」
「バカなッ!」
ターナケインは、思わず中年歩兵の両肩を掴んでしまっていた。
「そんなバカなッ、150騎ですよ!? たとえ列強国が相手でも全滅するなんてありえない!!」
確かに────
確かに、
風を裂き、空を割く、流美でありながら無駄のない身体。
それに反して、大気を轟かせ、飛竜を悠々と引き離す秘めたる力。
だが、だからと言って────
相手の両手で数えられるか否かという数に対し、こちらは150騎。
ようやく騎士の端くれになったターナケインにも、それぐらいは計算できる。
常識で考えれば、「ありえない」。
このままでは敵わぬと見て、体勢を立て直すために一度離脱した騎もいるんじゃないのか。
自分も、不本意だったとは言え、結果的にそうなった。
────だが。
現実は非情だった。
彼が隊舎に戻っても、厩務員など地上要員だけで、竜騎士は誰ひとりとして返ってこなかった。
団長も、隊長も、尊敬すべき先輩達も。
竜舎も、ただ、ターナケイン騎だけを残して、カラになっていた。
ちょっとだけ(解る人にだけ解る)ネタバレと言うか、隠し設定のヒント。
イリーナのフルネームは英字表記だと、
“Iryna Rudelenko”
ナオミのフルネームは同様に、
“Naomi Adam Gadermann”
まぁ今回の本文、ドイツルーツの爆撃屋コンビってことでもう気付かれている方もおられるかと思います。
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https://twitter.com/kaonohito2