フェミニン国家召喚   作:神谷萌

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空母『ヴァルキュリア』

「これで我が軍も、『ダンスショー・アーミー』などと言われる時代を終えることができるわね」

 西暦2015年、エクスプレッセスティ国防省、装備調達・管理部。

 ちょっと年嵩になって見えるが、その上で童顔なので「合法ロリ」呼ばわりされがちなその部長は、新しい軍装・制服の案を見て、笑顔でそう言った。

 

 エクスプレッセスティ国防軍は、発足から長く、なけなしの旧ソ連型兵器と、さらに僅かな西側兵器を装備していた。

 しかも弾薬はバラバラであり、かえって消耗品の調達に苦悩していた。

 ただ、「アフリカ大陸南西部の既存の国家の統治の空白地帯」に建国されたという関係から、ガス田地帯で起きていた“天然のフレアリング”や、原住民族フェチ族の高い遺伝病発症率(後に、原因が高すぎる天然放射線であると判明する)などの存在もあって、高度経済成長を迎えてエクスプレッセスティが豊かになるまでの間は、周辺の国家が領土的野心を向けることはなかった。

 だが、それだからこそ別の脅威があった。

 ISILシンパやアルカイダ構成員、あるいは政治的ポリシーはないがひとまずの貧困から逃れるために安逸に略奪に走る集団など、いわゆる非正規武装集団である。

 ただ、彼らはせいぜい持っていて迫撃砲、BM-21『グラート』ロケット砲の小規模な発射機程度だったから、同じBM-21でも旧ソ連構成国や旧ワルシャワ条約機構加盟国から(必ずしも無償ではないが)譲られた40連装のものを持っていたし、他にもこれらの国から押し付けらr(げふんげふん …………もとい、タダ当然で貰ってきたM-30 122mm榴弾砲などの第二次世界大戦中の野戦砲で、その侵入・攻撃を防止することは可能だった。

 とは言え、軍そのものの実態としての戦力は限定的だった。旧ソ連構成国や旧ワルシャワ条約機構加盟国からの譲渡があった陸軍は良かった方で、膨大な資金を必要とする空軍はそれぞれ少数のSu-22とMiG-23の、それもサブタイプが統一されてない機体の寄せ集めだったし、海軍に至っては日本の海上保安庁を退役する巡視船を譲ってもらい、最低限の対潜能力をもたせた上で、自国EEZ内の民間船の護衛に当てている有様だった。

 なので、政府としても、軍を純粋な軍事組織としてだけではなく、アーミーライクなビキニトップの扇情的な衣装を身に着けて、「女性と女性的性的マイノリティだけの国」「衛生的で安全なフリーセックス社会の構築」という国家理念の国内外へのアピールの為の組織としても使っていた。

 カモフKa-26を()()()()()()()()()()のはこの頃で、ガラス張りの「空飛ぶダンス・ステージ」とも言えるモジュールを取り付けて活用していた。

 転機になったのは2014年。日本の防衛装備品移転三原則の設定と、ウクライナのマイダン革命が重なった。エクスプレッセスティは2000年代(ゼロ年代)後半頃から、工業と現代農業の定着により高度経済成長期を迎えていたが、それに見合う防衛力の整備のため、エクスプレッセスティ-日本防衛装備品移転協定を締結し、さらにポロシェンコ政権下のウクライナからもより一層の助力を受けて、消耗品の統一やより強力な装備の導入、既存の装備品のアップデートが実施された。

 この時期の防衛費のGDPに占める割合だけ見れば、軍事国家と称しても良いほどだった。

 

 前置きが長くなってしまったが、この際ついでに、制服に関してもこれまでの過剰に扇情的なビキニトップにマイクロミニスカート、コンバットブーツ()()ピンヒールなどを廃止して、他国同様、普通に長袖にズボンの、実用性重視の軍装・制服に改めようとした。

 …………()()()()()()()、のだが──

 

「大変です! 部長! エナジポリス軍基地で、軍隊員がストライキを始めました! 武器の行使はしていませんが、設備の一部を占拠しています。これでは一般の船便や航空便の管制にも影響が出ます!!」

 部員の1人が、装備調達・管理部のオフィスに駆け込んできて、慌てきったような様子で声を張り上げる。

「なんですって、それは大変だわ!」

 部長は、反射的に立ち上がるが、

「ちょっと待って、軍隊員の反乱は一大事だけど、なんで真っ先に私のところに報告が?」

 と、怪訝そうな表情になって、そう言った。

 そう言う事なら、本来は総司令室、軍規統制部(つまり憲兵隊)、あるいは総統府に直接報告が行くべきもののはずだ。その上で必要であれば、自分達にも上から指示が来る、というのが道理だ。

「それが……」

 報告に来た部下が、難しそうな顔で言う。

 

「スカート廃止はんたーい!!」

「伝統のエクスプレッセスティ軍のセクシャルアピールを破壊するのは、極めてナ~ンセーンス!!」

 

 ────と、こんな経緯を経て、実用性を考慮しつつも、マイクロミニスカートの維持を決定。その代わり、着用者の保護のため、マイクロミニスカートの裾高さまで届く厚手のタイツを設定した。また、タイツのずり下がり抑止の為にガーターベルトも設定されたが、あくまで実用本位の設定なので、装飾性よりも強度などを基に決定された国防省認可品に限られた。

 

 

 時は流れて西暦202x年──中央歴1639年。

 航空母艦『ヴァルキュリア』(元・H.M.S.『ハーミーズ(II(2))』)は、クワ・トイネ訪問の為に出動した。

 イギリスでの後半期からインド海軍『ヴィラート』時代にSTOVL運用────簡単に言うと、VTOL機を垂直離着艦させるとエンジン過負荷で装備品の搭載量が限定されたり、離着艦時の消費燃料が多すぎて航続距離が極端に短くなったりするため、完全な垂直離着艦(陸)ではなく短距離の滑走を行って発艦する方法で、その補助の為にスキー・ジャンプ台型と呼ばれる勾配を飛行甲板艦首側に設ける方法。それをやめて、元々未整地滑走路から短い離陸滑走路で発進できるMiG-29を前提に、再び蒸気カタパルトとアレスティング・ワイヤーが設置された。

 機関も増強と機関が占める重量・容積を軽減するため、三菱重工が設計した横型高温高速燃焼ボイラ2缶とタービン、それに同社製ガスタービンを併用するCOSAG方式(COmbined Steam And Gas-turbine)に変更されている。

 一見時流遅れの蒸気タービンを使うのは、カタパルトにボイラからの蒸気供給が必要なことと、エネルギー資源国でありながら石油は国内の消費量に足りる量が採れず、ガソリンや軽油、ジェット燃料などを輸入に頼っているため、自国産エタンガスやキューバから輸入した製糖時の絞り粕を原料とする液体化ガス/バイオマス燃料を、ボイラの補助バーナーで噴射してジェット燃料の消費量を減らすこととが理由になっている。

 いくらなんでもいきなり基準25,500トンの空母は過剰だろうという話もあったが、相手も“ドラゴンと思しき飛行生物に騎乗する航空兵”が存在することから、こちらも航空戦力を持っていることを見せておくのはいいだろうという判断で最終的に決定された。

 ただ、本来であれば対潜・対空戦闘のための駆逐艦もしくはフリゲート3~6隻が同道するところを、今回はこちらから戦闘を仕掛けるつもりはないので、エスコートは小型のバステット級(元ソビエト連邦1241RE型)コルベット・『ブリジット』のみとなっていた。

 

「失礼します。私はエクスプレッセスティ共和国外務省のマリア・ロドリゲスと申します。今回は貴国へのお詫びと、政府間会談の為にこちらにお伺いしました」

 褐色の肌を持つ南米ラテン系のマリア外交官は、チャオ艦長とのそれに割って入るような形で、ミドリにそう言い、名刺(ビジネスカード)を丁寧に両手で差し出した。

 ちなみに、民族自決ではなく先進国出身者によって作られた理念に基づいて建国されたエクスプレッセスティは、その建国委員会は日本人が主流を占めた為、第1公用語は日本語、第2公用語は原住民族フェチ族のフェティス語、第3公用語は英語となっている。

「エクスプレッセスティ……聞かぬ名だ」

「そうですね……我が国は突然、この世界に転移してきたのです」

 ミドリが、名刺を受け取りつつ怪訝そうに言うと、マリアも困惑したような表情でそう言った。

「航空偵察と海底探査による情報収集で、それが確実なものだと判断しました。ここが我々の元の世界、元の時間より極端な未来か、それとも過去か、あるいは同じ宇宙の別の惑星か、全くの別世界なのかまでは判断できませんが……」

 マリアの少し申し訳無さそうに見える様子に、ミドリは気がついた。

「すると……我が国マイハーク上空に現れた、国籍不明騎は……」

「はい。あれは我が海軍の洋上哨戒飛行艇でして、情報収集中に不手際から偶発的に領空侵犯をしてしまいました」

 ミドリの言葉に、マリアは申し訳無さそうに視線を伏せた様子でそう言ってから、ミドリの顔に視線を戻した。

「我が国は貴国に対して、領土的及びその他の野心を持たず、貴国に対する一切の害意なし、と断言致します」

 

 一方。

「き、君達は軍人なのかね?」

 ミドリの随員兵とヴァルキュリアの乗員とが雑談していた。

「そうだよー。まぁ、制服は元々、他の国と共通性がないからね……」

 エクスプレッセスティ海軍の軍装は、スカートである点を除けば、ファスナー留のネイビーブルーの上衣、左肩の階級章・乗艦章(もしくは地上の部隊章)など、実用性を重視したものだが、逆に(ロイ)(ヤル)(ネイ)(ビー)(ステ)(イツ)(ネイ)(ビー)、日(J)(M)(S)(D)(F)隊などの伝統的海軍にとらわれることなくデザインされたため、これらと比べるとだいぶ異質に見える。

 ──なるほど、同じ格好でも、比べると、この娘達よりチャオ艦長の肩章が、金の刺繍が多いな……

 そのクワ・トイネ兵は、そのことに気づき、納得した。

 

 それまでフレンドリーにニコニコとしていた、そのチャオ艦長の表情が変わった。

「了解。着艦体制に入れ」

 女性ながら、軍人らしい表情になると、インカムのマイクに向ってそう言った。

 ──魔導通信機か? しかしあれほど小型のものを造れるとは、かなりの技術力ということか……

 ミドリは、チャオの着けているインカムを見て、そう判断し、また感想をもった。

「すみません、空(A)(E)(W)機が着艦します。艦が動きます」

 チャオがマリアとミドリに言った直後、蒸気タービンだけながら『ヴァルキュリア』が動き出した。進行方向を変える。ミドリ達は気づかなかったが、進行方向は風上を向いた。

 ヒィィィン……

「あれは……」

 小さめのロートドームを背負った、ダッソー Br-1050AEW 『アリゼ』空中早期警戒機が着艦体制に入る。

「つ、突っ込んでくる!? チャオ艦長! これは事故ではないのか!?」

 予備知識の無いミドリ達には、どう見ても艦尾に向かって突っ込んでくるアリゼに慄き、思わず叫んでいた。

 その、ミドリの叫びの、次の瞬間。

 シュパッ、ドスン……

 旧い世代の対潜哨戒機の設計を変更した単発機は、アレスティングフックでワイヤーを捉え、“制御された墜落”と呼ばれる空母への着艦を果たした。

 甲高い爆音を立てていた、APUコンプレックス型ターボプロップエンジン、イーウチェンコAI-24VTが切られ、プロペラが惰性で回りつつそれを徐々に遅くしていく。

 着艦したアリゼの元に、軍装とは別の、作業着を着た整備兵が駆け寄る。

 アリゼの、原設計のキャノピーから3人の、そして、AEWとしてのオペレーター席として追加された後部バブルキャノピーから1人の乗員が降りてくる。

 ──これは……マイハークの上空に侵入した機械竜よりだいぶ小さいな……そうか、この艦から運用するために()()()()()()()()()()()しているのだな。

 ミドリは、そこまでは理解できたものの、

 ──それにしても、背中に背負っているあれはなんだ……軍用の竜であれば、あれはただの障害物にしかならないのではないか……それとも、特別な武具なのか……?

 と、Br-1050AEWのロートドームを見て、疑問を持った。

「すみません、驚かせてしまいましたね」

 呆然として立ち尽くしているように見えたミドリに、チャオは着艦作業そのもので驚いたままだと思い、ミドリに謝罪した。

 

 

 マイハーク、クワ・トイネ海軍司令部。第2艦隊司令官公室。

「司令! 『ピーマ』より第二報です!」

 そう言って、通信兵が飛び込んできた。

 ノウカは、一見落ち着いた様子でどっかりと執務席に座っているが、消費するタバコの量は明らかに増えている。

「読め」

「ハッ!」

 ノウカが短く指示すると、通信兵は書き取られた通信内容を読み上げ始めた。

「巨大船の所属は『エクスプレッセスティ共和国』。外交官が同乗しており、我が国との外務会談を希望しているとのことです!」

 通信兵の読み上げに、副官は驚いたような表情を向けたが、ノウカは落ち着いたままの表情をしていた。

「マイハークで発生したクワ・トイネ領空侵犯も本意とするところではなく、その件について正式に謝罪をしたいとの申し入れ。なお、エクスプレッセスティ共和国が現在存在している理由なのですが……ええと……」

 そこまで読んで、通信兵は言葉を詰まらせがちになってしまう。

 副官は、立ち上がりかけた姿勢のまま、唖然として凍りついたようになってしまっている。

「“転移国家”である……とのことです」

 立ち尽くしている副官を余所に、ノウカは、ガタッ、と椅子を鳴らして立ち上がった。

「閣下、どちらへ?」

 ノウカの椅子の音で、はっと我に返った副官が、ノウカに訊ねる。

「公都だ。政治部会にこの事を報告する。……ああ、馬を用意させてくれ。急ぐからな」

 ノウカは、どこかケレン味のある様子で、副官にそう言った。

 ──神話の伝承にもある“転移国家”を称する者が会談を求め、さらに、正体不明の“竜”による領空侵犯も自らの仕業と名乗り出た……吉と出るか凶と出るかわからんが、放置という手段はありえないだろう……

 ノウカは、執務室から出ようとしたが、彼が通信兵の目前を通過しようとしたとき、通信兵は残っていた続きを読み上げる。

「それと、これは緊急性を要するものではありませんが、重要なこととして……エクスプレッセスティは、原則として『女性』だけで国民が構成される国……とのことです」

 通信兵が読み上げた追伸部分を聞いた後、ノウカは動じもしていない様子で、そのまま司令官公室を出ていった。

 

 

 一方その頃────

 『ヴァルキュリア』の見学を許されたミドリと随伴兵は、艦橋の壁に描かれていた、“なにかのカードを手に持った、何処か重苦しい衣装を着たボブカットの金髪少女のバストアップのイラスト”の前で、なぜそんな物がここにあるのか、小首をかしげていた。

 




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