フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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決戦 ジン・ハーク Part.I

 ジン・ハーク王宮、軍議の間。

「今日の戦でいったい何が起きたのだ!? 誰か説明できるものはおらぬのか!!」

 パタジンが問いかける。

「些細なことでもよい、遠慮なく発言してくれ!!」

 すると、情報部長がおずおずと発言し始める。

「か……海軍は司令部施設もろとも壊滅……ホエイル海将以下司令部要員は行方不明で……生き残りの兵達も言っている事は支離滅裂で、情報を精査できていません……」

「悔しいが我々の魔法は()()には当たらん。速すぎる」

 続いて、ヤミレイが、どこか淡々とした様子で、自分の認識している事実を告げた。

「陸軍王都騎士団は健在ではあるが……竜騎隊なしでは心許ない……」

 そこまで発言があった時、パタジンが視線をそちらに移すと、室内にもかかわらず、フードを深く被ったままの2人組が、他の参加者に聞こえないような小声で囁き合っているのが見えた。

「パーパルディア皇国の使者ど……」

「マオス閣下、それは要りません」

 マオスが、その2人組に声をかけかけた時、その声が遮った。

 他のメンバーが、その声の主に視線を向けた。

「パーパルディアの援助があったところで確実に勝てん。飛竜を寄越してもらったところで、貴重な竜騎兵候補生を死なせるだけだ。だったら現有戦力だけでなんとかする事を考えた方がいい」

 そう言ったのは、謹慎を解かれ、この軍議に参加していたシャークンだった。

 シャークンにそう言われた、“パーパルディア皇国の使者”は、ぶるぶると拳を震わせた。

「……そこまで言うのなら好きにすればよい」

 どこか震えたような声で、“パーパルディア皇国の使者”は言い始める。

「ロデニウス大陸統一による()()()を信じて、危ない橋を渡ってまで貴君らに投資した結果がこれだ……我々は“帳尻合わせ”に忙しいというのに、そのような発言をされるのでは、我々としても協力する気すら起きん。我々は引き上げさせてもらう」

 彼らはそう言うと、乱暴に椅子を蹴って立ち上がり、

「これにて失礼」

 と、議場をさっさと退出していった。

「…………そう言ったのはいいが、どのように対処するというのだ? シャークン海将」

 “パーパルディア皇国の使者”が退出して行った後で、パタジンが険しい表情を向けて、シャークンに問いただす。

「海兵の自分がどこまで判断できるか解らぬが……ジン・ハークを落とそうとするならば歩兵を投入しないわけには行かぬだろう?」

「! そうか!!」

 シャークンの言葉で、パタジンが閃いた。

「いくら機動力と射程に優れた武器、武具があっても、歩兵なしでの進撃は考えられん! と、なればこちらは、騎兵の機動力を活かして、乱戦に持ち込めば良い────と言うことか!」

「確かに!!」

 ヤミレイも目を見開く。

「なまじ破壊力が大きいが故に、敵味方入り乱れている状況では使う事ができない!!」

「そうなれば……奇襲さえ受けなければ……」

「王都騎士団の練度と士気で、彼我の戦力差を埋められる!!」

 他の軍議メンバーも、ざわつくようにそう言い始めた。

「それならば────王都侵攻を防げるかも知れん」

 

 

 ビーズル。

 クイラとの境界線となる山地の、ロウリア側の麓にあるここは、鉄鉱山を持ち、鉄器を生産する工業都市である。

 そのビーズルを防衛するため、ロアリア王都騎士団は戦力を集結させていた。敵の“鉄竜”から目立たないように、夜間を選んで。

 グォオォォォン……

「何かが飛んでいるな……」

 ロウリア軍の中隊指揮官が、その音に気づいて、夜空を見上げた。

 味方ではない。ワイバーンは飛行中にこんな音はたてないし、知らされているところだと竜騎士団は壊滅的な被害を受けたともされている。

「夜ならば相手の目を眩ませると思ったが、それは期待しない方がいい様だな……」

「望むところだ」

 別の指揮官が言う。

「俺達の任務は、連中をここに引き付け、王都騎士団の騎馬隊が突撃する猶予を稼ぐことだ」

 そう言いながら、彼らはビーズルの守りを固めるため、兵力を集結させつつあった。

 ────その様子を、エクスプレッセスティ軍のXUAV-2が探っていた。

 

 

 ビーズル北西部の平原、エクスプレッセスティ軍野営地。

 天幕の中、ルイーゼ中将は、外務省でも使われている、トランク型ポータブルパソコンで、ギムに展開する支援部隊からの送られてくる情報を受け取っていた。

「ビーズルに敵軍が集結中……か」

「こちらの思惑通りに動いているようですね」

 ルイーゼの呟きに、副官が明るい声で答えた。

「なにか気にかかることでも?」

「いえ、特にそういうわけでもないのだけれど」

 副官の問いかけに、ルイーゼはそう言いながら、パソコンを休止状態に入れた。

 エクスプレッセスティ陸軍は、部隊の単位についてはウクライナ軍を範として旧ソ連型の概念を取り入れてはいるが、部隊そのものの構成は陸上自衛隊を範としていて、それはつまり西側型、航空戦力のカバーの下で攻勢をかけることを前提として編成されている。

 だが、今回の作戦ではそれはない。エジェイの野戦飛行場は急造でキャパシティが少なく、常時戦闘機を貼り付けておく事はできない。

 それに、作戦の意図があって、陸戦の最中は、敵をそちらに集中させ、空に意識が向かないようにする、という必要があった。

 その為、陸上作戦に先んじて航空撃滅戦を展開し、先にロウリア竜騎隊を完全に無力化した、のだが────

 ルイーゼは、エアカバーが得られない事に対する緊張だと認識した。

 だが、ワイバーンの能力は限られている。守勢の際に敵の航空攻撃を退ける為の自走対空砲小隊も編成に加わっているから、それで充分に対応可能なはずと再認識した。

 パソコンを格納すると、用意されていた、すっかり冷めた夕食に手をつけることにした。

 

 

 ジン・ハーク城。玉座の間の前、近衛の間。

 パタジンが、ハーク34世に報告するためにそこを歩いていると、近衛隊長のランドとすれ違った。

「流石に王城は落ちんだろう?」

「解らん……万一の時は貴君ら近衛隊に大王様を託す。なんとしても大王様だけは死守するんだ」

 する違い際のランドの問いかけに、パタジンは、淡々とした口調でそれだけ言って、玉座の間に入っていった。

 玉座には、バスローブ姿、入浴直後の湿気を保っているハーク・ロウリア34世が、どっかりと座り、腕を組んでいた。

 ──このお方なくして、ロウリアは収まらん。失うわけにはいかんのだッ。

 パタジンはハーク34世に傅きながら、そう決意を固めていた。

「大王様、報告申し上げます」

 パタジンは、決して楽観的な様子は見せず、ハーク34世に告げ始める。

「エクスプレッセスティ共和国の魔導兵器による攻撃により────我軍は北ジン・ハーク港の海軍戦力とその施設を(うしな)い、竜騎士団も壊滅しました」

 パタジンの表情は、深刻そうなものだったが、それを聞いて尚、ハーク34世は動じる様子を見せなかった。

「今後おそらく、敵は陸上戦力で侵攻してくるでしょう……ですが、そうなれば歩兵の展開は不可欠です。そこで我が軍は、街道上のビーズル周辺に伏兵を展開し、一気に乱戦に持ち込むことで、敵の魔導兵器、機動兵器の行使を困難にし、犠牲を強いて、王都への進軍を阻止します」

「…………この状況にあって、諸侯は何をしている? まだ集めれば30万から40万の兵力を抽出できるはずだが」

 ハーク34世は、パタジンの報告した作戦については否定せず、ただ、そう聞き返した。

「は……再招聘には応じず、物見を決め込んでいるようです」

 パタジンは、流石に言いにくそうにしつつも、そう告げた。

「……王都に住まう諸侯の子息子女を軟禁し幽閉せよ。混乱に乗じ秩序を乱すやも知れん」

「はッ!」

 ハーク34世の命に対し、パタジンははっきりと応答した。

「実際の作戦については諸君らに一任する。最善を尽くし王都を防衛せよ」

「しかと承りました!!」

「うむ、下がって良い」

 ハーク34世がそう告げると、パタジンは玉座の間を後にした。

 人払いしてある、自分以外無人となった室内で、始めてハーク34世は怯える姿を見せた。

 ハーク34世の脳裏で、その時の光景が蘇る。

 ──余は見た、全身が爆ぜ、落とされる飛竜を────

 数発の20mm弾で原型を留めない肉塊となった竜騎士が、大地に叩きつけられる。

 ──王都を包み込むほどの轟音と、その姿を────

 竜騎士を追って降下したMiG-23GENが、竜騎隊に対する位置的優位を取り戻すため、アフターバーナー燃焼中のエンジンを全開にして、その出力で力任せに上昇する。

 ──ああ…………

 ハーク34世は、パタジンらには絶対に見せられないと知りつつも、恐怖に慄いて頭を抱えた。

 ──ああ、なんと恐ろしい…………

 

 

「────各員に再度訓示する」

 野営地を引き払い、進軍の準備を終えつつある部隊に、ルイーゼは無線で訓示を行う。

「クワ・トイネとの交易、農産物の収入は、転移後の我が国にとっての生命線となっている。なにより、『力による現状変更は認めない』我が国のこの立場を示す為の重要な戦いとなる。各員ともこの事は胸に刻まれていると思う」

『司令、お言葉ですが────』

 無線に、反論が割り込んできた。

『私としては、早くチョコレートが転移前の値段に戻って欲しいので、この作戦に参加していますが』

 その内容に、何人かが吹き出したが、ルイーゼは至極真剣な表情と口調のまま、再度PTTスイッチを押し、問いかける。

「それは、貴君にとって命を賭ける程のものか?」

『もちろんです! チョコレートのない生活なんて、生きている意味が半減します』

 その答えを聞いて、ルイーゼは口元に笑みを浮かべた。

「大変結構! 各員、この戦いに意義を見出だせるならば、その意義のために全力を尽くせ。できないならばその程度の想いということになる。ただし! 私達が淑女である事を忘れる事は無いように。以上! 総員、戦闘行動開始!!」

『第5空中機動旅団、前進!』

『第1旅団、前進!』

 T-64-120の三菱重工製V6スーパーチャージドディーゼルエンジンが咆哮を上げる。第5空中機動旅団の戦車中隊を先頭に、前進を始める。

 前進するエクスプレッセスティ軍部隊だが、その周囲は、そこまで濃くはない霧に包まれていた。

 

 その、ジン・ハーク外城壁、第17監視塔。

「ふぁぁ……眠い」

 1人のロウリア軍兵士が、その見張り台に上がってくる。

「交代の時間だぜ」

 塔の外壁に、身を乗り出しかけながら張り付いている別の見張り兵に、彼はそう声をかけた。

「ちょっと待て……」

 その、声をかけられた方の見張り兵は、単眼式望遠鏡を覗き込みながら、少し丘陵になっている場所に、それを見つけていた。

「何か動いている……」

「なに?」

「なんだ……あれは……」

 はっきりとそれが姿を現す。巨大な、何かわからないが攻撃兵器らしい物を搭載した何かが、こちらに向かってくる。

「敵だ! 破城槌らしきものを持っているぞッ!! 騎士団本部に報告するんだッ!」

 望遠鏡を覗いていた方の兵士が、振り返ってそう言うと、交代に上がってきていた方の兵士が、素早く取って返し、魔導通信装置の回線を開き、集音器に声を上げる。

「こちら第17監視塔、東正面より約4kmの丘陵地点に敵部隊確認、攻城兵器多数を伴い、なおも接近中!!」

 

「そろそろ仕掛けて、敵さんおびき寄せようか」

 数km先のジン・ハークの城塞が隠れる程、霧は濃くない。戦車中隊の指揮官は、双眼鏡でそれを確認すると、そう言った。

「リンクス1よりトム、敵城壁への攻撃許可願う」

『トムよりリンクス1、城壁内への着弾を避けよ。攻撃を許可する』

 ルイーゼ直下の独立司令部隊へ問いかけ、その返答を得られると、そのT-64-120が停車する。

「本車以外は、続けて敵城塞に向けて進行せよ!」

 無線のPTTボタンを押しながらそう行ってから、それから手を離す。自動的にインカムの回路が車内通信のものに切り替わる。

「射撃準備! 装填、(H)(E)!」

 旧ソ連型戦車は、西側型戦車と運用コンセプトが異なる。ソビエト赤軍の戦術として、進軍前にスチームローラーとも称される制圧射撃で敵の戦力を削いでから進撃する、という手順があった。

 そして、その制圧射撃には砲兵だけではなく、戦車も参加する。

 この為、高速弾による直射に特化した西側型戦車に対し、旧ソ連型戦車は、曲射による長射程射撃を可能としている。旧ソ連型とその系譜に当たるT-84系の砲塔の天蓋部分の、主砲上部に大きな切り欠きがあるのは、このためである。

「目標、城塞外側の壁の塔! 外したら給料なくなるよ!」

「解ってるって!」

「じゃあ、照準出来次第、撃て!」

「了解!」

 砲手がジョイスティックを操作する。照準装置のディスプレイの中で、目標の塔の先端に、“Lock”が表示されたところで、トリガーボタンを押し込んだ。

 ズドォン!!

 

「何か光った!」

 第17監視塔のロウリア兵が、望遠鏡で敵の“攻城兵器”を監視していると、その“破城鎚らしきもの”が、一瞬光を放った。

 そして、彼らにとっては、それは完全に手遅れだった。

 ────────120mm榴弾が、第17監視塔の尖端に直撃した。

 





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