ドドドドドド……
「…………トム、マングース、こちらリンクス1。砲撃する」
向かってくるロウリア騎兵隊に対し、同軸機銃とRWSで薙ぎ払ったが、スワウロ相手の射撃で浪費してしまっていたため、早くも残弾が危険域になっていた。
「弾種HE、撃てッ!」
ドゴォッ!!
120mm砲が火を吹いた。向かってくる騎兵隊の、正面の1群が榴弾で薙ぎ払われたが、脳内麻薬が完全に極った状況のロウリア王都騎士団は、損害を顧みず突進してくる。
──後退するしかないか!?
“リンクス”中隊長────エリカ・シュミット少佐は、ロウリア王都騎士団の包囲を止められないと感じ、その考えが頭をよぎる。
「ウォォォッ、突っ込めーっ!!」
騎兵隊は、このまま敵の機動兵器────
『戦車中隊、一度後退しろ! 味方が支援する!!』
ルイーゼの声が、無線で飛んできた。
T-64-120の各車は、ギアを後進に入れ、全力で後ろに走り始めた。
「敵が逃げるぞ!」
「逃がすな! 千載一遇のチャンスだ!!」
バシュッ、バシュッ、バシュッバシュッ!!
連続の着弾。エクスプレッセスティ戦車隊を追撃しようとしたロウリア騎兵隊の側面を、左右双方から挟み撃ちするように、5連装ディスペンサーからCRV7ロケットが発射された。
マリー機が欠けた7機のAH-21Bが、ロウリア騎兵隊を掃討しようとする。
「!」
エリカの視界の中、車長用メインディスプレイの向こう側で、爆煙とともに倒れていく騎兵隊の間から、あの倒れなかった重装歩兵が入り込んできた。
バシュッ……
エリカはその瞬間、その重装歩兵────スワウロに向けて、RK-3ミサイルを発射していた。
装填されていたRK-3はRK-3OF、歩兵や装甲の厚くない車両などのソフトスキン目標用の高威力榴弾弾体だった。
だが、
この時エリカ車は全力で後進をかけていた為、戦車自身の砲はともかく、RWSは振動していた。RK-3の着弾の一瞬前、RWSのレーザー照射器が、わずかに下を向いていた。
ゴワッ!!
RK-3は、直撃はせず、スワウロの僅かに手前に着弾した。炸裂した榴弾の弾片は盾が防いだものの、その爆風で、ついにスワウロも背後に向かって倒れた。
──勇者が一撃でやられたッ!?
自身達の精神的支えだったスワウロが倒された事で、ロウリア王都騎士団を包んでいた異常な高揚感が、急速に冷めていく。
そこを、AH-21Bの20mm機銃が掃射をかけ、薙ぎ払っていく。
「くそっ、あと少しなのにッ!!」
包囲のために両翼に回り込んでいた騎兵隊だが、後方にいた2K015自走高射機関砲が戦車隊の両翼に展開し、20mmリボルバーカノンの水平掃射で、その突撃を破砕した。
「後退だ! 後退しろ!」
いくつかの騎兵隊のユニットが、反転して王城の方へ引き返していく。
エリカは命じなかったが、いくつかのエクスプレッセスティ戦車小隊・中隊が、ロウリア騎兵隊を追撃する。
だが、主砲の榴弾とRK-3OFでいくらかのロウリア騎兵隊を倒したが、そこまでだった。
戦車の砲弾が尽きかけていた。同軸機銃、RWSとも、残弾がほぼない状態だった。
────結果、ロウリア王都騎士団は出撃した兵力のおよそ半分を喪失、特に重装歩兵はほぼ全滅だった。
しかし、逆に言えばその程度だった。装備品の較差を考えれば、もっと一方的な戦果が上げられたはずだったが、元々士気が高かったところへ、スワウロの奮闘がそれに拍車をかけたことで、エクスプレッセスティ軍は勝ちきれず、戦車隊の弾薬を浪費してしまった。
また、ターナケイン騎の奇襲により、AH-21B 1機が飛行不能となった。幸い味方勢力下に不時着したため、乗員は軽傷で済んだが、少なくともエンジンは全損だった。
コストを考えれば、エクスプレッセスティ側も手放しで喜べる結果ではなかった。
──もっと間合いを取って、榴弾砲や多連装ロケットで敵戦力をキッチリ削るべきだったか?
ルイーゼは日中の戦いを反省、総括していた。
ただ、あまり間合いを取ると、向こうも籠城を選択する可能性が高くなる。持久戦は兵站的にも背後の状況的にも無理だ。
──最悪、強襲やむなしか。殲滅戦は避けたかったが……
ジン・ハーク市内に突入するつもりはまったくなかったが、民兵隊を組織されて突撃され、それを殲滅すると、逆に反エクスプレッセスティ意識をロウリア国民に与えてしまって、中長期的な国家戦略としては逆効果になってしまう。だいいち、クワ・トイネにまた矢面に立たせることになってしまう。
──後は……全面激突になる前に片付けばいいんだけど……
それに、もっと直接的な問題もあった。第5空中機動旅団の装甲連隊の消耗が激しい。明らかな損害こそなかったが、戦車の弾薬・燃料の消耗、整備の必要な車両などが出てきてしまっていた。
そのため、ルイーゼは第5空中機動旅団の装甲連隊と、第1旅団の歩兵連隊を入れ替えた。第1旅団は一般部隊であるため、歩兵連隊には直協の戦車中隊が含まれる。
額面上はロウリア王都騎士団の相手をするのに充分な戦力のはずだが、ひとつだけ問題がある。戦車がT-54-120であるため、敵戦力を引き付けるために前進・後退を繰り返すうちに、トランスミッションの固渋が発生する可能性が、T-64-120より高いということだ。
────短期決戦を目標とし、持久的な消耗戦の体制は整っていないエクスプレッセスティ軍側から見れば、ロウリア王都騎士団はその作戦目標を6割方達成していた。
日没後────ジン・ハーク王宮。王都騎士団指揮所。
エクスプレッセスティ軍は城塞内まで追撃してこなかった。外城壁内のあちこちで負傷兵の手当が行われ、残った兵士達が疲れを癒やしている。
現状を思うだけで、パタジンの心は重くなる。包囲戦の失敗で出した犠牲を考えると、鉛を飲み込んだかのような気分になった。
だが、嘆いても仕方がない。自身は軍の総指揮官として、ジン・ハークを守ることに全力を上げる責任がある。
明日からの戦闘をどう乗り切るか、相手に撤退を決意させるほどの損害、あるいは精神的負担を与えることができるか、思い悩んでいた。
そのパタジンの背後に、物音ひとつたてずに、1人の男が立った。
「パタジン将軍、私に行かせてください」
「カルシオか……」
パタジンは、唐突にかけられた声には動じず、ただ、その人物の名前を口にした。
王都騎士団第2遊撃隊々長カルシオ。線は細いが文武に長けた人物で、一時期はパタジンの副官的地位にもいた。
彼にはただ優秀と言うだけではなく、視力、特に暗視能力に優れていた。そこからついた二つ名が『夜目のカルシオ』。現在はそれを活かし、夜襲専門部隊を隷下に育成していた。
「──お前も見たであろう」
しかし、パタジンの言葉からは、憂い気な重さは取れない。
「重装歩兵も散開突撃も効かない」
パタジンは言う。実際にはエクスプレッセスティ側に想定外の消耗を強いていたのだが、その背景までパタジンには解らない。ただ、無傷の敵部隊が王都の目前にいる、という事実があるだけだ。
「エクスプレッセスティ軍の力は計り知れぬ。迂闊には動けん」
だが、カルシオは更に言う。
「如何に強くとも奴らも人の子、休息は必要……エクスプレッセスティ軍の野営地はすでに我が斥候が捉えました。ここはひとつ、このカルシオにお任せください」
「…………」
パタジンは、カルシオの方へと、身体ごと振り返った。
「そこまで言うなら、わかった。ただし無理はするなよ、お前を失うことは、王都騎士団にとって計り知れない喪失になる」
パタジンは、カルシオの両肩に手を当て、そう言った。
それから、2時間弱が経過。
カルシオ率いる第2遊撃隊は、エクスプレッセスティ陸軍第1旅団野営地まで数百mのところまで迫ってきていた。
「あはははは……」
「きゃっ、やだーもー」
野営地から、そんな、若い女性がじゃれ合うかのような声が響いてくる。
「いい気なものだ。勝ち戦だと思って騒いでやがる」
部下の1人が、カルシオの傍らでそう言った。
「いや、気を緩めるな。声ばかりで
カルシオはその事に気付き、訝しげな視線を敵野営地に向けた。
「女の子の寝泊まりしている場所に夜這いとか、もう、イケない子」
第1旅団麾下の砲兵連隊観測班長、キャメロン・ミンアン・シュヴァルツェネッゲラ兵曹長は、ENVG-1G暗視装置を装着した状態で、口元で
帰化トランスジェンダーだが、今はどこからどう見ても、やや身長は高いものの愛らしい美女である。さらに
彼女が装着しているENVG-1Gは、キヤノンに開発を依頼した、高解像度SPADセンサーを使った単眼ゴーグル型暗視装置である。性能のレベルは民生用と謳っているが、転移前はどこのだーれも信じちゃいなかった。
「お仕置きしちゃいます、えいっ」
キャメロンは、手元にあった不可視波長レーザー照射器を、カルシオ達が接近してくる方に向けると、照射スイッチをONにした。
ド・ド・ド・ドォン!!
「!?」
外城壁の上からカルシオ達の襲撃がうまくいくか見守っていたパタジンは、突如、カルシオが示した野営地を挟んで東側で、火の柱が発生し、それが弾道曲線を描いて、カルシオ達が襲撃を準備しているだろう場所に炎の塊となって降り注ぐのを見た。
「カルシオッ!
パタジンが叫ぶ。
炎の塊が降り注いだ後に、更に“光弾”が迸るのが見えた。
「この暗闇で灯りもなく正確無比な攻撃っ……こんな馬鹿げたモノ、魔導兵器ではない、こんなモノを実現できるような魔法技術はどの文献、どの伝承にも存在しない!! これはやはり古代魔法帝国の所業としか……」
一部始終を見ていたヤミレイが、そう言って取り乱す。
2K25E『クラスノポール』レーザー誘導弾。
2K25シリーズは旧ソ連時代に開発された有翼誘導砲弾で、設定された波長のレーザー光の反射を検知してそちらへ飛翔する。
フルアクティブ誘導のM982『エクスカリバー』と異なり、セミアクティブであり、着弾までの間、目標にレーザーを照射しなければならない。この為、挺身隊が前進してそれを行う必要がある。
ソ連赤軍(決して後々のロシア連邦軍ではない)は、「如何に人的損害を減らすか」という議論において、倫理的、感情論的な議論よりもドライに人数で数える傾向がある。つまり、「少数の挺身隊員の犠牲で、多くの自軍兵士がより安全に戦える」、という理論だ。
だが、その“少数の犠牲”すらほぼ皆無にしてしまったのが、2022ウクライナ・ロシア戦争のウクライナ軍だった。
ウクライナ軍はドローンを使ってレーザーマーカーを投下、そこめがけてクラスノポールが殺到するという戦術を編み出していた。
2K25Eはそのウクライナ軍の戦術を基にエクスプレッセスティで改良が行われたもので、反射光ではなくレーザーマーカーの発光器そのものめがけて飛ぶように最適化されている。今やったように、予め誘導装置を切り替えておき、従来どおり照射器の反射光を追うようにすることもできる。
「これは……どうなっている……っ!」
一見、外れたように見えた炎の矢が、向きを変えて自分達の方に向かってくるところを、カルシオははっきりと見ていた。
「隊長、お逃げください、隊長ーッ」
“光弾”が迸る中、部下がそう言いながら、その“光弾”が集中するところから、カルシオを突き飛ばした。
「すまぬ……すまぬっ」
カルシオは言いつつ、とにかく安全と思われる方へと走った。
無我夢中で走っている間に、なにか、膝下あたりの塊に蹴躓き、頭から転倒した。
そのまま、頭を強く打ったカルシオは、意識を手放した。
「さぁて、じゃあ……」
そう言いながら、第1旅団歩兵連隊麾下の戦車中隊長であるマックス・ユウキ・シュミット少佐は、舌なめずりをしながら、言う。
「仕上げといきましょうかね……」
そう言うと、胸元のPTTスイッチを押し、インカムのマイクから無線を通じて下令する。
「中隊前進ッ!」
最早隠すつもりもないとばかりに、装甲車両群はヘッドライト、フォグライトを点灯させる。
日本製ディーゼルエンジンの“整然とした咆哮”と共に、9両のT-54-120、3両の2K015が前進する。わずかに遅れて、同じ編成のもう1個の中隊が前進を始めた。
「弾種
「目標よし!」
「撃てッ!」
ドムゥゥンッ!
バキャッ!!
ガラガラガラ…………
HEATやAPFSDSではなく、コンベンショナルな徹甲弾は、重厚な鉄の門扉を撃ち
破壊は門扉そのものだけに留める想定だったが、門の構造物にも負荷がかかったのか、石積みの門は崩れ、半壊した。
その圧倒的な光景に、パタジン、ヤミレイ、それに様子を窺いに来ていたマオスまでもが、驚愕のあまり口を開き、唖然としてしまう。
その衝撃は、ジン・ハーク王宮内、近衛の間のランドや、玉座のハーク34世にも、不気味な響きとして伝わっていた。
「門が……鉄壁の正門が……」
マオスが泡を食っている横で、パタジンは思考を組み立て、判断する。
──エクスプレッセスティは今夜ですべてを決着させるつもりなのだ……
「敵機動兵器、前進してきます!!」
ジン・ハークの丘陵を登り始めた、敵機動兵器の灯り────ヘッドライトを見て、慄いた様子の兵士が、驚いたような声で言う。
「休んでいる兵を起こせ! 直ちに、すべてッ、正門前に集結させろッ!!」
パタジンはそう指示しつつ、ある決断をしていた。
『ランド聞こえるか、応答しろ』
パタジンは魔信のインカムで、ランドを呼び出した。
『こちらランド。取れている、どうした?』
『正門が破られた』
『今の衝撃がそうか』
『ああ。俺は正門でエクスプレッセスティ軍を迎え撃つ。お前はどんな手段を使ってでも大王様を死守しろ!』
『────心得た』
ランドは、先程の衝撃を確認しようと出ていた正面のバルコニーから、城内へと入ろうとする。
「貴様らは各々の持ち場で敵の侵入に備えよ」
「ハッ!」
バルコニーの出入り口の外側を警戒していた近衛隊員にそう告げ、城内の通路を歩く。
「どんな手段を使ってでも……か……」
ランドは呟く。飄々としているように見えるが、彼はパタジンの
──パタジンの心持ちを無駄にしてはならない……
ランドがそう考えつつ、通路を近衛の間に向かって歩いていると、まだ灯りのある厨房の前を通りかかった。
──…………
厨房の中に視線を向けると、2人のメイドが後片付けをしている。
──手段を選んで国が
「おい」
ランドは、厨房の中にいたメイドに声をかけた。
「片付けは後でいい。ついてこい。大王様の役に立ててやる」
リンクス中隊の中隊長さん、ノーネームで乗り切ろうかと思ったけど、後々再登場ありそうだしネームド化。名前は基本的にChatGPTに考えてもらってるのですが、某ブラックフォレストマウンテンのポンコツさんとおなじファーストネームになったので更に良し。
ちなみに命名法ですが、基本的に、
ヨーロッパとその文化的影響圏は
[名]-[姓]
アジア系は
[東洋名]-[西洋名]-[姓]
としています。西洋系なのにミドルネームがある人物は、なんかしらの理由があります。身体的特徴的に。
(アサギさんはそのパターンではなく、日本名を名乗りたいためのミドルネームですが)
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