────ドゴォ……ン……!!
「!?」
ロウリア王宮、本殿の檣楼で仮眠していたパタジンは、その轟音で目を覚ました。
「何事だぁっ!?」
「だ、第17監視塔が!」
パタジンがベランダ部に飛び出して怒声を上げると、兵の声とともに、尖端部が破壊された第17監視塔が目に入った。
「奇襲だと────バカなッ! ビーズルを迂回したのか……街道もない荒野を進軍してきたというのかッ!?」
パタジンが信じられないのも無理はない────馬の蹄や馬車の木製ソリッドタイヤなど、整地でないと割と簡単に沈み込んでしまう。ゴムタイヤを穿いた自動車よりはるかに接地圧が高いのだ。
だが、パタジンはすぐに冷静さを取り戻し、指揮を取るために指揮所に向かう。
「パタジン将軍! 敵の魔導兵器による攻撃です! 敵の攻城兵器は約3.5km東で停止。後続部隊の集結を待っているようです」
「うむッ!」
自分と同じように、すでに甲冑姿の騎士の1人から報告を受けて、パタジンは意思を決定し、下令する。
「騎兵400で即応! 機動力で肉薄し、大規模魔導を撃たせるな!! 無理はするなよ、敵の攻撃方法や、その力を探ったら一度離脱し、城壁内に戻れッ」
「ハッ!!」
パタジンの命令を受けて、即応のために待機していた騎兵部隊が、出撃にとりかかる。
「我ら一番槍の栄誉を授かったッ、勝機は速さにありッ、全力で駆けろぉ!!」
「出てきた出てきた」
エクスプレッセスティ第5空中機動旅団、戦車中隊の中隊長の1人が、双眼鏡でジン・ハーク王城の城壁正門を見ていると、その正門が開き、騎兵隊が飛び出してくる。
「弾種、引き続きHE、撃てッ!」
ドォンッ!!
120mm滑腔砲が閃く。
だが────
「駄目だ、相手が小さい割に速い!」
砲手が言う。120mm砲弾はロウリア騎兵隊の後方に着弾し、最後尾の数騎が倒れただけだった。
「同軸機銃で薙ぎ払え!」
車長を兼任する中隊長は、そう言いながら落下するように車長席に座ると、車長用コンソールを操作し、メインディスプレイにRWSのオペレート画面を表示させる。
タタタタタタ……
パンッ、パカンッ
「!?」
先頭の数騎が、ただ、突然血飛沫を上げつつ、急停止するように崩れた。
──なっ、なんだこれはっ!?
チンッ
ある騎兵の肩当てを、何かが弾いた。
同軸機銃から放たれた.243WSSMが、騎兵の突進を薙ぎ払う。
更に、RWS『Sarmat20』のM621機銃から放たれた20mm弾が、命中した騎士の頭、腹部、馬の首、その部位をきれいに粉砕する。
──まさかっ、これがやつらの攻撃!?
自失しかけつつも、
「退避だっ、退避しろ! 我々の任務は敵を倒す事は二の次だっ!」
後方にいた、この騎馬隊の隊長の1人がそう怒鳴り、命令する。
「敵、反転します!」
「追撃を────」
中隊長が言いかけた時、
『ビーバーより各局、深追いするな!! これ以上距離を詰めるのは作戦に支障を来す!』
と、第5空中機動旅団の指揮中隊から制止の命令が飛んできた。
「ほ、報告……────」
頭部を負傷し、血を流している騎兵が、ロウリア王都騎士団の指揮所に姿を表した。
荒い息は、負傷によるものか、それともここまでの行程の激しさ故か。
「敵は
「ご苦労ッ、よくぞ生きて戻ったッ! すぐに治療を受けろ!」
パタジンが労いの声をかける。その騎士は、担架で治癒室に運ばれていった。
「ヤミレイ殿」
パタジンは、指揮所に詰めていたヤミレイに問いかける。
「どうすれば敵の魔導兵器を止められる?」
「ふむ……」
パタジンに問いかけられたヤミレイは、険しい表情でわずかに逡巡する。
「これだけの情報ではまだ確実なことは言えないが……魔導兵器であるのなら、消耗を強いれば魔力切れを起こすやもしれぬ」
「では散開し、近付けばいいということか……?」
ヤミレイの答えに、パタジンが逡巡しつつ、呟くようにそう言った。
すると、それを受けて、指揮官達がいろいろと意見を出す。
「それだと、各個撃破される可能性があるのでは……?」
「重装歩兵の盾ならばあるいは……」
「金属鎧は射抜かれたぞ」
「…………」
将達の意見を聞いて、パタジンはかなり重苦しそうな表情をしていたが、やがて決断する。
「重装歩兵全軍、正門より出陣ッ、“光弾”を引きつけろッ! その他兵力は敵の死角となる門より出陣ッ、散会し一斉突撃!!」
パタジンの、しかし重装歩兵部隊に犠牲を強いることを覚悟の上での悲壮な命令を受けて、しかし尻込みする者はいなかった。
「守ります、我が子・我が家・我が国家。ロウリア王都騎士団重装歩兵、これより総員出撃ッ!!」
「!?」
双眼鏡で王城の方角を伺っていた“リンクス”中隊の中隊長が、騎兵が撤退した後に閉じられていた正門が、再び開くのを気がついた。
すると、今度はフルアーマーに身を包み、槍と巨大な盾を手に持った重装歩兵隊が隊列を組んで、出撃してくる。
「重装歩兵ならチョコマカ動かないし、榴弾で……」
「待て!」
自車の砲手が、射撃体勢に入ろうとしたのを、中隊長は制した。
そして、胸元の、無線のPTTスイッチを押す。
『リンクス各車、敵に別の意図がある可能性がある、主砲を温存して』
『トムより各局。リンクス1の指示は聞いたわね? それに従って』
ヤミレイの見立ては悪くなかった。T-64-120(T-54-120も)の、自動装填装置の弾倉にある即応弾は22発しかない。しかも弾種の切替えがある為、同種の砲弾は数発しかないのだ。それを撃ち切ってしまうと、車体の弾庫から揚弾する必要がある。
戦車部隊は、主砲を使わず、同軸機銃とRWSでロウリア重装歩兵に撃ちかけた。
「防御陣形!」
重装歩兵隊指揮官の下令とともに、部隊員は
「盾を構えろ!」
ガシッ!
重装歩兵部隊は、エクスプレッセスティ戦車部隊に対し、盾を構えた────
「ッ」
指揮所近くの監視塔からその様子を見ていたパタジンの表情が、悲痛と諦観に歪む。
重装歩兵の盾、重装鎧も、敵の“光弾”はたやすく貫き、あるいは叩き割る。
「やはり防げぬか────」
パタジンがそう思った次の瞬間。
「!?」
敵の“光弾”────.243WSSMと20✕102mm弾に薙ぎ払われた重装歩兵達が倒れている中、ただ1人、盾を構えて、その銃撃に耐えていた。
「バカな!? なぜあの者だけ堪えているのだ!?」
────数日前。王城防衛の為に在ジン・ハークの軍人全員に招集がかかった時。
「あなた、これを持っていって」
ロウリア王都騎士団重装歩兵のスワウロが、答城の準備をしていると、彼の妻がそれを持ってきた。
「それは……先祖代々伝わる家宝の盾!」
古物商の鑑定では、古代魔法帝国の技術、“合金”によってつくられた物、との事だった。
「眉唾じゃないか。古物商だってそんな物は見抜けないよ」
スワウロは苦笑しながら言うが、妻は、スワウロを気遣い、不安気な表情で言う。
「でも、思い出して。地震で蔵が倒壊した時も、瓦礫の下敷きになっても傷ひとつつかなかったのよ」
「わかったよ、君がそれで安心するなら、使ってみるよ」
そう言って、その盾を背負い、家を出る。
「行って来ます」
────現在。
スワウロの構えた盾は、 .243WSSMを悉く弾き返し、20mmのフルメタルジャケット弾を砕いた。
──妻よ感謝する────!!
「ウッソでしょう!?」
“リンクス”の中隊長は、驚くようにハッチから身を乗り出し、スワウロを凝視する。
「ただの盾が、 .243
「20mmの徹甲弾を持ってこなかったのは失敗だったね……」
エクスプレッセスティが20✕102mm弾を採用する理由のひとつに、
が、高初速弾は装薬が強力な分、多用すると発射する銃のメンテナンスサイクルを縮める。
なので、対装甲目標以外には少し装薬を弱めた弱装のフルメタルジャケットを使用する。今回は、ロウリア軍に現代的な装甲材などないと考え、20mm APDSは用意していなかった。
「なら、砲で……」
砲手がスワウロに照準を合わせようとした時。
「ま、待って!」
圧倒的と思われた敵の攻撃を防いだスワウロの姿は、ロウリア兵の心を鼓舞した。
──勇者だ、我が陣営に勇者が降臨したッ!!
──“光弾”を物ともせず、前進すらしている!
──ここで臆するは武人の恥!!
「我に続けェ━━ッ!!」
「敵機動兵器部隊を包囲、肉薄せよッ!」
「突撃ぃいィィィッ!!」
すでに散開していたロウリア騎兵部隊は、エクスプレッセスティ第5空中機動旅団戦車連隊を包囲、広い範囲から突撃を開始した。
「まずい! 取り囲まれたらこの作戦は失敗だ!」
全方向を包囲され、後続の部隊、そして補給部隊と切り離されると、後退しかなくなる。
そうなると、ビーズルを迂回したことが裏目になる。
ビーズル北西に展開した野営地まで後退しても、ビーズルのロウリア軍部隊に兵站線の側面を襲撃される可能性がある。
軍仕様の『ディオナトラ』『ファイター』は、簡易的な防弾板ぐらいはつけられるが、多数の騎兵隊であれば、破壊できない程には頑丈ではない。
まして、燃料輸送車にファイアーボールでも撃ち込まれた日には、目も当てられない。
つまり、現在地を維持できない場合、大きくギムまで後退することになる。
「陸ギム西。ロウリア軍騎兵隊に包囲されつつある、ヘリ部隊の支援を求む」
ルイーゼは、状況を素早く判断し、ギムに展開している攻撃ヘリ部隊の支援を要請した。
ボーイングAH-21B『アスタルテ・ワーホース』。
パイアセッキCH-21の再生産モデルで、機首にM621 20mm銃塔、機体後方にM621 20mm銃座、機体側面下部にハードポイントを設置している。
エンジンは原型機のライトR-1820のコピーであるポーランド PZL-Kalisz ASz-62を1,400hpにチューンして搭載している。
ワンポイントでイメージが異なるもので、非公式に『フライングバナナ』と呼ばれたCH-21に対して、機首に20mm銃塔がついているところへ、ハードポイントに対地攻撃装備が加わっただけで、意外にマッシヴになった印象がある。
だが、ボーイングに無理まで言って調達した本機だったが、エンジンがレシプロガソリンエンジンであることに足を取られた。Ka-26が航空用ディーゼルエンジンを採用してジェット燃料に対応したのに対し、こちらは空冷星型エンジンを胴体内に搭載しているために変更可能な航空ディーゼルエンジンがなかった。
この為Mi-17An(Bo)/Dシリーズの開発に舵を切り、本機の調達は中止され、配備済みの機体もMi-17An(Bo)/D-Aの配備が進むにつれて、二線級部隊に下げられた。
元々攻撃ヘリコプター自体がやや不足気味で、クワ・トイネ派遣部隊の抽出に際して、ロウリア軍の装備水準と、不慮の事態に備えてMi-17An(Bo)/D-Aの部隊は温存され、AH-21Bの部隊が進出することになった。
『ジン・ハーク攻略作戦部隊より支援要請、第21独立飛行中隊全機出動ッ!』
ギムのヘリポートに並べられた、AH-21Bのエンジンが始動されていく。
AH-21B装備で第21、という数字は狙ったわけではないが、関連性はある。要するに、ガソリンエンジンのヘリの部隊を20番代に飛ばして、他のヘリコプター部隊と分離したのである。
「こいつにとっては、最後の御奉公になるかもなぁ」
コクピットに収まったティンティン・マリー・ゲン少尉は、そう言ってため息をついた。
彼女のファーストネームは中華圏に見られるものだが、まぁエクスプレッセスティというお国柄、妙に強調して呼ぶ者が絶えないため、普段はミドルネームのマリーを名乗っていた。悪い意味での差別対象ではないのだが、日常生活で紛らわしいことこの上ないのだ。
『21
「21HS4、発進する」
マリーは無線でそう告げる。エンジンの回転数が上がり、ハードポイントにCRV7ロケット弾ディスペンサーと、ドロップタンクを装備したAH-21Bが、空に舞い上がった。
ジン・ハーク、竜騎隊管制部。
「ビーズルの監視哨より緊急報告! エクスプレッセスティ軍のものと思しき飛行物体がこちらに向かって上空を通過したとのこと!」
通信士が、管制指揮官に報告する。
「“鉄竜”ではないのか? それともクワ・トイネの飛竜隊か」
「いえ! 生物とは形容しがたいもので、ギムやジン・ハークに襲来した“鉄竜”ともまた異なる特徴を持っているとのことです」
管制指揮官が問い返すと、通信士は少し困惑した表情になりつつ、そう言った。
「そうは言っても、我々にはすでに迎撃する手段が……」
『俺が行きますよ』
「!? 誰だ!?」
割り込んでくる形になった通信に、2人は驚いて、思わず聞き返していた。
『第2竜騎士隊ターナケイン。通信が開いていたのでビーズルからの報告は聞いてました』
────ジン・ハーク王城、城壁内竜騎士飛行場。
「俺達に行かせてください。『飛竜を討てるのは飛竜のみ』────ってやつです」
──複雑な感情はあるが、今は────
『了解。第2竜騎士隊、離陸を許可する』
多少の話し合いでもあったのか、わずかに間をおいてから、ターナケインのインカムにその声が告げられた。
ターナケインは、愛竜にまたがると、兜をかぶり、直ちに離陸した。
「──逃げたままでは終われないだろ、頼むぜ相棒!!」
離陸した後、一度超低高度まで降りた。車両がいれば引っ掛けてしまいそうな高度を飛ぶ。
この高度だと、地上の建物と反射波が区別できず、能力が限定的な野戦対空レーダーには引っかかりにくい。
高いルックダウン能力を持つBr-1050AEWは、今は飛んでいなかった。
ターナケインは、陸戦が行われている平原の南側を迂回し、ビーズルとの間の街道の方角を向ける。
「見えた!」
ターナケインが見上げると、複数の飛行物体が視界に入った。
──“鉄竜”とはまた違う!
それは“
「こいつら遅いぞ、今なら行けるッ」
──群れから浮いた一番端のやつを────
最後尾のそれを狙い、急上昇────
──喰ってやるッ!
導力火炎弾が、飛竜の口から放たれた。
ビーッ!!
「な、こんなところで!?」
マリーは、ニアミス防止用レーダーのアラームを聞き、驚きつつも、操縦桿を倒して横滑りするように機体を機動させた。
さっきまでAH-21Bがいたところを、後方から前方に向かって、ワイバーンの炎弾が通過していった。
「なぜワイバーンが!? 空軍と海軍が全滅させたはずじゃ……」
「そんな事言ってる場合じゃない!!」
副操縦手が驚愕と困惑の声を出すのを、マリーは制する。
「クッ、避けただと!? 化け物めッ!」
必殺の一撃を回避されて、ターナケインは思わず毒ついていた。
だが、目の前のAH-21Bは、ふらついているようにも見えた。
「ヤツは体勢を立て直している!! チャンスだ相棒!!」
「やるしかないかッ!」
「えーっ!?」
マリーの言葉に、副操縦手が素っ頓狂な声を出した。
アンダーパワー気味のタンデムローター機、お世辞にも空戦性能があるとは言えない。
だが、このままでは敵にやられるだけだ。
CRV7ロケット弾ディスペンサーと、ドロップタンクをリリースする。
「撃て!」
マリーが叫ぶと、前部銃塔の
その瞬間、ターナケイン騎の火炎弾が、マリー機の後部に命中した。
一方、ターナケインも、愛竜の翼を20mm弾に貫かれていた。
揚力を喪い、ターナケインは愛竜から離されながら、その愛竜とともに落下していく。
「相打ちか……でも一矢報いたな、相棒……」
「くぅ~ん……」
────しかし。
命中した火炎弾が晴れた時、まだ、マリー機は飛んでいた。
──そんなバカな……火炎弾が命中したのに……
ターナケインの胸中を、絶望のような落胆のような感情が支配した。
──すまん相棒……────
────────だが。
ターナケインには平然と飛んでいるかのように見えたマリー機だが、異常振動を伴いながら、徐々に高度を落とし始めた。
「駄目だ! エンジンの回転数が上がらない!」
スロットルレバーを緊急出力の位置にまで押し込んでも、ASz-62の回転数はどんどん落ちていく。
レシプロにしろ、ガスタービン系にしろ、エンジンというものは大量の空気を吸い込む。マリー機のエンジンはターナケインの火炎弾の炎を吸い込み、インジェクターまで入り込んで、筒外爆発を起こした。
これにより過給器が損傷、更に9気筒のうち3気筒が失火していた。異常振動はこのためだった。
「不時着する! 衝撃に備えて!!」